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☆番外編:生徒会副会長は婚約者の趣味をやめさせたい
しおりを挟む「なぁ、どうしても昼休憩の覗きやめないのか?」
「覗きじゃないもん。僕は僕の趣味欲求を満たしてるだけだし、あれには腐男子的交遊研究もあるんだから。それに、万が一がないように誰かが見守ってないと問題になるでしょ?ほら、輪姦とか強姦とか危ないし」
……目をキラキラさせながら言われても全く信用できない。助けるより誰かを呼びに行くより、こいつは最後までその現場を見るに違いない。
長年の片思い(初恋)叶い俺の婚約者になったこいつの趣味は、少々変わっている。
腐男子告白もアナニー告白もまぁまぁ受け入れるに時間を要したが、見守りと称する覗き趣味だけはどうしても受け入れがたい。
大体、他人の情事を食い入るように見るくらいなら、俺が好きなだけ啼かせてやるのに。朝も昼も夜も好きなだけ挿れてやるのに。
想いが通じて(ほぼ無理やりだったことは水に流した)からは、毎日のように抱いている。……まあ、俺の我慢が効かないのも一つの理由だが、寝る時間になるとあいつが潤んだ目で俺を見てくるのも一つの理由だ。目は口ほどに物を言うというやつ。
そんだけしてんのに、まだ欲求不満があるから覗きをやめないのかと問えば、そんなことはないと返ってくる。あいつにとって男同士の絡みは神聖なものであって性欲の対象ではないんだそうだ。
……ちょっと意味がわからない。
前にちらと見た光景だけでもかなり刺激的ではあったと思う。あんなものを見ながら興奮しないというのもなんだか納得できない。あ、いや、納得したほうがいいんだろうか?……よくわからなくなってきた。
とにかくだ。
婚約者としては面白くない。
隠れてこそこそ覗きをするくらいなら、俺と過ごせばいいのに。
「うちの婚約者が極端な性癖持ちなんだが、やめさせるにはどうしたらいい」
ついボロっとこぼしたのは、放課後の生徒会室だった。
「……極端って」
俺の呟きを拾って答えたのは、生徒会長だ。他の面々はちらっと俺を見ただけで溜息をついて各自の仕事に戻る。
……いや、その態度冷たくないか?
「どんな?……まさか、痛いのを好むとか縛られたいとか」
「いや、そんなんじゃなくて」
「え、じゃあ、逆にお前がいじめられてるとか?」
「いや、ちげぇしっ」
「……ああ、あれだな。誰かに見られなきゃ興奮できないとか、外じゃなきゃ嫌だとか」
「……なんでそんな変態思考なんだよ」
「ん?違うの?私の婚約者は縄でガチガチに縛られると、興奮しすぎていろんなもの垂れ流すよ?それはそれは色っぽいし可愛いし、白い体に残る赤い締め跡が綺麗でね――――」
あちこちからごほごほとか、げふんげふんとか、盛大な咳払いがし始めた。
この生徒会長、こういうやつだった。
これ以上生々しい婚約者との閨話を聞かされたくなくて、書紀や庶務が慌てて帰り支度を始めてる。
「すみません、お先に失礼します」
俺と目が合うと、ささっと目をそらして生徒会室を出ていった。
あっという間に生徒会室には変態生徒会長と俺の二人だけになる。
「――――まあ、それで?どう極端な性癖なのかな?」
「………」
あえてその話を聞くための強引な人払いってわけね。わかっちゃいたし、話を振ったのは俺だし。
「…腐男子で」
「腐男子も腐女子も今はそれほど珍しくないじゃない」
「……アナニーしてて」
「ああ。嵌っちゃったんだね。それもいいんじゃない?まあ、お前が自分で開発したかったんなら残念かもだけど」
「………昼休憩に覗きに消える」
「………ううん?」
「学生棟と教室棟の間辺りに、死角になる庭があるんだが、知ってるか」
「あー……あそこね。うん。知ってる。私も何度か使ったし」
「使ったのか……」
「使ったねぇ。ほら若いし?夜まで待てないんだよ。お前もだろ?」
「俺は違うっ」
「まあ、死角になると言っても隠された場所じゃないから、覗きやすいけどシてる方は覗かれてるのに気づく場所だよ?それに、誰かが使ってるときは、あえて近づかないのが暗黙の了解だ」
……そんな暗黙の了解、俺知らなかったけど。
あの場所には連れ出されて行ったことはあったが。……なるほど。そんな場所だから、俺に告白してきたやつがいきなり脱ぎだしたりしたのか。
……いや、今はそんな過去のことどうでもいい。
「で?あの庭が何か関係あるのかな?」
「……あいつ、そこでほぼ毎日覗きしてるんだよ」
「でもそれなら、当人たちに気付かれるからスる人いないでしょう?」
「……いや、それが、完全に体を隠せる場所にいるんだ」
「え?」
「あの庭に続く抜け道があった。狭くて少し複雑だったが……、その抜け道を使って身を潜ませて、そこを使う奴らを『見守って』いる」
「……私でさえ把握してない抜け道?」
「そう」
「……すごいね、君の婚約者。自力でそんな抜け道を見つけるなんて……」
「いや、そんなところに感心しないでくれ」
「あー……、じゃあ、もしかして、私が婚約者の縄を締め直したのも見られてたのかなぁ」
「学院の敷地内でそんなことすんなっ」
「まあまあ。……それで?ワルドはその覗きをやめさせたい、と」
「まあ」
「んー」
トン、トン、と、リズムよく指先が机を叩く。こいつが考え込むときの癖だ。
そしてその指が止まったとき、ニヤリと笑い俺を見た。
「効果があるかわからないけど、やるだけやってみる?」
「ずっと好きだったんです…!お願いします……一度だけ、一度だけ僕に思い出をください……!!」
茶色のふわふわ髪の一学年下の学生(男子)が、俺に抱きついてきた。
「好きなんです……!」
絶妙に角度は調整した。
あの覗き場所からは俺の背中と今目の前にいる学生の姿が僅かにだけ見えているだろう。
俺はあいつの隠れ場所を知っている。それをあいつも知っている。
だから不自然に見えないように時々わざと後ろを気にする素振りを見せる。
「お願いします……先輩……っ」
そしてこの俺にうるんだ瞳を向けて告白をしてきてる学生は……、生徒会長の婚約者だ。瞳がうるんでいるのは何も恥ずかしさや奥ゆかしさやそんなもんじゃない。この小芝居が終わったら会長から『ご褒美』がもらえることにたいする期待だ。
「……一度だけ、なら」
棒読みだ。
こんな短い言葉なのに。
これじゃバレるかと思いきや、背後から息を呑む音がわずかに聞こえた。
「先輩……!!」
俺が少し背中を屈める。
小芝居相手は俺の背中に腕を回してわずかに背伸びをする。
……もちろん、なにもしない。なにかしてるふうの姿をあいつに見せつける。
『自分の婚約者が誰かとシてる姿を見たら嫌になるんじゃない?ああ、ほら、あの場所になんかもう近づきたくない!ってさ。ん?誤解される?それは、覗きをやめてほしいから一芝居打ったんだ、とか説明したらわかってくれるんじゃない?』
あのときはそれがいいかと納得したけれど。
なんか、間違った、かも?
「あんん………っ、せんぱぃ…っ」
「っ、ちょ」
芝居、芝居なんだけどっ。
俺、別にどこも触ってないし、何もしてないし!?あえて言うなら触られてるのは俺のほうなんだけどっ。
「は……ん……っ」
「っ」
ちょっとごめん。
ほんと無理。
何が起きてるんだ。
俺が盛大に慌てていたとき、背後からガサッと音がした。
直後、俺の頭に何かが投げつけられる。
「って…っ」
投げつけられたのは靴だった。
…靴!?
「ワルド君のばかぁぁ……!!」
「あ!?」
顔を真っ赤にして目を潤ませて、もう片方の靴を手に持ったあいつが、隠れるのもやめて立ち上がっていた。
「ちょっ」
「どうせ浮気するんなら僕に見えるようにやってよ!!ここに僕がいるのわかってるくせに、なんでここまで来て隠すんだよ!!隠すつもりならここにこなけりゃいいだろ…!!」
「ああ!?」
「ひどい……ひどいよワルド君……っ、ぼく、ぼく……っ」
……浮気するならその現場をしっかり見せろや、って言われたのかと思ったが、これは違う、多分、違う。………と、思いたい。
「あのぉ……、僕のお仕事、終わりな感じですか?」
こそっと聞いてきたのは頬を上気させた小芝居相手。
「あ、ああ。ありがとう。あいつにも伝えて」
「はい!」
上がった息のままニコリと笑い、その子はこの場を離れていった。
俺はそれを見送ることなく、ふーふーと真っ赤な顔で立ち尽くすあいつの傍に行く。もちろん、投げられた片方の靴を持って。
「あのさ」
「近寄るな…っ、裏切り者……っ」
うーん……それはさすがにちょっと傷つく。
近づくなと言う割に本人は逃げていかない。泣きそうな目で俺を睨むだけ。
抵抗されるより早く腕を引いて抱きしめた。そのまま足を引っ掛けて茂みの中に押し倒す。丁度、あいつの隠れ場所だ。
「離せ…っ」
「誤解だから」
「何がっ」
「さっきの、全部」
「全部、って……っ」
「あいつ、生徒会長の婚約者」
「生徒会長の婚約者がワルド君に鞍替えするの!?」
「だーかーらー、違うってば」
「だっ、て、あんなに喘いで……、絶対ワルド君がなんかしてた…!!」
「演技!あいつの演技!!今頃会長と会ってご褒美もらってるよ」
「ご……褒美…?」
「そ。あの子、服の下はガチガチに緊縛され中。喘いでたのも多分縄が食い込んでたから!」
そこまで言ってやっと大人しくなった。
「ほんとに、ちがう?」
「違う」
手を押さえつけて口を塞ぐ。
ねろ…っと舌で舐めれば、すぐに唇が開いて迎え入れられる。
ごりごりと上顎から喉にかけて強めに嬲る。あいつはこれが好きだ。腰をビクビクさせながら口の中を俺に支配させる。
「ん、ぅぅ」
そうやって奪うように口付けて、唇を離す頃には手から力はぬけて、とろりとした目を俺に向けていた。
脱力した体を両腕に抱きしめる。
重なった体から、高ぶりが容易に伝わってきた。
「……なんで、あんな、こと」
「お前にこれをやめさせたかったんだよ」
「……しゅ、み?」
「そう」
「……だって」
「俺を構うよりこんなところで一人でいるほうがいいのか?」
「わるど、くん」
「俺といろよ。生徒会の仕事が入ってるときは俺と生徒会室に行けばいい。俺から離れんなよ」
「……わるどくん」
「な?」
頬を撫でれば、安心したようにへにゃりと笑って頷いた。
ああ、よかった。なんか有耶無耶だった気もするがわかってくれたんだ。
「わかった。今度から……」
「ああ」
「わるどくんと、ここに、来るね」
「は?」
「わるどくんが、ここでぼくといっしょにいたら、かいけつだね」
にこり。
俺が敵わない笑顔で。
……こいつ、何もわかっちゃいなかった。
俺が精神すり減らしてやったことは、なんの意味もなかったってことか。
「はぁぁ………」
脱力した。
もう、こいつの更生は無理。
数日後。
学生棟と教室棟の間にある庭の整備が行われた。
その結果、逢引の庭はなくなり、当然、あいつの抜け道も使えなくなった。
「ひどいぃぃぃっっ!!」
その事実を知ったときのあいつの嘆きは、俺の浮気を疑ったときよりも深いものだった……。
*****
ここまでお付き合いありがとうございました(*^^*)
主人公くん、最後まで名前不明……(笑)
ラ・リ・ル・レ・ロ・ワ
のあとの名前が思いつかなかっただけとも言う……(;´∀`)
ア
にすることは考えましたが……主人公くんのままで(笑)
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