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降って湧いた自称婚約者と、初めて食事(デート)に行きました
2 それはあくまでも本人同士が納得していて成り立つこと
しおりを挟む…頭が痛くなってきた。
「…婚約者って…なんで……」
俺まだ大学生で、……って、いやいや、そういうことじゃなしに!!
「こーちゃん、覚えてないの?ほら、おと」
「百合恵さん」
何か言おうとした母さんを、フジオカヨシタカさんなる好青年はやんわりと遮った。
「覚えてないのって」
「いいの。気にしないで頂戴。それよりこーちゃん、結婚式いつにしましょうか!」
「……か、母さん………」
なにか、なんなのか。
俺は借金のかたにこいつに身売りされてしまうっていうことなのか!?
「……なんでいきなり俺の婚約者って……」
「いきなりじゃないですよ」
「なんで」
「永祐さんと百合恵さんからは、もう以前から承認を頂いています」
「は!?」
フジオカさんは懐から茶色の封筒を取り出した。
その中身を取り出して、丁寧に俺に見せてくれる。
「ほら、ここに永祐さんと百合恵さんのサインがあるでしょう?」
「…………………」
絶句した。
当然日本語で書かれているその書類は「誓約書」となっていて、確かに俺が二十歳の誕生日にこいつと結婚するって内容だった。フジオカさんの名前――――『藤岡嘉貴』って、しっかり書かれているし。
だけど、それが書かれた日付に、さらに目を奪われる。
「…………これ、俺が四歳とかのころ……」
「よかったわねぇ、こーちゃん!ちっちゃいときに決まってた許嫁がこんなに素敵な人で!」
…母さんの声が黄色い。
大体、あれだ。
同性同士の結婚が公に認められている今は、確かに俺のまわりにだってそういう友人はいないわけではない。まあ、公に認められたと言っても、目に見えて増えたわけでもなくて、やっぱりまだ違和感はある。
それで人を否定したりとか、そんな偏見は持ち合わせていない。誰が誰を好きになって付き合おうが結婚しようが、それは本人同士が決めることで、本人同士が納得してればそれでいいと思う。
…けど、それはあくまでも本人同士が納得しているから成り立つことであって、なんだってこんないきなり、俺にとっては初めて会う人を「婚約者」として受け入れなければならないのか。
「……あんたは借金取りじゃないわけ?」
「はい?」
俺の口から出た単語に、藤岡さんは少し驚いたような顔をしてから、何かを納得したように笑ってうなずいた。
「違いますよ」
「表の」
「ああ。必要ないって言ったんですが、何かあっては困るからと、無理やりつけられたんです」
「……」
ただの民家に来るだけで『何かあっては困る』であの数人の黒スーツ黒サングラスの男たち――――つまりボディガードがついてくる藤岡さんって一体。
「とりあえず、藤岡さん」
「嘉貴でいいですよ」
「……嘉貴さん」
「さんもいりません。呼び捨てにしてください、浩希」
「…………嘉貴さんは、俺に恋人ができたりとか、そんなこと考えなかったわけですか」
「そんなかしこまらなくていいんですけど…」
好青年は苦笑する姿も絵になるなっ。
「それは、ここを」
嘉貴さんは、さっきの誓約書の後半部分を指差した。
そこには、要するに俺が二十歳になるまでに将来を誓った恋人ができた場合は、この話は破談にすると言った内容が書かれていた。
「二十歳までまだ時間あるけど」
「じゃあ、その予定は?」
「う゛」
痛いところをつくなっ!!
「こーちゃん、大丈夫よ。今までお付き合いした方なんていないんだし、こーちゃんは藤岡さんと結婚するのが一番幸せになれるのよ」
「じゃあ問題ないね、浩希」
目を細めて微笑まれる。
…格好いいのは認める。絶対こいつはもてる。
「…俺、大学生……」
「あら。婚約なら今からでもできるし、未成年ではないんだからもう結婚できるじゃない。よかったわね!」
「……母さん……」
ため息しかでてこない。
母さんはもうその気で、結婚式には何を着ようかとか、どこでやろうかとか、そんなことを口走る。
俺はまだ結婚なんてするつもりもないし、そもそも、この人と婚約するつもりもない。それをわかってもらわないと。いくら幼少のころからの約束と言ったって、本人の意思がそこにないなら、それをわかってもらうしかないんだ。
「あのですね、嘉貴さん」
「浩希、これから夕食でもご一緒しませんか?」
「は?」
「夕食に連れ出してもいいでしょうか、百合恵さん」
「ええ!婚約者同士ですもの。色々話すこともあるでしょう?」
「ちょ」
「じゃあ浩希、行くよ」
「だからっ」
「いってらっしゃい~」
ソファから立ち上がった嘉貴さんに、手をつかまれて引っ張られた。
そしてそのまま玄関にむかって(俺はちゃんと抵抗した!)、靴を履かされて(履かないと抵抗したら抱き上げますよ?と笑顔で脅された)、例のむさい花道を通って(視線が刺さる…)、恭しく頭を下げてる男の人が開けた車(当然黒塗りの高級車?だ!)の後部座席に俺は乗せられた(押し込まれたとも言う)。
小学生のときから毎日筋トレしてる俺には、それなりに筋肉がついていると思う。ついているはず。なのに、俺の抵抗は嘉貴さんには一切通用しなかった。
もうこれって拉致と変わらないのでは。
「あのっ」
抗議の声も受け入れられない。
結局俺は座り心地のいいシートに体を沈めて、従うしかなかった。
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