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元自称婚約者な恋人に会いたいので、初めて合鍵を使ってみました

33 自分で行けばいい

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「コウ、お前体調大丈夫なのか?」
「ちゃんと飲まなきゃ駄目だよ?浩希」



 翌朝、熱を測ってみたら微熱があった。
 体の調子は結構いいし休むほどじゃないと思って登校したのだけど、昼休みに入るころにはなんだかぐったり気味になっていた。

「脱水で熱出して休むほど…って、浩希、断食か何かしたのかい?」
「……んなことじゃないけど……」

 そもそも、脱水が先なのか、心的要因が先なのか……微妙なトコロですが。

「全く…っ!暑い日が続いているんだから、ちゃんと飲まないと体に悪いことくらいわかるだろっ」
「……俺自身が結構へばってるんだから、それ以上言わないで……」
「とにかくさ。お昼ご飯食べたら?」

 良一と優弥は学食でランチセットを注文してて、もうほとんど食べ終わっていた。早い。反して俺と言えばほとんど手つかずで。

「食べないと体力回復しないし、またバテるよ」
「……わかってるって」

 のそのそ食べ始めたら、ポケットにいれておいたあのスマホが震え始めた。

「っ」

 思わず箸を落としそうになりながら取り出すと、メッセージ通知が来てる。
 なんだろう。

「浩希、スマホ変えたのかい?」
「綺麗な色だな」
「…浩希?」

 良一の訝しげな声にはっとして二人を見た。

「あ、ごめん。……なんだっけ?」

 胸が少しドキドキしてるのと同時に少し落ち込んでいた。

『今日は仕事が遅くなりそうなので迎えに行けません』

 って、内容のメッセージだった。
 ため息が出てしまった。

「コウ?」
「浩希、大丈夫?」
「あー……うん。なんでもない」

 また箸を持ち直して昼食を再開する。
 …頭の中は色々ぐるぐるしていたけど。
 むかえにこれないってことは逢えないってことなんだよな。
 仕事が遅くなるって、きっと、昨日も一昨日も休んだからその分忙しくなってるんだ。

「そういえば、母が兄の婚約披露パーティをすると張り切っていたな」
「優弥のお兄さんって…」
「父親が違うんだ。二番目の兄が婚約をしたらしくてな」
「ふうん」

 二人の会話を流し聞きしていた。
 今日が過ぎれば土日だから、いつもよりも逢える時間が増えるって思っていた。
 明日が休みなんだから、今日泊まってもいいよな……とか。
 なのにそれができそうにもなくて……ため息しかでてこない。

「……仕方無いよなぁ……」
「何が?」
「何だ?」

 ぼそっとつぶやいた言葉に二人の目が俺を見た。

「……こっちの話…」

 どうすればいいかな。





 四講までなんとか終わって、部活には出れないから雷音監督には休むことを伝えた。

「もういいのか?」
「あ、はい。まだ運動はやめとけって医者の人から言われてますけど」
「そっか。ひどくなくて良かったな」

 ニカッと笑う雷音監督。
 ……そういえば、嘉貴は雷音監督から俺が休んでること聞いたんだっけ。監督は誰から聞いたんだろう。
 まあ……いいや。
 多分、同じ講義を取ってる部員から聞いたんだろうな。うん。

 それから嘉貴に電話をかけてみよう…と思って、歩きながらスマホを取り出したとき、鍵の存在を思い出した。
 カードケースに入れておいたそれを取り出して、まじまじと眺めてみる。

『いつでも来てくださいね』

 そう、言っていた。

「……行っていいかな……」

 迎えに来れないなら、自分で行けばいいだけだ。
 自転車は…自信がないし、帰りに送ってもらえない。やっぱりバスか。
 そうだ。
 そうしよう。
 それで、驚かせよう。

「決めた!」

 そうと決めた途端、足取りが軽くなった。
 急いで家に帰って、着替えてからでかけよう。
 母さんには泊まってくることを言わなきゃならないし。
 …勝利に会いませんように…。





 大急ぎで家に帰った。
 急ぎ過ぎてかなり息は上がっていたけど、熱があがってる感じはないし大丈夫そうだった。

「こーちゃん、おかえりなさい」
「ただいま」
「体大丈夫?」

 出迎えてくれた母さんは何故かお玉をもっていた。

「平気。……母さん、あのさ」

 靴を脱ぎながら話すと、母さんもその場にとどまって聞いてくれる様子だった。

「嘉貴のところに泊まりに行ってもいい?」
「藤岡さんのところに?」
「うん」
「お仕事忙しいんじゃない?」
「迷惑かけないから」

 母さんは少し考えているような顔をした。 
 病み上がりだし…駄目だって言われるかもしれない。

「いいわよ。でも、明日には帰ってこないと駄目よ?日曜日には藤岡さんいらっしゃるんでしょう?」
「うん。わかってる」
「それじゃ、今カレー作ってるから、持って行きなさいね」

 お玉を持ったままにこっと笑う母さんからは、有無を言わさない強さを感じた。
 …ていうか、あっさり許可してくれて拍子抜けした。
 考えてたのって泊まりが云々じゃなくて、カレーをどうするか…ってことですか……。



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