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森がわたしを離してくれなくなりました
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「あ。ファーナやるじゃん。僕もする」
フェイルまで同じようにビームを繰り出した。
「ちょっと! どこまで焼き払うつもりなのっ!」
慌てたわたしの声もなんのその。二人は小さな胸を反らした。
「えへん。これで歩きやすくなったよ」
「いやそうだけどね。違うでしょ。こんな森の中でどこにビーム出す人がいるのよ」
「ビーム?」
二人はきょとんと首をかしげる。
ああっもう。ビームは通じないか。
「あ、もうちょっと道幅広い方がいい?」
「そういう問題じゃないでしょ」
ファーナの問いにわたしは項垂れた。ああ、疲れる。
「どこまでこの道作ったのよ」
「さあ?」
ファーナが首をこてんと横に傾けた。その仕草可愛いすぎて絵になりすぎている。愛くるしい見た目に反してやることえげつないな、この子どもは。
竜の棲み処に繋がる一本道がどこまで出来上がったのか考えると恐ろしい。というか、魔法を凝縮した光を突如繰り出して、誰かに当たったらどうするの。
「いきなりあんなことして、誰か通行人に当たったら危ないでしょう」
「だぁってえ」
「リジーのために道を作ってあげたのに」
わたしが注意をすると二人は頬をぷくーっと膨らませる。あざと可愛いな、と思いつつわたしはしかめ面を崩さない。こういうのは最初が肝心なんだから。
「だぁって、じゃないの。わたしがいつ歩きやすく道を作ってほしいなんて言ったの」
わたしが言葉を重ねると二人は不満顔でわたしを見上げる。
どうしたものかな。親切心からの行為ってことは分かるんだけど。
わたしが思案しているとわたしの背後が暗くなった。
ん? なんだろう。と思う間もなく頭の上から声が聞こえてきた。
「わしの身体に魔法を当てたのはおまえたちか」
わたしのすぐ目の前にいる双子たちが、うわっ、やばっ、という顔を作った。
すこししゃがれた声を出す者の正体はいかに。わたしは怖いもの見たさで顔を上げた。
「大杉のおじいちゃま!」
そこにいたのは、うす緑色の肌に木の枝のような髪を持った老人の姿をした、精霊。
フェイルとファーナがわたしの体に隠れるようにぴたりとくっついてきた。
「おまえたち。ふざけ半分で魔法を使うのは止めるように再三にわたって言っておるよな」
「ふざけてないもん。リジーを手伝おうと思ったんだもん」
わたしの体にぴたりとくっつきながらもフェイルが果敢に言い返す。
と、その言葉に老人精霊がぴくりと眉のような、細い木の棒を持ち上げる。
「はて。人間の娘がいるな」
おそらくは長い年月を経た木の精霊なのだろう、老人はわたしに顔を近づけてきた。人間の王国の、それも王都で暮らしていたわたしにとって生の精霊というのは滅多に出会わないレアキャラに等しい存在で。
人生十七年、初めての遭遇でわたしの心臓が早鐘を打つ。
「は、はい。人間ですよ。人間」
わたしはえへへ、と愛想笑いを浮かべた。
「ほう。一体またどうして」
「これには深くて浅い理由が」
ほう、どういうことだね、と老人精霊が尋ねたときわたしの周りに今度は風が巻き起こる。
「うわぁぁ。ごめんなさい。大杉のご老人! このたびはとんだご迷惑を」
中世的な声で必死に謝るのは、これまた精霊だった。
そよそよと空気が舞っているのを鑑みるに、彼は風の精霊だろう。彼って言ってもいいのかな。確か、四大精霊って性別がなかったはず。
「ドルムント。おまえさんがこの双子たちの世話係なのだろう。じゃったらしっかり監督をせんかい」
「面目ないです」
半透明でもなく実態を伴った風の精霊は薄茶の髪をした、やや気弱そうなどちらかというと男性寄りの風貌をしていた。わたしよりも年上、二十代後半くらいの雰囲気。彼って呼んじゃっていいかな。
「ほら、二人も謝りましょう」
ドルムントと呼ばれた風の精霊がファーナとフェイルの方に顔を向ける。
さすがにまずかったと思っているのか、二人は素直に頭を下げた。
老人精霊はもうあと二、三ドルムントに小言を言って姿を消した。
「ふう」
ドルムントがため息を吐いた。
わたしも疲れた。
「二人とも、安易に魔法を使っては駄目だといつも申しているはずです。いたずらばかりしていては立派な黄金竜になれませんよ」
「だぁってぇ」
「ねえ」
ドルムントの小言に双子竜は口をとがらせる。
今回はわたしが歩きにくくて手伝おうとしたから。かなりの力技ではた迷惑な方法だったけど。
「だってじゃないですよ。まったく。ちょっと目を離したすきにすぐにいたずらをするんですから。人間のご令嬢を連れ帰った時だって私の言うことなど聞いてもくれずに炎を吐いてしまわれて」
「あのときは、つい楽しくて」
「ちょっと人間を驚かせようと思ったんだもん」
二人の言葉にわたしは頬を引きつらせた。いや、それホント魔法警備隊飛んでくる案件だから。
わたしは息をすぅっと吸った。
「フェイル、ファーナ」
二人はわたしを見上げる。
「いいこと、二人とも。わたしのことを手伝ってくれようとしたのは嬉しかったわ。お礼を言う」
「ほんとう」
双子竜はわたしの言葉に目を輝かせる。
わたしはうんと頷いた。本題はここから。わたしはそのまま続ける。
「けどね。どう手伝ってほしいかをわたしに聞いてほしかった。そうしたらわたしはこういう風に助けてほしいとか、今は必要ないとか答えることができた。いきなり魔法を使ったら、今みたいに誰かがびっくりしちゃうかもしれないでしょう」
わたしはゆっくりと二人の目を見て話す。動機はともかく二人はわたしを思って行動をしてくれたのだ。断じて面白そうだからとか、退屈していたからとかではない……はず。だと信じたい。というところをまずは認めることにした。それから伝えることは伝えないと。
「……うん」
「わかった」
わたしの言いたいことが伝わったのか、二人は少ししょんぼり顔でうなづいた。
「ちゃんとわかってくれてよかったわ。じゃあ、わたし行くから。二人ともドルムントの言うことをちゃんと聞いていい子にしているのよ」
わたしはあっさりと別れの挨拶をして再び歩き出す。
「えぇぇ! 言っちゃうの?」
慌てたフェイルがわたしの後を追いかける。ファーナも同じようにわたしに近寄ってきた。
「当たり前でしょう。この道、あとでちゃんと直しておきなさいよ。植林でもして」
だいぶ歩きやすくなった森の中をわたしはひたすらに突き進むのだが……。
結構な時間を掛けて歩いているのに、わたしは一向に人里につく気配が無かった。というか、景色が変わらない。双子竜のやんちゃのおかげで一本道ができたはずなのに、それを歩いていればどこかにはたどり着くはずなのにわたしはなぜだかぐるぐると同じ森を歩いているような錯覚に陥った。
「あ、あれ? ここ少し前にも通った気がする」
見覚えのある木の枝の形にわたしは首をかしげる。
双子竜は相も変わらず人間に化けたままわたしの周囲をうろちょろしている。ずいぶんと長い間一緒に歩いているおかげでファーナのスカートからは竜のしっぽが見えている。どうやら長い間しっぽをしまっておけないらしい。
「リジー様、そろそろ諦めませんか?」
そっと虚空から声を掛けてきたのはさきほどのドルムントだ。
彼はわたしの身長の少し上にぷかりと浮いた状態で姿を現した。
「あきらめるって、どういうことよ」
わたしは眉を顰める。
「それは、ですね。あなたが竜の子供たちを諫めたことに森の精霊たちが感心しまして。要するに……あなたがいれば子供たちの暴走も少しは和らぐのではないかと、期待をしまして。その……あなたを森から出さないように……」
「精霊たちが意地悪をしているってこと?」
わたしは大きな声を出して立ち止まる。
通りでさっきから似たような場所をぐるっぐる歩いていると思ったわ! こんちくしょう。
「ちょ、どうにかしなさいよっ!」
わたしはドルムントにかみついた。子供とはいえ黄金竜の暴走なんてわたしに止められるはずもないでしょうに! ちょっとはよく考えようよ。
「いえ、無理です。森の総意なので」
ドルムントはあっさりと白旗を上げる。
「ねーねー。ぐるぐる回るの飽きちゃったぁ」
ファーナがわたしのチュニックのすそをつんつん引っ張って、その場にへたり込む。
「わたしだって喉乾いたし、お腹空いたわよ」
一歩、また一歩人の住まう場所に近づいているかと思ったから頑張って歩けたのに。
「とりあえず、戻りませんか? ご飯も飲み物もたんまりと用意していますんで」
ドルムントの遠慮がちな提案にわたしはきっと鋭い視線を向けた。
「そんなもん用意する暇あるなら今すぐわたしを人里に送っていきなさいよぉぉぉ!」
フェイルまで同じようにビームを繰り出した。
「ちょっと! どこまで焼き払うつもりなのっ!」
慌てたわたしの声もなんのその。二人は小さな胸を反らした。
「えへん。これで歩きやすくなったよ」
「いやそうだけどね。違うでしょ。こんな森の中でどこにビーム出す人がいるのよ」
「ビーム?」
二人はきょとんと首をかしげる。
ああっもう。ビームは通じないか。
「あ、もうちょっと道幅広い方がいい?」
「そういう問題じゃないでしょ」
ファーナの問いにわたしは項垂れた。ああ、疲れる。
「どこまでこの道作ったのよ」
「さあ?」
ファーナが首をこてんと横に傾けた。その仕草可愛いすぎて絵になりすぎている。愛くるしい見た目に反してやることえげつないな、この子どもは。
竜の棲み処に繋がる一本道がどこまで出来上がったのか考えると恐ろしい。というか、魔法を凝縮した光を突如繰り出して、誰かに当たったらどうするの。
「いきなりあんなことして、誰か通行人に当たったら危ないでしょう」
「だぁってえ」
「リジーのために道を作ってあげたのに」
わたしが注意をすると二人は頬をぷくーっと膨らませる。あざと可愛いな、と思いつつわたしはしかめ面を崩さない。こういうのは最初が肝心なんだから。
「だぁって、じゃないの。わたしがいつ歩きやすく道を作ってほしいなんて言ったの」
わたしが言葉を重ねると二人は不満顔でわたしを見上げる。
どうしたものかな。親切心からの行為ってことは分かるんだけど。
わたしが思案しているとわたしの背後が暗くなった。
ん? なんだろう。と思う間もなく頭の上から声が聞こえてきた。
「わしの身体に魔法を当てたのはおまえたちか」
わたしのすぐ目の前にいる双子たちが、うわっ、やばっ、という顔を作った。
すこししゃがれた声を出す者の正体はいかに。わたしは怖いもの見たさで顔を上げた。
「大杉のおじいちゃま!」
そこにいたのは、うす緑色の肌に木の枝のような髪を持った老人の姿をした、精霊。
フェイルとファーナがわたしの体に隠れるようにぴたりとくっついてきた。
「おまえたち。ふざけ半分で魔法を使うのは止めるように再三にわたって言っておるよな」
「ふざけてないもん。リジーを手伝おうと思ったんだもん」
わたしの体にぴたりとくっつきながらもフェイルが果敢に言い返す。
と、その言葉に老人精霊がぴくりと眉のような、細い木の棒を持ち上げる。
「はて。人間の娘がいるな」
おそらくは長い年月を経た木の精霊なのだろう、老人はわたしに顔を近づけてきた。人間の王国の、それも王都で暮らしていたわたしにとって生の精霊というのは滅多に出会わないレアキャラに等しい存在で。
人生十七年、初めての遭遇でわたしの心臓が早鐘を打つ。
「は、はい。人間ですよ。人間」
わたしはえへへ、と愛想笑いを浮かべた。
「ほう。一体またどうして」
「これには深くて浅い理由が」
ほう、どういうことだね、と老人精霊が尋ねたときわたしの周りに今度は風が巻き起こる。
「うわぁぁ。ごめんなさい。大杉のご老人! このたびはとんだご迷惑を」
中世的な声で必死に謝るのは、これまた精霊だった。
そよそよと空気が舞っているのを鑑みるに、彼は風の精霊だろう。彼って言ってもいいのかな。確か、四大精霊って性別がなかったはず。
「ドルムント。おまえさんがこの双子たちの世話係なのだろう。じゃったらしっかり監督をせんかい」
「面目ないです」
半透明でもなく実態を伴った風の精霊は薄茶の髪をした、やや気弱そうなどちらかというと男性寄りの風貌をしていた。わたしよりも年上、二十代後半くらいの雰囲気。彼って呼んじゃっていいかな。
「ほら、二人も謝りましょう」
ドルムントと呼ばれた風の精霊がファーナとフェイルの方に顔を向ける。
さすがにまずかったと思っているのか、二人は素直に頭を下げた。
老人精霊はもうあと二、三ドルムントに小言を言って姿を消した。
「ふう」
ドルムントがため息を吐いた。
わたしも疲れた。
「二人とも、安易に魔法を使っては駄目だといつも申しているはずです。いたずらばかりしていては立派な黄金竜になれませんよ」
「だぁってぇ」
「ねえ」
ドルムントの小言に双子竜は口をとがらせる。
今回はわたしが歩きにくくて手伝おうとしたから。かなりの力技ではた迷惑な方法だったけど。
「だってじゃないですよ。まったく。ちょっと目を離したすきにすぐにいたずらをするんですから。人間のご令嬢を連れ帰った時だって私の言うことなど聞いてもくれずに炎を吐いてしまわれて」
「あのときは、つい楽しくて」
「ちょっと人間を驚かせようと思ったんだもん」
二人の言葉にわたしは頬を引きつらせた。いや、それホント魔法警備隊飛んでくる案件だから。
わたしは息をすぅっと吸った。
「フェイル、ファーナ」
二人はわたしを見上げる。
「いいこと、二人とも。わたしのことを手伝ってくれようとしたのは嬉しかったわ。お礼を言う」
「ほんとう」
双子竜はわたしの言葉に目を輝かせる。
わたしはうんと頷いた。本題はここから。わたしはそのまま続ける。
「けどね。どう手伝ってほしいかをわたしに聞いてほしかった。そうしたらわたしはこういう風に助けてほしいとか、今は必要ないとか答えることができた。いきなり魔法を使ったら、今みたいに誰かがびっくりしちゃうかもしれないでしょう」
わたしはゆっくりと二人の目を見て話す。動機はともかく二人はわたしを思って行動をしてくれたのだ。断じて面白そうだからとか、退屈していたからとかではない……はず。だと信じたい。というところをまずは認めることにした。それから伝えることは伝えないと。
「……うん」
「わかった」
わたしの言いたいことが伝わったのか、二人は少ししょんぼり顔でうなづいた。
「ちゃんとわかってくれてよかったわ。じゃあ、わたし行くから。二人ともドルムントの言うことをちゃんと聞いていい子にしているのよ」
わたしはあっさりと別れの挨拶をして再び歩き出す。
「えぇぇ! 言っちゃうの?」
慌てたフェイルがわたしの後を追いかける。ファーナも同じようにわたしに近寄ってきた。
「当たり前でしょう。この道、あとでちゃんと直しておきなさいよ。植林でもして」
だいぶ歩きやすくなった森の中をわたしはひたすらに突き進むのだが……。
結構な時間を掛けて歩いているのに、わたしは一向に人里につく気配が無かった。というか、景色が変わらない。双子竜のやんちゃのおかげで一本道ができたはずなのに、それを歩いていればどこかにはたどり着くはずなのにわたしはなぜだかぐるぐると同じ森を歩いているような錯覚に陥った。
「あ、あれ? ここ少し前にも通った気がする」
見覚えのある木の枝の形にわたしは首をかしげる。
双子竜は相も変わらず人間に化けたままわたしの周囲をうろちょろしている。ずいぶんと長い間一緒に歩いているおかげでファーナのスカートからは竜のしっぽが見えている。どうやら長い間しっぽをしまっておけないらしい。
「リジー様、そろそろ諦めませんか?」
そっと虚空から声を掛けてきたのはさきほどのドルムントだ。
彼はわたしの身長の少し上にぷかりと浮いた状態で姿を現した。
「あきらめるって、どういうことよ」
わたしは眉を顰める。
「それは、ですね。あなたが竜の子供たちを諫めたことに森の精霊たちが感心しまして。要するに……あなたがいれば子供たちの暴走も少しは和らぐのではないかと、期待をしまして。その……あなたを森から出さないように……」
「精霊たちが意地悪をしているってこと?」
わたしは大きな声を出して立ち止まる。
通りでさっきから似たような場所をぐるっぐる歩いていると思ったわ! こんちくしょう。
「ちょ、どうにかしなさいよっ!」
わたしはドルムントにかみついた。子供とはいえ黄金竜の暴走なんてわたしに止められるはずもないでしょうに! ちょっとはよく考えようよ。
「いえ、無理です。森の総意なので」
ドルムントはあっさりと白旗を上げる。
「ねーねー。ぐるぐる回るの飽きちゃったぁ」
ファーナがわたしのチュニックのすそをつんつん引っ張って、その場にへたり込む。
「わたしだって喉乾いたし、お腹空いたわよ」
一歩、また一歩人の住まう場所に近づいているかと思ったから頑張って歩けたのに。
「とりあえず、戻りませんか? ご飯も飲み物もたんまりと用意していますんで」
ドルムントの遠慮がちな提案にわたしはきっと鋭い視線を向けた。
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