4 / 7
出会ってしまった
しおりを挟む
小さなノアに歩幅を合わせて無言で歩いていると、前から声をかけられる。
「防衛総隊の新人でスーツを着てきたのはキミが初めてだよ」
「えっ?」
「案内書には正装で、とは書いてなかったでしょ。まあ、真面目でいいことだよ」
そう言ったノアは、一室の前でぴたりと足を止めた。
「ここが詰所だから覚えていてね。このビルは広いから迷わないように。まあ一度はみんな迷うけど」
「詰所もビルの中にあるんですね」
「詰所というか……楽屋というか……まあどっちでもいいや」
ぼそぼそと呟くノアの言葉を拾い上げるほど、ルイには余裕がなかった。ノアは部屋のドアをノックして部屋の中を覗き込んだ。——瞬間だった。
彼は飛びついてきた何かに見事押し倒され、廊下にびたんと叩きつけられた。
「うぐっ」
「うわあ!? 大丈夫ですか立花さん!」
「ノアちゃんおっそいー! ねえ仕事は? てかあたしの相方まだ? 超退屈なんですけど」
「うん、連れてきたからのいて、痛い……」
「マジ? いえーいこれで仕事できんじゃんサイコー」
ノアに飛びついた何か——水色の髪の少女は、嬉しそうに声を弾ませて彼から離れる。そしてルイを見てきょとん。かと思いきや、きらきらと蜂蜜色の瞳を輝かせてルイに駆け寄った。
短いスカートから覗く細い足に、ボタンの開いたシャツ。ベストを着ているにしても目のやり場に困って、ルイは思わずそっぽを向く。
「ねーねーおにーさんがあたしの相方? やっばー超インテリ系な見た目してんじゃん、頭いいの? どこ卒?」
「あーいや別に頭いいとかそんなんじゃないからうん、とりあえず立花さんほったらかしにしちゃ駄目なんじゃない?」
「えーあたしノアちゃんよりおにーさんの方が気になるー」
「……あのさあ、ボクこれでも副隊長なんだけど……キミらのトップに立ってるんだけど……」
「とか言ってー、マスコットみたいなもんじゃーん」
少女はけらけらと笑いながら起き上がったノアの頭に手を置いた。少女は明らかに上層部の人間ではなさそうだ。しかし、副隊長だと告げたノアに対し、なんともフレンドリーに接している。
ノアのことをマスコットと言ってのけた少女は、彼の頭から手を離すと首を傾げる。
「で、この人があたしの相方なんだよね?」
「ん、そうだよ。ひとまず詰所に入ろうか、ここ人が通るからね」
「はーい」
ノアに促されて、少女は素直に詰所に戻っていく。その後について詰所に入ると、そこには彼女以外の人影は見当たらなかった。
「はい、じゃあ改めてお互い自己紹介しようね。ルイ君から」
「あ、俺ですか。えっと……初瀬川ルイです、よろしく?」
「地味ー」
「えっ」
ルイはちゃんと自己紹介したつもりだった。しかし少女にそう言われて、口籠る。
少女はくすくすとおかしそうに笑って口元に手を当てた。彼女の笑みはルイを小馬鹿にしているようなものだった。
「はい、次ルキアね」
「はいはい。南ルキア、十六歳。種族は人間とエルフのハーフで、特技は色々。エミから直接相談受けてイグニスに入ることにしたんだけど、先に呼ばれて超退屈してたんだよねー」
「え? エミって……総司令官の?」
「うん、そう」
「ルキアは今回の選考の首席なんだ。今の防衛総隊の主戦力になるほどの逸材だよ」
ノアからの説明と少女——ルキアの言葉に、ルイは開いた口が塞がらなかった。
エミといえば、言わずもがな世界に名の知れた人物だ。そんな人から直接相談を受けるほど、少女は優秀な人材だったのだ。
「それでさ、ルイってどんなことができんの? ウイルスと対等にやりあえる?」
「……え」
「キミの長所だよ。それがあったからキミを防衛総隊に選んだんだけど……」
「あ……っ」
ルキアとノアに問い詰められ、ルイはごくりと唾を飲み込んだ。かたや選考首席の高校生、かたや防衛総隊の副隊長。そんな二人の前で唯一の長所を言うことに、ルイは緊張していた。
すぐに説明できないままのルイがぱくぱくと口を動かしていると、ルキアが不満そうに腕を組んで彼に詰め寄る。
「何? もしかして嘘っぱちでここに来たとかじゃないよね?」
「いや、違う違う! ただ、その、首席の君の前で言うのが恥ずかしいというか……」
しどろもどろなルイに、ルキアはどんどん距離を詰める。パーソナルスペースなどお構いなしなその行動に、ルイは更に戸惑った。
「わ、笑わない?」
「多分。つか一緒に仕事すんのに隠せないっしょ。もったいぶんないで早く言ってよね」
「すいません……」
高校生に平謝りする青年の姿は、どこか滑稽にも見える。覚悟を決めたルイは、一度深呼吸をして神妙な面持ちで二人を見つめた。
「俺は……どんな状況でも姿を隠すことができるステルス能力があるます」
「…………」
「…………」
盛大に噛んだルイの言葉に、二人は固まった。ルイも固まった。しばらくの間、沈黙が部屋を支配する。
しばらく経った時、ルキアがあからさまに肩を竦めて口を開いた。
「防衛総隊の新人でスーツを着てきたのはキミが初めてだよ」
「えっ?」
「案内書には正装で、とは書いてなかったでしょ。まあ、真面目でいいことだよ」
そう言ったノアは、一室の前でぴたりと足を止めた。
「ここが詰所だから覚えていてね。このビルは広いから迷わないように。まあ一度はみんな迷うけど」
「詰所もビルの中にあるんですね」
「詰所というか……楽屋というか……まあどっちでもいいや」
ぼそぼそと呟くノアの言葉を拾い上げるほど、ルイには余裕がなかった。ノアは部屋のドアをノックして部屋の中を覗き込んだ。——瞬間だった。
彼は飛びついてきた何かに見事押し倒され、廊下にびたんと叩きつけられた。
「うぐっ」
「うわあ!? 大丈夫ですか立花さん!」
「ノアちゃんおっそいー! ねえ仕事は? てかあたしの相方まだ? 超退屈なんですけど」
「うん、連れてきたからのいて、痛い……」
「マジ? いえーいこれで仕事できんじゃんサイコー」
ノアに飛びついた何か——水色の髪の少女は、嬉しそうに声を弾ませて彼から離れる。そしてルイを見てきょとん。かと思いきや、きらきらと蜂蜜色の瞳を輝かせてルイに駆け寄った。
短いスカートから覗く細い足に、ボタンの開いたシャツ。ベストを着ているにしても目のやり場に困って、ルイは思わずそっぽを向く。
「ねーねーおにーさんがあたしの相方? やっばー超インテリ系な見た目してんじゃん、頭いいの? どこ卒?」
「あーいや別に頭いいとかそんなんじゃないからうん、とりあえず立花さんほったらかしにしちゃ駄目なんじゃない?」
「えーあたしノアちゃんよりおにーさんの方が気になるー」
「……あのさあ、ボクこれでも副隊長なんだけど……キミらのトップに立ってるんだけど……」
「とか言ってー、マスコットみたいなもんじゃーん」
少女はけらけらと笑いながら起き上がったノアの頭に手を置いた。少女は明らかに上層部の人間ではなさそうだ。しかし、副隊長だと告げたノアに対し、なんともフレンドリーに接している。
ノアのことをマスコットと言ってのけた少女は、彼の頭から手を離すと首を傾げる。
「で、この人があたしの相方なんだよね?」
「ん、そうだよ。ひとまず詰所に入ろうか、ここ人が通るからね」
「はーい」
ノアに促されて、少女は素直に詰所に戻っていく。その後について詰所に入ると、そこには彼女以外の人影は見当たらなかった。
「はい、じゃあ改めてお互い自己紹介しようね。ルイ君から」
「あ、俺ですか。えっと……初瀬川ルイです、よろしく?」
「地味ー」
「えっ」
ルイはちゃんと自己紹介したつもりだった。しかし少女にそう言われて、口籠る。
少女はくすくすとおかしそうに笑って口元に手を当てた。彼女の笑みはルイを小馬鹿にしているようなものだった。
「はい、次ルキアね」
「はいはい。南ルキア、十六歳。種族は人間とエルフのハーフで、特技は色々。エミから直接相談受けてイグニスに入ることにしたんだけど、先に呼ばれて超退屈してたんだよねー」
「え? エミって……総司令官の?」
「うん、そう」
「ルキアは今回の選考の首席なんだ。今の防衛総隊の主戦力になるほどの逸材だよ」
ノアからの説明と少女——ルキアの言葉に、ルイは開いた口が塞がらなかった。
エミといえば、言わずもがな世界に名の知れた人物だ。そんな人から直接相談を受けるほど、少女は優秀な人材だったのだ。
「それでさ、ルイってどんなことができんの? ウイルスと対等にやりあえる?」
「……え」
「キミの長所だよ。それがあったからキミを防衛総隊に選んだんだけど……」
「あ……っ」
ルキアとノアに問い詰められ、ルイはごくりと唾を飲み込んだ。かたや選考首席の高校生、かたや防衛総隊の副隊長。そんな二人の前で唯一の長所を言うことに、ルイは緊張していた。
すぐに説明できないままのルイがぱくぱくと口を動かしていると、ルキアが不満そうに腕を組んで彼に詰め寄る。
「何? もしかして嘘っぱちでここに来たとかじゃないよね?」
「いや、違う違う! ただ、その、首席の君の前で言うのが恥ずかしいというか……」
しどろもどろなルイに、ルキアはどんどん距離を詰める。パーソナルスペースなどお構いなしなその行動に、ルイは更に戸惑った。
「わ、笑わない?」
「多分。つか一緒に仕事すんのに隠せないっしょ。もったいぶんないで早く言ってよね」
「すいません……」
高校生に平謝りする青年の姿は、どこか滑稽にも見える。覚悟を決めたルイは、一度深呼吸をして神妙な面持ちで二人を見つめた。
「俺は……どんな状況でも姿を隠すことができるステルス能力があるます」
「…………」
「…………」
盛大に噛んだルイの言葉に、二人は固まった。ルイも固まった。しばらくの間、沈黙が部屋を支配する。
しばらく経った時、ルキアがあからさまに肩を竦めて口を開いた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
裏アカ男子
やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。
転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。
そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。
―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~
藤
ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる