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三幕 イヴ*2
しおりを挟むそれからも僕は勝手なドジを踏む度に、何故かこの四人が僕を助けてくれた。
そのことにはとっても感謝してるけれど、何故かほかのお友達ができない。
……別に、いいけど。
だって、きれいなアデラール様も、いつも一人だったから。僕は勝手に親近感を覚えて、勝手に心の友にしていた。
アデラール様は僕の視線に気づいてるのかいないのか。どんなに見続けても視線が合うことがないから、気づかれていないと思っているけれど。
お休みの日は四人のうち誰かが僕を遊びに誘いに来た。たまに四人全員で来ることもあった。
父親の男爵様や兄様たちが何故か慌てふためいたりしていたけど、僕にはちょっとわからない。
いつもお世話になってる……友達?ですって説明したけど……、友達、なんだろうか。よくわからない。
冬を超える頃、触られることが多くなった。
手を繋いだり、時には抱き寄せられたり、すごく近くまで顔が迫ってくることもあった。
意味がわからないのでグイグイ押し戻せば、何故か「イヴは初心だな」と微笑まれる。
……ウブとは、なんだ。
なんだかちょっと怖くなってきた。
そうして卒業が近づいた頃。
階段を上がっていた僕の前から、両手に本を抱えているアデラール様が階段を降りてきた。
ちらりと僕を見た瞳は、すぐにそらされちゃったけど、僕はそれだけでも嬉しくて!ついつい、すれ違うときもアデラール様を見てしまったんだ。
……まあ、そしたら、ドジな僕だから、さくっと階段を踏み外した。
「ぅわ…っ」
「ワーグナー!?」
あ、アデラール様が、僕を呼んでくれた!!家族名だけど、呼んでくれた!!
それどころじゃないのに僕はそれが嬉しくて顔を手で覆ってしまった。
「ワーグナー…!!」
焦った声と、掴まれた腕。
はっと気づいたときには、どさどさっと重たいものが落ちた音がして、何故か僕より下の段にアデラール様がいた。
……いや、落ちて行くところだった。
落ちかけた僕を庇ったアデラール様が、僕を引っ張った反動で階段から落ちる。
そう気づいたとき、今度は僕が手を伸ばしてアデラール様の腕を引いた。
「えっ」
……なんか、階段でダンスでもしてるかのようにお互いくるくるし合って、でも最後は階段の手すりに捕まって座り込んだアデラール様と、階段を落ちる僕という構図で落ち着いた。
いやいや、落ち着いたら駄目だ。
いつもやり過ぎ気味になる魔法を発動させて、僕は体が打ち付けられる寸前にわずかにでも体を浮かせることができた。
成功して良かった……!!
ほんの少し打ち身にはなったけど、全然平気!
アデラール様が階段から落ちなくて本当に良かった。そもそも僕の不注意だし。
アデラール様が持っていた本が傷んでなければいいけど。
「アデ――――」
大丈夫か声をかけようとしたら、青褪めた顔の四人がやってきた。
軽い打ち身だけなのに、大騒ぎして保健室に連れていかれた。険しい表情の四人が何を考えているのかわからない。
……アデラール様は、大丈夫だったかな?
卒業式のパーティーで、僕は何も考えないまま四人のうちの一人、フランソワにエスコートされてた。
……本当に僕は貴族社会と言うか世間にうとすぎる……興味がなさすぎた。
だってね?彼がこの国の王子様だってことを今知ったよ?みんな普通に『殿下』って呼んでいたにもかかわらず。そして、アデラール様がその『殿下』の婚約者だということも今知ったよ?
「アデラール・セドラン!!貴様の悪事は隠しようもない事実だ!!よって私は貴様との婚約を破棄すると宣言する……!!」
殿下は何故か僕の肩を抱いて……、アデラール様にそう宣言された。
次々と告げられるアデラール様の『罪状』。でもそれは、どれもこれも、僕が失敗した結果のものばかり。
「――――あまつさえ、貴様はイブを階段から突き落とし怪我を負わせようと画策した!」
違うよ!?
階段の件はアデラール様が助けようとしてくれたんだ。僕が足を踏み外したりなんかしたから。
なのに、なんでそれが、そんなことになるの……って叫びそうになったとき、頭の中に何かがチカチカと入り込んできた。主人公とか悪役令息って、なに。
なんとも言えない表情で僕たちを見るアデラール様に重なって見える『絵』。
殿下はこの後兵士を呼び入れる。
その兵士に命ずるんだ。
『罪人の衣服を剥ぎ取れ』
って。
そして、みんなが――――卒業パーティーに出ているみんなが注目する中、裸にされて、白い胸に奴隷印が刻まれて、細い首には殿下の所有物であるかのような首輪が嵌められて、『僕』が大好きな悪役令息が、凌辱されてしまう。
「アデラール・セドラン、貴様の貴族籍を剥奪し、罪人として生涯私の――――」
僕は知ってる。
それが殿下の決め台詞だ。
言い終えれば兵士が入ってきて僕のアデラール様が奴隷に、性奴隷にされてしまう。
「やめて……!!!」
僕は殿下の腕を振り払った。
主人公なんて関係ない。
こんな鬼畜な殿下に僕の悪役令息を渡すわけにいかない。
凌辱スチルは滾るけど、でも、眼の前で起きることは全然意味が違う。
だって、アデラール様を啼かせるのは僕でありたいから。
小さめのペニスにブジーを押し込んで、アナルを攻めるのは僕だけでいいから……!!
……ああ、そうだね。
僕は『僕』だ。
『僕』はこの世界の人じゃない、別の世界の人で、この世界が舞台になってる『ゲーム』を知ってる。
主人公のエロスチルはもちろん好きだったけど、なにより悪役令息の凌辱スチルが気に入ってた。凌辱されてる悪役令息は、主人公よりもエロくて可愛くて妖艶だったから。
『僕』の推しである悪役令息。
僕の大好きなアデラール様。
ああ、いいね。
『僕たち』の利害は一致した。
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