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俺は元自称婚約者な恋人に、とにかく甘えていたいらしい

24 キスをしてください

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 嘉貴さんの腕の中で、昨夜から続いていた胸の痛みがひいていくのがわかる。

「好き……好きだ」

 一度出てしまった言葉は今まで言えなかった分を補うかのように、とめどなく流れ落ちる。
 きっと、熱のせいだ。
 言葉がこんなに素直に出てくるのも、今まで以上に好きだと感じるのも。

「嘉貴さん………好き………ん……」

 抱きしめられたまま、唇をふさがれた。触れるだけなのに、頭がクラクラする。
 唇が離れた後も、嘉貴さんはずっと抱きしめてくれている。

「……浩希、昨日の涙の理由を聞いてもいい?」
「…………別に………」

 なんか、今更って気がするし。

「聞かせてください」

 こめかみに、唇が降りてきた。
 くすぐったくて、きもちがいい。
 目を細める嘉貴さんの顔は案外真剣そのもので、言葉につまりながら昨日感じていたことを全部話してしまった。
 嘉貴さんは笑うでもなく怒るでもなく、神妙な顔で俺の話を聞いてから……突然俺を抱く腕に力をこめた。

「よ……」
「すみませんでした、浩希」
「え?」
「……俺は、貴方に聞くのが怖くて。貴方を婚約者として迎えに来たり、部屋を用意したり……、外側から埋めて、貴方が俺のことを好きになってくれるのを待つつもりでいたんです」
「……だって、俺、嘉貴さんからのキ、スとか、嫌がったりしなかったのに」
「婚約には否定的だったでしょう?」

 そう言われて言葉に詰まった。
 そりゃ、確かに最初は反発してたけどさ。

「それに、浩希の年頃なら、こういうことに興味があるでしょう?」
「こういうこと?」

 意味がわからなくて問い返したら、嘉貴さんにいきなりキスをされた。

「こういうことですよ」

 態度で示されて、顔が真っ赤になっていく。
 あー、うー、まあ、否定はできない。

「だから、浩希がキスを拒まないのも興味があるからとしか思っていなくて」

 ……あいた口が塞がらないというか。………なんというか。

「行為に興味があるだけで俺のことは何とも思っていなかったら…俺は立ち直れないから」

 嘉貴さんは苦笑いしてた。少し困ったような顔だ。

「……これでもね、いつもびくびくしてたんですよ」
「余裕綽綽な顔に見えたけど」
「そうやって装っていないと、貴方に愛想を尽かされそうで」
「……嘉貴さんって……結構………」
「なんとしても浩希を失いたくなかったんですよ。……好きな人には格好いいところだけ見せたいでしょう?」

 その言い草に思わず笑ってしまった。
 嘉貴さんが言うと……なんか似合わないっていうか。

「…嘉貴さんは、いつだってすごく格好いいと思うけど」
「嬉しいですね」

 額にキスをして、唇はそのまま頬に触れていく。すぐ離れるのかと思ったら、唇に、触れてきた。

「………」

 甘いキスに身をゆだねていたら、唇を舐められた。それが何の合図なのかわかってしまって、一瞬躊躇ったけど、少し、ほんの少しだけ、唇を開けた。そこから入り込んでくる舌に、どうしても体は強張ってしまうけれど。

「…………ん…っ」

 絡まってくる舌に、心地よさを感じるのと同時に、何か背中がぞくぞくする。
 嘉貴さんの舌は俺の舌先を舐めて……、なんか、促されてるような感じだった。
 だから、恐る恐る、舌を伸ばしてみる。
 口付けが深くなっていく。境界線は、どこだろう。
 俺を抱きしめていた嘉貴さんの手が、不意に俺の背中をなでた。腰から背中の真ん中くらいまでを、触れるか触れないかっていう微妙な力で。指の動きと一緒に這い上がってくる、ぞくぞくした感覚。

「あ……や、ぁ……」

 重ねている唇の間から、そんな声を漏らしてしまった。

「っ」

 居たたまれなくなって強引に唇を離して嘉貴さんの胸に顔を押し付けた。

「浩希?」

 声が楽しそうだった。
 …やばい。すごい、恥ずかしい――――

「感じた?」

 くすくす笑いながら嘉貴さんが聞いてきた。
 感じた……って、つまり、そういうことなのか!?

「べ……別にっ」
「可愛いね、浩希」
「……嘉貴さん意地悪だ……っ」
「そうだ、浩希」

 散々怒っていたのに、嘉貴さんは、普通に思い出した、って感じに声をあげた。

「なに?」
「そろそろ格上げしてもらえませんか」
「何を?」
「もう、『さん』はいらないでしょう?」
「……………あ」
「ね?浩希」

 ね?

 と言われても、そう簡単に言えるものじゃない。
 照れくさくて、難しい。

「いいじゃん、敬称ついてても……」
「他人行儀で俺が嫌なんです」
「………」

 意外と我儘だな、この人。

「言えない?」
「…………無理」

 恥ずかしいから。絶対無理。

「……仕方ありませんね」

 ため息をついた嘉貴さんは、少し考え込んでから、何やら思いついたらしい。

「こうしましょうか。俺のことを『さん』をつけて呼んだら、浩希から俺にキスをしてください」
「…なんで!?」
「『さん』をつけられるたびに俺は傷つきますから…。ね?」

 だから、『ね?』、じゃ、ねえ!!

「む、無理、絶対無理、俺からなんて……無理っ」
「じゃあ、敬称をつけないで呼んでください」

 にっこり笑う嘉貴さん…。
 どの顔で「傷つきます」とか言ってるんだよ……っ。



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