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元自称婚約者な恋人に会いたいので、初めて合鍵を使ってみました
40 風呂にはいるだけなのにそんな囁きは必要ないだろ
しおりを挟む午後は結局どこにも行くこと無くのんびりと時間がすぎた。
脱水で熱を出して減った体力もいい加減回復してきたようで、寝ていなくても問題なさそうだった。
……嘉貴が傍にいるからかなぁ……とか思ってから、恥ずかしさがこみ上げてくる。
傍にいることが嬉しいんだから、仕方がない。
髪をなでられて、時々キスをされて。
どうしてこんなに好きなんだろう。離れたくないっていう想いは増していくばかりだ。
「浩希が夏休みになったら、どこか旅行にでも行きましょうか」
嘉貴は眺めていた旅行雑誌から視線をはずさないままそう言ってきた。
「旅行?」
「ええ」
雑誌をめくるのは左手。
右手は、俺の肩を抱いていたり、髪を弄ったり……とにかく俺に触っている。
そういえばこのポジションってもうお決まりだよな…とか。
俺の左側に座る嘉貴に寄りかかるのも、もう定番。
「いいけど……海外とかはちょっとやだ」
「じゃあ、国内ならどこでもいい?」
「うん。あー、野球部の合宿とかあるかも」
多分、毎年それなりに合宿はやってるけど、具体的な話はまだ聞いていない。
「合宿はどのくらい?」
「んー……三泊くらいなはずだけど」
強制参加ではないしなぁ。
そう言うと、嘉貴は何故か口元に手をあてて、考え込んでしまった。
「あ、や、でも、嘉貴と旅行に行くくらい、全然平気だし…」
「困りましたね」
「何が?」
「……合宿の場所に……というより、泊まる場所に、かな」
嘉貴が何を言いたいのかさっぱりわからなくて、じっと嘉貴を見ていた。
「個室じゃないのは……仕方ないとして。浩希、できるだけ大浴場は避けてほしいな」
「なんで?」
部活の合宿なんだから個人部屋…ってわけはないだろうし、部屋に風呂がついてるとも思えない。
なんでそんなことをそんなまじめな顔で言うんだろう…と思っていたら、嘉貴の右手が俺を引き寄せてきた。
それから俺の耳元で、嘉貴が唇を動かす。
「俺以外の前でこの綺麗な肌をさらすんですか?」
「っ」
息がかかるくすぐったさと言われたことの内容に、一気に体中が熱くなった。
跳ね上がった心臓が苦しい。
「だ………って……」
「俺だけに許された体なのに?」
「っぁ」
声が、耳にまとわりつく。
言い方がエロいんですがっ。
「ねぇ……浩希?」
嘉貴の手が激しく打ち続ける心臓の上に触れてくる。俺の鼓動を面白がっているかのように、そこからじっとしていて離れない。
「……だって………仲間だし…、男同士だし……」
「だったら」
口元のニヤリとした笑みに、何かよからぬ予感がした。
「これから一緒にお風呂に入りましょうか」
え、とか、なんで、とか。
そんなことを言う前に軽々抱きあげられた。
「少し早いですけど……ゆっくり入れるし」
嘉貴の中では決定事項らしい。
俺はあまりの展開についていけない。
早い……って何時だろ。
ちらりと見た時計は、まだ三時にもなっていなかった。
「ちょ…嘉貴っ」
「却下はなしですよ」
嬉しそうに楽しそうに笑う嘉貴は、俺の抗議は聞くつもりはないらしい。
器用に風呂場のドアを開けて脱衣所に入ってしまった。
……ああ、やばい。
心臓がバクバクしっぱなしだ。
なんで、こんなことになったんだ!?
嘉貴はゆっくり俺を降ろした。ドアは嘉貴が背中にしてるから、逃げ出すこともできない。
「浩希」
顎をつかまれて上向かされて…そのまま口付けられる。
キスは気持ちがいい。悔しくなるくらい。そして夏物は基本脱ぎやすい。
唇が重なったまま、ズボンが下着ごと下されて、唐突に昨夜のことを思い出してしまって羞恥心が強くなる。
嘉貴の手が、腰のあたりから背中をさすりあげる。
「っ、あ」
そのゾクゾクする触り方に思わず唇を離した瞬間、Tシャツもあっさりと脱がされた。
抵抗しない俺も俺だけど。
本気で「嫌だ」って思ってないから、抵抗しないのは当たり前かも。恥ずかしさとはまた別物だ。うん。
嘉貴は足元に落ちた俺の衣服を、全部洗濯のカゴにいれてから、もう一度キスをしてくる。
目は硬く閉じた。
体が震えてしまう。どうして立っていられるのか不思議なほど、足もがくがくする。
布を落とす音がしたと思ったら、ぐいっと肩を引かれて抱き寄せられた。
「っ」
肌に触れるのは、嘉貴の素肌で。……これから風呂に入るんだから、当たり前……なんだけど。
目を開けられない。動けない。どうしようどうしよう。
「行きましょうか」
唇を離した嘉貴は、また俺を抱き上げた。
驚いて目を開けた俺を、随分と優しい目で嘉貴が見る。
「浩希、愛しています」
風呂にはいるだけなのにそんな囁きは必要ないだろっ
そんな悪態は口には出せない。
どうしよう。
そればっかりがぐるぐるしてる。
嘉貴は俺を抱き上げたまま……浴室の中に入った。
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