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元自称婚約者の現恋人は、婚約者に昇格となりました
47 その意図を感じて、鼓動が速くなる
しおりを挟む「……俺は小さいときのこと覚えてないけど……、誓約書があったから嘉貴と婚約するって決めたわけじゃないよ。全部俺の意志だし……、それに」
「浩希……」
「俺は、嘉貴のことが好きなんだ。………だから」
「……もう、いい」
勝利は俺に背を向けるとキッチンから出て行ってしまった。
…なんでわかってくれないんだよ。わからずやっ。
「浩希」
勝利の後を追おうとは思わなかった。
一番大切な声が呼んでるから。
はやく、その隣に並びたい。
「…こーちゃん、しょーちゃんはただ心配してるだけなんだ」
「うん……そんなのわかってるけど」
「しょーちゃんはお兄ちゃんっていうより、子離れできないお父さんみたいね」
…その例え方はないと思うよ…母さん。
「そのうち勝利もわかってくれますよ」
嘉貴の目はずっとやさしいまま。
…うん、そうだね。
「ところで」
嘉貴は手を膝の上で組んで、父さんと母さんを交互に見た。
「母が、婚約披露パーティーをしたいと言いだしてしまって」
「まあ」
「パーティーか……」
「ええ。身内だけということで、自宅の庭で行う予定ということなんです」
「いつだい?」
「急なんですが、次の土曜日か日曜日に考えているようで」
嘉貴は申し訳なさそうに話す。
パーティーだよ。今週末に。
普通ならこんな急に予定は組めないだろうけど。
「まあ、土曜日なら予定があけれそうだな」
「永祐くん、どんなの着たい?」
「…派手じゃなければいいよ」
わくわくした様子の母さんに父さんがため息をついている光景を見ながら、嘉貴も笑った。
「それでは母に土曜日にするよう伝えておきます」
「ああ。それで構わないんだが……俺たちは何もしなくていいのかい?」
「ええ。母が好きですることなので」
「……まあ、確かにあの人ならなぁ…」
「そうね。あの人なら可能ね」
……そんな評価を受けるお母さんって……一体……。
そのあとも色々と話しこんで、気が付いたら五時を過ぎていた。
夕刻に気づいた嘉貴が、そろそろ…と腰を浮かす。
「お夕飯食べて行ったら?」
「嬉しいのですが……俺がいたんでは勝利がでてこないでしょうから」
嘉貴は苦笑していた。
…じゃあ、今日はこれでお別れなんだ。
明日は逢えるのかな。
明後日は―――――
「母さん…あのさ」
「なぁに?」
「俺、嘉貴と一緒に行っていい?」
「浩希?」
嘉貴は少し驚いたような声を出した。
…だって、傍にいたい。
嘉貴のスーツの袖口を掴んだまま離せなかった。
今日は、今日だけは……絶対に傍にいたい。
「仕方ないわね。泊まってくるなら、明日の支度もしていくのよ?」
母さんは笑いながらため息をついた。
俺の気持ちを察してくれたらしく、何か言いたそうな父さんの足を踏み続けるというおまけつきだった。
「うん。ありがと!」
嘉貴の都合とか何も聞かなかったけど。
まあ、いいや。
大急ぎで自分の部屋に戻って明日の支度をする。
荷物をどっさり持って部屋を出たときに……勝利の部屋をじっと見た。
ドアが開く気配はない。
…俺だって不安がないわけじゃないんだよ。でも、それを考えるよりも、嘉貴のことが好きなんだ。
「……ごめん、お兄ちゃん………」
小さな声だった。
聞こえてるかどうかなんてわからないけど。
心配してくれて、ありがとう。
心配をかけて、ごめんなさい。
……部屋の中から返事は何もなかったけど。
俺は大急ぎで玄関にむかった。
「じゃ、いってきます」
講義に必要な教科書類と、ついでに部活で必要なものをつめたでかいスポーツバッグを嘉貴が車の後部座席に置いてくれる。
「いってらっしゃい」
見送ってくれた母さんと父さんに手をあげてから、俺も車に乗り込んだ。
「それでは、失礼します」
「ああ。また来いよ。今度は酒でも飲もう」
「ええ、ぜひ」
嘉貴は笑って頭を下げると、車を回りこんで運転席に乗り込んだ。
「夕飯はどうしましょうか」
走り始めてすぐ、嘉貴が確認してきた。
「んー…カレー以外がいいかな」
「ああ、カレーの匂いがしてましたもんね」
「うん。……母さんさ、三日に一回はカレーを作ってる気がする…」
唸った俺に嘉貴は笑った。
「あ、そだ」
「なんですか?」
「……俺、ついてきてよかった?」
嘉貴の了承も得ないまま、勝手に行動してしまったから。
もしかしたら、この後予定とかあったら、迷惑だし…。
「俺が駄目だと言うと思いますか」
「…でもさ」
車が信号で止まった。
その隙に、嘉貴が俺にキスをしてくる。
「……俺も、今日は浩希と一緒にいたかった。でも、さすがに俺から言い出すのは駄目だと思って。…だから、浩希が言ってくれて嬉しかったんですよ」
「ん…」
「残念なのは、明日が平日っていうことかな」
「残念って……なんで?」
「腕の中の浩希を、堪能できないでしょ?」
微笑んだまま言われたことに、一気に顔が赤くなった。耳まで熱い。
信号が変わって車が走り出すと、嘉貴はそれが当然と言わんばかりに俺の手を握ってきた。
「……どこかで食べていこうかと思ったんですが……」
嘉貴の手に力が入る。
「……まっすぐ帰りましょうか」
甘い声。
その意図を感じて、鼓動が速くなる。
「……うん」
嘉貴が、アクセルを踏んだ。
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