【完結】『悪役令息』らしい『僕』が目覚めたときには断罪劇が始まってました。え、でも、こんな展開になるなんて思いもしなかった……なぁ?

ゆずは

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二幕 イヴ*1

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 ずっと父親の顔なんて知らなかった。母親の顔だって知らなかった。いや、覚えてなかった。
 小さな頃から孤児院で生活していた僕を、ある日、僕の父親だと名乗る人が迎えに来た。
 ずっとずっと探していたけど、見つけるのに時間がかかったって。
 その人――――ワグナー男爵様は、優しく僕を抱きしめると、母親との思い出なんかを話して聞かせてくれた。
 それによると――――母親は『冒険者』と呼ばれる職業の人で、男爵様が一目で恋に落ちてやや強引に結婚までこぎつけたんだって。
 でも色々あって、冒険者に戻った母親は、一人で産み落とした僕を育てながら冒険者の活動をしてて、僕が三歳のとき、少し大きな仕事に向かったっきり、消息を絶ってしまったらしい。
 僕は預けられていた家で持て余されて孤児院に入れられたらしい。覚えてないけど。
 それで、冒険者な母親が行方不明になって、しかも一人息子がいたと知った男爵様が、探しに探してついに僕を見つけた――――というわけ。

 僕は僕自身はよくわかっていなかったけど、そのまま男爵家に引き取られた。
 男爵家には兄が二人いた。二人ともとっても親切だった。ピンクゴールドの僕の髪がとてもきれいだなって褒められた。
 それからわかったことが、僕は実はすごくたくさんの魔力を持っていたってことだ。
 それを知った男爵様は、僕の個性を伸ばすために貴族学園に入学するよう勧めてくれた。でも、貴族のやり方とか何も知らない僕だから、兄様たちが編入までにいろいろ教えてくれた。

 そして無事に学園に編入することができたんだけど……、何故か僕は何人もの男子学生に取り囲まれるようになってしまった。
 なんでだろう。

『貴族たるものいつも笑顔を絶やさないこと』

 兄様が教えてくれたから、僕は僕なりの笑顔を向けていた。

『毅然とした態度は必要だが感謝の気持も言葉も忘れてはならないし、口に出して伝えること』

 うん。わかってる。だから、「ありがとう」「ごめんなさい」「嬉しい」って、言葉に出した……つもり。

 そうやって過ごしていたら、時々手を握られた。
 貴族的な握手みたいなものかな?と思った。
 そのうち、僕のそばにいる人が限定的になってきた。
 四人は何も知らない僕に学園の中のことを教えてくれた。
 試験が近づくと、僕に勉強を教えてくれた。
 僕も彼らの話を聞いた。
 あまりにも難しくて、わからないままに微笑んで頷いたら、

「ああ……やはり君は天使のような人だ」

 と、謎の言葉をかけられた。

 その謎の言葉をかけてくる人の会話の中に、度々「アデラール」という名前の人が出てきた。
 僕、その人は知ってる。
 おなじクラスにいる、黒髪がきれいな人だ。澄んだ薄い青色の瞳もきれいだし、肌だって色白で思わず触りたくなるような感じの人。
 どうしてか、僕は彼を見てるとどきどきする。
 彼はちらっと僕を見るだけで終わってしまうけど。
 でも、見てるだけで幸せになれるからいい。

 そんな日々を過ごしていたけれど、僕には僕の問題もあった。
 ちょっと普通の人より多いと言われた魔力。その制御があまり上手くできないことだ。
 机の中にしまっていた教科書を取り出そうとして、指先から風魔法を放ってしまって、机は無事だったけど教科書がボロボロになってしまった。
 それを偶然いつもの四人に見られて、僕が理由を言う前に察してくれたらしくて、

「辛かっただろ。教科書なんてすぐ用意できるから。悲しまないでくれ」

 って言ってくれた。
 すごいなぁ。
 僕何も言ってないのに。
 魔力制御ができなくて辛かったけど、心がふわって軽くなった。

 それからうっかり噴水に落ちたり。
 あんまりにも空がきれいで、噴水の縁に座りながら空を見上げて、見上げて、見上げて………ドボンて落ちたんだ。
 噴水の中でへたり込んでた僕を見つけた三人が、大慌てで僕を引き上げてくれて、優しい風魔法で乾かしてくれた。

「可哀想に…!!こんなにずぶ濡れになって……!!どこか怪我はしてないか?……どうせまたあいつの仕業なんだろ?イヴ、正直に言ってごらん。私達が必ず守るから」

 正直に……言うと、お馬鹿な子って思われそうでちょっと嫌だなぁ。
 『あいつの仕業』って言ってたけど、なんのことだろう。誰のことだろう。僕が濡れ鼠になったのは僕のせいなんだけど。
 答えを探して黙っていたら、何故かみんなが表情を固くした。

「慈悲深いイヴ……。君をこんな目に合わせているというのに、それでも君は何も言わないんだね。…。うん、わかったよ。私達はちゃんとわかってる。だから悩まなくていいからね」

 わかってるって言われた……!
 これは、は、恥ずかしいよ!?
 僕がボーッとして空を見上げながら噴水に落ちたことわかってるってことでしょ?
 ああああ。
 そんなことまでわかってほしくなかった……!!
 魔法制御が下手な僕の代わりに、一人が優しい温風で制服を乾かしてくれたけど、お家に帰ったらすぐ洗わなきゃ。
 また兄様たちにも笑われそう……。



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