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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と

24、何時だって、蚊帳の外だ

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なんでこの講堂は辛いことばかり起こるのだろう。

鳶色の瞳のお姉さんは瓶底眼鏡を投げ捨て、女神の像の前でボサボサだった髪を整えると、底冷えするような冷たい視線を僕に向ける。

「ロー、レライ?」

「ここまで来て、とぼけるのですか? ははっ。原作よりも本物の方が卑怯者ですね。バレるのを恐れて原作通り歌う事も拒否しましたからね。歌詞だけ教えて、エレンを自身の身代わりにして、最低ですね」

「本当に何を言ってるの? 僕はただエレンに船乗りの歌を教えてっ…」

「はぁ…。もういいですよ。穏便に行くのは諦めましたから」

グルグル眼鏡先輩があの鳶色の瞳のお姉さんだった。
その事実だけでもう既に心は限界だというのにまるで獲物を痛ぶるように鳶色の瞳のお姉さんは僕をローレライと呼び、卑怯者だと蔑んだ。

ローレライ?
僕が?? 僕は神様なんかじゃないっ!

そう否定しようとしたが、鳶色の瞳のお姉さんが女神の像の頭を倒した瞬間、女神の像が横にずれ、床に階段が現れた。

「これはルトゥフルートでエレンとルトゥフが見つける隠し通路。外に繋がっていて、自国にエレンを攫っていく時に使ってましたね」

「先輩っ、僕はっ…」

「遅かったですね」

ガンッ!!

「あぅっ!!!」

「乱暴ですね。出来るだけ傷物にしないでくださいよ。アサドゥ様の所有物なのだから」

後ろからの衝撃と共に、視界がぐらりっと揺れる。
段々と世界が暗くなっていく。








潮の香りがする。
慣れ親しんだその香りにやっと意識が浮上して、重い瞼を開く。

ズキリッと殴られた頭が痛み、少し目が霞む。
重い身体をゆっくりと起こすと、そこはアラビアンナイトの世界だった。


ー え? 異世界転生??

その光景に僕は目をこすった。
前世の絵本の記憶で見たアラビアンナイトっぽいなーんかいっぱい高そうな布が垂れ下がる天蓋付きのベッドに金食器にペルシャ絨毯(ペルシャって何??)。

あっ、水タバコがある。初めて見た!!


好奇心につい、意識が持ってかれそうになりつつも状況を把握しようと、クッションいっぱいのベッドの上で胡座をかく。

「ゴホッ。ゴホゴホッ」

誰かの咳き込む音がすぐ真横で聞こえて、パッと隣を見る。
隣は布とクッションがこんもり置かれていて、その隙間に疼くまる人影があり、時折、苦しそうに身動ぎ、咳き込む。

「大丈夫?」

あまりにも苦しそうなその姿に自然と声を掛けた。
声を掛けると、ビクリッとその人物は身体を震わせて、ゆっくりと身体を起こし、コチラに顔を向けた。

「なんで…、ラニちゃんがここに」


大きく見開かれたあの空色の瞳が僕を見つめている。
誘拐されたエレンが顔を真っ青にして、今にも泣きそうな顔でそこにいた。

「なんでっ…。だって、ラニちゃんがここに居るはずない。居る筈ないっ…。俺の神様がこんな所に居ていい筈がないんだっ…」

なんで、どうしてと錯乱するエレンの身体は傷だらけで、首にはと手足首には宝石が嵌められた拘束具が付けられている。
服はほぼ紐だけのパンツに全く肌を隠すつもりがないスケスケの布という卑猥な衣装を着せられていた。

その悍ましい欲望が前面に押し出されたその格好に激しい嫌悪感を迫り上がる。
趣味が悪い。エレンになんて格好させてるんだ。

絶対、この衣装を選んだ人と僕はお友達になれないと、ここの持ち主であろう人物に心の中で悪態をつく。

おそらく、この部屋の持ち主は…。


「エレン。落ち着いて。なんとか逃げないと!」

絶対、これ以上この人物に関わってはいけない。逃げよう。今すぐ逃げようと、エレンに立つように促すが、エレンは首を横に振って拒絶する。

「なんで?」

「俺はラニちゃんが幸せで居てほしい。だから、いけない」

「なんで、エレンがここに居たら僕が幸せで居られるなんて話になってるの? よく分かんないけど、お断り申すよ。僕はエレンの不幸を食い物にする気はないよ」

「だけどっ…」

「エレンも幸せじゃないと僕も幸せじゃないからね! 文句は後で聞くよ」

「でも…、俺はもう…汚れてて。これはラニちゃんの為で」

僕の為と頑なにここから逃げようとしないエレンに、僕は訳が分からず、戸惑う。
僕に関する出来事は何時も僕は蚊帳の外なのは何故?

ー なんで…

僕がまだ未熟だから? 子供だから?
グッと唇を噛んで、下を向くとエレンが心配そうに僕の様子を伺う。
2年前はあんなにもべたべたしていたのに、触れようともしない。

それがまた悲しくて、どうやらエレンがこんな目にあっているのは僕の所為なのに自分だけ何も状況が分からないのが情けなくて悔しくて、涙が滲む。

「そんなに僕は頼りない?」

「ラニちゃん。違うよっ! 俺は、俺達はただ…、ただ、ラニちゃんを守りたくて」

「エレンが苦しそうなのは僕の所為なの? 僕がエレンを破滅させようとしてるの?」

そうエレンに向けて発した言葉がエレンを責めているようでまた自分に腹が立つ。


「破滅? これ以上にない名誉の間違いだろう」

部屋の主の声が部屋に響き、僕はその声の主を涙の滲む目で睨んだ。
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