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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

36、今度は一緒に

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ふわふわと意識が漂う。
少し身体が気怠くて、包む体温があったかくて、身を寄せる。
すりすりと胸に頭を擦り寄せると、キスが降ってきて、蕩けきった僕は幸福感に身を浸し、完っ全っに場の空気に飲まれてた。

僕が手玉に取らねばならないのに!
僕が主導権を握るんだ!!
じゃないと、勝手に僕を除け者にして、僕の幸せを勝手に押し付けられてしまう。

普段は大人で優しいライモンド先生。
しかし、その実情は僕の為ならなんでもやる人だった。
元が暗殺者な分、結構無情な手もあっさり使う。
その結果がエレンである。


「僕。着手金払ったよ」

だから先生の番だよね?と、僕が雇い主なので若干虚勢を張って、強気な顔でライモンド先生に問う。
虚勢を張らないと、自身の恥ずかしい姿を思い出して、ブランケットの中に隠れたくなるからね!

今も雄の顔で僕を見てくるライを前に顔を逸らして、しまいそうになるのを我慢してる。

「分かったわ。約束だものね」

そうニッコリと笑みを浮かべるオネェ言葉のライモンド先生は、レーヴ帝国で出会った優しい困った時は助けてくれるライモンド先生だ。
しかし、これは作られた人格。

ライ自身は結構ドSだ。
昨日の一件で分かった。
ライはドSで意地悪だ。
昔っから、ぶっきらぼうで、ちょっと意地悪だった。



「終わったら約束通り全部もらうから」

大人の色気が漂う優しい表情のライモンド先生がフッと消え、油断してたらライが出て来た。
ライも勿論、優しくはあるが、表情がライモンド先生に比べると乏しく、肉食系で束縛系である。

愛おしげに僕のお腹を撫でて、「次は結腸まで俺を受け入れて。俺だけのメスになって」と、耳元で囁いてくる。

先に言っておくが、僕は男を辞めた訳じゃない。
惚れた弱みと契約で嫁にはなるが、男を辞める気は一切ない。


「さて、俺のご主人様は俺に何を望む?」

俺から逃げるという願い以外なら全部叶えてあげると囁くライ。

おそらく、命令すれば、すべからく実行される。
やり方を指定しなければ、汚い手を使ってでも成功をもぎ取ってくる。

ー 僕が主体で進めないと…

僕は僕の頭をフル回転させて考える。
物語の主軸をぶっ壊す方法はわかってる。
でも、今のエレンを救う方法は分からない。

船の上からエレンを救う方法。
そもそも何でファルハ王は海の上に居るのか?
あの大砲を積んだ船達は何をするつもりなのか。


「ラニちゃん」

ふと、ライが消え、ライモンド先生が姿を現す。
ライモンド先生はちょっと申し訳なさそうに僕の身体の情事の跡を隠すように僕に自身のシャツを着せると、ホットココアを入れて僕に手渡し、情報アドバイスをくれる。

「ファルハ王は海からレーヴ帝国に奇襲を仕掛けるつもりなのよ。その奇襲を合図にレーヴ帝国に潜入していたファルハ奴隷達が暴動を起こす。ファルハの奴隷は想定しているより遥かに多い。一斉に暴動を起こされてはレーヴ帝国であろうひと溜まりもないわ。内側から食い荒らして、疲弊した所に海と陸から更に攻め込む」

「つまり。最初の奇襲を起こさせてはいけないって事?」

「そうね。それを防げれば、先ず暴動は起きない」

出来る大人であるライモンド先生。
そのアドバイスに成程と、僕は一つの解決策を思い付いた。

「そっか。じゃあ、奇襲を防ごう。それなら僕にも出来るね!」

「何をする気なのかしら」

「……………。ライが邪魔しないなら話す。ライモンド先生になら話す」

「警戒の目…。ラ、ラニちゃん。別にライと私は別人じゃないのよ?」

「別人並みに性格が違う」

「 御免なさい。ずっと叶わないと思っていたものだから気持ちが暴走しているのよ。自身をセーブする為にこの口調を取ってるだけ。…ライモンドもライも全部、俺なの」

イマイチ信用性に欠けるが、本人がそういうのでそういう事にしておく。

「反対しない?」

「………契約は守るわ」

「僕はケジメを付けたいんだよ。僕は僕の手で終わらせたい。僕が招いた事だから」

僕がファルハ王を助けたから物語は始まってしまった。だから自分で決着を付けたい。
そう答えれば、ライモンド先生は首を横に振る。

「違うわ。貴方は何も悪くない」

「でも、僕が…」

「聞いて頂戴。貴方は何も悪くないの。ただ相手が悪かっただけ。貴方は悪くないの。レヴァさんが怪我したのも貴方の所為じゃない。貴方は何も悪くないの」

だって、でも、と否定するが、ライモンド先生は夕陽色の瞳で優しく真っ直ぐ見つめて、僕に問いかける。

「じゃあ、貴方は私も助けない方が良かった?」

「違うよっ!」

「私は貴方の歌に助けられたの。貴方の歌が勇気付けてくれたからあの冷たい海の中から生還出来た。他の人も一緒よ」

「でも…」

「ねぇ。ラニ。あの嵐の中で貴方の歌を聞いて、貴方の姿を見ていたのは俺やファルハ王だけじゃない。ファルハ王の側近達だって見ていた。だけど、ファルハ王はローレライがラニだとは知らない。何故だと思う?」

そう問われて、分からなくて首を横に振る。
ライモンド先生、いや、ライは苦笑を浮かべて、僕の頰を優しく包んで言い聞かせるように囁いた。

「忠誠や恐怖より感謝が優ったの。だから、誰も貴方をファルハ王に売らなかった。今だって、彼らは貴方への感謝を忘れてない。モアナから受けた恩を忘れてない。だから…」

コツンっと額と額がくっ付く。
ホロホロと自然と流れる涙を拭い、ライは僕を何処までも肯定する。

「自分を責めないで、否定しないで。貴方の歌は希望の歌。希望の歌なんだよ。俺達の感謝想いまで否定しないで」


あの日の僕は無知だった。
僕の無知の所為で、伯父さんが斬られた。エレンが辛い思いをしている。

「それは俺の罪だよ。俺が君を守りたいと、俺が勝手に重ねた罪。君の気持ちを無視して勝手にだ。君が知ったらどう思うかなんて、考えもしなかった。きちんとエレンには償うよ。約束する」

俺の言葉は信用出来ないかもしれないけどと付け加えて、抱き寄せる。
僕をその夕陽色の瞳で見て、小さく溜息をつく。

「それでもラニは自分を許せないんだよね。だから、自分の手で決着を付けたい」

「うん」

「それで君が自分を許せるなら俺はきちんと契約通り、君が思うままに動いて全て終わらせる。今度は勝手にじゃなく、君と一緒に」

小指と小指を絡めて、約束に約束を重ねていく。
全てを終わらせて、前に進む為に。
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