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ギィンッ! ッキィン!

硬質な金属を打ち付け合う鋭い音が、太い梁を巡らせた天井に響く。

ジャリィィ…ン!

「ぅくっ…!」

わき腹を狙って思い切り突き出したはずの私の一撃は木の葉のように受け流され、身体が前のめりに傾く。

…来るっ!

ズザァッ…!!

無理やり片足を踏ん張ると、石畳の床に靴の裏が派手に擦り付けられる。
私は反射的にがら空きになった身体の前に、返す刀をなんとか繰り出す。

ガキィッンッ!…

読み通りの追撃を受け止めた。

2本の刀身がガリガリと音を立てながら、だんだん私の方へ近付いてくる。

くっ、重い…っ!

このままでは競り負けてしまう。
私は床を蹴り、身体一つ分の間合いを取って彼の背後へ素早くまわりこむ。
彼はこちらを追えていない。

ここだ!

迷うことなく踏み込む。
お腹に力を入れ、一気に息を吐きながら渾身の力で背中を薙ぎ払った。

キィ……ィッン!

こちらを見ることもなく、ゆっくり身体を向けた彼の無造作な一閃。

「ぅあ…っ」

私の斬撃は彼の背中ではなく、いつの間にか振り下ろされた剣が受けている。
次の瞬間、弾き返された刃からは全身を押し返すような衝撃が伝わってきた。
私はバランスを崩しながら、何歩も下がってなんとか転倒を免れる。

ドンッ

背中が硬い石の壁にぶつかる。
手の感覚を確かめるように柄を握り直してみても、両手が痺れていて力が入らない。

…ぽたり、ぱたっ

幾筋もの汗がこめかみをつたい、顎から床へ滴り落ちていく。

…剣を合わせてどれくらい経ったのだろう。

背中を壁に預け、肩を上下させてぜえぜえと息を吐く私は正直、立っているのがやっとになってきている。
一方、闘志を燃やすでもなく、なんとも言えない複雑な表情で静かにこちらを見遣るアーサーは、最初に立っていた場所からほとんど動かず、息ひとつ乱れていない。

ダメだ…せめて一太刀くらい、浴びせられるかと思ったのに…

歴戦の騎士たちをして人外と言わしめる彼と、私の実力差は…あまりにも大きかった。

カラァンッ…

「…!!アーサー!?」

突然彼は、自分の剣を床に放り投げる。

「…もう止めよう。

…なんだか見てられない。」

「っな、なんで!?相手にならないって言いたいの!?」

食い下がる私に、アーサーは眉根を悲しげに寄せて静かに首を振る。

「…たしかに今日は隙だらけで攻撃も単調だ。勢いに任せて相手に突っ込んで、周りが見えていない。
でも過信や怒りで我を忘れてるっていうより、まるで自分のことなんてどうだっていい、っていう立ち回り…だったかな。」

つと冷や汗が流れた気がした。
この天性の戦上手は、今の一戦でなにを感じ取ったのか。

「イヴ。…本当に剣の稽古がしたかったのか?」

「…っ。」

一番鋭い一撃が刺さった気がした。
呼吸が浅くなり、視界が狭まる。

「さっきも様子がおかしかった。何かあったのか?」

ドクン、ドクン…

心臓の音が耳鳴りのように聴覚を支配していく。

わたし…ついカッとなって思わず稽古に誘ってしまった…
何が、あったかって言われると…

さっき倉庫で相談したら、私がアーサーに恋してるって言われて、絶対そんな風に見られたくないって思った。
アーサーは獣人だから、番じゃない人から好きになられても迷惑だし、それに私なんかが彼を好きだと分かったら…

答えを求めて頭の中を散らかしていく。

ワタシナンカガ…

ふと頭の奥底にしまってあった古い記憶を見つけてしまった。
何重にも鍵をかけて、ずっと埃をかぶったままだったはずの蓋は簡単に開き、一瞬のうちに過去の映像が網膜によみがえる。

待って…こんな時に思い出すようなことじゃ…



天使が描かれた高い天井から、虹の滴を集めたような眩いシャンデリアの光が降り注ぐ。

さざめくような声とワイングラスの触れ合う音、心を浮き立たせるような優雅な管弦楽の調べに乗って、美しく装った人々が宴に興じている。

その隙間。

人目を忍ぶように、ハンカチを握りしめて壁際で俯いている少女が見える。

まだ、騎士団に入る前の自分だ。
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