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婚約者様、疑ってごめんなさい
53 恋人っていうか、婚約者なんだけど
しおりを挟む「浩希、何かいいことあったんだろ」
どこからどう調達してくるのか、三角パックの牛乳を飲みながら、いつものごとく俺の前を陣取った良一が眼鏡をくいくい直しながら言ってきた。
「…いいこと、っていうかさ」
昨日一日ズル休みをして嘉貴のところに泊まった俺は、今日は嘉貴のところから登校したから弁当ではなくて、昼休みに入ってすぐに購買でパンを二つほど買ってきていた。
「じゃあ、恋人でもできた?」
いきなりそう言われて、盛大にむせた。
「ちょ………なんでそんな…っ」
「同じ学部の女子がさ、浩希が今朝とんでもないイケメンが運転する車で登校してきたって騒いでたから」
良一はごくごく普通の会話……って感じに話す。
「……で、どうなのさ」
「…………恋人っていうか…」
婚約者なんだけど。
でも、それをどう説明したらいいんだろうか。
一昨日両親に会って挨拶して……正式に、ちゃんとした「婚約者」になった。
ついでに入籍の日取りも決まってしまったとか……そんなこと言えないっ。
「まあどっちでもいいか。僕としては……うん、まあいいか」
「なんだよ」
「…浩希に年上の恋人ができていて、ご両親との挨拶も済んでいて、ついでに入籍まで秒読みとか………まあ、そんなことは僕に関係ないし」
俺の手からパンが落ちた。
なんていうか……何故それをお前が知ってるんだ!?それも、そんな事細かに……っ!!
「でもさ、浩希」
正直硬直したまま動けないでいた。
知ってたんなら俺に恋人ができたかどうかを確認する必要なんてないじゃないか。いや、そもそも、良一はどこからどうやって知ったんだ!?
硬直したまんまの俺に箸を向けた良一。
「浩希に恋人ができたとしても……僕が親友ってことには変わりないよね?」
「……変わらないだろ」
「だよね。うん、ならいいかな、ってさ」
良一は一人頷き、うどんを再びすすり始めた。
俺の頭の中はまだパニック中だ。
そりゃ、隠しておくつもりでもなかった(言いふらすようなことでもないのだけど)。
けど、自分が知らないところで知られてるってのは……どうしてもあれやこれやと考えてしまうものだ。
「僕としては誰かに譲るつもりはなかったんだけどね……。相手の方が一枚も二枚も上手って言うか…」
「何の話だよ?」
そこで初めて良一がため息をついた。
「僕が、浩希のことを好きなんだ、って話」
「俺も好きだよ」
俺だって良一のことは好きだ。好きじゃなけりゃこんな風につるんだりしてないし。
「………………報われない……」
だから、何だっていうんだよ…っ
盛大にため息をついた良一に問いただそうとしたとき、少し荒く良一の隣の椅子が引かれて、荷物をドサリと置いた人物が。
「僕にも仕事の都合があるってあれほど言っているのに…!!」
なんだなんだとそっちを見ると、頬を赤くして怒りながら優弥が立っていた。
おいおい、学校の備品なんだから、もう少し丁寧に扱えよ。
「何かあったのかい?」
「……何かってものじゃない。この間、すぐ上の兄の婚約披露パーティをすると言っただろ?」
優弥は引いた椅子に腰掛けて、手にしていたペットボトルのお茶をぐいっとあおった。
「そういえば言ってたね」
「それを、今週の土曜日にすることにしたと、さっき母から連絡が来て…、スケジュール調整に頭が痛いんだ」
優弥のところもか。
狭い狭いとは思っていたけど、こんなに身近に婚約披露パーティをしようだなんて考える人が二人もいるとは。本当に世間は狭い。
「行かなきゃいいんじゃないの?」
軽くそう言葉にすると、優弥は大きくため息をついた。
「……母が乗り気だから無理だな」
なんだかんだで母親には優しいんだよな、こいつ。……頭があがらないとも言うけど。
「まあ…それはそうと、今日の放課後、新しくできたケーキショップに行かないか?コウ、今日は部活休みだろ」
「そうだけど」
「男三人でケーキショップ?」
「美味いと評判になってる店なんだが……」
俺達の反応が薄かったせいか、優弥は黙り込んだ。
まあ、ちょっと行ってみたい気はするけど、今日も嘉貴のところに行きたいし。
……とか思っていたら、スマホが震えて慌ててポケットから取り出した。
「三人とも四講がないタイミングなんて今日くらいなものだろ?ほら、ケーキだけじゃなくてピザとかもあるらしいし」
「何がなんでも行く気なんだね……」
「嫌なら良一はこなくていい。僕とコウだけで行く」
「心配しなくても僕も行くよ」
「心配などしていないっ………コウ?」
「浩希、どうかした?」
「え?あー……」
……全然、話を聞いてなかった。
「うん。大丈夫。なんでもない。そのケーキショップ、学校終わったら行こっか」
俺が笑い返したら、二人が変な顔をしつつも頷いた。
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