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終章 勇者と聖女編
蘇ったのは誰か?
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「フィアぁあああああああああああ!」
胸を貫かれたフィアがその場で崩れ落ちるのを見て、勇人は対峙しているロスの存在も忘れてフィアへと瞬時に駆け寄る。
「お前、は……?」
庇うように間に立ち、フィアの胸を突き刺した存在へ視線を向けて絶句する。それは、アリアの姿をしたナニか。
その少女は、勇人の姿を見るなりニッコリと微笑む。かつて好きだった少女とソックリな笑みに動揺を浮かべるがそれも一瞬で、勇人はフィアとリリアを抱えて離脱する。
「ふふふふ、あはははははははは! ついに、ついに完成しましたよ! ボクのアリアが!」
焦る勇人とは裏腹に、ロスは実に楽し気に哄笑しながらアリアへと近づき、アリアも自らロスの方へと近づく。
そのまま互いに触れ合う位置まで近づくと、ロスはアリアのことを抱き寄せる。アリアも抵抗なくそのままロスに抱き寄せられる。
「ああ……長かった。本当に長かったです。ようやくこうしてアリアのことを抱きしめられます」
「……私も、この時を待っていました」
同意するようなアリアの返事に、ロスの気分は天井知らずに上がっていく。
「やはりアリアもボクと同じ気持ちでしたか。さあ、もうこんな国なんてボクたち二人だけの理想郷を――」
「ずっと、殺したいと思っていたんですよ」
「へ?」
饒舌に喋っていたロスの動きはアリアの口から放たれた言葉を聞いて止まった次の瞬間、アリアの腕が変化してロスの上半身を斜めに切り裂く。
「なっ、えっ、あっ、え?」
「あら、やはり魔王を素体にしているだけあって半分にした程度では死にませんか」
アリアに攻撃されるという事態が理解の範疇を超えていたのか、勇人との闘いで見せていた余裕もなく、ロスは混乱した声を上げている。
そんなロスを、アリアは冷ややかな目で見降ろす。
「本当に勝手な人。くだらない理想と妄想を抱いたまま、死になさい」
アリアの腕が蠢き変化する。肘から先が大口を開けた犬のような生き物になったかと思えば、そのままロスを丸のみする。
ゴリゴリと、骨を砕くような咀嚼音の後、アリアの腕は元へ戻る。
「なにが起こって……」
勇人と戦うだけの力を持つ賢者とまで呼ばれたロスは目を疑うほどに呆気なく死んだ。そんなロスを殺したのが自身やフィアならばここまで混乱することはなかっただろう。
だが、ロスは自身が作り上げたアリアに殺された。
ロスと同じく、魔王を素体に生み出されたのならば、確かにロスを殺す力は持っていてもおかしくない。
だが、仮に本当にアリアの記憶を持っていたとするならばこうも躊躇いなく人を殺すことができるだろうか?
答えは否である。
勇人の知っているアリアならば例え相手を恨んでいたとしても誰かをその手に掛けることなど出来はしない。
「お前は一体誰なんだ?」
「誰、ですか? おかしなユーキさん。私は私ですよ。見てわかりませんか?」
アリアの姿をしたなにかは困ったように眉を下げて首を傾げる。その仕草は勇人の記憶にあるアリアそのままである。
だからこそ、先ほどの見た光景が異常さを掻き立てる。
「お前がアリアとでもいうのか?」
「えっと、質問の意味がわかりません。私はアリアですよ。なんだかユーキさんが意地悪です」
名乗る瞬間に声がダブる。まるで目の前の作り物がアリアとリリアの二人であるようだ。
「お前はアリアじゃない。ましてやリリアでもない」
「もう、いい加減にしてくれないと怒りますよ。なんならいつもみたいに抱きしめて確かめてください」
そういって人形が勇人へ向けて歩いてくる。勇人はリリアとフィアを優しく地面へ降ろすと、ゆっくりと距離を詰めてくる人形に向けて聖剣を取り出して刃を向ける。
流石の人形も、聖剣を向けられたことに驚き足を止めた。
「もう一度だけ言う。お前はアリアでも、リリアでもない。アリアは死んだんだ。もういない。そしてリリアはここにいる」
「ユーキさん……どうしてですか? 私がアリアなのに。……ああ、そういうことですか。その偽物に騙されたんですね。あはっ、待っててくださいユーキさん。すぐにそこの偽物を殺して私が本物だって証明してみますから!」
勇人が庇うように守っているリリアとフィアを見た人形は、明確な殺意を二人に向ける。
「くっ、止めろ!!」
人形が二人に襲い掛かると同時に勇人が立ちふさがる。
ロスを殺した時のように変化させた腕へ対して聖剣を振るってみせるが、薄皮一枚すら斬ることなく皮膚で受け止められる。
「なっ!」
「ユーキさん、邪魔しないでください。大丈夫です。ちゃんと助けますから」
「余計なお世話だ!」
腕に力を込めて弾を弾き返すようにフルスイングして人形を吹き飛ばす。
クルクルと体を回転させながら人形は着地と同時に地を這うようにして疾駆する。
(やり難い!)
意識のない二人を庇いながら戦う勇人は歯噛みする。目の前の存在が、偽物だとわかっていても、アリアと同じ姿、同じ声、同じ性格の相手のせいか、どうしても無意識に手を緩めてしまう。
迷いのある勇人とは裏腹に、人形は勇人のこともお構いなしに全力で攻撃を仕掛けてくる。実際、人形の攻撃が直撃したところで勇人が死ぬことはないが、余波でさえリリアとフィアにとっては危険である。
結果、攻撃に徹しきれない勇人はひたすらに防衛し続けることになる。
「ふふ、ユーキさんとこうして戦うことなんてなかったのでつい楽しくなっていましたけど……そろそろ遊びは終わりですよ」
「くっ!」
人形の動きが変化する。より一層、勇人を無視した動きは気を抜けば即座に二人を串刺しにするほど鋭い。
(なにか、なにか切っ掛けがあれば)
「さあ、終わらせますよ!」
「しまっ!」
勇人の動きを読んだのか、聖剣を上へと跳ね上げた人形は刹那にも満たない隙を突いて勇人の脇を抜けて凶刃が二人へと迫る瞬間――。
「はぁぁぁぁっ!!」
「え?」
横から割って入ってきた何かに殴られる。
完全に思考の外からの攻撃だったのか人形は防御の姿勢も取れずに吹き飛んでいく。
「ふむ、状況はよくわからんがどうやら間に合ったようじゃな」
「……まったく、ナイスタイミングだよ」
にっ、と笑って拳を突き出してくるシェロに、勇人も拳をぶつける。
「なあ、シェロ。いま吹き飛ばしたのはアリアじゃなかったか?」
「はえ? ほ、本当かの?」
「たぶん、私の見間違いじゃなければだが」
「…………もしかして妾はやってしまった?」
得意げな笑みを浮かべていたシェロは一転して脂汗をかきながら頬を引きつらせる。
「シェロが吹き飛ばしたのはロスの作った人形だから気にするな。それより、お前はシータか? 生きていたのか?」
「ああ、生きているっていっていいのかはわからないが、幸か不幸かな。正直、またこうして会えるとは思わなかったよ、ユーキ」
「俺もだよシータ。本当ならこのまま旧交を深めたいところだが、アイツをどうにかしないことにはそうもいかないからな」
勇人が奥へ視線を向けると、苛立たし気にシェロとシータを見ている人形の姿があった。
「まったく、シェロちゃんも、シータさんも、私の邪魔をするんですね」
「驚いたのう。見た目もさることながら、妾の拳を受けたというのにまったくの無傷とは」
「なるほど。アレがロスの作ったアリアというわけか」
シェロに背負われていたシータは飛び降りると即座に心剣を構え、シェロも油断なく人形を見据えて――眉を顰めて困惑の表情を浮かべる。
「む、むむ……むぅ……これは」
「おい、どうしたシェロ」
「主様よ。あれはアリアやリリアではないのじゃろ?」
「当たり前だろ」
「むぅ、それにして……いや、しかし……」
「シェロ?」
黙り込んだシェロを怪訝に思っていると、人形が片腕を上げる。
「本当なら今すぐにでもユーキさんを取り戻したいところですが……さすがに分が悪いので引かせてもらいます」
「逃がすとでも思ったか!」
「!? 下がれシータ!」
シータが即座に切りかかろうとすると、真下から口だけを具現化させたような落とし子が現れる。
勇人の声で間一髪飛び下がることで、ガチンッと、シータをかみ砕こうとした落とし子の攻撃は空を切った。
すかさず、勇人が落とし子を聖剣で消滅させるが、それが大きな隙になった。
「ふふ、大丈夫ですよユーキさん。キチンと準備を終えたら戻ってくるので待っていてくださいね」
「まっ」
「では、一時のお別れです」
勇人が動くよりも早く、準備を終えていたアリアは魔方陣を展開してこの場から掻き消えた。
その技は、ロスが使っていた転移の技によく似ているものだった。
「くそっ、逃がしたか」
「すまん、ユーキ。私が油断したばかりに」
「いや、あの場は逃がしてよかったかもしれん」
「どういうことだシェロ?」
「詳しいことはここを出た後で話そう。じゃが、まずは倒れているリリアとフィアを安全な場所まで運ぶほうが先決じゃろうて」
「確かにシェロの言う通りだろう。私たちは色々と情報を共有する必要がある。まずは話ができる場所まで帰るべきだ」
「……わかった」
大きく息を吐いて力を抜いた勇人は聖剣を消す。一気に緊張が解けたのか、戦いの途中では感じていなかった精神的な疲労感が襲ってくる。
「さすがに疲れたな」
「まあ、激戦だっただろうことは予想できるからな」
「まあ、その通りなんだがな」
「そう暗い顔をする必要はなかろう。リリアを救う、賢者を倒す、一応はどちらも達成できたのじゃ胸を張って戻るぞ」
「……ああ、そうだな」
「ああ、そうじゃ。フィアは妾が背負おう。リリアは主様が背負うといいぞ」
「そいつはどうも」
シェロの言葉を苦笑しながら受け止めた勇人は眠っているリリアに近づいて壊れ物を扱うように両手で抱き上げる。
「今度は、守れたのかな」
腕の中で眠るリリアの暖かな温もりを噛みしめるように勇人はそう呟く。
万感の願いを込めたその呟きを、フィアとシータは優し気な眼差しで見守り続けた。
胸を貫かれたフィアがその場で崩れ落ちるのを見て、勇人は対峙しているロスの存在も忘れてフィアへと瞬時に駆け寄る。
「お前、は……?」
庇うように間に立ち、フィアの胸を突き刺した存在へ視線を向けて絶句する。それは、アリアの姿をしたナニか。
その少女は、勇人の姿を見るなりニッコリと微笑む。かつて好きだった少女とソックリな笑みに動揺を浮かべるがそれも一瞬で、勇人はフィアとリリアを抱えて離脱する。
「ふふふふ、あはははははははは! ついに、ついに完成しましたよ! ボクのアリアが!」
焦る勇人とは裏腹に、ロスは実に楽し気に哄笑しながらアリアへと近づき、アリアも自らロスの方へと近づく。
そのまま互いに触れ合う位置まで近づくと、ロスはアリアのことを抱き寄せる。アリアも抵抗なくそのままロスに抱き寄せられる。
「ああ……長かった。本当に長かったです。ようやくこうしてアリアのことを抱きしめられます」
「……私も、この時を待っていました」
同意するようなアリアの返事に、ロスの気分は天井知らずに上がっていく。
「やはりアリアもボクと同じ気持ちでしたか。さあ、もうこんな国なんてボクたち二人だけの理想郷を――」
「ずっと、殺したいと思っていたんですよ」
「へ?」
饒舌に喋っていたロスの動きはアリアの口から放たれた言葉を聞いて止まった次の瞬間、アリアの腕が変化してロスの上半身を斜めに切り裂く。
「なっ、えっ、あっ、え?」
「あら、やはり魔王を素体にしているだけあって半分にした程度では死にませんか」
アリアに攻撃されるという事態が理解の範疇を超えていたのか、勇人との闘いで見せていた余裕もなく、ロスは混乱した声を上げている。
そんなロスを、アリアは冷ややかな目で見降ろす。
「本当に勝手な人。くだらない理想と妄想を抱いたまま、死になさい」
アリアの腕が蠢き変化する。肘から先が大口を開けた犬のような生き物になったかと思えば、そのままロスを丸のみする。
ゴリゴリと、骨を砕くような咀嚼音の後、アリアの腕は元へ戻る。
「なにが起こって……」
勇人と戦うだけの力を持つ賢者とまで呼ばれたロスは目を疑うほどに呆気なく死んだ。そんなロスを殺したのが自身やフィアならばここまで混乱することはなかっただろう。
だが、ロスは自身が作り上げたアリアに殺された。
ロスと同じく、魔王を素体に生み出されたのならば、確かにロスを殺す力は持っていてもおかしくない。
だが、仮に本当にアリアの記憶を持っていたとするならばこうも躊躇いなく人を殺すことができるだろうか?
答えは否である。
勇人の知っているアリアならば例え相手を恨んでいたとしても誰かをその手に掛けることなど出来はしない。
「お前は一体誰なんだ?」
「誰、ですか? おかしなユーキさん。私は私ですよ。見てわかりませんか?」
アリアの姿をしたなにかは困ったように眉を下げて首を傾げる。その仕草は勇人の記憶にあるアリアそのままである。
だからこそ、先ほどの見た光景が異常さを掻き立てる。
「お前がアリアとでもいうのか?」
「えっと、質問の意味がわかりません。私はアリアですよ。なんだかユーキさんが意地悪です」
名乗る瞬間に声がダブる。まるで目の前の作り物がアリアとリリアの二人であるようだ。
「お前はアリアじゃない。ましてやリリアでもない」
「もう、いい加減にしてくれないと怒りますよ。なんならいつもみたいに抱きしめて確かめてください」
そういって人形が勇人へ向けて歩いてくる。勇人はリリアとフィアを優しく地面へ降ろすと、ゆっくりと距離を詰めてくる人形に向けて聖剣を取り出して刃を向ける。
流石の人形も、聖剣を向けられたことに驚き足を止めた。
「もう一度だけ言う。お前はアリアでも、リリアでもない。アリアは死んだんだ。もういない。そしてリリアはここにいる」
「ユーキさん……どうしてですか? 私がアリアなのに。……ああ、そういうことですか。その偽物に騙されたんですね。あはっ、待っててくださいユーキさん。すぐにそこの偽物を殺して私が本物だって証明してみますから!」
勇人が庇うように守っているリリアとフィアを見た人形は、明確な殺意を二人に向ける。
「くっ、止めろ!!」
人形が二人に襲い掛かると同時に勇人が立ちふさがる。
ロスを殺した時のように変化させた腕へ対して聖剣を振るってみせるが、薄皮一枚すら斬ることなく皮膚で受け止められる。
「なっ!」
「ユーキさん、邪魔しないでください。大丈夫です。ちゃんと助けますから」
「余計なお世話だ!」
腕に力を込めて弾を弾き返すようにフルスイングして人形を吹き飛ばす。
クルクルと体を回転させながら人形は着地と同時に地を這うようにして疾駆する。
(やり難い!)
意識のない二人を庇いながら戦う勇人は歯噛みする。目の前の存在が、偽物だとわかっていても、アリアと同じ姿、同じ声、同じ性格の相手のせいか、どうしても無意識に手を緩めてしまう。
迷いのある勇人とは裏腹に、人形は勇人のこともお構いなしに全力で攻撃を仕掛けてくる。実際、人形の攻撃が直撃したところで勇人が死ぬことはないが、余波でさえリリアとフィアにとっては危険である。
結果、攻撃に徹しきれない勇人はひたすらに防衛し続けることになる。
「ふふ、ユーキさんとこうして戦うことなんてなかったのでつい楽しくなっていましたけど……そろそろ遊びは終わりですよ」
「くっ!」
人形の動きが変化する。より一層、勇人を無視した動きは気を抜けば即座に二人を串刺しにするほど鋭い。
(なにか、なにか切っ掛けがあれば)
「さあ、終わらせますよ!」
「しまっ!」
勇人の動きを読んだのか、聖剣を上へと跳ね上げた人形は刹那にも満たない隙を突いて勇人の脇を抜けて凶刃が二人へと迫る瞬間――。
「はぁぁぁぁっ!!」
「え?」
横から割って入ってきた何かに殴られる。
完全に思考の外からの攻撃だったのか人形は防御の姿勢も取れずに吹き飛んでいく。
「ふむ、状況はよくわからんがどうやら間に合ったようじゃな」
「……まったく、ナイスタイミングだよ」
にっ、と笑って拳を突き出してくるシェロに、勇人も拳をぶつける。
「なあ、シェロ。いま吹き飛ばしたのはアリアじゃなかったか?」
「はえ? ほ、本当かの?」
「たぶん、私の見間違いじゃなければだが」
「…………もしかして妾はやってしまった?」
得意げな笑みを浮かべていたシェロは一転して脂汗をかきながら頬を引きつらせる。
「シェロが吹き飛ばしたのはロスの作った人形だから気にするな。それより、お前はシータか? 生きていたのか?」
「ああ、生きているっていっていいのかはわからないが、幸か不幸かな。正直、またこうして会えるとは思わなかったよ、ユーキ」
「俺もだよシータ。本当ならこのまま旧交を深めたいところだが、アイツをどうにかしないことにはそうもいかないからな」
勇人が奥へ視線を向けると、苛立たし気にシェロとシータを見ている人形の姿があった。
「まったく、シェロちゃんも、シータさんも、私の邪魔をするんですね」
「驚いたのう。見た目もさることながら、妾の拳を受けたというのにまったくの無傷とは」
「なるほど。アレがロスの作ったアリアというわけか」
シェロに背負われていたシータは飛び降りると即座に心剣を構え、シェロも油断なく人形を見据えて――眉を顰めて困惑の表情を浮かべる。
「む、むむ……むぅ……これは」
「おい、どうしたシェロ」
「主様よ。あれはアリアやリリアではないのじゃろ?」
「当たり前だろ」
「むぅ、それにして……いや、しかし……」
「シェロ?」
黙り込んだシェロを怪訝に思っていると、人形が片腕を上げる。
「本当なら今すぐにでもユーキさんを取り戻したいところですが……さすがに分が悪いので引かせてもらいます」
「逃がすとでも思ったか!」
「!? 下がれシータ!」
シータが即座に切りかかろうとすると、真下から口だけを具現化させたような落とし子が現れる。
勇人の声で間一髪飛び下がることで、ガチンッと、シータをかみ砕こうとした落とし子の攻撃は空を切った。
すかさず、勇人が落とし子を聖剣で消滅させるが、それが大きな隙になった。
「ふふ、大丈夫ですよユーキさん。キチンと準備を終えたら戻ってくるので待っていてくださいね」
「まっ」
「では、一時のお別れです」
勇人が動くよりも早く、準備を終えていたアリアは魔方陣を展開してこの場から掻き消えた。
その技は、ロスが使っていた転移の技によく似ているものだった。
「くそっ、逃がしたか」
「すまん、ユーキ。私が油断したばかりに」
「いや、あの場は逃がしてよかったかもしれん」
「どういうことだシェロ?」
「詳しいことはここを出た後で話そう。じゃが、まずは倒れているリリアとフィアを安全な場所まで運ぶほうが先決じゃろうて」
「確かにシェロの言う通りだろう。私たちは色々と情報を共有する必要がある。まずは話ができる場所まで帰るべきだ」
「……わかった」
大きく息を吐いて力を抜いた勇人は聖剣を消す。一気に緊張が解けたのか、戦いの途中では感じていなかった精神的な疲労感が襲ってくる。
「さすがに疲れたな」
「まあ、激戦だっただろうことは予想できるからな」
「まあ、その通りなんだがな」
「そう暗い顔をする必要はなかろう。リリアを救う、賢者を倒す、一応はどちらも達成できたのじゃ胸を張って戻るぞ」
「……ああ、そうだな」
「ああ、そうじゃ。フィアは妾が背負おう。リリアは主様が背負うといいぞ」
「そいつはどうも」
シェロの言葉を苦笑しながら受け止めた勇人は眠っているリリアに近づいて壊れ物を扱うように両手で抱き上げる。
「今度は、守れたのかな」
腕の中で眠るリリアの暖かな温もりを噛みしめるように勇人はそう呟く。
万感の願いを込めたその呟きを、フィアとシータは優し気な眼差しで見守り続けた。
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