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一幕 アデラール*1
しおりを挟む「アデラール・セドラン!!貴様の悪事は隠しようもない事実だ!!よって私は貴様との婚約を破棄すると宣言する……!!」
「………は?」
パチパチと、何度か瞬きを繰り返した。
ピンクブロンドの可愛らしい男の子を片腕に抱き寄せながら、『僕』に憎しみや嘲りを含んだ視線を向けてくる金髪碧眼の美丈夫。
ああ、フランソワだ。この国の第二王子で、僕の婚約者――――
「は?」
「今更言い逃れできると思うな!証言は取れている!!」
『フランソワ』は、べらべらと僕の罪状とやらをまくしたてていく。
僕はそれを聞き流しながら、頭の中に流れ込んできた『情報』を整理していた。
まず、僕は、アデラール・セドラン。公爵家の次男で、幼少の頃に第二王子であるフランソワから請われて婚約者になった。
王太子妃教育とは違うけれど、国政を担う一翼になるため、王子妃教育だって厳しいものだった。でも、全ては国のため、フランソワのため。よくわからないまま婚約した僕だけど、今日まで精一杯頑張ってきた……と、思ってる。
けれど、今、何故か婚約破棄と指をさされてるわけだ。
……うん、大丈夫だな。状況的には大丈夫ではなさそうだけど。
アデラールの記憶は整理した。冷静になれば僕自身が変わったわけじゃないとわかる。
僕は僕。
僕はアデラール。
まあ、そう、なんだけど。
『僕』はまた別だ。
名前もわからない、国もわからない。けれど何故かこの世界が『ゲームの中の世界』だとわかる。
フランソワから指をさされた瞬間、僕の頭の中に流れ込んできた『僕』の記憶。『僕』はここじゃないどこかの世界に生きて、『ゲーム』としてこの世界を知っていた。
頭の中に意味がわからない言葉が溢れる。
びーえるとかふじょしとか、わかりそうでわからない。
言葉の節々はわからなくても、共通してわかることもある。
それは、僕が『悪役令息』と呼ばれる存在で、フランソワの腕に抱かれている彼――――男爵令息のイヴ・ワグナーが『主人公』だということ。
何人かいる攻略対象のうち、誰か一人を攻略するか、はたまた全員を平等に攻略するか、もしくは全員と友人で終わるのか。
いずれにしても僕は『悪役』だから、主人公がどの人を選んでも僕は何かしらの罪で断罪されるわけだ。意味がわからない。しかも、その断罪がどれもこれも声に出すのが憚られるようなエロいものばかり。
「――――あまつさえ、貴様はイブを階段から突き落とし怪我を負わせようと画策した!」
「はぁ……」
……ああ。
これは多分、主人公のイブがフランソワルートに入ってるってことだ。
主人公……イブが、フランソワと。
途端、背筋に悪寒が走った。
婚約者を取られたからじゃない。
フランソワルートの悪役令息の末路が、フランソワの性奴隷となって、凌辱の限りを尽くされるからでもない。
そもそも、フランソワは、性癖がダメなんだ。
玩具が好き。
痛みを与えることが好き。
羞恥に赤く染まる体が好き。
主人公に対しては精々が玩具攻めくらいの描写だったけど、悪役令息の僕に対しては、裸で拘束するし、乳首とペニスにピアスをつけるし、玩具とペニスの二輪挿しなんて当たり前のようにやるし、侍従とか友人に抱かせてニヤニヤとそれを眺めるし。
そんな危ないやつなんだ、フランソワ。
主人公を大事に大事に壊していくのがフランソワ。
だから、そんな危ないやつに、主人公――――イヴを渡すわけにいかないじゃないか……!!!!
イヴは可愛いんだ!!
小動物のようなつぶらな瞳と、ふっくらとした小さな唇。
ツルツルの陰部とピンクのペニス。
……ああ、これは実際に見たはずがないから『僕』の記憶だ。
余すところなくイヴを見てた。攻略対象者に抱かれるイヴを見ながら自慰だって何度もした。
とにかく『僕』はイヴが好き。大好き。本気で好き。
そんなイヴが鬼畜な加虐趣味とも言えそうなフランソワとくっつくなんて、絶対認められない……!!!
「貴様は醜い嫉妬で純真なイヴを殺そうとしたんだ!!」
「……はぁ」
内心とは裏腹に、口からはほうけた声が出る。
『イヴ』を心底愛している『僕』じゃなくても、僕がイヴを陥れたり、怪我をさせたりするようなことはしない。そもそも、フランソワに対して恋愛的な感情は僕にはない。だから、嫉妬する理由がない。
それに、そんなに僕がイヴと関わったことあったかなぁ?
ふと可愛い可愛いイヴを見たら、フランソワに肩を抱かれながら、何故か青褪めた顔で僕を見てる。そんな顔、初めて見たよ。
なので、僕はこっそり周囲の様子をうかがった。
この断罪劇、卒業パーティーだったりする。ほら、こういうゲームのお約束でしょ。
着飾った令嬢令息。学園の卒業パーティーだから、ほら、王様だってご来場されてるんだ。……ああ、笑顔がひきつってこめかみに青筋が浮かんでるように見える。僕、こんなに視力よかったかな?
フランソワに同調するように厳しい目を向けて来てるのは、同じ公爵家で現宰相の次男。それから騎士団に所属が決定してるはずの現騎士団総督の三男。あとは……ええと、魔法師団入団予定の侯爵家の長男……か。
俺たちの様子を見てる周りの卒業生たちからは、ざわざわとしたざわめきしか聞こえてこない。これは肯定か否定か判断できないな。
「貴様のような卑怯者が王族の一員になることなどあってはならない!!私は貴様を断罪し、ここにいるイヴを新たな婚約者とする……!!」
うーん……。
というか、僕、断罪される意味がわからないんだけど。だって、僕がイヴを虐めるとか陥れるとか、絶対あり得ない。そんなことするくらいなら自分で命を絶っちゃうよ。
……どや顔もいいけど、フランソワよ。自分の父の顔を見たかい。王様に背中向けてるから見えてないね?
ああ、でも、どうしよう。
僕の可愛いイヴをあの汚い腕から助け出すにはどうしたらいいだろう。
しかもこのままじっとしてたら、フランソワが引き入れる兵士に僕が取り押さえられてしまう。
僕の腕力じゃイヴを奪い取ってさらって逃げるなんてできないし。
次の展開に頭を悩ませてる間に、フランソワの厭らしい笑みが深くなった。
「アデラール・セドラン、貴様の貴族籍を剥奪し、罪人として生涯私の――――」
「やめて……!!!」
フランソワの決め台詞が始まって、僕を奴隷に落とす宣言がされる前に、可愛い可愛い声が、フランソワの台詞を遮った。
え。
なんで。
僕の天使が、可愛い可愛いイヴが、なんで僕をかばっているんだろう?
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