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モーサン町編
……ごめんなさい
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ミェラーナ様の声が遠ざかってから、数分経過した。
頭の中で、やっぱり落ち込んでいるのかな、泣いているのかな、とマイナスな事ばかり考えてしまう。
「──ミェラーナ様と萌子ちゃん、遅いね……」
「大丈夫よメノちゃん、魔法陣を描かせてまで逃げ出すなんてありえないわよ。なんせ、女神なんだから」
「そうだよね……あっ、ドアが開く音がしたよ!!」
メノの言う通り、ドアが開く、ガチャリという聞こえた。そして、何やら声を上げながら近づいてくるのが伝わった。
〔スガルくん達、お待たせしました。萌ちゃんを連れて来ましたよ……こら、萌ちゃん!暴れないのっ!!〕
〔ミェラーナ先輩!! いきなり連れてこられても私謝らないから!! あっ、脇やめて脇はくすぐったい!!〕
萌子はやっぱり謝る気はないようだが、謝る気があるのは俺だ。てか脇って何だろう。何されてんだろう。
〔スガルさん達も待ってます。じゃあ、そろそろ異世界に行きますよ〕
〔待ってミェラナ様、私達異世界にワープしちゃうの!? 私、心の準備まだ出来てな〕
〔天界魔法、コモンゲート・デプロイメント!!〕
ミェラーナ様が呪文を唱えたと同時に、目の前に浮かび上がっている魔法陣が、徐々に速度を上げて回転し始めた。そして、思わず目を瞑ってしまうほどの光が部屋中に溢れ出した。
輝きが無くなり、恐る恐る眼を開いてみると、金髪で白い服を纏った女性と、その後ろで隠れている萌子が降臨していた。
「ミェラーナ様! 本当にミェラーナ様だぁ!!」
メノはすぐさまミェラーナ様の傍に行き、眼を輝かせていた。
「メノ、よく出来ましたね。偉いですよ」
ミェラーナ様は優しいその手で、メノの頭を包み込むように撫でた。メノは誰が見ても分かるくらい、幸福そうな顔をしている。
「ここって……ほ、本当に異世界に来ちゃったの!? 」
初めての異世界に戸惑っている萌子。顔を見ると、涙を流したのがよく分かる。
「も、萌子……実際会うのは久しぶりだな……」
「……数日しか経ってないじゃない。私を異世界に召喚しにきてまで何がしたいのよ。もう知らないって言ったじゃない」
「そ、その、ご、ご、ご……」
ごめん、って言いたいのに、中々口に出せない。プライドが邪魔しちゃって、言いたいのに、言えない。
昔はすぐに言えたはずなのに。どうして言えなくなっちゃったんだろう……。
──その時、俺の背中に、ポンと叩かれた感覚があった。後ろに顔を向けると、七海が叩いたという事に分かった。
「駿我くん、きっと……いや、絶対大丈夫よ。ここで謝る機会を逃したら、もう二度と萌子ちゃんの顔を見て謝れないかもしれないのよ」
「七海……」
「私と話すのはここでおしまい。ほら、萌子ちゃんの方を見なさい」
七海はもう一度、俺の背中をポンと叩いて、励ましてくれた。力強い手だった。
──七海の言う通りだ。メノやミェラーナ様のおかけで萌子をここへ呼ぶことができたの出来たのに、謝らないで終わったら、俺は本当にどうしようもない人間になる。
──息を深く吸って、深く吐く。そして、萌子の眼を見た。
「萌子……ごめん。俺、あんな偉そうな事言っちゃった。いつか俺は、萌子をギャフンと言わそうと思ってたけど、まさかこんな事情があるなんて思ってなくて……本当にごめんなさい……」
口が乾燥するほど、俺は声を絞り出した。そして、無意識に下を向いてしまった。萌子の反応が怖いからだ。
足音がした。萌子がこっちに歩いてくるのが、下を向いてても分かる。
「……私こそ、あんな子供みたいな態度見せちゃって……それに、私がやっている事は人殺しと変わらないわ。それを何も謝りもせずに過ごすなんて……私の方が悪いわ……もっと現実世界でいっぱいやりたい事あったのかもしれないのに……本当にご、ごめんな…さ…い」
萌子は半べそをかきながらも、許してくれた。逆に、俺まで謝られた。
「それに友紀香、貴方にはとても酷い事言っちゃった。一人ぼっちが平気なんて……私でさえ平気じゃないのに。ごめんなさい……」
「め、女神様が頭を下げないでください!! 私は全然気にしてないですから!!」
友紀香ちゃんはテンパりながら、手を前に出しながら振っていた。
「……これは私にも責任がある事ですね。私が萌ちゃんに指示をしていた事ですから、攻めるなら私を攻めてください……でも、スガルくん、萌ちゃん。二人は自分の殻を破って、よく謝る事が出来ましたね」
「──ありがとうございます、ミェラーナ先輩。そろそろ私も冥界に帰らなくちゃ行けないわね……」
「お待ちなさい、萌ちゃん。大事なお話があります」
魔法陣へ戻りかけた萌子を、ミェラーナ様が呼び止めた。
「な、何ですかミェラーナ先輩?」
「……我々女神は、異世界に住む事は出来ません。ですが、一時的に異世界へ行く事は可能です」
「──!!! それってどういう事ですか!!」
萌子はミェラーナ様に飛びつき、裾をぎゅっと掴んだ。
「萌ちゃん落ち着いてください。今見せますから……じゃじゃ~ん!」
ミェラーナ様が取り出したのは、真っ白で何も書かれてない物だった。
「フォト用紙……ですよね?」
「ただのフォト用紙ではありません、普通のとは違う特殊なフォト用紙です。──スガルくん、ナナミールさん、メノ。貴方たちには、これからの旅に必要不可欠な魔法を授けましょう。三人とも、手を私の方へ」
フォト用紙の事が気になりながらも、俺らは手をミェラーナ様の方へと伸ばした。
ミェラーナ様はフォト用紙を萌子に預けた後、目を閉じて、深く力を込めると、凄まじいオーラを纏い始めた。すると、手先に、何やら不思議な力が伝わってくるのを感じた。しかも、二つも。
「……これで完了です。今、貴方たちに授けたのは、ブロマイド・プロジェクションと、ブロマイド・コールという魔法です」
「な、何ですかその魔法は……?」
「ブロマイド・プロジェクションは、地球人の情報を、ブロマイドに投影する魔法で、ブロマイド・コールは、その投影したブロマイドに書かれた人物を呼び出す事が出来るのです」
「そ、それって、私も対象に入るんですか!?」
萌子は眼を輝かせながら、ミェラーナ様問いだした。
「もちろんですよ、萌ちゃん。あなたがいれば、スガルくん達の旅に貢献出来るでしょう」
「やったぁ!! ありがとうございますミェラーナ先輩!!」
萌子はミェラーナ様を、力いっぱい抱きしめた。悲し泣きから、嬉し泣きへ変わる瞬間であった。
「よかったね、萌子ちゃん!」
「萌子ちゃんがいれば、怖いものもないわね!」
「詩絵里、七海! ありがとう!」
萌子は二人の方へ近づき、また思いっきり抱きしめた。その顔は、とても幸せそうだ。
「ちゃんと女神の仕事も頑張るのよ。──スガルくん、早速、萌ちゃんにブロマイド・プロジェクション使ってあげてください」
「は、はいっ! 」
「……駿我、お願いね」
「ああ。わかった」
萌子にフォト用紙を預かり、魔法を出す準備にかかった。
俺は意識を高め、魔法を出すことに集中力を全てに掛けた。ファイヤーソウルとは違う、また別の力がある事を体感出来る。
「──よし!! ブロマイド・プロジェクションッッ!!」
フォト用紙を萌子に向け、その魔法を全力で放つと、フォト用紙が萌子に向かって光を放った。具体的には、萌子の情報を吸収しているようだ。
光が消え、ブロマイドの表を確認してみると、萌子の顔や、謎の文字が書かれてあった。初めてやったが、何とか成功したみたいだ。
「こ、これで私も、また異世界に行けるのね!」
「よく出来ました。もしもピンチの時や、萌ちゃんが必要な場面では、ブロマイド・コールを使って呼び出すのですよ」
「はい、ミェラーナ様! さて、次は……友紀香ちゃんだね!」
友紀香ちゃんだって、ずっとこのまま村に残るのも可哀想だろう。外の世界を見せてあげるのも、またいいと思うから。
「えぇっ!? わ、私なんかに気を使わなくてもいいですって!」
「友紀香ちゃん、私達、気を使ってるつもりなんかないわよ。友紀香ちゃんがこのモーサン村を守ってくれる番になってくれたんだから、せめてお礼くらいはしないとね」
「お、お礼ですか……まぁ、悪くないかもしれないですね……」
友紀香ちゃんは、何とか承認を得てくれたみたいだ。
「じゃあ、今度はナナミールさんが使ってみてください」
「うん! 私、ナナミール・ヒンド、やってみます、ミェラーナ様!」
※
七海が左手に持っているブロマイドには、友紀香ちゃんの情報が埋め尽くされてた。
「これで完了! なんか、今まで体験したことのない、新感覚の魔法だね」
「だな。……ところで、メノは試さなくていいのか?」
「あ、うん。私はまだいいかな……」
何だか、メノの様子がおかしい気がするのは、気のせいだろうか? 目線を合わせてくれないし、顔をそっちに向けたりする。
「メノ、ドラゴンには使えませんよ。飽くまでも、地球人にしか使えないですから」
「な、なんでわかったのミェラーナ様!? 」
「女神に分からないことなど無いのです。ふふふ」
ドラゴンに使う気だったのか。……まあ、結果としては残念だったな。
「それでは、私達はここら辺で。規約の30分を過ぎるところでした。あ、ブロマイドは不思議な力で、水にも炎にも氷にも強く出来てるので、そこは気にしないでくださいね」
カード販促アニメでよく見る謎の力ってやつか……。
「──予め確認しておきますが、貴方たちの目的は何ですか?」
突然、ミェラーナ様は不思議な質問をしてきた。そんなの決まってるじゃないですか……。
「magic channeで稼ぎながら生きる事です」
「ドラゴン×スライム同人誌界のトップに立つことです」
「二人共っ!! 」
七海の大声に、思わず体をビクッとさせてしまった。
「地球人を探して、魔王を倒すのが目的でしょ!! それは個人の目的じゃない!!」
「冗談だよ七海。な、メノ?」
「も、勿論だよぉ……」
半分本気だった事を七海にバレたら、やばい事になってただろうな……。
「……何だか心配になってきました。でも、きっと魔王を倒すであろうと信じています。それでは萌ちゃん、行きますよ」
「はいっ! ……駿我!絶対にまた呼びなさいよ!!」
「言われなくてもそうするよ。だって、もう俺らのパーティの一員だろ? 」
「うんっ!! また冥界であんた達の事が見てるから!! 」
ミェラーナ様と萌子が魔法陣の中に入ると、瞬く間に光が溢れ、眼を開けた時には、もうそこに二人はいなかった。
「……さて、俺らも次の町へと出掛けますか」
「そうね。そろそろ支度を済ませないと」
皆それぞれ、各自の支度に取り掛かった。俺も自分のカバンを確認すると、教科書や一昨日買ったマンガ等が入っていた。……マンガは要らんよな。
旅に必要と感じない物はメノの家に置かしてもらう事にしよう。そして、新たに萌子のブロマイドをサイドポケットに入れた。
……萌子、一緒に旅に出よう。萌子も精一杯楽しめる旅に。
※
町の入り口に来た。見送りには、友紀香ちゃんと和菓子屋の娘のシナフィンが来てくれた。
「スガル、次はどの町に行くの?」
「グレアンドラっていう町。トールドさんって人とコラボするんだ」
「へぇ、コラボかぁ……いつかウチの和菓子も紹介してね。あ、これあげる」
シナフィンから手渡されたのは、海苔が巻かれた煎餅と緑茶だった。中々いいチョイスである。
「な、ナナミールさん。私、頼りないかもしれないですけど……この町をナナミールに変わって全力で守ります!!」
「ありがとう、友紀香ちゃん。……そろそろこっちの世界での名前で呼ばないと。何か考えてるの?」
「えっと、ユキッカ・スノウにしようかと……変ですかね?」
「全然変じゃないわよ! もっと酷い名前を付けた人知ってるんだから!」
どーゆう事だよおい。俺って言いたいのかおい。
「そろそろバスが出発する時間だよぉ。早く乗らないと」
「もうそんな時間? あっという間に時間が過ぎるわね。友紀香……いや、ユキッカちゃん、モーサン町を任せたわよ。行ってくるね」
「行ってらっしゃい、ナナミールさん。お気をつけて」
〔間もなく~グレアンドラ行きバスが~発車致します~〕
バスのアナウンスが聞こえたので、俺達はバスに乗り込んだ。……てか、バスってあったんだね、この世界にも。
椅子に座り窓を見ると、二人が笑顔で手を降ってくれていた。
そして、二人はどんどんと遠ざかっていき、いつの間にか、モーサン町へと出ていった。
また変な町を訪れるのだろうか……まあ、少しそれも楽しいからいいけど。
思っていた異世界とは違ったけど、こんな異世界でも、案外悪くないかもしれない。女神様が付いていたり、刀使いがいたり、同人作家がいたり、和菓子屋さんがいたり……これは多分序の口だろうな。もっと変な人がいるんだろうな。
新たに始まる旅に、俺らの目にはどんな景色がが映るだろうか。これからの旅に期待を込めるとしよう……。
グレアンドラ町へ向かうバスは、俺らを乗せてどんどん走っていった。
頭の中で、やっぱり落ち込んでいるのかな、泣いているのかな、とマイナスな事ばかり考えてしまう。
「──ミェラーナ様と萌子ちゃん、遅いね……」
「大丈夫よメノちゃん、魔法陣を描かせてまで逃げ出すなんてありえないわよ。なんせ、女神なんだから」
「そうだよね……あっ、ドアが開く音がしたよ!!」
メノの言う通り、ドアが開く、ガチャリという聞こえた。そして、何やら声を上げながら近づいてくるのが伝わった。
〔スガルくん達、お待たせしました。萌ちゃんを連れて来ましたよ……こら、萌ちゃん!暴れないのっ!!〕
〔ミェラーナ先輩!! いきなり連れてこられても私謝らないから!! あっ、脇やめて脇はくすぐったい!!〕
萌子はやっぱり謝る気はないようだが、謝る気があるのは俺だ。てか脇って何だろう。何されてんだろう。
〔スガルさん達も待ってます。じゃあ、そろそろ異世界に行きますよ〕
〔待ってミェラナ様、私達異世界にワープしちゃうの!? 私、心の準備まだ出来てな〕
〔天界魔法、コモンゲート・デプロイメント!!〕
ミェラーナ様が呪文を唱えたと同時に、目の前に浮かび上がっている魔法陣が、徐々に速度を上げて回転し始めた。そして、思わず目を瞑ってしまうほどの光が部屋中に溢れ出した。
輝きが無くなり、恐る恐る眼を開いてみると、金髪で白い服を纏った女性と、その後ろで隠れている萌子が降臨していた。
「ミェラーナ様! 本当にミェラーナ様だぁ!!」
メノはすぐさまミェラーナ様の傍に行き、眼を輝かせていた。
「メノ、よく出来ましたね。偉いですよ」
ミェラーナ様は優しいその手で、メノの頭を包み込むように撫でた。メノは誰が見ても分かるくらい、幸福そうな顔をしている。
「ここって……ほ、本当に異世界に来ちゃったの!? 」
初めての異世界に戸惑っている萌子。顔を見ると、涙を流したのがよく分かる。
「も、萌子……実際会うのは久しぶりだな……」
「……数日しか経ってないじゃない。私を異世界に召喚しにきてまで何がしたいのよ。もう知らないって言ったじゃない」
「そ、その、ご、ご、ご……」
ごめん、って言いたいのに、中々口に出せない。プライドが邪魔しちゃって、言いたいのに、言えない。
昔はすぐに言えたはずなのに。どうして言えなくなっちゃったんだろう……。
──その時、俺の背中に、ポンと叩かれた感覚があった。後ろに顔を向けると、七海が叩いたという事に分かった。
「駿我くん、きっと……いや、絶対大丈夫よ。ここで謝る機会を逃したら、もう二度と萌子ちゃんの顔を見て謝れないかもしれないのよ」
「七海……」
「私と話すのはここでおしまい。ほら、萌子ちゃんの方を見なさい」
七海はもう一度、俺の背中をポンと叩いて、励ましてくれた。力強い手だった。
──七海の言う通りだ。メノやミェラーナ様のおかけで萌子をここへ呼ぶことができたの出来たのに、謝らないで終わったら、俺は本当にどうしようもない人間になる。
──息を深く吸って、深く吐く。そして、萌子の眼を見た。
「萌子……ごめん。俺、あんな偉そうな事言っちゃった。いつか俺は、萌子をギャフンと言わそうと思ってたけど、まさかこんな事情があるなんて思ってなくて……本当にごめんなさい……」
口が乾燥するほど、俺は声を絞り出した。そして、無意識に下を向いてしまった。萌子の反応が怖いからだ。
足音がした。萌子がこっちに歩いてくるのが、下を向いてても分かる。
「……私こそ、あんな子供みたいな態度見せちゃって……それに、私がやっている事は人殺しと変わらないわ。それを何も謝りもせずに過ごすなんて……私の方が悪いわ……もっと現実世界でいっぱいやりたい事あったのかもしれないのに……本当にご、ごめんな…さ…い」
萌子は半べそをかきながらも、許してくれた。逆に、俺まで謝られた。
「それに友紀香、貴方にはとても酷い事言っちゃった。一人ぼっちが平気なんて……私でさえ平気じゃないのに。ごめんなさい……」
「め、女神様が頭を下げないでください!! 私は全然気にしてないですから!!」
友紀香ちゃんはテンパりながら、手を前に出しながら振っていた。
「……これは私にも責任がある事ですね。私が萌ちゃんに指示をしていた事ですから、攻めるなら私を攻めてください……でも、スガルくん、萌ちゃん。二人は自分の殻を破って、よく謝る事が出来ましたね」
「──ありがとうございます、ミェラーナ先輩。そろそろ私も冥界に帰らなくちゃ行けないわね……」
「お待ちなさい、萌ちゃん。大事なお話があります」
魔法陣へ戻りかけた萌子を、ミェラーナ様が呼び止めた。
「な、何ですかミェラーナ先輩?」
「……我々女神は、異世界に住む事は出来ません。ですが、一時的に異世界へ行く事は可能です」
「──!!! それってどういう事ですか!!」
萌子はミェラーナ様に飛びつき、裾をぎゅっと掴んだ。
「萌ちゃん落ち着いてください。今見せますから……じゃじゃ~ん!」
ミェラーナ様が取り出したのは、真っ白で何も書かれてない物だった。
「フォト用紙……ですよね?」
「ただのフォト用紙ではありません、普通のとは違う特殊なフォト用紙です。──スガルくん、ナナミールさん、メノ。貴方たちには、これからの旅に必要不可欠な魔法を授けましょう。三人とも、手を私の方へ」
フォト用紙の事が気になりながらも、俺らは手をミェラーナ様の方へと伸ばした。
ミェラーナ様はフォト用紙を萌子に預けた後、目を閉じて、深く力を込めると、凄まじいオーラを纏い始めた。すると、手先に、何やら不思議な力が伝わってくるのを感じた。しかも、二つも。
「……これで完了です。今、貴方たちに授けたのは、ブロマイド・プロジェクションと、ブロマイド・コールという魔法です」
「な、何ですかその魔法は……?」
「ブロマイド・プロジェクションは、地球人の情報を、ブロマイドに投影する魔法で、ブロマイド・コールは、その投影したブロマイドに書かれた人物を呼び出す事が出来るのです」
「そ、それって、私も対象に入るんですか!?」
萌子は眼を輝かせながら、ミェラーナ様問いだした。
「もちろんですよ、萌ちゃん。あなたがいれば、スガルくん達の旅に貢献出来るでしょう」
「やったぁ!! ありがとうございますミェラーナ先輩!!」
萌子はミェラーナ様を、力いっぱい抱きしめた。悲し泣きから、嬉し泣きへ変わる瞬間であった。
「よかったね、萌子ちゃん!」
「萌子ちゃんがいれば、怖いものもないわね!」
「詩絵里、七海! ありがとう!」
萌子は二人の方へ近づき、また思いっきり抱きしめた。その顔は、とても幸せそうだ。
「ちゃんと女神の仕事も頑張るのよ。──スガルくん、早速、萌ちゃんにブロマイド・プロジェクション使ってあげてください」
「は、はいっ! 」
「……駿我、お願いね」
「ああ。わかった」
萌子にフォト用紙を預かり、魔法を出す準備にかかった。
俺は意識を高め、魔法を出すことに集中力を全てに掛けた。ファイヤーソウルとは違う、また別の力がある事を体感出来る。
「──よし!! ブロマイド・プロジェクションッッ!!」
フォト用紙を萌子に向け、その魔法を全力で放つと、フォト用紙が萌子に向かって光を放った。具体的には、萌子の情報を吸収しているようだ。
光が消え、ブロマイドの表を確認してみると、萌子の顔や、謎の文字が書かれてあった。初めてやったが、何とか成功したみたいだ。
「こ、これで私も、また異世界に行けるのね!」
「よく出来ました。もしもピンチの時や、萌ちゃんが必要な場面では、ブロマイド・コールを使って呼び出すのですよ」
「はい、ミェラーナ様! さて、次は……友紀香ちゃんだね!」
友紀香ちゃんだって、ずっとこのまま村に残るのも可哀想だろう。外の世界を見せてあげるのも、またいいと思うから。
「えぇっ!? わ、私なんかに気を使わなくてもいいですって!」
「友紀香ちゃん、私達、気を使ってるつもりなんかないわよ。友紀香ちゃんがこのモーサン村を守ってくれる番になってくれたんだから、せめてお礼くらいはしないとね」
「お、お礼ですか……まぁ、悪くないかもしれないですね……」
友紀香ちゃんは、何とか承認を得てくれたみたいだ。
「じゃあ、今度はナナミールさんが使ってみてください」
「うん! 私、ナナミール・ヒンド、やってみます、ミェラーナ様!」
※
七海が左手に持っているブロマイドには、友紀香ちゃんの情報が埋め尽くされてた。
「これで完了! なんか、今まで体験したことのない、新感覚の魔法だね」
「だな。……ところで、メノは試さなくていいのか?」
「あ、うん。私はまだいいかな……」
何だか、メノの様子がおかしい気がするのは、気のせいだろうか? 目線を合わせてくれないし、顔をそっちに向けたりする。
「メノ、ドラゴンには使えませんよ。飽くまでも、地球人にしか使えないですから」
「な、なんでわかったのミェラーナ様!? 」
「女神に分からないことなど無いのです。ふふふ」
ドラゴンに使う気だったのか。……まあ、結果としては残念だったな。
「それでは、私達はここら辺で。規約の30分を過ぎるところでした。あ、ブロマイドは不思議な力で、水にも炎にも氷にも強く出来てるので、そこは気にしないでくださいね」
カード販促アニメでよく見る謎の力ってやつか……。
「──予め確認しておきますが、貴方たちの目的は何ですか?」
突然、ミェラーナ様は不思議な質問をしてきた。そんなの決まってるじゃないですか……。
「magic channeで稼ぎながら生きる事です」
「ドラゴン×スライム同人誌界のトップに立つことです」
「二人共っ!! 」
七海の大声に、思わず体をビクッとさせてしまった。
「地球人を探して、魔王を倒すのが目的でしょ!! それは個人の目的じゃない!!」
「冗談だよ七海。な、メノ?」
「も、勿論だよぉ……」
半分本気だった事を七海にバレたら、やばい事になってただろうな……。
「……何だか心配になってきました。でも、きっと魔王を倒すであろうと信じています。それでは萌ちゃん、行きますよ」
「はいっ! ……駿我!絶対にまた呼びなさいよ!!」
「言われなくてもそうするよ。だって、もう俺らのパーティの一員だろ? 」
「うんっ!! また冥界であんた達の事が見てるから!! 」
ミェラーナ様と萌子が魔法陣の中に入ると、瞬く間に光が溢れ、眼を開けた時には、もうそこに二人はいなかった。
「……さて、俺らも次の町へと出掛けますか」
「そうね。そろそろ支度を済ませないと」
皆それぞれ、各自の支度に取り掛かった。俺も自分のカバンを確認すると、教科書や一昨日買ったマンガ等が入っていた。……マンガは要らんよな。
旅に必要と感じない物はメノの家に置かしてもらう事にしよう。そして、新たに萌子のブロマイドをサイドポケットに入れた。
……萌子、一緒に旅に出よう。萌子も精一杯楽しめる旅に。
※
町の入り口に来た。見送りには、友紀香ちゃんと和菓子屋の娘のシナフィンが来てくれた。
「スガル、次はどの町に行くの?」
「グレアンドラっていう町。トールドさんって人とコラボするんだ」
「へぇ、コラボかぁ……いつかウチの和菓子も紹介してね。あ、これあげる」
シナフィンから手渡されたのは、海苔が巻かれた煎餅と緑茶だった。中々いいチョイスである。
「な、ナナミールさん。私、頼りないかもしれないですけど……この町をナナミールに変わって全力で守ります!!」
「ありがとう、友紀香ちゃん。……そろそろこっちの世界での名前で呼ばないと。何か考えてるの?」
「えっと、ユキッカ・スノウにしようかと……変ですかね?」
「全然変じゃないわよ! もっと酷い名前を付けた人知ってるんだから!」
どーゆう事だよおい。俺って言いたいのかおい。
「そろそろバスが出発する時間だよぉ。早く乗らないと」
「もうそんな時間? あっという間に時間が過ぎるわね。友紀香……いや、ユキッカちゃん、モーサン町を任せたわよ。行ってくるね」
「行ってらっしゃい、ナナミールさん。お気をつけて」
〔間もなく~グレアンドラ行きバスが~発車致します~〕
バスのアナウンスが聞こえたので、俺達はバスに乗り込んだ。……てか、バスってあったんだね、この世界にも。
椅子に座り窓を見ると、二人が笑顔で手を降ってくれていた。
そして、二人はどんどんと遠ざかっていき、いつの間にか、モーサン町へと出ていった。
また変な町を訪れるのだろうか……まあ、少しそれも楽しいからいいけど。
思っていた異世界とは違ったけど、こんな異世界でも、案外悪くないかもしれない。女神様が付いていたり、刀使いがいたり、同人作家がいたり、和菓子屋さんがいたり……これは多分序の口だろうな。もっと変な人がいるんだろうな。
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しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
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