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元自称婚約者な恋人に会いたいので、初めて合鍵を使ってみました
35 嫌じゃないけど、まだ…少し、怖い
しおりを挟む嘉貴は俺にミルクティを作ってくれた後に着替えをして、手早く簡単サラダを用意してテーブルの上に並べていた。
ほんとに手際がいい。
その間にカレーも温めて、準備万端。
ご飯まともに炊きあがっていてよかった…。
「いただきます」
「どうぞ。…いただきます」
嘉貴も手を合わせて食べ始める。
なんだかんだで母さんのカレーを食べるのって久しぶりだった。
具は結構大きいのにちゃんと柔らかくほっこりしてる。
…うん。なんか落ち着く味だな。
「百合恵さんのカレー、久しぶりだな…」
カレーを食べながら嘉貴がどこか感慨深げに言った。
俺の視線に気づいたのか、嘉貴は微笑むとまた一口カレーを食べる。
「子供のころにね、百合恵さんがよく作ってくれたんですよ。まだ小さかった浩希は、大きいジャガイモとかが食べられなくて、スプーンで小さくしたりしてました」
「嘉貴が?」
「ええ」
「……ふーん…」
話を聞く限り、嘉貴はかなりうちと親しく付き合ってたみたいだ。しかも俺とはよく一緒に遊んでいたみたいだし。
「……なんで俺何も覚えてないのかな」
なんとなく口にした言葉だったのだけど、一瞬、嘉貴の表情が曇った。
「それは…」
「嘉貴のこと、きっと大好きだったんだろうし…。まあ、でも、木から落ちた時のことも覚えてないから、小さいときの記憶ってそういうものなのかな」
「……ええ。もしかしたら何かの拍子に思いだすかもしれませんし」
「だよな」
嘉貴との思い出を忘れるような何か事件みたいなことがあったとしても、そんなことは思いだしたくもない。
でも、嘉貴と一緒に遊んだ記憶は、思いだしたかった。嘉貴のことならどんなことだって知っていたいし、きっと宝物のような思い出になるはずだから。
嘉貴の表情はもういつも通りだった。
遅めの夕食を食べ終わってから、二人で後片付けをした。
嘉貴はお代り用のアイスティを作ってから、俺と居間のソファに座る。
「紅茶じゃないほうがよかったかな」
「なんで?」
「もう遅い時間だからね。眠れなくなると困るでしょ?」
「んー、大丈夫だよ。俺、これが好きだし」
ソファの上に足を抱えて座って、嘉貴にもたれかかった。
嘉貴は俺の肩を抱きしめて、こめかみにキスを落としていく。
「嘉貴、明日は休み?」
「ええ。基本的に土日は休みなので。…まあ、何かトラブルがあれば行かないわけにいきませんが」
そうか。土日休みなんだ。
先週は出張に出てたんだよな。
「それより浩希」
「なに?」
「何時ころ送りますか?百合恵さんが心配するでしょう」
真剣な声に嘉貴の顔を見れば、かなり時計を気にしている。
「帰りが遅くなってだいぶ待たせてしまいましたから…」
「いいよ、送らなくて」
「そういうわけにもいかないでしょう?」
「や、だから、泊まるって言ってあるから」
嘉貴は驚いたように俺を見た。
「でも、浩希の部屋にはベッドは入れてないですよ?」
「嘉貴と一緒でいいよ」
嘉貴に抱きしめられながら眠るのは結構心地が良かった。
この間はそうやって眠ってたんだから、何を今更気にする必要があるんだろう。
「……浩希」
なんて表現したらいいんだろう。
困ったような嬉しいようなからかうようなそんなつかめない表情で、嘉貴は俺の頬にキスをしていく。
「浩希、それは俺を誘っているのかな」
「へ?」
「恋人と同じベッドで眠るっていうことは、そういうことでしょう?」
恋人、ってのを強調されて、俺は耳まで一気に赤くしてしまった。
嘉貴は面白そうに耳元で言葉を続ける。
「…俺がこの間言ったこと、覚えてますか?」
嘉貴を意識しすぎて、耳に息がかかるたびに体中が震えてしまう。
「俺は、貴方を抱きたいと思っているんですよ…?」
「んっ…」
「ね……浩希」
吐息が頬にかかる。
そのまま唇まで移動してきて、重なっていた。
いつの間にか手に持っていたアイスティのグラスはテーブルの上に置かれている。
「…抱いてもいいですか?」
…心臓が、すごくドキドキしていた。
嘉貴の眼差しも言葉も真剣そのもので。
さっきまでお茶を飲んでいたのに、もう喉がカラカラになってる。
「浩希……」
答えられないまま唇を塞がれる。
そのまま押し倒されて嘉貴の重みを全身に感じて…、舌の動きも熱い吐息もなにもかもが気になって仕方がない。
どうしよう。なんて答えたらいいんだろう。嫌じゃない。嫌じゃないけど、まだ…少し、怖い。
でも、それでも、嘉貴の傍にいたい。
「…嘉貴…」
キスの合間に名前を呼ぶと、嘉貴は体を少し起こしてからくすっと笑った。
「そんなに困った顔をしないで、浩希」
や、だって、本気で困ってるしっ
「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ。まだ病み上がりなんですから、そんな無理はさせませんから」
…からかわれたのか、俺!?
「でも……貴方を抱きしめて眠ったら、キスくらいはしてしまうと思うんですが……それでもいい?」
「………いいよ、それくらい」
いつもしてるじゃん。
嘉貴は笑ったまま俺の頭をなでていく。
「それじゃあ……傍にいてください」
「うん。いいよ」
俺も笑って…キスを返した。
「浩希、お風呂はもう入った?」
「あ、まだ」
そういや嘉貴を待ってる間に入ろうかどうか迷ってて、そのまま転寝してたんだった。
嘉貴は口元を綻ばせながら、俺の耳に顔を近づけてきた。
「一緒に入る?」
「却下!!」
なんなんだ、その提案っ
「…一人で入るからっ」
やばい。
顔が赤くなる。
一緒にお風呂なんて……恥ずかしすぎて絶対にやだ。
「残念」
嘉貴は最初からわかっていたんだろう。くすくす笑ってる。
…さっきあんなことを言っておいて…からかうのやめてほしい。ほんとにさ!
「………意地悪」
ぼそっと呟いて立ちあがった。
「浩希と一緒に入りたいのも本心なんですけどね」
きゅっと手を握られて、心臓がバクバクする。
「………入ってくるから」
その手を一度だけ握り返して、ソファから離れた。
一旦部屋に行って着替えを用意してから、改めて風呂場にむかう。
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