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俺は元自称婚約者な恋人に、とにかく甘えていたいらしい

27 なんだか心地いい

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 ……やってしまった。

「どれくらいで来れる?――――そう。じゃあ、一時間後に。忙しいところ申し訳ないけど、頼んだよ」

 通話を切ったスマホを、アイスティのグラスの近くに置いた。

「浩希、約束覚えてる?」
「………覚えてる………」

 …恥ずかしくて嫌だから気をつけていたのに。
 自分からしたことなんてない。
 強請ったことはあった。
 けど、けどっ。

「浩希」

 嬉しそうな声にカチンときた。
 人がこんなに悩んでるのにっ!

「……っ、俺、病人………っ」
「うん。だから早くしましょう」
「……嘉貴……って」
「なに?」
「……意地悪だ…っ」
「好きな子は苛めたくならない?」

 しれっと言い返されて、言葉を詰まらせた俺の負け。

「……目、絶対あけないでよ…っ」
「了解」

 笑いながら目を閉じる嘉貴…の肩に手を置いて、唇を近づけた。
 自分の心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしている。
 キスが嫌なわけじゃないから。
 恥ずかしいだけで。
 唇を、触れさせた。触れるだけの、キスを。
 ていうか熱があるのに、こんなことさせなくてもいいじゃないか。

「嘉貴、おわ……っ、んぅっ」

 ささやかに触れた唇を離して肩から手をどけた瞬間、俺を抱く手に強く引き寄せられて唇を塞がれていた。

「ぁ……よし……っ、……んぅ」

 すぐに舌が入り込んでくる。
 唇を閉じて侵入を防ごうとかは思わない。
 嘉貴…の舌は別の生き物のように俺の口の中を暴れまわる。
 れろ、れろ、って舌を舐められて絡まれて、吸われる。
 上顎……くすぐったい。
 くちゅ、くちゅ、って音が耳にこびりつく。
 深い…深いキスで、頭の中がぼーっとする。

「は………ん…ぅ」

 唇の隙間から洩れる自分の声にドギマギした。
 嘉貴…の背中に手をまわす。そしたら、体が傾いて…、嘉貴…の手に支えられたまま、ゆっくりとベッドに沈んだ。

「ん……ふぁ……」

 押し倒された、のか、俺?
 キスが、終わらない。
 体に感じる嘉貴…の重みが、なんだか心地いい。
 こうされることが…嫌じゃない。

「ん……よしたか……」
「浩希…」

 唇が離れて、嘉貴…が、俺を見降ろしてきた。
 その目が優しくて真剣で…、今まで感じたことのない緊張…っていうか、なんだかよくわからない体の強張りを感じていた。

「浩希……愛してる………愛してます」

 覆いかぶさってきた嘉貴…の唇が、俺の首筋に押し当てられた。





 この状況は…やばいっていうか、なんていうか。嫌じゃないけど……怖い気がする。

「ん…」

 首筋が、くすぐったい。
 嘉貴…の手が、パジャマの裾から中に入り込んできた。
 素肌に触れられるたびにゾクリゾクリと背中が震える。
 冷たくはないはずなのに、俺の体温が上がってるせいかひやりと感じた。
 無意識に腹筋に力が入る。
 手はどんどん上に上に移動して…決して柔らかくはない胸に、触れた。

「っ」

 耐えきれなくて、目を硬く閉じた。
 てのひらで触られていたときはまだ我慢ができた。
 ――――でも

「ぁっ」

 指先で突起を弄られた時、抑えることができなかった。
 体に走る電気みたいな衝撃は………触られて嫌だからじゃない。むしろ、されればされるほど、心臓の鼓動が速くなって頭の中に霞がかかる。
 体の芯は熱を孕んでいて――――快感、というやつなのかもしれない。
 このまま…どうなるんだろう………って思っていたら、不意に嘉貴…の手が離れた。それから、首筋に感じていた唇も。

「……よしたか……?」
「熱があるのにすみませんでした」

 やたらドキドキするのは熱のせいでもあるのか。
 嘉貴…は、俺の頭をなでると苦笑した。

「貴方からのキスが嬉しくて……つい、自制が効かなくなってしまいました」
「……っ」

 顔が熱い。絶対顔真っ赤になってる。

「……嘉貴…」

 それでも途中でやめるってことは…………その、俺にそんな魅力がないとか、やっぱり男だから……とか、どうしようもないことが頭の中をぐるぐるし始めた。

「よ」
「貴方の具合がよくなったら……もうやめませんからね?」
「!」
「浩希……はやく貴方を抱きたい」

 そのストレートな物言いに、落ち込んだ気分は一瞬にして沸点に達して………

「浩希?」

 嘉貴…が俺を呼ぶ声を遠くに聞きながら…意識を手放してしまった。





「――――ですか」
「構わない」
「――――なので」
「ああ、頼むよ」

 嘉貴…と、女の人の声がする。
 でも妙に曖昧で、はっきりとしない。
 なのに、嘉貴…の声だけは、はっきりと拾う俺の耳。
 そのうち、チクリと、腕に痛みを感じた。

「…あれ?」
「お気づきになりましたか?」
「………あれ?」
「熱があがりすぎて少し気を失っていたようですね。点滴も始めたので、もう少し眠っていてください」

 にっこり微笑む女性。もしかして、さっきから聞こえてた声の主?
 気を失っていた、って言うことは理解した。
 きょろきょろ見渡せば、ここは嘉貴…の家の寝室で、でも俺の腕にはテープが貼られて管が伸びている。それをたどって視線を動かすと、何やらでかいパックがついていた。
 ああ、点滴か。…点滴。人生初の点滴。
 それまでなかった、病院にあるようなスタンドも運び込まれていて、点滴はそこにぶら下がっていた。



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