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七幕 アデラール*4
しおりを挟む「セドラン補佐官殿、魔獣対策部より報告書が上がっております」
「あ、わかりました。こっちの書類は陛下に通してください。これは王太子殿下に」
「はい」
婚約破棄から半年が経った。
フランソワは兄様が言っていた隣国の学園に入り直し、一から勉強し直している。成績に応じた寮生活で、一定の成績を修めなければ、部屋もランクアップしないし待遇も悪い。しかも、自主退学はできず、強制退学もほとんどないという監獄学園と名高い場所だ。
そんな場所だと勉強はできるけど人として性格が悪い人が量産されそうだけど、そちらに関しても徹底してるらしく、手のつけられなかった我儘令嬢がすっかり大人しく淑やかな令嬢になって卒業したとか聞いた。
ちなみに、フランソワと同調してたほかの令息達も同じ学園に放り込まれた。
帰って来なくていいと思いはするけれど、どう変わったか見てみたい気持ちもある。まあ、最短でも三年は帰ってこないけど。
そして僕といえば、何故か王太子殿下の側近、補佐官なんて立場になった。
なんでこうなったのかさっぱり分からない。ただ、勉強を頑張っていた僕のことをちゃんと評価してくださっての人事だということで、僕としては嬉しい。自分がやってきたこと、無駄じゃなかったから。
僕の駆け落ち宣言が効いたのか、父様と兄様からはイヴとの交際を許してもらえた。
けど、やっぱりネックになるのは家格の問題。
それで、交際までは認めるけど、婚約も結婚も、イヴが僕に釣り合うほどの功績なり実績なりをあげるまでは認めないと言われた。
……正直、僕は駆け落ち決定だなって思ったのに、イヴは目を輝かせてその条件を飲んでしまった。
「そういえば補佐官殿、お付き合いされてる方がお戻りになるとか」
「そうなんです。やっと会えるんです」
「よかったですね!それにしてもSSランク冒険者だなんて……素晴らしい方を見つけましたね」
「ふふ。僕もびっくりしてるんですけどね」
そう。
イヴはその条件を出されたとき、迷わず冒険者の道を選んだ。
イヴに冒険者なんて無理だよ…って反対したけど、イヴの決意は硬くて僕はそれ以上反対することができなくなった。
僕の心配を他所に、イヴは確実にランクを上げていった。元々魔力が高いという『設定』があったことはしっていたけれど、イヴはそれを扱うのが苦手だった。だけど、その苦手を根性で克服したらしい。それから、細かった体も鍛え直して、体力も筋力もつけた。筋肉ムキムキで剣術も覚えたらしい。
……それら全て、僕はイヴからの手紙で知ったのだけど。だってね。この半年、一度も会ってないから筋肉ムキムキのイヴを見てないんだよ。
別に、マッチョになってたって、僕が好きなイヴであることに変わりない。あの可愛らしさが失われてても、少し残念って思うくらい。
そしてついに、というか、やっとっていうか、こんなにはやく?というか、実績を積み重ねたイヴはこの国では初めての、世界中で見ても数人しかいない最上級SSランク冒険者となった。
父様の条件は貴族としてっていう前提がついていなかったし、SS冒険者なんて国王さえ頭を下げると言われてる存在だから、文句なしの合格のはず。
「何時ころにお戻り予定なんですか?」
「んー…、詳細がわからなくて。多分、まずは国王陛下に謁見になって」
冒険者になったからと言って、イヴが貴族籍から抜けたわけじゃない。それでも実家の爵位は男爵位。末端であれば帰国の際も王様と簡単に謁見…って予定は入れられない。王様だって忙しいから。
でも今回は、男爵家の末子ではあるけどSS冒険者。これは国として手放したくない人材だから、すべての予定を調整してまで謁見の時間を取った。
でもでも到着時間がよくわかんないんだよなぁ。さすがに僕に全く連絡無しで謁見終わり……なんてことにはならないと思うけど。
でもでもでもイヴだからなぁ……なんて思っていたら、執務室の外がにわかに騒がしくなった。
何事……ってドアを開けた。
そこには、数人の兵士から制止をかけられている、きれいな人がいた。
すらりとした美丈夫だった。僕より頭二つ分くらい背が高い。羽織ってるマントは少し草臥れている。
そして、少しくすんではいるものの、特徴的な無造作に結ばれたピンクゴールドの髪――――
「イヴ…?」
思わず呼んでた。
小さかった声が届いたのか、兵士と何か揉めていた美丈夫が僕を見る。
見開かれた瞳。
ああ。変わらない。赤みがかった紫色の綺麗な綺麗な瞳。
「アデラール様…!!」
覚えてる声より少し低くなった。その男らしくなった声に呼ばれて、胸がどんどん忙しなくなっていく。
「アデラール様……会いたかった……!!」
気がついたら、可愛いから進化した美丈夫なイヴに抱きしめられていた。
「イヴ」
「はぁ……アデラール様だ……本物のアデラール様だ……っ、甘い匂いがする……いい匂い……っ」
「イヴ、待って、あのっ」
「声も可愛い……っ、アデラール様……!!」
視界の片隅に人が集まってきたのを捉えた。けど、それをイヴに伝える前に、僕の体はヒョイって持ち上げられて、あの卒業パーティーのときのようにキスをされていた。
「ちょ……っ、イヴ……、っ、んっ」
「は……アデラール様……っ」
触れるだけじゃなかった。
はふ…って息をついた瞬間、熱くて厚いイヴの舌が僕の口の中に入ってくる。
待って。
待って待って。
「イヴっ、ま……っ、ぁっ」
ごりごりあたる。
え。
なにがって。
あれ、が。
「イヴ……っ」
これ以上は絶対やばい。
僕だって大好きな人から触れられて嬉しくないわけもなく、若干兆してる。
けど、けどさっ。
騒ぎに駆けつけた兵士さんとか、そこら辺を歩いていた士官してる貴族の人とか、とにかく色んな目が集まってきてるんだ。そんな中で二人して股間を勃ててる(イヴのは多分完勃ち…)とか、どんな醜聞になるのか。
「イヴ、待って……っ」
力では敵わない。
相変わらず足は床についてないし。
でも、両手は自由だ。
だから、ぎゅむってイヴの両頬を挟んだ。
「アデラール様…?」
唇が濡れて赤くなってる。ふぁっ。多分、僕のも、だ。
いや、それに恥ずかしがってちゃ駄目だ。唇より何より、僕らの股間のほうが問題なんだから。
「落ち着こう?」
「アデラール様」
「うん。僕だよ。おかえり、イヴ。すごく会いたかった」
「……っ、ただいま戻りました……っ。僕も、会いたかった……っ。会いたくて、会いたくて……っ」
きゅって眉間にシワが寄る。何かをこらえてるようなその表情もいい。
「とにかく落ち着いて。謁見予定だったでしょ?終わったの?」
「……こちらに戻ってきてすぐアデラール様の魔力を探したので、まだ……」
「王様より僕を優先させちゃったの?」
こくんと頷くイヴ。
……背が高くなって逞しくなって、力強くなってかっこよくなっても、イヴはイヴだった。
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