秘めた思いと繋がり

しぎょく

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一時帰国

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 空の旅は、日本に来る時よりもずっと快適だと思ってしまった。
 クラスが違うだけでここまで違うのだと感じながら、飛行機はイギリスに着いた。
 空港のロビーに迎が来ていると出発前に電話をしたときに伯父が言っていたけれど、誰が迎えに来てくれているのだろうと思いながら、荷物を持ってパスポートに入国のスタンプを押してもらい、その後、ロビーに向かった。

 「リュッセル坊ちゃま。お帰りなさいませ。長旅でお疲れでしょう。すぐに車を前に着けて参りますので、こちらで少しお待ちくださいませ」

 僕を迎に来てくれたのは伯父の秘書をしているグレイスだった。
 わざわざ車を回さなくてもいいのにと思いながら、昔から何を言っても僕の言う事はほとんど聞かない人物なので、言うだけ無駄なので、戻ってくるのを大人しく椅子に座って待つことにした。
 待っている時間を利用して、鞄の中から教科書を取り出して、見ていた。
 ただでさえ、一ヶ月も休んでいて僕一人授業が遅れているのに、これ以上遅れを取りたくない。少しでも遅れを取り戻すため時間がある限り、日本に戻るまで勉強するつもりでいるけれど、グレイスが迎えに来ている時点で、出来ない気がする。

 「お待たせいたしました坊ちゃま。こちらへどうぞ」

 荷物をグレイスに渡し、空港の入り口前に止めている白いロールスロイスに乗った。
 車はゆっくり空港を離れ、郊外へと出て行った。

 「この方向、家じゃないよね、グレイス」

 「申し訳ありません。クリス様がお屋敷ではなく、本社のほうに連れてくるように申し付かりましたので、そちらに案内させていただきます」

 クリスというのは伯父の名前。正確にはクリストファーなのだけど、そう呼ばれるのが嫌ならしく、全ての人にそう呼ばせている。

 「坊ちゃま、お体は大丈夫でしょうか?何かありましたらすぐにいい付けくださいませ。坊ちゃまの身に何かありますと旦那様に示しが付きません」

 グレイスは伯父の秘書をしているだけではなく、家で僕たちに身の回りの世話をしてくれる執事もしている。
 イギリスにやって来たときから僕の世話をしてくれているので、誰よりも心配してくれていて、それがたまに傷だと思うこともある。
 だから、日本で倒れたなど口を割っても言えない。言ってしまえば絶対に日本に来るといわれそうだ。

 「グレイス。いつも言っているけれど、坊ちゃまは止めてよ」

 「私も何度も申していますが、それは無理です。私にとっても坊ちゃまはいつまでも坊ちゃまなのです」

 十七になって、坊ちゃまと呼ばれるのは恥ずかしい。
 何度も止めるように言っているけれど、絶対に止めてくれない。
 一体いつになれば止めてくれるのだろう。

 「ねぇグレイス。今母さんは何処にいるの?」

 伯父も母もいつも仕事が忙しい人で、迎に来てくれるとは思っていはいないけれど、今何処にいるのかは子どもとして知りたい。

 「マリファ様なら、重要な取引があるとかでフランスに行っております。明後日帰って来られると伺っていますが?」

 「そう、やっぱり忙しいんだね・・・・」

 父と離婚してから母は仕事に生きている。その為、何でも仕事が優先かと思うかも知れないけれど、大抵僕を優先してくれていた。
 体の事もあるからかも知れないけれど、学校などで保護者が必要なときは絶対といっていいほど仕事を休んで参加してくれていたけれど、親元を離れてしまった僕にその必要がほとんどなくなった為、その分仕事に行ったのだと僕は思った。

 「日本の学校は楽しいですか?ご学友からいじめられてはいらっしゃいませんか?」

 「すごく楽しいよ。友達も出来たよ。あと、ミスター志気にも再会した」

 「ミスター志気と申されますと、見境グループの社長様のご子息さまですよね。二年間に坊ちゃまがお世話になったあのお方」

 いらない事までよく覚えていた。

 「そう、そのミスター志気だよ。僕がいる寮の副寮長をしていたの」

 「そうでしたか。お元気でございましたか?」

 「伯父さんから聞かなかった?多分この間伯父さんからかかってきた電話、ミスター志気が出たと思うけど?」

 僕の想像では伯父さんから掛かってきた電話を取った寮管さんが、英語がまったく分からず、近くを通ったであろう志気君にバトンタッチしたのだと思える。
 僕が会った時志気君は日本語を話していたけれど、僕ほどではないらしいがそれなりに話すことができると言っていた。

 「さぁ、坊ちゃま着きましたよ。私は車を地下に置いてまいりますので、先に社長室まで行っていてもよろしいでしょうか?」

 空港から車で二十分ほど走らせたところに、伯父の運営する会社が建っている。
 何階まであるのか分からないほど高いビルで、最上階に社長室がある。
 車から降りて、ビルの中に入り、ごく一部の社員しか使う事の出来ない社長専用エレベーターを乗って、最上階まで一気に上がった。
 社長室はセキュリティーが厳重に掛けられていて、ドアの隣にある電話を使って秘書に中から鍵を開けてもらうか、特定の鍵を使って中に入るしか方法がない。
 鞄の中から、肌身離さず持っているように言われ渡されているカードキーを取り出し、カードキーを通してから暗証番号を押してセキュリティーの解除をして中に入った。

 「クリス伯父さん、ただいま到着しました」

 「お帰りリュセ。せっかくずっと行きたがっていた日本に行く事ができたと言うのに、いきなり呼び出してすまなかったな。長時間飛行機に乗っていて体は大丈夫か?」

 部屋の中に入るなり伯父が抱きついてきた。
 机の上にいくつも書類の束があるので仕事をしていたのだろうけど、あまり減っていない様子だ。僕が無事日本からイギリスに着くのかを心配していて仕事が手付かず状態だったのかも知れない。

 「体は大丈夫です。なんともありません。それより、わざわざ僕をここに呼び出した理由って何ですか?大切な用だと電話で言っていましたが・・・・」

 「まぁ、その話はこの書類を片付けてからゆっくりと話すつもりだから、とりあえずはここに座って待っていてくれないか?」

 応接用に置かれているソファーに座らせられ、とりあえず伯父の仕事が終わるまで、勉強をしながら待つことにした。

 「学校のお勉強でございますか坊ちゃま。とてもご立派でございます」

 車を置いて戻ってきたグレイスは、淹れ立ての紅茶を僕の前に置いてくれた。

 「ありがとうグレイス。丁度グレイスが淹れた紅茶が飲みたいと思っていたんだ」

 グレイスが淹れる紅茶は誰が淹れる紅茶よりもずっと美味しい。
 茶葉の質にも徹底的にこだわり、自分が良いと思う厳選された茶葉しか使わないが、何よりも、飲む側の好みに合わせて紅茶を淹れてくれるので、余計に美味しく思う。
 ちなみに僕の好みは、少し薄めで、ぬるい紅茶が好きだったりする。

 「リュセ、勉強している所すまないが、この書類に目を通していてもらえないか?」

 渡された一枚の書類。
 何かの企画書らしいが、僕の意見を聞いて、採用するか考えるらしい。
 これも後を継ぐための仕事なので、しっかり見て考えていわなければならない。

 「グレイス、お茶のおかわり頂戴」

 「かしこまりました。今から淹れますので少々お待ちくださいませ坊ちゃま」

 赤いペンを取り出して、書類に目を通した。
 企画事態は良いと思うけれど、書かれている内容がいまいち伝わってこない。
 こういう事を書いてほしいのに、書かれていなくて、どうでもいい内容をびっしり書かれていたりする。
 赤ペンで修正する箇所にチェックをいれ、もう一度この企画のまま、内容をもっと詳しく書かれたやつを提出してほしいと思い、この書類を伯父に渡し、僕の意見を言うと、伯父は納得したかのように、この企画書を書いた人物に再び提出するようにという通達書をグレイスに持って行かせるように言った。

 「お前に任せて正解だな。見るところをしっかりと見ている。これなら、任せても大丈夫だな」

 「何がですか?」

 「これをお前に任せようと思って、わざわざお前を日本から呼び戻したんだ。後でこの書類が片付いたら、詳しい説明をするから目を通しておいてくれないか?」

 引き出しの中から一冊のファイルを取り出し、渡された。
 中をパラパラと目を通してみると、既に処理を済まされ、実行されている企画書や、計画書、報告書だった。
 ソファーに戻りよくその内容を読んでみると、なんと、日本に支社を置くというものだった。
 まだ、支社を任せる最高責任者が決まっていないみたいだが、何人もの人材が本社から出され、尚、日本でも社員の募集を開始していて、最高責任者が決まり次第、面接をするらしい。
 でも、どうしてこんな企画書を伯父さんは僕に見せたのだろう。
 イギリス国内だけではなく、他の国にも支社があるけれど、日本に進出することなど、聞いたことがなかったし、するつもりもないと聞かされていた。
 それに、この企画書、実行されたのはここ数ヶ月らしいが、企画書が出されたのはここ、一・二年という感じだった。
 普通なら、企画者の名前を書いているはずなのに、匿名になっている。
 おかしい、匿名なんてありえないはずなのに、伯父は何を考えているのだろう。

 「すまない待たせてしまったな。お腹すいてないか?何処かに食事でも行かないか?」

 こっちに着いてからまだ何も食べていないので、お腹は空いていた。
 ご飯を食べながら、ゆっくり、この渡されたファイルの中の事を説明してもらう事になり、グレイスに車を出してもらった。
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