【完結】『悪役令息』らしい『僕』が目覚めたときには断罪劇が始まってました。え、でも、こんな展開になるなんて思いもしなかった……なぁ?

ゆずは

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八幕 アデラール*5

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「駄目だよ。王様のところに行こう。……ああ、でも、着替えが先?お風呂にも入ったほうがいいかな」
「……必要ないから」

 なんで、って顔をしたと思う。
 まあ、服はいいとしても、汚れは落としたほうがいいよね。ブーツだって結構汚れてるんだ。
 僕がそれを指摘しようとしたとき、イヴは僕の耳元に口を寄せてきて、『浄化』って一言、言葉にした。

「あ」

 それは魔力を載せた言葉――魔法になっていて、ふわりと温かなものに包まれたかと思えば一瞬で綺麗に汚れが落ちていた。
 くすんでいたピンクゴールドも本来の色艶を取り戻しているし、服やマント、ブーツまでも、埃も泥汚れも綺麗に落ちてるし。

「すご……」

 こんなにあっさりと魔法を使うなんて。
 しかも発動がたった一言。
 しかもしかも、こんな魔法知らない。

「イヴ」
「アデラール様と離れたくない」

 ようやく僕を床におろしたイヴ。
 あ、よかった。
 なんだかんだで兆してたものは平常に戻ってる。

「一緒に行こうか?」
「うん」

 僕だってイヴと離れたくない。
 執務室から僕と同じように出てきて固まってた同僚に、このまま謁見の間まで行くことを伝えた。それから、兵士の一人に、SSランク冒険者であるイヴ・ワーグナーが来城したこと、これから謁見に向かうことを王様側に伝えてもらうことにする。
 僕から伝言を指示された兵士は、SSランク冒険者と聞いて顔を青ざめさせて、ペコペコと頭を下げて早足でこの場から逃げ出すように去っていった。

「行こっか」
「うん」

 大きな、少しゴツゴツしたイヴの手を握る。すぐにもぞもぞ動いて指を絡めるように繋ぎ直された。

 謁見の間に着くまで、色んな話をした。
 歩みはゆっくり。
 半年で信じられないくらい成長したね、とか。魔獣討伐の話とか。他国の遺跡を見つけて踏破したこととか。
 手紙に書かれていて知っていたことから、知らなかったことまで、色んな話を。

「一日でも早くわかりやすい実績も功績も欲しかったんです。でも、貴族は色んなものに縛られると思ったから、自由にできる冒険者になることに躊躇いはなくて」
「うん」
「SSランクまで行けば絶対反対されないと思ったから……とにかく我武者羅に頑張ったんです」

 半年もかかっちゃいましたけど……って苦笑するイヴ。
 ……多分、他の人なら半年で最高位ランクまで上がるなんてこと、できなかったよ。

 謁見の間の前で僕は待つつもりだったけど、イヴが手を離してくれなかったから、僕も一緒に謁見の間に入ることになってしまった。
 壁に近いところに近衛騎士が並ぶ。
 部屋の奥側には上位貴族の面々。
 二段ほど上の壇には、玉座に座る王様。
 その隣に、宰相様と王太子殿下。
 ……それから、一段下がったところに、何故か何故か、僕の父様と兄様が……。何故。

 謁見自体は特に問題なく進んだ。
 王様からの最高位ランクに登りつめたことに対する労いや言祝が贈られた。更にワーグナー男爵は子爵への陞爵となることが告げられた。それからイヴ自身にも叙爵の話がされたけれど、イヴはそれに対しては保留と答えた。実家への恩賞としての陞爵はいいみたいたけど。

「叙爵なんかより、お願いがあります」

 ざわりと、周りがざわめく。
 わかる。
 叙爵を『なんか』呼ばわりしちゃ駄目だよ、イヴ……。

「願いとは」

 イヴは何も気にせず、握っていた僕の手を改めて強く握りしめる。

「アデラール・セドラン様との結婚を許してください」

 それ、この場で言う事?
 でもこの場で口にすることで、他の貴族たちにも周知できる。イヴはそれを狙った…?
 王様とうちの父様と兄様はお互いに見合って頷いた。

「私が提示した『条件』はクリアできている。アデルの気持ちも変わってないようだし、約束通り二人の婚約を――――」
「いえ。婚約ではなく、結婚します」
「イヴ…っ」

 貴族の結婚とは、平民のものとは違う。
 婚約をして、両家で話し合い、色々を決め合って、衣装を手配して、結婚式の日取りを決めて、招待状を送って……と、とにかく色んな手順があるから、必ず必要な婚約期間。その間に心変わりする可能性もあるからね。

「そんなことは……っ」

 焦る父様。
 でもイヴはもう前を向いていなかった。

「アデラール様。僕と結婚してください」
「イヴ…っ」

 イヴは繋いでいた手を離して、改めて僕の左手をとって、指先にキスを落とした。
 それから、イヴの瞳色のような赤みがかった紫の宝石をあしらった指輪をどこからともなく取り出し、僕の左の薬指に滑り込ませる。

「『定着』」
「!」

 その魔法言葉で、少し大きかった指輪が僕の指に合う大きさに変わった。

「アデラール様」

 そして、僕の手の中には、薄い青色の宝石があしらわれた指輪が。

「お願いします」

 ゴクン…と、喉が鳴る。
 僕はそれを少し震える指で持ち上げて、イヴの左手を取った。
 僕より太い指に、その指輪を嵌めていく。
 神様の前じゃなくて、王様たちの前で指輪の交換。

「絶対幸せにします。何より誰より大切にします。愛してます、アデラール様」
「……っ、ぼ、くもっ、イヴのこと、愛してる……っ」

 ぽろぽろと涙が落ちていく。
 イヴはその涙を唇で拭うと、鼻の頭にちょんとキスを落としてから、僕の唇に唇を触れ合わせた。
 それはまるで誓いのキスのよう。
 そっと触れるだけのやさしいキス。
 唇が離れると、目元を赤く染めたイヴが微笑みながら僕を見る。
 そしてもう一度、僕の左手を取って、指輪に口付けた。

「これで、僕たちは夫婦ですよね?」

 イヴは僕を片腕に抱き上げながら、王様と父様たちに言った。

「そ、うだな。あとは神殿で――――」
「それなら、もうは終わりましたよね」
「……ん?」
「これからは夫婦の時間ですから」
「「は!?」」
「え、イヴ」

 慌てたのは王様たちだけじゃない。
 僕も、だ。

 イヴは僕ににこりと微笑みかけると、耳元で「行きましょう」って言った。

『転移』

 その瞬間。
 ざわめき慌ただしくなった謁見の間から、ふかふかのベッドの上に移動してた。




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