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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と
7、ついにここまで来たか…(遠い目)
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荒れ狂う海の中。
波に乗り、風に乗り、聞こえてくるのはローレライの歌声。
その歌声は跳ねるように踊るように自由に響き、海で遭難したもの達を勇気付ける。
大きな船を呑み込むほどの大きな波で粉々になった船の木片に縋るように情けなく身体を寄せ、刻々と体温が奪われる恐怖の中で見たそれを俺は一生忘れない。
船首に立つ白いヴェールと衣に身を纏った1人の子供。
嵐の中でも輝く宝石のような青い瞳を伏せ、その小さな口から奏でられる希望の歌。
まるでこの世のものではないような神秘的な光景に産まれた時から凍っていた筈の心の臓が震え、激しく脈を打った。
◇
滑らかに舗装された道を馬が馬車を引いて進んでいく。
砂に覆われた祖国と違い緑豊かで鮮やかなレーヴ帝国の街の光景を窓からつまらなそうに眺める鳶色の瞳。
男は綺麗に整えられた黒い髭を撫で浅黒い肘を窓枠についた。
「首尾はどうだ」
男はそう誰の気配もない扉に話しかけた。
すると、扉の窓にスッと人影が映り、ガチャリッと走る馬車の扉が開く。
入ってきた人物は風で靡く、長い栗色の髪をシミのない若々しい白い手で耳に掛けると、男と同じ鳶色の瞳で男を映す。
「上々…。と言いたい所ですが、貴方様の弟君、ルトゥフ様が少々邪魔ですね」
「あの愚弟か。俺を恐れて国から逃げた臆病者が今更、俺に反旗を翻したか?」
「いえ、貴方に殺されないように必死のようですよ。必死過ぎてことを急いだようでして…」
口を手で覆い、クスクスと笑うと栗色の髪の女はスッと紙の束を差し出した。男はその紙の束に目を落とすとハッと鼻で笑い、不要とばかりに紙束を落とした。
「アイツにしては上手くやった方ではないか?」
「この情報を横流しした時期の問題ですね。後1日、遅く出してくれさえすれば、私が危険を犯して動く必要がなかったのですから」
「ハッ!相変わらず、間の悪い奴だ」
バサリッと落とされた紙束には『ファルハ王国からの奴隷名簿』という表紙で飾られ、中には奴隷を買った貴族達の名前がズラリと書かれていた。
そして、貴族の名の最後には『奴隷達はファルハの諜報員。彼等は皆、貧困層で貧困から抜け出す為に奴隷になりすましている』と記されていた。
◇
どんよりとご機嫌斜めな空。
首脳会議に遅刻したファルハ王がやってきた日の空は今にも一雨降りそうな曇り空だった。
モアナではこういう日の空の時は西の海を皆んなじっと眺めてる。
大体、モアナがこういう空の時はモアナの西にある《魔の海》と呼ばれる海域では大嵐で、それを知らずに入ってきた他国の船が海難事故を起こす。
誰かが溺れて死ぬのは可哀想。
友達になれるかもしれない相手が死ぬのはなんか悲しい。
大概、《魔の海》に入る船は領海侵犯、許可を得ずにモアナの領海に侵入してきた船。
それでも何時だって楽しく大勢の人と騒いでいたいモアナの民は酔狂にも暴れ狂う海に助け船を出す。
だからつい、僕も癖で西の方角を眺めてしまう。
でも、今は癖…というより現実逃避をする為に西の方角を眺め、そして、プラン、プランと揺れる自身の手足を見やる。
地面に付かず行き場のない身体がゆらゆらと揺れ、重力で地面に引っ張られてる。
ー ついにここまで来たか…
風を切り、スタスタと僕を運ぶ長い足。
僕達と通り過ぎる生徒は皆、一様に足の持ち主を見て頬を赤らめる。
頬を赤らめる生徒達に騎士の正装に身を纏ったシルビオが微笑みを返す。
「ギャーーッ!!素敵っ!!」
「シャロン嬢っ!?」
「誰かっ!誰か!!シャロン嬢がシルビオ様の笑顔にやられて気絶したぞっ!?」
また1人また1人と何時もの2割増しキラキラしているシルビオを前に絶叫してぶっ倒れていく。
そんな生徒達にビクッと怯えつつ、僕は、ついに僕が歩く事さえ、却下したシルビオを見上げて叫ぶ。
「あ、歩けるよ!?僕、歩けるよッ!!!」
「…………」
「うぅ…。なんで? なんで無言なの…。あれでしょ、お祭りでしょ!? お祭りで迷子になったのは不可抗力だってぇーッ!!」
何を叫んでも答えてくれないシルビオに捕まったのは数分前。
久々にぐっすり寝れて、清々しい朝を迎えたベッドでの事。
まだちょっと眠い目を擦って、少し開けた瞬間、シルビオの顔がドアップであって、僕は朝イチで叫んだ。
状況が全く飲み込めず混乱し、びっくりした拍子に腰を抜かして立てない僕の身体を白い手袋を付けた手で散々弄ると、服を脱がし、テキトーに着せ替えしてヒョイっと僕を小脇に担いだ。
その顔は何時ものように笑顔なのに陰りがあり、雨の降りそうな今のこの空と同じに見えて、心配……というより、なんか怖い。
多分、何か落ち込んでいる様子なのだが、その奇行が怖い。
ー 僕は一体何処に連れて行かれるのだろう…
スンッと鼻を鳴らすと、ピタリッとシルビオが立ち止まり、紫紺の瞳と目が合った。
目が合うと、「はぁ」と軽く溜息をつき、シルビオは自身の身に付けていたマントを外して僕を包むと、公衆の面前で姫抱きの刑に処した。
波に乗り、風に乗り、聞こえてくるのはローレライの歌声。
その歌声は跳ねるように踊るように自由に響き、海で遭難したもの達を勇気付ける。
大きな船を呑み込むほどの大きな波で粉々になった船の木片に縋るように情けなく身体を寄せ、刻々と体温が奪われる恐怖の中で見たそれを俺は一生忘れない。
船首に立つ白いヴェールと衣に身を纏った1人の子供。
嵐の中でも輝く宝石のような青い瞳を伏せ、その小さな口から奏でられる希望の歌。
まるでこの世のものではないような神秘的な光景に産まれた時から凍っていた筈の心の臓が震え、激しく脈を打った。
◇
滑らかに舗装された道を馬が馬車を引いて進んでいく。
砂に覆われた祖国と違い緑豊かで鮮やかなレーヴ帝国の街の光景を窓からつまらなそうに眺める鳶色の瞳。
男は綺麗に整えられた黒い髭を撫で浅黒い肘を窓枠についた。
「首尾はどうだ」
男はそう誰の気配もない扉に話しかけた。
すると、扉の窓にスッと人影が映り、ガチャリッと走る馬車の扉が開く。
入ってきた人物は風で靡く、長い栗色の髪をシミのない若々しい白い手で耳に掛けると、男と同じ鳶色の瞳で男を映す。
「上々…。と言いたい所ですが、貴方様の弟君、ルトゥフ様が少々邪魔ですね」
「あの愚弟か。俺を恐れて国から逃げた臆病者が今更、俺に反旗を翻したか?」
「いえ、貴方に殺されないように必死のようですよ。必死過ぎてことを急いだようでして…」
口を手で覆い、クスクスと笑うと栗色の髪の女はスッと紙の束を差し出した。男はその紙の束に目を落とすとハッと鼻で笑い、不要とばかりに紙束を落とした。
「アイツにしては上手くやった方ではないか?」
「この情報を横流しした時期の問題ですね。後1日、遅く出してくれさえすれば、私が危険を犯して動く必要がなかったのですから」
「ハッ!相変わらず、間の悪い奴だ」
バサリッと落とされた紙束には『ファルハ王国からの奴隷名簿』という表紙で飾られ、中には奴隷を買った貴族達の名前がズラリと書かれていた。
そして、貴族の名の最後には『奴隷達はファルハの諜報員。彼等は皆、貧困層で貧困から抜け出す為に奴隷になりすましている』と記されていた。
◇
どんよりとご機嫌斜めな空。
首脳会議に遅刻したファルハ王がやってきた日の空は今にも一雨降りそうな曇り空だった。
モアナではこういう日の空の時は西の海を皆んなじっと眺めてる。
大体、モアナがこういう空の時はモアナの西にある《魔の海》と呼ばれる海域では大嵐で、それを知らずに入ってきた他国の船が海難事故を起こす。
誰かが溺れて死ぬのは可哀想。
友達になれるかもしれない相手が死ぬのはなんか悲しい。
大概、《魔の海》に入る船は領海侵犯、許可を得ずにモアナの領海に侵入してきた船。
それでも何時だって楽しく大勢の人と騒いでいたいモアナの民は酔狂にも暴れ狂う海に助け船を出す。
だからつい、僕も癖で西の方角を眺めてしまう。
でも、今は癖…というより現実逃避をする為に西の方角を眺め、そして、プラン、プランと揺れる自身の手足を見やる。
地面に付かず行き場のない身体がゆらゆらと揺れ、重力で地面に引っ張られてる。
ー ついにここまで来たか…
風を切り、スタスタと僕を運ぶ長い足。
僕達と通り過ぎる生徒は皆、一様に足の持ち主を見て頬を赤らめる。
頬を赤らめる生徒達に騎士の正装に身を纏ったシルビオが微笑みを返す。
「ギャーーッ!!素敵っ!!」
「シャロン嬢っ!?」
「誰かっ!誰か!!シャロン嬢がシルビオ様の笑顔にやられて気絶したぞっ!?」
また1人また1人と何時もの2割増しキラキラしているシルビオを前に絶叫してぶっ倒れていく。
そんな生徒達にビクッと怯えつつ、僕は、ついに僕が歩く事さえ、却下したシルビオを見上げて叫ぶ。
「あ、歩けるよ!?僕、歩けるよッ!!!」
「…………」
「うぅ…。なんで? なんで無言なの…。あれでしょ、お祭りでしょ!? お祭りで迷子になったのは不可抗力だってぇーッ!!」
何を叫んでも答えてくれないシルビオに捕まったのは数分前。
久々にぐっすり寝れて、清々しい朝を迎えたベッドでの事。
まだちょっと眠い目を擦って、少し開けた瞬間、シルビオの顔がドアップであって、僕は朝イチで叫んだ。
状況が全く飲み込めず混乱し、びっくりした拍子に腰を抜かして立てない僕の身体を白い手袋を付けた手で散々弄ると、服を脱がし、テキトーに着せ替えしてヒョイっと僕を小脇に担いだ。
その顔は何時ものように笑顔なのに陰りがあり、雨の降りそうな今のこの空と同じに見えて、心配……というより、なんか怖い。
多分、何か落ち込んでいる様子なのだが、その奇行が怖い。
ー 僕は一体何処に連れて行かれるのだろう…
スンッと鼻を鳴らすと、ピタリッとシルビオが立ち止まり、紫紺の瞳と目が合った。
目が合うと、「はぁ」と軽く溜息をつき、シルビオは自身の身に付けていたマントを外して僕を包むと、公衆の面前で姫抱きの刑に処した。
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