王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

12、これは《イベント》!?

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シルビオが夜会へと出掛け。
王城の方から楽しげな音楽が聞こえ始めた。

その音楽を鼻歌でふんふんと口ずさみ、部屋で見つけた飛び出す絵本にキラキラと目を輝かせていたのだが、なんだかさっきから城の様子がおかしい。

楽しげに流れていた音楽が止み、パタパタと慌ただしく人が駆け回る音がして、何事かと思えば、騎士のお兄さん達が僕の安否確認に数人やってきた。

何があったのか聞けば、お兄さん達は皆、「大丈夫ですよ」と笑顔で返す。
その笑みと返答には聞くなという含みを感じ、僕は拗ねた。

ファルハ王国の事といい、今回の事といい、みんな僕に何も教えてくれない。
教えてくれないのにアレするなコレするな、こうしろは無しだと思う。


騎士のお兄さんは部屋の中でゆっくり寝ていてくださいと言っていたが、拗ねた僕は寝たふりをして、窓から華麗に逃走した。

逃走して何があったかこの目で確認してからシルビオにバレる前に就寝する(シルビオに逃走した事がバレるのはなんか怖いから)。

『ルールはバレない程度に破るもの』

ラニ迷言集78ページ5行目から引用。
ラニ迷言集の通り、バレなければまたオールオッケー!
そう思って、イケイケで逃走していた時期もありました……。


「うぅ…。レーヴの王城は迷路なの?」

スンッと鼻を鳴らし、人っ子一人いない薔薇の迷宮で一人彷徨う。
何故こうなった。このままじゃ、監視様子を見に来たシルビオにバレて怒られるじゃないかと必死に薔薇の塀を伝い、迷宮の攻略を試みる。
だけど、さっきから同じ所をグルグル回っている気がする。

あれ?あのガゼボさっきも見たよね…。
あの馬の形に剪定された木、何度も見たな!?

ー 心が、心が折れそうっ…

しゅんっとロバ耳がペタンと垂れ、眉を八の字に下げる。
だが例え、心が折れたとしても周囲に人が居ない以上、僕はこの薔薇迷宮から出られない。

これはもしかしたら迷子…というよりも遭難かもしれない。


「僕をっ、僕を誰か助けて!? 助けてくださいっ。お願いします!!」

よく考えてみれば、寝巻きにカーディガンを羽織り、その上から更にストールを肩に掛けているが、ちょっと寒い。
このまま外で寝ても死ぬ事はないだろうが、寒さに弱い僕は確実に風邪を引く。

「うぅ…。僕が悪かったってぇ!!」

この叫び(謝罪)はきっとシルビオに届く事はない。
でも、居るんだか居ないんだから分からない神様はきっと聞いている筈だと、藁にも縋りながら叫ぶ。

その叫びも虚しく虚空に消え、もう諦めて膝を抱えて座り込む。
奇跡は…、起こらなかったんだ……。

「うん。まぁ、そういう時もあるよね…」

開き直って、ころんと芝生に寝転がると、星明かりが僕を照らす。
出来るだけ早く見つかりますようにと、星にお願いしながら故郷の星空を思い出す。

街頭のある文明的なレーヴ帝国とは違い、夜は真っ暗なモアナ。
空を埋め尽くす程の星々が瞬き、こぼれ落ちるように流れ星が空に光の線を引く。

ここは街灯がないので暗くて、学園で見る夜空よりも星が瞬いているが、それでもモアナと比べると明るく、星の数も少ない。ここはモアナじゃないから…。


「やっぱり、一人は寂しい」

寂しいから、せめて、夢の中にまたライモンド先生が来てくれないかなと淡い期待を抱き、目を瞑った。



「はっ、はっ…、ゔっ…、ゔぅ…」


パタパタと誰かの足音と苦しそうな息遣い。
やっと感じた人の気配にパッと顔を上げると、誰かが足をもつれさせそうになりながら走ってくる。

闇夜の中に溶けそうな色合いのその人は浅黒い手で口を抑えて地面に蹲ると、嗚咽を上げている。

「ルトゥフ?」

そう声をかけるとギョッとした顔でルトゥフが顔を上げる。
僕の顔を見た瞬間、ポロポロと涙が零れ落ち、絶望が表情に滲む。

「ほっといてくれ…」

相当参っている様子のルトゥフに、やはり夜会で何かあったのだろうかと、まだ見ぬ魔窟に心身共にブルリッと震え上がる。

身体を摩り、どうしようかとチラリと気分の悪そうなルトゥフを見る。

格好はぐるぐるに巻かれ頭より大きなターバンと先の尖った靴が特徴的なアラビアンな服装。
黒い生地には銀糸で見事な刺繍が施されているが、全体的に薄着で僕の格好より寒そう。

「……寒いでしょ。か、掛けなよ」

『号外!!ファルハの王子。レーヴ帝国王城で凍死』という表紙が頭に浮かび、タラタラと冷や汗をかく。

温かなストールとさよならを済ませて、ルトゥフに渡そうとするが、要らないと言わんばかりに目を逸らす。

その態度にちょっとムッとして、隣に腰を下ろすとストールを無理やり掛けて、ルトゥフの口に無理やり指を突っ込む。

「ッ!!?」

「ほら、吐くの手伝うからさっさと吐く」

人差し指を喉の奥に突っ込んで舌の奥の方を押して、吐くのを促す。
ルトゥフが苦しそうに暴れるので、ルトゥフの頭を僕の膝の上に固定して、吐いたものが気管に入らないようにする。

「大丈夫。大丈夫。酔っ払いの世話で慣れてるから。僕の事は気にせず吐いて」

頑なに吐く事を拒絶するルトゥフだったが、うちの父(お酒弱いのに飲みたがって、すぐ体調を崩す)の介抱で手馴れているので僕にかかればちょちょいのちょい。


「本当に…吐かされた……」

顔色は少し良くなったものの蹲ったルトゥフ。まだ調子悪いのかなと顔を覗き込もうとしたらキッと睨まれた。

「ほっといてって言ったよな? 余計なお世話って知ってる?」

ルトゥフの中の何かがプツリッと切れる音が聞こえた気がした。
了承は得るべきだったかと謝ろうとしたが、グルリと視界が周り、眼下に夜空とこちらを見下ろす鳶色の瞳が映る。

「そうやって善人面を振り撒いて、まるで神様にでもなったかのように善人悪人関係なく、考えなしに手を差し伸べて。それで救ったつもりか」

嘲るような笑みを浮かべて、僕の胸ぐらを掴んだ。

…あれ? ちょっと待って!?
思った以上に怒り方が壮大な上に物語の台詞っぽい。
まさか、僕、イベントに巻き込まれてる?!
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