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出会ってしまった

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小さなノアに歩幅を合わせて無言で歩いていると、前から声をかけられる。

「防衛総隊の新人でスーツを着てきたのはキミが初めてだよ」
「えっ?」
「案内書には正装で、とは書いてなかったでしょ。まあ、真面目でいいことだよ」

 そう言ったノアは、一室の前でぴたりと足を止めた。

「ここが詰所つめしょだから覚えていてね。このビルは広いから迷わないように。まあ一度はみんな迷うけど」
「詰所もビルの中にあるんですね」
「詰所というか……楽屋というか……まあどっちでもいいや」

 ぼそぼそと呟くノアの言葉を拾い上げるほど、ルイには余裕がなかった。ノアは部屋のドアをノックして部屋の中を覗き込んだ。——瞬間だった。
 彼は飛びついてきた何かに見事押し倒され、廊下にびたんと叩きつけられた。

「うぐっ」
「うわあ!? 大丈夫ですか立花さん!」
「ノアちゃんおっそいー! ねえ仕事は? てかあたしの相方まだ? 超退屈なんですけど」
「うん、連れてきたからのいて、痛い……」
「マジ? いえーいこれで仕事できんじゃんサイコー」

 ノアに飛びついた何か——水色の髪の少女は、嬉しそうに声を弾ませて彼から離れる。そしてルイを見てきょとん。かと思いきや、きらきらと蜂蜜色の瞳を輝かせてルイに駆け寄った。
 短いスカートから覗く細い足に、ボタンの開いたシャツ。ベストを着ているにしても目のやり場に困って、ルイは思わずそっぽを向く。

「ねーねーおにーさんがあたしの相方? やっばー超インテリ系な見た目してんじゃん、頭いいの? どこ卒?」
「あーいや別に頭いいとかそんなんじゃないからうん、とりあえず立花さんほったらかしにしちゃ駄目なんじゃない?」
「えーあたしノアちゃんよりおにーさんの方が気になるー」
「……あのさあ、ボクこれでも副隊長なんだけど……キミらのトップに立ってるんだけど……」
「とか言ってー、マスコットみたいなもんじゃーん」

 少女はけらけらと笑いながら起き上がったノアの頭に手を置いた。少女は明らかに上層部の人間ではなさそうだ。しかし、副隊長だと告げたノアに対し、なんともフレンドリーに接している。
ノアのことをマスコットと言ってのけた少女は、彼の頭から手を離すと首を傾げる。

「で、この人があたしの相方なんだよね?」
「ん、そうだよ。ひとまず詰所に入ろうか、ここ人が通るからね」
「はーい」

 ノアに促されて、少女は素直に詰所に戻っていく。その後について詰所に入ると、そこには彼女以外の人影は見当たらなかった。

「はい、じゃあ改めてお互い自己紹介しようね。ルイ君から」
「あ、俺ですか。えっと……初瀬川ルイです、よろしく?」
「地味ー」
「えっ」

 ルイはちゃんと自己紹介したつもりだった。しかし少女にそう言われて、口籠る。
 少女はくすくすとおかしそうに笑って口元に手を当てた。彼女の笑みはルイを小馬鹿にしているようなものだった。

「はい、次ルキアね」
「はいはい。みなみルキア、十六歳。種族は人間とエルフのハーフで、特技は色々。エミから直接相談受けてイグニスに入ることにしたんだけど、先に呼ばれて超退屈してたんだよねー」
「え? エミって……総司令官の?」
「うん、そう」
「ルキアは今回の選考の首席なんだ。今の防衛総隊の主戦力になるほどの逸材だよ」

 ノアからの説明と少女——ルキアの言葉に、ルイは開いた口が塞がらなかった。
 エミといえば、言わずもがな世界に名の知れた人物だ。そんな人から直接相談を受けるほど、少女は優秀な人材だったのだ。

「それでさ、ルイってどんなことができんの? ウイルスと対等にやりあえる?」
「……え」
「キミの長所だよ。それがあったからキミを防衛総隊に選んだんだけど……」
「あ……っ」

 ルキアとノアに問い詰められ、ルイはごくりと唾を飲み込んだ。かたや選考首席の高校生、かたや防衛総隊の副隊長。そんな二人の前で唯一の長所を言うことに、ルイは緊張していた。
 すぐに説明できないままのルイがぱくぱくと口を動かしていると、ルキアが不満そうに腕を組んで彼に詰め寄る。

「何? もしかして嘘っぱちでここに来たとかじゃないよね?」
「いや、違う違う! ただ、その、首席の君の前で言うのが恥ずかしいというか……」

 しどろもどろなルイに、ルキアはどんどん距離を詰める。パーソナルスペースなどお構いなしなその行動に、ルイは更に戸惑った。

「わ、笑わない?」
「多分。つか一緒に仕事すんのに隠せないっしょ。もったいぶんないで早く言ってよね」
「すいません……」

 高校生に平謝りする青年の姿は、どこか滑稽こっけいにも見える。覚悟を決めたルイは、一度深呼吸をして神妙な面持ちで二人を見つめた。

「俺は……どんな状況でも姿を隠すことができるステルス能力があるます」
「…………」
「…………」

 盛大に噛んだルイの言葉に、二人は固まった。ルイも固まった。しばらくの間、沈黙が部屋を支配する。
 しばらく経った時、ルキアがあからさまに肩をすくめて口を開いた。
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