7 / 18
そして、魔法使いは夢を見る
しおりを挟む
雪の降る寒い日にとある孤児院の扉の前でおくるみに包まれて泣いていた赤ん坊。
へその緒がついたままのその子の人生はたまたま捨てられた孤児院の院長であった大魔法使いマーリウスが拾い上げた事から始まった。
たまたま強い魔力を持って産れ、たまたまその頃、次代の魔法使い育成に力を入れていた大魔法使いマーリウスに見出されたマグリット。
マーリウスのスパルタ教育にも耐え切り、王都の魔法学校でも優秀な成績を残した秀才と呼ばれたその子供は大人よりも多くの魔法を知っていた。マーリウスに教育だと各地を連れ回されたその子供は大人よりも多くの知識を有していた。
だが、そんな子供でも分からないものがあった。
「大魔法使いマーリウスの弟子マグリットは君かい?」
じっとこちらを見つめる琥珀色の瞳に読んでいた本をパタリッと閉め、見つめ返す。
その強い光を称える琥珀色の瞳はまるで狼のように力強く僕だけを映していた。
「そうですが。これから貴方がするであろう言葉には全て『いいえ』と答えさせて頂きます。僕は世界に興味がありませんので」
その言葉に目の前の男が不快そうに眉間に皺を寄せる。
この男の名前は勇者アステル。
数日前に神殿で勇者に選出され、魔王討伐の旅に出た男。この男が魔王討伐の為に仲間を集めているのも風の噂で知っている。
「貴方もその世界の一員だろう。世界が滅べば君も滅ぶ」
「ええ、その前にこの魔法図書館の本を全て読み終える所存です。僕は忙しいので他をあたってください」
「っ!!…頼む。貴方の力が必要なんだ。これ以上、魔族との争いで親を失う子を増やさない為にもっ」
「……親って必要ですか? 僕も親は居ないし、顔すら知りませんが欲しいなんて思った事もありませんね」
「……貴方は」
怒っていた筈の男が悲しげにくしゃりと顔を歪める。それが僕を憐れんでいるからだという事は理解出来たが、憐れまれる理由は納得がいかない。
よく虚勢だと魔法学校でも憐れまれる時があったが、本当に親を欲した事がないのだから憐れまれても困る。
だって、考えてもみてほしい。
最初からないもの。知らないものなのだから、居るメリット自体もわからない。居なくても充分、僕はこの生活に納得している。魔法さえ学べれば僕は充実した日々を過ごせる。
そう何度断ってもアステルは通い続けた。
「魔法よりも楽しい事を教えてやるからついてこい」と、口説き続けるアステルの強い意志とその曲がる事のない芯の通ったら瞳に根負けして出た旅は案外楽しいものだった。
最初は二人の旅も、二人から三人、三人から四人、四人から五人に増え、賑やかなものとなった。
死線を潜るのは相変わらずだが、本を真剣に読む暇すらなく賑やかで、それが当たり前になった時、ふと思った。
「家族ってこんな感じなのかな」
そう野営地で焚き火を眺めながらボソッと呟くと、焚き火に薪をくべていた騎士イグニスが驚愕の顔で持っていた薪を落とした。
どうした!?と、落とした薪を拾おうとすると涙目でイグニスがぎゅうぎゅうと抱き付いてきた。
「ぐるっ、ぐるしいっ!」
「マグリットがっ!マグリットがデレた!!」
「別に…デレてなんか。それより苦しいっ!」
馬鹿力のイグニスの容赦ない抱擁に逃げようと暴れるが、奴は「照れんなよ~」と、照れ照れしながら逃げないように更に締め付ける。だから、苦しいんだって!
そんな攻防に寝ていた聖女エリスが眠い目を擦りながら起きた。助けを求めようとしたが、イグニスが言葉を遮る。
「ふぁあっ、どぉしたのぉ?」
「エリスっ!エリス!!マグリットが、マグリットが俺達を家族みたいだって!!!」
「まぁっ!マグリット様が?」
「そうマグリットがっ!!」
「なら、私はマグリット様の妹に立候補しますのっ!」
「えっ!じゃあ、俺、兄貴枠っ!」
助けを求めようとしたのにエリスまで抱き付いてきた。それを何時の間にかに起きていた盗賊イヴァンがその光景を見て、カラカラと笑う。
「家族か…。そうっすね。オイラ達はもう家族みたいなもんっすもんね。ははっ!」
「わら、笑ってないで二人を止めて…」
「そー、照れなさんなって。嬉しかったんすよ、マグリットさんの口からその言葉が聞けて。だから、大人しく愛を受け取ってやってください。オイラの分も!」
「えっ…」
二人が抱きつく上から更にイヴァンが勢いよく抱き着いて、四人揃ってバランスを崩して倒れる。
この騒ぎの中でも懇々と寝続けるアステルの隣に四人で倒れ込み、アステルの寝顔を見て苦笑する。
「大物っすね。うちの大将は」
「でも、マグリットのデレを聞きそびれた事を知ったら不機嫌になるぞー」
「まぁ、アステル様にとって、マグリットお兄様は特別ですから」
「もうお兄様呼び…」
「だって、マグリットお兄様は私にとっても特別ですもの」
エリスは何時の間にかにアステルと僕の間に寝転がり、ニコニコと笑う。
エリスはアステルに恋をして、神官の反対を押し切ってこのパーティに加入した。アステルを特別に想っているのは知っていたが、僕も彼女の中の特別になれていたようだ。まぁ、アステルの特別とはまた違うけど…。
「結婚なさる時は必ず、私の居る神殿でお願いします。私が大切な家族であるお兄様の祝詞をあげます。絶対ですからね」
「……結婚ね」
果たして、未だ親の必要性が分からない僕に結婚など出来るのか?
この旅で誰かと居る楽しさと安心感は知った。家族がこんな感じならいいなとも思ったが、誰か一人を愛して家族になりたいと思える日が来るんだろうか?
その誰かとの間に子を望み、必要ないと思ってた親になりたいと思う日が来るのだろうか?
僕には未だにそれが分からない。
魔王を封印する前からも。そして、魔王に結婚を前提に口説かれている今さえも。
へその緒がついたままのその子の人生はたまたま捨てられた孤児院の院長であった大魔法使いマーリウスが拾い上げた事から始まった。
たまたま強い魔力を持って産れ、たまたまその頃、次代の魔法使い育成に力を入れていた大魔法使いマーリウスに見出されたマグリット。
マーリウスのスパルタ教育にも耐え切り、王都の魔法学校でも優秀な成績を残した秀才と呼ばれたその子供は大人よりも多くの魔法を知っていた。マーリウスに教育だと各地を連れ回されたその子供は大人よりも多くの知識を有していた。
だが、そんな子供でも分からないものがあった。
「大魔法使いマーリウスの弟子マグリットは君かい?」
じっとこちらを見つめる琥珀色の瞳に読んでいた本をパタリッと閉め、見つめ返す。
その強い光を称える琥珀色の瞳はまるで狼のように力強く僕だけを映していた。
「そうですが。これから貴方がするであろう言葉には全て『いいえ』と答えさせて頂きます。僕は世界に興味がありませんので」
その言葉に目の前の男が不快そうに眉間に皺を寄せる。
この男の名前は勇者アステル。
数日前に神殿で勇者に選出され、魔王討伐の旅に出た男。この男が魔王討伐の為に仲間を集めているのも風の噂で知っている。
「貴方もその世界の一員だろう。世界が滅べば君も滅ぶ」
「ええ、その前にこの魔法図書館の本を全て読み終える所存です。僕は忙しいので他をあたってください」
「っ!!…頼む。貴方の力が必要なんだ。これ以上、魔族との争いで親を失う子を増やさない為にもっ」
「……親って必要ですか? 僕も親は居ないし、顔すら知りませんが欲しいなんて思った事もありませんね」
「……貴方は」
怒っていた筈の男が悲しげにくしゃりと顔を歪める。それが僕を憐れんでいるからだという事は理解出来たが、憐れまれる理由は納得がいかない。
よく虚勢だと魔法学校でも憐れまれる時があったが、本当に親を欲した事がないのだから憐れまれても困る。
だって、考えてもみてほしい。
最初からないもの。知らないものなのだから、居るメリット自体もわからない。居なくても充分、僕はこの生活に納得している。魔法さえ学べれば僕は充実した日々を過ごせる。
そう何度断ってもアステルは通い続けた。
「魔法よりも楽しい事を教えてやるからついてこい」と、口説き続けるアステルの強い意志とその曲がる事のない芯の通ったら瞳に根負けして出た旅は案外楽しいものだった。
最初は二人の旅も、二人から三人、三人から四人、四人から五人に増え、賑やかなものとなった。
死線を潜るのは相変わらずだが、本を真剣に読む暇すらなく賑やかで、それが当たり前になった時、ふと思った。
「家族ってこんな感じなのかな」
そう野営地で焚き火を眺めながらボソッと呟くと、焚き火に薪をくべていた騎士イグニスが驚愕の顔で持っていた薪を落とした。
どうした!?と、落とした薪を拾おうとすると涙目でイグニスがぎゅうぎゅうと抱き付いてきた。
「ぐるっ、ぐるしいっ!」
「マグリットがっ!マグリットがデレた!!」
「別に…デレてなんか。それより苦しいっ!」
馬鹿力のイグニスの容赦ない抱擁に逃げようと暴れるが、奴は「照れんなよ~」と、照れ照れしながら逃げないように更に締め付ける。だから、苦しいんだって!
そんな攻防に寝ていた聖女エリスが眠い目を擦りながら起きた。助けを求めようとしたが、イグニスが言葉を遮る。
「ふぁあっ、どぉしたのぉ?」
「エリスっ!エリス!!マグリットが、マグリットが俺達を家族みたいだって!!!」
「まぁっ!マグリット様が?」
「そうマグリットがっ!!」
「なら、私はマグリット様の妹に立候補しますのっ!」
「えっ!じゃあ、俺、兄貴枠っ!」
助けを求めようとしたのにエリスまで抱き付いてきた。それを何時の間にかに起きていた盗賊イヴァンがその光景を見て、カラカラと笑う。
「家族か…。そうっすね。オイラ達はもう家族みたいなもんっすもんね。ははっ!」
「わら、笑ってないで二人を止めて…」
「そー、照れなさんなって。嬉しかったんすよ、マグリットさんの口からその言葉が聞けて。だから、大人しく愛を受け取ってやってください。オイラの分も!」
「えっ…」
二人が抱きつく上から更にイヴァンが勢いよく抱き着いて、四人揃ってバランスを崩して倒れる。
この騒ぎの中でも懇々と寝続けるアステルの隣に四人で倒れ込み、アステルの寝顔を見て苦笑する。
「大物っすね。うちの大将は」
「でも、マグリットのデレを聞きそびれた事を知ったら不機嫌になるぞー」
「まぁ、アステル様にとって、マグリットお兄様は特別ですから」
「もうお兄様呼び…」
「だって、マグリットお兄様は私にとっても特別ですもの」
エリスは何時の間にかにアステルと僕の間に寝転がり、ニコニコと笑う。
エリスはアステルに恋をして、神官の反対を押し切ってこのパーティに加入した。アステルを特別に想っているのは知っていたが、僕も彼女の中の特別になれていたようだ。まぁ、アステルの特別とはまた違うけど…。
「結婚なさる時は必ず、私の居る神殿でお願いします。私が大切な家族であるお兄様の祝詞をあげます。絶対ですからね」
「……結婚ね」
果たして、未だ親の必要性が分からない僕に結婚など出来るのか?
この旅で誰かと居る楽しさと安心感は知った。家族がこんな感じならいいなとも思ったが、誰か一人を愛して家族になりたいと思える日が来るんだろうか?
その誰かとの間に子を望み、必要ないと思ってた親になりたいと思う日が来るのだろうか?
僕には未だにそれが分からない。
魔王を封印する前からも。そして、魔王に結婚を前提に口説かれている今さえも。
262
お気に入りに追加
517
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話
こぶじ
BL
聡明な魔女だった祖母を亡くした後も、孤独な少年ハバトはひとり森の中で慎ましく暮らしていた。ある日、魔女を探し訪ねてきた美貌の青年セブの治療を、祖母に代わってハバトが引き受ける。優しさにあふれたセブにハバトは次第に心惹かれていくが、ハバトは“自分が男”だということをいつまでもセブに言えないままでいた。このままでも、セブのそばにいられるならばそれでいいと思っていたからだ。しかし、功を立て英雄と呼ばれるようになったセブに求婚され、ハバトは喜びからついその求婚を受け入れてしまう。冷静になったハバトは絶望した。 “きっと、求婚した相手が醜い男だとわかれば、自分はセブに酷く嫌われてしまうだろう” そう考えた臆病で世間知らずなハバトは、愛おしくて堪らない英雄から逃げることを決めた。
【堅物な美貌の英雄セブ×不憫で世間知らずな少年ハバト】
※セブは普段堅物で実直攻めですが、本質は執着ヤンデレ攻めです。
※受け攻め共に、徹頭徹尾一途です。
※主要人物が死ぬことはありませんが、流血表現があります。
※本番行為までは至りませんが、受けがモブに襲われる表現があります。
悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる