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終章 ロバ耳王子と16歳と約束と
14、やっぱりね
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(エレン視点)
それは幼い頃の初恋だった。
嵐の日にだけ聞こえるその歌に心躍らせて、ただ貴方に近付きたくて、歌い続けた。
何時か。この歌声は貴方に届くと。
また貴方の歌声に会えると信じて。
◇
「音楽祭まで後2日…。どうしよう…」
「何がどうしようなんだ。お前、音楽祭出ないだろう」
音楽祭まで残り少ない日にちを指折りながら数える。
そんな僕を事情を一切知らないフィルはヴァイオリン片手に指摘する。
音楽隊のヴァイオリン奏者として参加するフィルはいつも以上に真面目に真面目を重ねて、部屋に帰らず、音楽室に泊まり込んで練習してる。
「そんなに追い込んで大丈夫なの? なんか練習頑張り過ぎて当日寝込みそう…」
「不吉な事を言うな! 体調管理くらい出来るっ」
フンッと自信満々に鼻を鳴らし、高らかに宣言しつつも、「今日は後5曲で部屋に帰る」とボソリと後になって呟くフィルに苦笑しつつ、フィルのヴァイオリンに合わせて、ふんふんっと鼻歌を歌う。
そんな僕をみて、フィルはフッと笑みをこぼした。
「お前ならこの曲にどんな歌声を添えるのだろうな?」
「僕?」
「ああ。今弾いてる、ここの小節はヴァイオリン奏者と歌い手、2人での掛け合いだ。俺とエレンが2人で奏でる」
「へぇっ! よかったね。フィルはエレンの歌好きだもんね」
エレンの事が好きでエレンの歌を誰よりも愛しているフィル。
感慨深い。だって、頑張ってた結果、好きな人の好きな歌声と共演できるなんて、まるで恋愛小説みたいだ。
…あ、そっか、blも恋愛小説みたいなもんか。
なんか少しフィルの気持ちが報われた気がして、嬉しくて鼻歌を歌う。
そんな僕の様子にプイッと赤らめた頰を隠すように顔を逸らし、隠し入れない嬉しそうな声色で呟く。
「エレンの歌に合わせて弾いてる間は、自分でも驚く程に指が動いて何時もよりもヴァイオリンが上手く弾けているようで楽しい。きっと、エレンの歌声が俺を引っ張ってくれているんだろう」
「うんっ」
「俺もエレンに気持ちよく歌って欲しい。俺の演奏でエレンが何時もより輝けたなら嬉しい。それでふと、エレンと演奏している時に思い出すんだ」
耳の先端まで真っ赤にして、ヴァイオリンに奏でたのはあの寮の近くの茂みで、僕が歌っていたあの歌。
2人で奏でた僕の前世の歌。
「お前とこの曲を奏でたら、また違う音が見えるんだろうなと」
絞り出されるように紡がれたその言葉にじんっと胸の中が熱くなる。
ああ、歌いたくてしょうがない。でも、歌になる前に音は霧散して、その焦燥感と認められた喜びを胸の中に秘めて、少しひねた言葉を返す。
「それをエレンに言えたら、エレンの好感度も少し上がるのに」
「おいっ、人が折角褒めッ」
「ありがとう…」
最近、ちょっとフィルに素直に言葉を返すのには抵抗がある。
なんか恥ずかしいんだ。
2人して、真っ赤になった顔を背けて、なんかそのムズムズした雰囲気に耐えきれなくなって立ち上がった。
「うんっ! もう僕帰るよ」
「そうだな。それがいい、頑張れ」
「帰りにエレンにでも会おうかな。最近、エレンに避けられてるけど」
「安心しろ。俺も練習以外では避けられてる」
「「あははは…。はぁ……」」
謎のハイテンションでその場を乗り切ろうとして、2人して自分で墓穴を掘って落ち込みつつ、部屋を後にした。
「まぁ…。どうせ、逃げられるんだけどね」
そう諦めつつ、エレンを探す。
今日の護衛はエリオットでシルビオは急に入った他の仕事で不在。エリオットは授業の課題が終わらず不在。
久々の1人きりの時間にちょっと寂しいなと思いつつ、中庭を横断する。
すると、中庭にある噴水の水飛沫の音共にメロディだけの歌声が響く。
その歌声にどうせ近付いたら逃げられると思いつつも近づく。
しかし、エレンの歌声は途絶えず、懐かしいメロディに胸の辺りが熱くなる。
側まで行ってもエレンは気付かず、楽譜と文献を手に歌いながら首を傾げてた。
その文献にはモアナ民謡…という文字が見えて、僕は首を傾げた。
「そんな本で調べなくてもモアナの事なら僕に聞けばいいのに」
思わず、付いて出た言葉にビクッとエレンは驚き、パッと顔を上げる。
案の定。エレンは逃げようとした。
しかし、逃げようとして足を滑らして、噴水に落ちた。
それは幼い頃の初恋だった。
嵐の日にだけ聞こえるその歌に心躍らせて、ただ貴方に近付きたくて、歌い続けた。
何時か。この歌声は貴方に届くと。
また貴方の歌声に会えると信じて。
◇
「音楽祭まで後2日…。どうしよう…」
「何がどうしようなんだ。お前、音楽祭出ないだろう」
音楽祭まで残り少ない日にちを指折りながら数える。
そんな僕を事情を一切知らないフィルはヴァイオリン片手に指摘する。
音楽隊のヴァイオリン奏者として参加するフィルはいつも以上に真面目に真面目を重ねて、部屋に帰らず、音楽室に泊まり込んで練習してる。
「そんなに追い込んで大丈夫なの? なんか練習頑張り過ぎて当日寝込みそう…」
「不吉な事を言うな! 体調管理くらい出来るっ」
フンッと自信満々に鼻を鳴らし、高らかに宣言しつつも、「今日は後5曲で部屋に帰る」とボソリと後になって呟くフィルに苦笑しつつ、フィルのヴァイオリンに合わせて、ふんふんっと鼻歌を歌う。
そんな僕をみて、フィルはフッと笑みをこぼした。
「お前ならこの曲にどんな歌声を添えるのだろうな?」
「僕?」
「ああ。今弾いてる、ここの小節はヴァイオリン奏者と歌い手、2人での掛け合いだ。俺とエレンが2人で奏でる」
「へぇっ! よかったね。フィルはエレンの歌好きだもんね」
エレンの事が好きでエレンの歌を誰よりも愛しているフィル。
感慨深い。だって、頑張ってた結果、好きな人の好きな歌声と共演できるなんて、まるで恋愛小説みたいだ。
…あ、そっか、blも恋愛小説みたいなもんか。
なんか少しフィルの気持ちが報われた気がして、嬉しくて鼻歌を歌う。
そんな僕の様子にプイッと赤らめた頰を隠すように顔を逸らし、隠し入れない嬉しそうな声色で呟く。
「エレンの歌に合わせて弾いてる間は、自分でも驚く程に指が動いて何時もよりもヴァイオリンが上手く弾けているようで楽しい。きっと、エレンの歌声が俺を引っ張ってくれているんだろう」
「うんっ」
「俺もエレンに気持ちよく歌って欲しい。俺の演奏でエレンが何時もより輝けたなら嬉しい。それでふと、エレンと演奏している時に思い出すんだ」
耳の先端まで真っ赤にして、ヴァイオリンに奏でたのはあの寮の近くの茂みで、僕が歌っていたあの歌。
2人で奏でた僕の前世の歌。
「お前とこの曲を奏でたら、また違う音が見えるんだろうなと」
絞り出されるように紡がれたその言葉にじんっと胸の中が熱くなる。
ああ、歌いたくてしょうがない。でも、歌になる前に音は霧散して、その焦燥感と認められた喜びを胸の中に秘めて、少しひねた言葉を返す。
「それをエレンに言えたら、エレンの好感度も少し上がるのに」
「おいっ、人が折角褒めッ」
「ありがとう…」
最近、ちょっとフィルに素直に言葉を返すのには抵抗がある。
なんか恥ずかしいんだ。
2人して、真っ赤になった顔を背けて、なんかそのムズムズした雰囲気に耐えきれなくなって立ち上がった。
「うんっ! もう僕帰るよ」
「そうだな。それがいい、頑張れ」
「帰りにエレンにでも会おうかな。最近、エレンに避けられてるけど」
「安心しろ。俺も練習以外では避けられてる」
「「あははは…。はぁ……」」
謎のハイテンションでその場を乗り切ろうとして、2人して自分で墓穴を掘って落ち込みつつ、部屋を後にした。
「まぁ…。どうせ、逃げられるんだけどね」
そう諦めつつ、エレンを探す。
今日の護衛はエリオットでシルビオは急に入った他の仕事で不在。エリオットは授業の課題が終わらず不在。
久々の1人きりの時間にちょっと寂しいなと思いつつ、中庭を横断する。
すると、中庭にある噴水の水飛沫の音共にメロディだけの歌声が響く。
その歌声にどうせ近付いたら逃げられると思いつつも近づく。
しかし、エレンの歌声は途絶えず、懐かしいメロディに胸の辺りが熱くなる。
側まで行ってもエレンは気付かず、楽譜と文献を手に歌いながら首を傾げてた。
その文献にはモアナ民謡…という文字が見えて、僕は首を傾げた。
「そんな本で調べなくてもモアナの事なら僕に聞けばいいのに」
思わず、付いて出た言葉にビクッとエレンは驚き、パッと顔を上げる。
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