上 下
62 / 119
第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

31、ねぇ!?俺を叩く必要あった?(エリオット視点)

しおりを挟む

ー いや、ラニは?

なんでいつの間にかにラニの捜索が中断したのかと殿下を見る。
殿下は崖から落ちたにしてはほぼ無傷に等しいエレンの姿にホッと胸を撫で下ろしていた。
だが、すぐにツンっと澄ました表情になり、ぶっきらぼうにエレンに声をかけた。

「エレン。無事だったか」

そう呼ばれてエレンはこちらに気付き、顔を向ける。
その空色の瞳からは月明かりに照らされた雫がキラキラと絶えず落ちていく。
その膝は血に濡れていて、ここで惨劇が起こった事をありありと伝える。

しかし、頬を紅潮し、その惨劇に悲しんでいるというよりは歓喜に身を震わせているように見えた。

「フィルバート…殿下?」

「エレンっ! エレン、その血はどうした!?」

「…あ。そ、そうだ。そうだ、コレは」

やっと現実に戻ってきたかのようにエレンという先輩は自身の膝にべっとりと付いた血に触れ、顔を真っ青にさせる。

「ラニちゃんがっ! ラニちゃんが崖から落ちてっ、それで、それで…、頭から頭から血がっ!!」

「それで、それでラニはどうしたんだ!?」

今度は悲嘆にくれてブワリッと涙を流す。
べっとりとその先輩の膝につく、その血にサッと血の気が引く。

頭から落ちた?
あの高さから?

2人のやり取りを呆然と見つめていると、パンっと頬を叩かれ、はたと現実に戻される。
容赦なく叩かれた頬を抑えて、キッと叩いた本人を睨むとスッと冷めた紫紺の瞳がこちらを見据える。

「何を呆けてる? 今から情報を聞き出すから聞いたら走って、北方騎士団及び先生方に報告。分かったか?」

先程までは冷静さを欠いていたというのに、ラニが大怪我をしたと知っても冷静なシルビオ先輩。

だが、その冷めた紫紺の瞳の奥にギラギラと何かが燃えている。
今にも誰か斬るんじゃないかっていう危うさを感じて頬の痛みを忘れて、帯刀していた剣の柄に触れた。

「エレン。それでラニはどうしたの?」

「それで…。それでっ…ラニちゃんが歌ってていうから歌って…そのッ」

「……今何処に居る? ラニは居なくなった君を探す為にあの場所に残って崖から落ちる羽目になったんだよ? 早くして。エレンはラニを殺す気?」

「ち、違うっ。それで、ラニちゃんはっ…」

完全にパニックを起こしてる相手を冷たく見下ろし、問い質す。
パニックを起こして支離滅裂になっているエレンという先輩を見下ろすその瞳を厭わしげに細め、溜息をつく。

「ごめんね。落ち着いて、エレン。俺、早くラニラニを保護したいんだ。教えてくれないカナ?」

溜息をつくと、チャラ男の仮面を被ったシルビオ先輩が優しく微笑む。
少し悲しげな笑みを浮かべて、こてんと首を傾げるとジャラリッと耳に付いたピアスが揺れる。

一見、優しそうに見えるその表情にエレンという先輩は少し安心したようで、何度か深呼吸して気分を落ち着かせていた。


「ごめん、シルビオ。ラニちゃんが大変なのに取り乱して」

「んーん。俺の方こそごめんネ。ゆっくりでいいからラニラニの事教えて?」

「ラニちゃんは、ラニちゃんはライモンド先生が保護してくれたんだ」

エレンのその言葉に俺とシルビオ先輩は思わず、顔を見合わせる。なんで、ライモンド先生が崖の下に?

俺達がラニが消えたのを知ったのは少し前で、丁度森を巡回していた騎士に報告してから1時間も経ってない。

教師陣には伝わってたとしてもエレンとかいう先輩が失踪した事が伝わったくらいだろう。
現にまだ、他の教師陣は捜索に加わってはいない。


「何故、ライモンドが?」

そう疑問を溢す殿下にホント、何故なんすかね?と同意する。
ホント。何故、こんな道もない森の中に??

答えを求めて、シルビオ先輩を見るが、シルビオ先輩は今はそこはどうでもいいと首を横に振る。

「ライモンド教授はラニラニを連れて別館に戻ったの?」

「うん。一刻を争うから。エレンは助けを呼ぶからここで待っていて欲しいって。…ごめん。それでもやっぱり、ラニちゃんが死ぬかもって思ったら怖くなって…」

「そっか…。じゃ、取り敢えず、戻ろっか。見つかったって報告しなきゃいけないしね?」

「ご、御免なさい。俺がぬかるみに足をとられて転けて崖から落ちたばかりに…」

「お、落ちた!? エレンも落ちたのか!!?」

「そっかー。それは災難だったねー。………俺はエレンに肩を貸しながら帰るから。エリオット、お前はフィルバート殿下の警護をしつつ北方騎士団に一報入れて来い」

取り敢えず。ラニの所在が判明した事に胸を撫で下ろし、帰路に着いた。

方法騎士団の警備を潜り抜けてのファルハ人(不審者)の侵入に。ファルハ人を倒した謎の糸使い。ラニの容態。

多くの謎と失態を残して失踪事件は幕を下ろしたのだ。



そして、やっと、ラニの姿を確認できたのはそこから10時間後のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

泣いた邪神が問いかけた

小雨路 あんづ
BL
街に根づく都市伝説を消す、それが御縁一族の使命だ。 十年の月日を経て再び街へと戻ってきたアイルは、怪異に追いかけられ朽ちかけた祠の封印を解いてしまう。 そこから現れたのはーー。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

BLゲーの悪役に転生したら予想外の展開でした。

たら
BL
はぁぁん??意味わからない。 【主人公】 前世→腐男子くん 前世は普通に平凡なオタクの腐男子。 周りには萌え系が好きと言っているが腐男子の事は墓場まで秘密にしている。 何故かめちゃくちゃハマってたBLゲームの大嫌いな悪役キャラに転生しててショック。 死んだ訳では無いのに意味わからん状態。 西園寺光輝 (さいおんじ こうき)悪役 超大金持ち西園寺財閥、西園寺家の御曹司。 我儘で俺様でありながら何でも完璧にこなす天才。 そのカリスマ性に憧れて取り巻きが沢山居る。 容姿は美しく髪は濡羽色で瞳は宝石のアメトリン。 ヒロインが攻略キャラ達と仲が良いのが気に食わなくて上手こと裏で虐めていた。 最終的には攻略キャラと攻略キャラ達に卒業パーティーで断罪されて学園を追放される。 ついでに西園寺財閥も悪事を暴かれて倒産した。 【君と僕とのLove学園】(君ラブ) ストーリーとキャラデザ&設定が神すぎる上にボイスキャストも豪華でかなり話題になった大人気BLゲーム。 〜あらすじ〜 可愛い容姿をした超貧乏学生のヒロイン( ♂)がひょんな事から、道端で周りの人間に見て見ぬふりをされて心臓発作で蹲ってたLove学園の学園長を助けてお礼はいらないと言って立ち去った。 優しいヒロインの事が気になり勝手に調査したが、貧乏すぎて高校に行ってない事が分かり編入させるという形で恩返しをした。 そこから攻略キャラ達とラブストーリーが始まる!!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

空から落ちてきた皇帝を助けたら、偽装恋人&近衛騎士に任命されました-風使いの男装騎士が女嫌いの獣人皇帝に溺愛されるまで-

甘酒
恋愛
 夭折した双子の兄に成り代わり帝国騎士となったビリー・グレイがいつものように城内を巡視していると、空から自国の獣人皇帝のアズールが落下してくるところに遭遇してしまう。  負傷しつつもビリーが皇帝の命を救うと、その功績を見込まれて(?)皇帝直属の近衛騎士&恋人に一方的に任命される。「近衛騎士に引き立ててやるから空中庭園から皇帝を突き落とした犯人を捕らえるために協力してほしい。ついでに、寄ってくる女どもが鬱陶しいから恋人の振りもしろ」ということだった。  半ば押し切られる形でビリーが提案を引き受けると、何故かアズールは突然キスをしてきて……。 破天荒でコミュニケーション下手な俺様系垂れ耳犬獣人皇帝×静かに暮らしたい不忠な男装騎士の異世界恋愛ファンタジー(+微ミステリとざまぁ要素少々) ※なんちゃってファンタジーのため、メートル法やら地球由来の物が節操なく出てきます。 ※エブリスタにも掲載しております。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい

佐倉海斗
BL
侯爵家の三男、セシル・アクロイドは『悪役令息』らしい。それを知ったのはセシルが10歳の時だった。父親同士の約束により婚約をすることになった友人、ルシアン・ハヴィランドの秘密と共に知ってしまったことだった。しかし、セシルは気にしなかった。『悪役令息』という存在がよくわからなかったからである。 セシルは、幼馴染で友人のルシアンがお気に入りだった。 だからこそ、ルシアンの語る秘密のことはあまり興味がなかった。 恋に恋をするようなお年頃のセシルは、ルシアンと恋がしたい。 「執着系幼馴染になった転生者の元脇役(ルシアン)」×「考えるのが苦手な悪役令息(セシル)」による健全な恋はBLゲームの世界を覆す。(……かもしれない)

処理中です...