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婚約披露パーティーには波乱がつきものです?

72 どんどん嬉しさが増していく

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 パーティーはそれから二時間ほどでお開きになった。
 あれから、優弥は会場に姿を見せてない。
 雷音監督を見ても、首を横に振るだけだった。
 嘉貴は流石に疲れたようで、椅子に座ったまままだ立ち上がれないでいた。
 無理もないよな。退院してきたその日にパーティーだったし。

「司…すまないが家まで送って欲しい」
「あら……嘉貴、今日は泊まっていくんだと思っていたのだけど」

 由貴ちゃんお母さんはこのパーティーの間中、常に喋り通しだったのに、あまり疲れていないみたいだった。…すごい。

「ええ、すみません」

 嘉貴は笑ったまま、俺の手を離さない。
 母さんたちはわめく勝利を引き摺って帰って行ったし、俺も今日は嘉貴と一緒にいる予定だったけど……、そっか。家に戻るんだ。

「荷物どうする?」
「それも申し訳ないんだが、明日にでも届けてくれないか?…このまま帰りたいんだ」

 嘉貴の意志は固そうだった。
 俺といえば、あの部屋に戻らなくて済みそうでほっと息をついていた。

「もう……本当に頑固なんだから。誰に似たのかしらね」
「頑固なのは母さん譲りだと思いますよ」
「あら、私のどこが頑固だっていうの?」
「…由貴は十分頑固だと思うけどね」

 それまで静観していた嘉貴のお父さんが、苦笑交じりにそう言った。

「今日は疲れただろう。司、車をだしてくれ」
「はい、わかりました」
「ありがとうございます、父さん」
「まあ……たまにはこっちに来てくれると嬉しいんだが…。ねえ?浩希君」
「え?あー、はい」

 こんなでかい屋敷に一人で来るのは腰がひけるけど、とりあえず嘉貴と一緒ならなんとかなりそうだし。

「車まわしてきます」

 雷音監督はそう言うとその場を離れた。

「…今日は一緒に帰りましょう。浩希」
「うん…」

 色々なことがありすぎて、そろそろ俺も限界だから。
 はやく、帰ろう。
 俺たちの、家に。




 嘉貴の家にむかう車の中でも、ずっと手をつないだままだった。
 …そういえば、俺が薬を持って戻ってから、こうして手をつなぎっぱなしだ。お開きの挨拶のときだって、手を離さなかった。
 手から伝わってくるぬくもりはそれだけで俺を落ちつかせてくれるけど…、もしかしたら、嘉貴は何があったのかわかってるのかもしれない。

「そういや、車は廃車になっちまったわけだけど、次の車も同じのでいいのか?」

 雷音監督は運転しながら後ろに座ってる俺たちに(というか嘉貴に)話しかけてきた。

「ああ、同じもので構わないけど…。浩希、何か好きな車とかありますか?」
「えー…車?うーん……車高が結構高くてでかいのがいいな。景色よく見えるし、キャンプとか行くときにも荷物沢山積めそうだし」

 そう言ったら、嘉貴と監督に笑われた。
 なんで。俺、何か変なことを言ったかな。

「じゃあ、そういうわけだから。手配頼めるか?」
「ええ。わかりました。前のよりごつくなりそうだけど、いいか?」
「構わないよ。他は任せるから」
「ちなみに、坊ちゃん。色は何色がいいんですか?」
「色?」

 色かぁ…。前の車が黒で、嘉貴に似合ってたっていうか、しっくりくるんだよなあ…。

「なんでもいいけど…、でも、奇抜な色よりは黒の方がいいな。嘉貴には」

 そう言ったらまた二人に笑われた。
 なんなんだよー…二人して。




 それから明るい雰囲気で他愛もないことを話しながら、家にむかった。
 そのうちに車はいつもの駐車場に入って、エレベーターの前で止まる。

「夕飯はどうする?」
「何か出前でもとるよ」

 もう夕飯を気にしないとならない時間なんだ。
 なんか、あまりおなかはすいてないんだけど。

「じゃあ何かあったら連絡してくれ」
「ああ」
「それじゃ。坊ちゃん、また今度」
「あ、はい」

 慌てて頭を下げた。
 そのあと、雷音監督は車をターンさせて駐車場から出ていく。
 それを見送って、二人でエレベーターに乗り込んだ。
 軽く息を吐いた嘉貴は、やっぱり疲れている様子だった。
 でも、手を握る力はもっと強くなる。
 ……ようやく、二人になれた。

「家に入ったら空気いれかえないと駄目ですね」
「俺がやるから寝たら?」
「大丈夫ですよ」

 嘉貴は微笑んで空いてる手で俺の頭をなでた。

「久しぶりの家で折角浩希と二人なのに……寝るなんて勿体ないじゃないですか」
「勿体ない……って、無理したら駄目だってお医者さんからも言われてただろ」
「それはそうですが」

 嘉貴は悪びれた様子もない。
 最上階にエレベーターが到着して、手をつないだまま降りた。
 嘉貴が鍵を開けるのをじーっと見ながらどんどん嬉しさが増していく。
 ……生きてるんだ、っていう実感と、帰って来たんだ、っていう安堵感。
 玄関を開けると中からなにかむわっとした空気が流れてくる。エアコン効いてないんだから、当たり前か。

「……これは想像以上だな」

 嘉貴も少し苦笑いしていた。
 まあ、仕方ないよな。
 夏のこの時期に三泊四日分閉め切った状態だったわけだし。
 それでも家に入らないと何もできないので、二人で顔を見合わせて笑って家に入った。


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