33 / 83
元自称婚約者な恋人に会いたいので、初めて合鍵を使ってみました
33 自分で行けばいい
しおりを挟む「コウ、お前体調大丈夫なのか?」
「ちゃんと飲まなきゃ駄目だよ?浩希」
翌朝、熱を測ってみたら微熱があった。
体の調子は結構いいし休むほどじゃないと思って登校したのだけど、昼休みに入るころにはなんだかぐったり気味になっていた。
「脱水で熱出して休むほど…って、浩希、断食か何かしたのかい?」
「……んなことじゃないけど……」
そもそも、脱水が先なのか、心的要因が先なのか……微妙なトコロですが。
「全く…っ!暑い日が続いているんだから、ちゃんと飲まないと体に悪いことくらいわかるだろっ」
「……俺自身が結構へばってるんだから、それ以上言わないで……」
「とにかくさ。お昼ご飯食べたら?」
良一と優弥は学食でランチセットを注文してて、もうほとんど食べ終わっていた。早い。反して俺と言えばほとんど手つかずで。
「食べないと体力回復しないし、またバテるよ」
「……わかってるって」
のそのそ食べ始めたら、ポケットにいれておいたあのスマホが震え始めた。
「っ」
思わず箸を落としそうになりながら取り出すと、メッセージ通知が来てる。
なんだろう。
「浩希、スマホ変えたのかい?」
「綺麗な色だな」
「…浩希?」
良一の訝しげな声にはっとして二人を見た。
「あ、ごめん。……なんだっけ?」
胸が少しドキドキしてるのと同時に少し落ち込んでいた。
『今日は仕事が遅くなりそうなので迎えに行けません』
って、内容のメッセージだった。
ため息が出てしまった。
「コウ?」
「浩希、大丈夫?」
「あー……うん。なんでもない」
また箸を持ち直して昼食を再開する。
…頭の中は色々ぐるぐるしていたけど。
むかえにこれないってことは逢えないってことなんだよな。
仕事が遅くなるって、きっと、昨日も一昨日も休んだからその分忙しくなってるんだ。
「そういえば、母が兄の婚約披露パーティをすると張り切っていたな」
「優弥のお兄さんって…」
「父親が違うんだ。二番目の兄が婚約をしたらしくてな」
「ふうん」
二人の会話を流し聞きしていた。
今日が過ぎれば土日だから、いつもよりも逢える時間が増えるって思っていた。
明日が休みなんだから、今日泊まってもいいよな……とか。
なのにそれができそうにもなくて……ため息しかでてこない。
「……仕方無いよなぁ……」
「何が?」
「何だ?」
ぼそっとつぶやいた言葉に二人の目が俺を見た。
「……こっちの話…」
どうすればいいかな。
四講までなんとか終わって、部活には出れないから雷音監督には休むことを伝えた。
「もういいのか?」
「あ、はい。まだ運動はやめとけって医者の人から言われてますけど」
「そっか。ひどくなくて良かったな」
ニカッと笑う雷音監督。
……そういえば、嘉貴は雷音監督から俺が休んでること聞いたんだっけ。監督は誰から聞いたんだろう。
まあ……いいや。
多分、同じ講義を取ってる部員から聞いたんだろうな。うん。
それから嘉貴に電話をかけてみよう…と思って、歩きながらスマホを取り出したとき、鍵の存在を思い出した。
カードケースに入れておいたそれを取り出して、まじまじと眺めてみる。
『いつでも来てくださいね』
そう、言っていた。
「……行っていいかな……」
迎えに来れないなら、自分で行けばいいだけだ。
自転車は…自信がないし、帰りに送ってもらえない。やっぱりバスか。
そうだ。
そうしよう。
それで、驚かせよう。
「決めた!」
そうと決めた途端、足取りが軽くなった。
急いで家に帰って、着替えてからでかけよう。
母さんには泊まってくることを言わなきゃならないし。
…勝利に会いませんように…。
大急ぎで家に帰った。
急ぎ過ぎてかなり息は上がっていたけど、熱があがってる感じはないし大丈夫そうだった。
「こーちゃん、おかえりなさい」
「ただいま」
「体大丈夫?」
出迎えてくれた母さんは何故かお玉をもっていた。
「平気。……母さん、あのさ」
靴を脱ぎながら話すと、母さんもその場にとどまって聞いてくれる様子だった。
「嘉貴のところに泊まりに行ってもいい?」
「藤岡さんのところに?」
「うん」
「お仕事忙しいんじゃない?」
「迷惑かけないから」
母さんは少し考えているような顔をした。
病み上がりだし…駄目だって言われるかもしれない。
「いいわよ。でも、明日には帰ってこないと駄目よ?日曜日には藤岡さんいらっしゃるんでしょう?」
「うん。わかってる」
「それじゃ、今カレー作ってるから、持って行きなさいね」
お玉を持ったままにこっと笑う母さんからは、有無を言わさない強さを感じた。
…ていうか、あっさり許可してくれて拍子抜けした。
考えてたのって泊まりが云々じゃなくて、カレーをどうするか…ってことですか……。
23
お気に入りに追加
685
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
ある夏、迷い込んできた子猫を守り通したら恋人どうしになりました~マイ・ビューティフル・カフェーテラス~
松本尚生
BL
ひと晩の寝床を求めて街をさ迷う二十歳の良平は危うくて、素直で純情だった。初恋を引きずっていた貴広はそんな良平に出会い――
祖父の喫茶店を継ぐため、それまで勤めた会社を辞め札幌にやってきた貴広は、8月のある夜追われていた良平を助ける。毎夜の寝床を探して街を歩いているのだと言う良平は、とても危うくて、痛々しいように貴広には見える。ひと晩店に泊めてやった良平は、朝にはいなくなっていた。
良平に出会ってから、「あいつ」を思い出すことが増えた。好きだったのに、一線を踏みこえることができず失ったかつての恋。再び街へ繰りだした貴広は、いつもの店でまた良平と出くわしてしまい。
お楽しみいただければ幸いです。
表紙画像は、青丸さまの、
「青丸素材館」
http://aomarujp.blog.fc2.com/
からいただきました。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー
葉月
BL
オメガバース。
成瀬瑞稀《みずき》は、他の人とは違う容姿に、幼い頃からいじめられていた。
そんな瑞稀を助けてくれたのは、瑞稀の母親が住み込みで働いていたお屋敷の息子、晴人《はると》
瑞稀と晴人との出会いは、瑞稀が5歳、晴人が13歳の頃。
瑞稀は晴人に憧れと恋心をいただいていたが、女手一人、瑞稀を育てていた母親の再婚で晴人と離れ離れになってしまう。
そんな二人は運命のように再会を果たすも、再び別れが訪れ…。
お互いがお互いを想い、すれ違う二人。
二人の気持ちは一つになるのか…。一緒にいられる時間を大切にしていたが、晴人との別れの時が訪れ…。
運命の出会いと別れ、愛する人の幸せを願うがあまりにすれ違いを繰り返し、お互いを愛する気持ちが大きくなっていく。
瑞稀と晴人の出会いから、二人が愛を育み、すれ違いながらもお互いを想い合い…。
イケメン副社長秘書α×健気美人訳あり子連れ清掃派遣社員Ω
20年越しの愛を貫く、一途な純愛です。
二人の幸せを見守っていただけますと、嬉しいです。
そして皆様人気、あの人のスピンオフも書きました😊
よければあの人の幸せも見守ってやってくだい🥹❤️
また、こちらの作品は第11回BL小説大賞コンテストに応募しております。
もし少しでも興味を持っていただけましたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる