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第1章 出会い編

彼女と主従の契約 その一

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 リリアが勇人たちと過ごし始めて早くも数日の時が経っていた。
 勇人たちが住むこの場所は森の奥ということもあり、かなり静かであり、下手な野生動物たちの姿すら見ない。
 それどころか、相当にいい霊脈の上にあるのか、そこらあたりにマンドレイクが自生していた。王都の薬師たちがこの場所を見れば、狂喜乱舞しながらのたうち回るだろう光景だった。
 ここでの生活に、文句などなかった。
 二人は本当の事情を話さないリリアにも優しく、時折、隣から聞こえてくる二人の情事の音さえ聞こえなければ、ずっと住んでいたいと思えるほど快適な場所だった。
 だからこそ、いつまでもその好意に甘えているわけにはいかなかった。

(ですが――)

 頭ではここに居続けることがいいことではないと理解できている。だが、ここを出て自分がなにをしたいのか。それがイマイチ見えてこないのだ。

(復讐を、したいのでしょうか?)

 父を、家族を貶めた連中を同じ目に合わせて苦しめたいのかと問われれば、リリアは首を横に振るだろう。
 確かに彼らを憎いという気持ちはある。けれど、だからといって同じ場所まで堕ちてやるつもりは毛頭なかった。

(じゃあ、私はなにがしたいのでしょうか)

 復讐がしたい訳でも逃げたい訳でもない。その癖、ここに留まっていては駄目だと思う。
 自分の中にこびり付いている疑問にもやもやしながらリビングへのドアを開けて、リリアは後悔した。

「んふっ、朝から積極的じゃのう、主様」
「うるせえ。盛ってるのはシェロだろうが」

 ドアを開けた真正面。いつも三人で食事をとっている机の上で、二人は繋がっていた。
 勇人がシェロを机の上に押し倒し、身体を絡ませ合い、粘着質な音を立ててキスしながら腰を打ちつけ合っている。

「…………」

 朝一番であるにも関わらず、飛び込んできた衝撃的な光景に、リリアは口をパクパクと上下させて固まってしまう。

「ん? おう、おはようさん」
「ん゛っ! んひっ♪」

 パンッ! と部屋に響くほどの音を立ててシェロの最奥を抉りながら、勇人は片手を上げて挨拶をする。

「な、ななななななにを、しているのですか!?」
「なにって……セックスだけど」
「そんなの見ればわかります! 朝からなぜこんなふしだらなことをしているのか聞いているのです!」

 耳まで真っ赤にして叫ぶリリアは、必死に顔を逸らす。だが、どうしても気になってしまうのか、チラチラと二人の交尾を盗み見てしまう。

「ふっくっ、くひっ♪ ぬ、主様、しょんなとこばかりつくでにゃい……いひぃっ」
「フェミルナに見られて興奮しているシェロには言われたくないな。さっきからチンコにきゅうきゅう食いつきやがって。そんなに見られて嬉しいのか?」
「み、見られて嬉しい訳がなかろう……」
「本当か?」

 勇人は、クリクリと肉豆の天辺を指の腹で押し込んで弄ると、シェロは「あ゛あ゛あ゛」と、だらしない声を上げて反応する。
 未成熟であるはずの固い尻が雄を誘うように揺れ、自身のなかを征服している欲望へと奉仕していく。

「ナリはガキなのにテクニックだけは娼婦顔負けだよな」
「はひっ♪ そ、そのガキにこれだけのテクニックを仕込んだのは主様じゃろっ」

 息も絶え絶えに、しかし媚びる様に流し目を送るシェロに、勇人の興奮は高まったのか、机に押し倒していた身体を持ち上げて激しくシェロを上下させる。

「お゛お゛お゛お゛お゛♪」

 ごつごつと、亀頭が膣奥をノックする。すっかり発情しきった子宮が、交尾相手の子供を孕むべく子宮口を開き迎え入れてしまっている。

射精して、射精してほしいのじゃっ! 発情しきった未成熟の子宮に主様のザーメンを塗りたくって、卵子を犯してほしいのじゃっ」
「孕んでも知らないぞ?」
「できたら産むのじゃっ! じゃから、主様っ、どうか御慈悲をっ」
「……そんな甘えた声を出されちゃ仕方ねえな。ほら、受け取れ」

 勇人は、シェロの身体を高く持ち上げたかと思えば、そのまま串刺しにするかのように叩きつけた。

「おほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ♪」

 一際高く、シェロが喘ぎ声を上げるのと、射精は同時だった。

「は、入ってくるのじゃぁ。主様の濃厚ザーメンが、妾の卵子を孕ませ輪姦しておるのじゃぁ♪」

 子宮に流れ込んでくる熱を感じながら、ほぅっと艶やかな息をシェロが漏らす。

「――――」

 行為が終わったことで、一連の光景を見せつけられたリリアは金縛りが解けたかのように動き出す。

(こ、こんな……信じられません)

 他人の目など気にせずに繋がり続けた二人の姿は、完全にリリアの想像の範疇を超えていた。無論、なんどかそういう行為をしている音は聞いていたが、こうしてハッキリと目の前で見せつけられたのは初めてである。

(は、破廉恥なことのはずなのに……うう、少し濡れてしまいました)

 二人の淫気に当てられたリリアの秘部は、切なそうに涎を垂らしていた。
 ぐったりとしたシェロから離れた勇人が肉棒を抜くと、ブビッ、とマン屁のような音が漏れ、収まりきらなかった精液が零れだす。

(あれだけ射精しておきながら、まだあんなに元気なのですか!?)

 まだまだ足りぬとばかりに怒張している勇人のペニスを見て、リリアは愕然とする。

「そんなにじっくりと見られると照れるな。フェミルナも混ざるか?」
「!! 結構です!」

 我に返ったリリアは、勇人の脇を抜けて家を飛び出していった。

 ******

「ふむ、生娘にはちと、刺激が強すぎたかのう」

 性行の余韻が引き、快楽に狂ったアホ面からいつも通りの表情に戻ったシェロは、リリアが出ていったばかりの玄関を見つめる。

「それで、主様はどうするのじゃ?」
「どうするもこうするもない。俺はただ、約束を果たすだけだ」

 ここ数日、それとなくリリアに対して話題を振ってみたが、絶対に彼女は自分の胸に秘めていることを話そうとしなかった。
 その姿は、勇人が知る彼女と重なってしまう。このままでは、以前と同じ轍を踏んでしまう。
 それでは駄目なのだ。彼女と交わした、彼女が唯一自分に分け合ってくれた想いを無駄にしてしまう。

「強引じゃのう。行為を見せつけた理由が、リアを外へと飛び出させるためとは。そして、おあつらえ向きに結界の外で追手がウロウロしておる」

 シェロが指で机を叩くと、二つの映像が映し出される。
 一つは膨れっ面をしながら森を歩くリリアの姿で、もう一つは豚のように肥えたプライドだけは高そうな男が護衛の男に叱責している姿だった。

「助け出して恩を売る理由には丁度いいと言うわけじゃ」
「――軽蔑するか?」
「いんや。あやつの血族は昔から人に頼るということをしないからのう。こちらから無理矢理にでも関わらねば絶対に問題へと踏み込ませぬじゃろ。その手段が多少強引であることは否めぬが、リアにとっては必要なことじゃ」
「……ありがとな」
「礼を言われるようなことなどしておらんじゃろ。妾と主様は一蓮托生。主様の行動は、主様の望むことは妾の行動であり望じゃ」
「そうだったな」

 不敵に笑うシェロを見て、罅割れて乾燥した心が少しだけ癒される。

 ******

(まったくもう、まったくもう! イチノセさんの馬鹿!)

 リリアは、頬を膨らませ、青いドレスのスカート揺らしながら森の中を歩く。

(なにがお前も混ざるか、ですか。あの色欲魔!)

 リリアは、かつてないほど自分が怒っているのがわかった。
 出会った時は恐ろしい力を持った怖い人だと思った。けれど、それが今では幼い女の子で性欲を発散する変態大魔人という認識に変わっていた。

(見た目は誠実そうな人なのに、毎日毎日シェロちゃんと交わって……! そういうのは、もっと節度を持って行わないと――)

 思いつく限りの罵詈雑言を頭の中にいる勇人に浴びせながら、森を歩いていたリリアだったが、ふっと気がついた。

「あれ……? ここ、どこでしょうか?」

 勇人たちの家で過ごすようになってから、シェロは森の中へ入るようなことはしなかった。せいぜい、家の周辺を散歩していたくらいである。
 つまり、闇雲に進んでしまったため、自分がどこにいるのかわからなくなってしまったのだ。

「ど、どうしましょう……」

 怒りに血が上っていた頭も、現状を認識したことで冷えていく。

「どうやって帰れば……」

 リリアが帰り道もわからず途方にくれていると、茂みの向こうから人の声が近づいているのに気がついた。
 もしかしたら、勇人たちの家まで案内してもらえるかも知れないと思い、こっそり近づいて、そしてそれが間違いだと知る。

「この愚図共! 凄腕だというからお前たちを雇ったというのに女一人探せないのか!」
「す、すみませんドマの坊ちゃん。ですが、この森は妙というかなんというか――」
「言い訳なぞ聞きたくないわ!」

 遠目から見て豚としか思えないような肥満気味の男が、強面の男たちに怒鳴り散らしている。
 リリアは、怒鳴り散らしている男を知っている。いや、忘れるはずなどない。

「……ドマ・アージス・ゼクト。なんで、ここに」

 リリアは、自分たち家族をハメた張本人を前に茫然とするが、すぐに意識を切り替える。

(逃げないと。ここに私がいるとバレたら――)
 
 リリアは、ゆっくりと後ずさり距離をとろうとするが、ドマ一行に注意を向けすぎていたせいで足元への注意が疎かになっていた。
 パキリッ、と木の枝を踏む、音を立てたことに気がついて青ざめたが、遅かった。

「誰だ!」

 護衛らしき男が声を張り上げるのと、リリアが走り出すのは同時だった。

「いたぞ! あいつがリリア・クレスティン・フェミルナだ! 絶対に逃がすな!」

 ドマの命令を聞いた男たちが、即座に動き出すが、もはや状況は致命的だと冷静な思考が告げている。
 リリアは、自分が逃亡中の身分でありながらも迂闊な行動をした己を呪った。
 相手は鍛えている大人であり、争いごとを糧に生きている傭兵たちである。見つかってしまえば、あっという間で、箱入り育ちのリリアは簡単に捕まってしまい、ドマの前まで連行される。

「やめて! 離して、離しなさいよ!」

 いくら暴れても、少女の細腕で鍛えた男の拘束が振りほどける筈もなく、ドマの前で地面に押さえつけられる。

「くくくっ! 言い様だなリリア! まったく手間を焼かせてくれたものだ」

 ドマは、押さえつけられ地面に倒れ伏すリリアを見ながら嘲笑する。

「ドマ……!」

 せめてもの抵抗と睨みつけるが、ドマは気にするどころか愉悦に満ちた表情を浮かべる。

「貴方は、自分がなにをしているのか理解しているの!?」
「勿論だ。俺の求婚を断った愚かな雌に己の立場を分からせてやっているだけだ」
「たったそれだけの為に、我が家を襲ったというの……!」
「たった? たっただと? 雌風情がいきがるな! このドマ・アージス・ゼクト公爵家の長男である俺の求婚を断ったのだ。当然の報いだろう」
「……これだけの騒ぎを起こしてしまえば、陛下が黙っていないわよ」

 クレスティン家は、曾祖母に聖女を持つ由緒正しい血統の家柄であった。故に、歴代の王とも懇意である。
 そんなことも理解できないのかと、言葉の裏に脅しを潜ませるが、ドマはリリアの言葉を鼻で笑い、ニヤニヤと気持ちの悪い豚面を近づけてくる。

「公爵家は取り潰しの上、親戚を含む一族郎党処刑となったぞ」
「――――え?」

 ドマの言葉を、リリアはすぐに理解できなかった。

「罪状は国家反逆罪。いくら歴代の国王と親しい家柄とはいえ、国に牙を剥いてはなぁ。クレスティン家も奢ったものだ」
「うそ、うそよ。陛下がそんなことをお決めになるはずが――」
「残念ながら事実だ。もうすでにお前以外の人間は処刑されている。本来ならお前も即刻処刑されるはずなのだが――」

 そこで言葉を区切ったドマは、臭い息を吐きながら、情欲に支配された瞳でリリアの頬に舌を這わせる。
 まるで蛆が這ったかのような感覚に鳥肌がたつリリアを無視して、高らかに宣言する」

「――喜ぶがいい。反逆者とはいえ聖女の血を絶やすのは惜しい。お前は犯罪者でありながら俺の子を孕む役割を与えられたのだ」

 それがどういう意味を含んだ言葉なのか、リリアは瞬時に理解できた。

「私を、貴方のような者の慰み物にするつもりですか……!」
「慰み物とは心外だな。飼い主の手を噛むような躾のなっていない雌犬を、俺のような高貴なる者がしっかりと管理して飼ってやるといったのだ」
「誰が、貴方たちのような卑怯者に……!」
「いくら叫ぼうが決定は覆らないぞ。くくく、すぐにお前の侍女と同じ目に合わせてやる」
「!! クレハに、クレハになにをしたの!」
「なにて、ナニに決まっているだろう? アイツも中々に具合がよかった。いい声で啼いてくれたぞ? 安心しろ。すぐに主従並べて喘がせ、孕ませてやる」

 ドマがそういうと、彼の護衛たちが低俗な声で笑う。
 それが悔しくて、しかし自分にはどうにかするための力がないため、唇を噛んで堪えるしかできない。

(私が、私が逃げ出さずに行動していれば――)

 国家反逆罪などという不名誉を与えられ、一族が処刑されることなどなかったはずだ。
 だが、後悔したところで時間は巻き戻らない。

「さて、お前等!アレを出せ!」
「へい、ドマの坊ちゃん」

 男の一人担いでいた袋から、禍々しい首輪を取り出す。

「そ、それは……」
「これか? これは隷属の首輪という魔道具だ。これを着けて契約したが最後、死ぬまで主人の命令に逆らえなくなるんだよ」

 ドマの言葉に、リリアは今度こそ言葉を無くす。

「いやっ! いやよ! 離して!」
「こら! 暴れるなこのクソアマ!」

 強引に腕を捻られ、痛みで動きを止めた所に、素早く首輪がハメられる。

「あ、あああ、あああああああああ」

 絶望が、リリアの心を支配する。その声が心地いいのか、ドマはどこまでも下劣に笑う。

「あとは契約するだけだが、従順な下僕になる前に無理矢理初めてを散らすというのも悪くない」

 ドマの手が、リリアを手にかけて、一気に破り捨てる。

「おおっ!」

 歳のわりに豊かな乳房が男たちの視線にさらされ、周囲からは野次が飛ぶ。

「まったくいやらしい身体つきをしている。なにが聖女の末裔まつえいだ。売婦ばいじょの間違いだろ」

 周囲の男たちも、ドマと同じように下品に笑う。それが悔しくて、しかし反論できるだけの力を持ち合わせていないリリアは涙を流す。

(イチノセさん……シェロちゃん……)

 せめて、彼らにお礼がいいたかったと、全てを諦めかけたリリアに、

「おいおい、勝手に人の同居人に手を出すなよ」

 救いの手が差し出された。
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