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非日常の訪れ
第十一話 男の子ってどうして戦いとかに積極的なの?
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「とりあえず、ここにずっといるのはまずいからさ。逃げよう」
「逃げるったって、どこに?」
正影の言う通りで、いきなりそう言われても困ってしまう。
「人混みの中に逃げるのもいいけど……もし仮にそこで襲われたら、周りがパニックになっちまうから、できるだけ人目のつかない場所に逃げるんだ」
「まさか……山とか?」
「その通り!」
問う正影にぱちんと指を鳴らして鳳凰は笑う。この状況で笑えるのがすごいと思うのだが、それは言わないでおこうと日和は口を噤む。
「とりあえず行こう」
「う、うん……」
鳳凰に促され日和の部屋を出て、とにかく歩いた。歩いて歩いて、街外れの山の麓まで来た時、正影が「ちょっと待て」と声を上げた。
「こ、こんなんでいいのか? というか、ただ歩いてるだけじゃないか」
「移動するんだよ。同じ場所にいたら三珠の痕跡を辿ってそれこそ襲われちまう」
「痕跡って……」
ぼやく正影に日和も同情する。説明をしてもらった後でも分からないことばかりだ。
「疲れた……」
「休憩する? どっか休めそうなとこないかな」
そう言って、鳳凰は辺りを見回す。こんなところに休める場所などあるだろうか。「あっ」と声を上げた鳳凰の視線の先にあったのは、ボロボロの倉庫のような建物だった。まさかとは思うが、あそこで休もうなどと言い出さないだろうか。いや、絶対に言うだろう、この流れだと。
「あそこいいんじゃね?」
「本気で言ってるのか」
「ひ、人のものかもしれないよ?」
「大丈夫大丈夫!」
何が大丈夫なのかは分からないが、鳳凰は軽い足取りでそちらへと歩いていく。狷も無言で鳳凰に続くので、日和と正影が顔を見合わせてため息をついた。渋々二人の後を追う中、鳳凰は倉庫の中に入れることを確認して皆を手招く。
「大丈夫そうだぜ!」
「……絶対汚い」
「そうだね……」
そう言った時だった。彼は突然やってきた。
「おい! やっと見つけたぜ!」
「!!」
その声に驚いて振り返ると、一人の少年がそこにいた。白い髪に一房赤い毛の混じった少年は、こちらへ敵意を剥き出しにして立っている。
「てめぇら前はすぐに逃げやがって! 今日は逃さねぇからな!」
「前……? どちら様?」
「ふざけんな! ぜってー覚えてるだろその反応!」
かくりと首を傾げる鳳凰に、少年は喚き立てた。
「冗談冗談……って、そんなこと言ってる場合じゃないか」
「あ、あの人ってもしかして……」
「……三珠を狙う者だ」
対峙している少年が、三珠を狙う者。こんな自分達と年も変わらなさそうな少年まで、三珠を狙っているのか。
「大人しく三珠を渡せよ! ついでに鈴もな!」
「……鈴?」
その言葉に引っ掛かった時、少年がこちらへと駆け出した。その手にきらりと光る何かが見える。……刃物だ。それを見た日和はさっと血の気が引くのを感じて、思わず身を縮こませた。少年は動けないでいる日和と正影へ一直線に走る。刃物を振りかざした時——鳳凰が日和達の前に出て、庇うように腕を組んだ。するとどうだろう、見えない壁に当たったように振り下ろされた刃物が弾かれ、少年は舌打ちをして飛び退った。これも、魔法だろうか。
「くそ、厄介だな……」
「厄介なのはそっちの方だろ!」
吼えた鳳凰も、少年に対して手をかざした。その手から放たれたのはあの時見た青白い電撃だ。それはしゅるしゅると少年へ向かって飛んだが、少年はひらりと軽い身のこなしで避けて鼻で笑った。
「そんなんじゃやられねぇよ!」
「分かってるっつの……別にお前をやっつけようとなんかしてねぇ!」
鳳凰の言葉に日和ははっとした。彼は、鳳凰は、相手を傷付けることを躊躇っている。あの時——日和が襲われていた時は危ない状況だった為に、止むを得ず相手を攻撃していたのだろう。そう、彼らの目的は襲ってくる相手を倒すことではない。単に退けるために魔法を使って戦っているのだ。
「甘いんだよお前ら!」
一方、少年の方はそれこそ殺気を纏って襲いかかってくる。この差はなんなのだろうか。何故かずきりと胸が痛んで——日和は気がつくと鳳凰と少年の間に割って入っていた。
「!?」
「やめて……っ!」
「逃げるったって、どこに?」
正影の言う通りで、いきなりそう言われても困ってしまう。
「人混みの中に逃げるのもいいけど……もし仮にそこで襲われたら、周りがパニックになっちまうから、できるだけ人目のつかない場所に逃げるんだ」
「まさか……山とか?」
「その通り!」
問う正影にぱちんと指を鳴らして鳳凰は笑う。この状況で笑えるのがすごいと思うのだが、それは言わないでおこうと日和は口を噤む。
「とりあえず行こう」
「う、うん……」
鳳凰に促され日和の部屋を出て、とにかく歩いた。歩いて歩いて、街外れの山の麓まで来た時、正影が「ちょっと待て」と声を上げた。
「こ、こんなんでいいのか? というか、ただ歩いてるだけじゃないか」
「移動するんだよ。同じ場所にいたら三珠の痕跡を辿ってそれこそ襲われちまう」
「痕跡って……」
ぼやく正影に日和も同情する。説明をしてもらった後でも分からないことばかりだ。
「疲れた……」
「休憩する? どっか休めそうなとこないかな」
そう言って、鳳凰は辺りを見回す。こんなところに休める場所などあるだろうか。「あっ」と声を上げた鳳凰の視線の先にあったのは、ボロボロの倉庫のような建物だった。まさかとは思うが、あそこで休もうなどと言い出さないだろうか。いや、絶対に言うだろう、この流れだと。
「あそこいいんじゃね?」
「本気で言ってるのか」
「ひ、人のものかもしれないよ?」
「大丈夫大丈夫!」
何が大丈夫なのかは分からないが、鳳凰は軽い足取りでそちらへと歩いていく。狷も無言で鳳凰に続くので、日和と正影が顔を見合わせてため息をついた。渋々二人の後を追う中、鳳凰は倉庫の中に入れることを確認して皆を手招く。
「大丈夫そうだぜ!」
「……絶対汚い」
「そうだね……」
そう言った時だった。彼は突然やってきた。
「おい! やっと見つけたぜ!」
「!!」
その声に驚いて振り返ると、一人の少年がそこにいた。白い髪に一房赤い毛の混じった少年は、こちらへ敵意を剥き出しにして立っている。
「てめぇら前はすぐに逃げやがって! 今日は逃さねぇからな!」
「前……? どちら様?」
「ふざけんな! ぜってー覚えてるだろその反応!」
かくりと首を傾げる鳳凰に、少年は喚き立てた。
「冗談冗談……って、そんなこと言ってる場合じゃないか」
「あ、あの人ってもしかして……」
「……三珠を狙う者だ」
対峙している少年が、三珠を狙う者。こんな自分達と年も変わらなさそうな少年まで、三珠を狙っているのか。
「大人しく三珠を渡せよ! ついでに鈴もな!」
「……鈴?」
その言葉に引っ掛かった時、少年がこちらへと駆け出した。その手にきらりと光る何かが見える。……刃物だ。それを見た日和はさっと血の気が引くのを感じて、思わず身を縮こませた。少年は動けないでいる日和と正影へ一直線に走る。刃物を振りかざした時——鳳凰が日和達の前に出て、庇うように腕を組んだ。するとどうだろう、見えない壁に当たったように振り下ろされた刃物が弾かれ、少年は舌打ちをして飛び退った。これも、魔法だろうか。
「くそ、厄介だな……」
「厄介なのはそっちの方だろ!」
吼えた鳳凰も、少年に対して手をかざした。その手から放たれたのはあの時見た青白い電撃だ。それはしゅるしゅると少年へ向かって飛んだが、少年はひらりと軽い身のこなしで避けて鼻で笑った。
「そんなんじゃやられねぇよ!」
「分かってるっつの……別にお前をやっつけようとなんかしてねぇ!」
鳳凰の言葉に日和ははっとした。彼は、鳳凰は、相手を傷付けることを躊躇っている。あの時——日和が襲われていた時は危ない状況だった為に、止むを得ず相手を攻撃していたのだろう。そう、彼らの目的は襲ってくる相手を倒すことではない。単に退けるために魔法を使って戦っているのだ。
「甘いんだよお前ら!」
一方、少年の方はそれこそ殺気を纏って襲いかかってくる。この差はなんなのだろうか。何故かずきりと胸が痛んで——日和は気がつくと鳳凰と少年の間に割って入っていた。
「!?」
「やめて……っ!」
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