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終章 勇者と聖女編
ジワジワと染み込むそれは
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ここは真っ暗な暗闇の世界。
上下左右、見渡す限り黒一色に染まった世界の中に、リリアはいる。
ゆっくりと、閉じていた目を開けて世界を認識するが、リリアの中に焦りは生まれない。
包み込むように、揺蕩うようにリリアは暗闇に抱かれている。
(――――――?)
暗闇の中を彷徨っていると、遠くでなにかが見えた。
黒の中に生まれた光という一点の染みは、徐々に闇を払い、世界を明るく照らす。
すると、今まで見えてこなかったものが見えてくるようになると、この世界にいるもう一人の存在に気が付く。
(私……?)
現れたのは、リリアそっくりの人物。身長は目の前の少女の方が低く、顔付きも幼いが、成長すれば確実に自分と同じ顔付になるのだとわかるほどに瓜二つであるが、唯一、瞳の色だけは違った。
リリアが緑の瞳に対して、現れた人物は青い瞳をしていた。その違いがなければ、本人でさえ誤認してしまうほどに似ていた。
『――――』
彼女は笑いながら語り掛けてくる。
声は聞こえないはずなのに、彼女の言葉をリリアはとても好ましいと思った。
しばらく彼女が一人でしゃべり続けていたかと思えば、ブレるようにして景色が切り替わる。
今度は風景も正確に描写されており、どうやら王城のようなところにいた。
王城を歩いているリリアは、人のような形をした黒い何かから畏敬の念と恐怖の感情向けられていることを悟る。
聞こえてくる称賛の声は虫が集る音にしか聞こえず、顔も見えずに笑いかけてくる黒い影などただの木偶人形と変わらない。
そんな世界で、廊下の向こう側から先ほどの少女が再び姿を現す。
『――――』
彼女が笑いかけて話しかけてくれるだけで、心が軽くなり、世界に色が見えてくる。
(これって、もしかして)
自分が見ているもの、それが誰かの記憶のだとリリアは察した。
そして、この記憶の主にとって彼女だけはそこら中に湧き出ているその他大勢とは違う特別なのだと理解できた。
(ということは、あの少女はアリア様? ならこの記憶はたぶんあの男の人の……)
なぜ自分がこんなものを見ているのかまるで理解できない。
だが、リリアがどう思ったところで、それでも賢者がアリアと過ごした日々の記憶の再生は止まらない。
繰り返される記憶の中で、アリアは笑ったり、拗ねたり、怒ったりする。
(とても子供っぽい方だったのですね)
リリアの中でご先祖でもあるアリアは聖女というイメージが先行しているせいか、厳格で慈悲深い淑女のイメージを抱いていたので少し意外だった。
これが本来の彼女なのか、それとも記憶の主が歪めて見ている認識のせいかのかわからない。
(本当に、なんでこんなものを)
意図のわからない賢者の行動を不気味に思いつつ、目覚めるまでの時間、延々とリリアは記憶を眺め続けた。
◆
勇人たちが洞窟を進み始めた頃、リリアは椅子に腰かけたまま微動だにせず座り続けていた。
没頭している内容は、夢のこと。その内容はとても無視できるようなものではない。
少しとはいえ賢者――ロスがアリアに執着していたことは理解できた。ならばこそ、アリアにそっくりな自分は代用品としての役割を求めらているのだろうか。
しかし、それではほとんど接触してこない理由がわからない。
(……ユーキさん。会いたいです。顔が見たいです)
グルグルと思い悩み、不安が胸の中へ広がっていく。せめて少しでも不安を払拭するべく、愛しい人のことを想い浮かべているとドアが開き、ロスが現れた。
「やあ、調子はどうだい?」
「……貴方ですか」
部屋へと入ってきたロスを見て、リリアは胡乱気な視線を向ける。
「その様子では、気分はすぐれないようですね」
「……」
即座に、反論して嫌味の一つでも返してやろうかと思ったが、できなかった。彼もまた、歪とはいえアリアのことを真に愛していたのだと知ってしまったから。
間違った方法で愛している人を手に入れようと考えているロスのことを、リリアは憐れに思えてしまったのだ。
「……貴方は、悲しい人ですね。誤った道に進んでまで手に入れるほどの価値は私にはないというのに」
リリアがそう言うと、一瞬だけポカンとした表情をロスは浮かべる。が、すぐに込み上がる笑いを噛み殺しながら笑う。
「なにがおかしいんですか?」
「く、くく。いえ、同じことを言うのだな、思いまして」
「……どういうことです?」
「いえいえ、ただ昔を懐かしんだだけです。ただの戯言なのでお気になさらず」
一瞬、ただの人のように苦笑したロスだが、すぐにいつも通りの胡散臭い笑顔に戻った。
「大丈夫です。深く考える必要はありません。だって、あともう少しなんですから」
ロスはそう言ってリリアに笑いかけると、鉄格子の鍵を開けて中へと入り、腕を取ってくる。
「は、離してください!」
「大丈夫です。不安がる必要はありません。儀式が終わればもう悩む必要もなくなります。さあ、行きましょうか」
リリアは、ロスに有無を言わさぬまま手を引いて外へと連れ出した。
その先になにが待っているのか知らないまま、彼女は儀式の場へと歩かされていく。
上下左右、見渡す限り黒一色に染まった世界の中に、リリアはいる。
ゆっくりと、閉じていた目を開けて世界を認識するが、リリアの中に焦りは生まれない。
包み込むように、揺蕩うようにリリアは暗闇に抱かれている。
(――――――?)
暗闇の中を彷徨っていると、遠くでなにかが見えた。
黒の中に生まれた光という一点の染みは、徐々に闇を払い、世界を明るく照らす。
すると、今まで見えてこなかったものが見えてくるようになると、この世界にいるもう一人の存在に気が付く。
(私……?)
現れたのは、リリアそっくりの人物。身長は目の前の少女の方が低く、顔付きも幼いが、成長すれば確実に自分と同じ顔付になるのだとわかるほどに瓜二つであるが、唯一、瞳の色だけは違った。
リリアが緑の瞳に対して、現れた人物は青い瞳をしていた。その違いがなければ、本人でさえ誤認してしまうほどに似ていた。
『――――』
彼女は笑いながら語り掛けてくる。
声は聞こえないはずなのに、彼女の言葉をリリアはとても好ましいと思った。
しばらく彼女が一人でしゃべり続けていたかと思えば、ブレるようにして景色が切り替わる。
今度は風景も正確に描写されており、どうやら王城のようなところにいた。
王城を歩いているリリアは、人のような形をした黒い何かから畏敬の念と恐怖の感情向けられていることを悟る。
聞こえてくる称賛の声は虫が集る音にしか聞こえず、顔も見えずに笑いかけてくる黒い影などただの木偶人形と変わらない。
そんな世界で、廊下の向こう側から先ほどの少女が再び姿を現す。
『――――』
彼女が笑いかけて話しかけてくれるだけで、心が軽くなり、世界に色が見えてくる。
(これって、もしかして)
自分が見ているもの、それが誰かの記憶のだとリリアは察した。
そして、この記憶の主にとって彼女だけはそこら中に湧き出ているその他大勢とは違う特別なのだと理解できた。
(ということは、あの少女はアリア様? ならこの記憶はたぶんあの男の人の……)
なぜ自分がこんなものを見ているのかまるで理解できない。
だが、リリアがどう思ったところで、それでも賢者がアリアと過ごした日々の記憶の再生は止まらない。
繰り返される記憶の中で、アリアは笑ったり、拗ねたり、怒ったりする。
(とても子供っぽい方だったのですね)
リリアの中でご先祖でもあるアリアは聖女というイメージが先行しているせいか、厳格で慈悲深い淑女のイメージを抱いていたので少し意外だった。
これが本来の彼女なのか、それとも記憶の主が歪めて見ている認識のせいかのかわからない。
(本当に、なんでこんなものを)
意図のわからない賢者の行動を不気味に思いつつ、目覚めるまでの時間、延々とリリアは記憶を眺め続けた。
◆
勇人たちが洞窟を進み始めた頃、リリアは椅子に腰かけたまま微動だにせず座り続けていた。
没頭している内容は、夢のこと。その内容はとても無視できるようなものではない。
少しとはいえ賢者――ロスがアリアに執着していたことは理解できた。ならばこそ、アリアにそっくりな自分は代用品としての役割を求めらているのだろうか。
しかし、それではほとんど接触してこない理由がわからない。
(……ユーキさん。会いたいです。顔が見たいです)
グルグルと思い悩み、不安が胸の中へ広がっていく。せめて少しでも不安を払拭するべく、愛しい人のことを想い浮かべているとドアが開き、ロスが現れた。
「やあ、調子はどうだい?」
「……貴方ですか」
部屋へと入ってきたロスを見て、リリアは胡乱気な視線を向ける。
「その様子では、気分はすぐれないようですね」
「……」
即座に、反論して嫌味の一つでも返してやろうかと思ったが、できなかった。彼もまた、歪とはいえアリアのことを真に愛していたのだと知ってしまったから。
間違った方法で愛している人を手に入れようと考えているロスのことを、リリアは憐れに思えてしまったのだ。
「……貴方は、悲しい人ですね。誤った道に進んでまで手に入れるほどの価値は私にはないというのに」
リリアがそう言うと、一瞬だけポカンとした表情をロスは浮かべる。が、すぐに込み上がる笑いを噛み殺しながら笑う。
「なにがおかしいんですか?」
「く、くく。いえ、同じことを言うのだな、思いまして」
「……どういうことです?」
「いえいえ、ただ昔を懐かしんだだけです。ただの戯言なのでお気になさらず」
一瞬、ただの人のように苦笑したロスだが、すぐにいつも通りの胡散臭い笑顔に戻った。
「大丈夫です。深く考える必要はありません。だって、あともう少しなんですから」
ロスはそう言ってリリアに笑いかけると、鉄格子の鍵を開けて中へと入り、腕を取ってくる。
「は、離してください!」
「大丈夫です。不安がる必要はありません。儀式が終わればもう悩む必要もなくなります。さあ、行きましょうか」
リリアは、ロスに有無を言わさぬまま手を引いて外へと連れ出した。
その先になにが待っているのか知らないまま、彼女は儀式の場へと歩かされていく。
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