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第二章 ローレライとロバ耳王子と陰謀と

3、あなたは誰?

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レヴァ。モアナ王国第一王子で次期大王である伯父さんは働く事が苦手で楽しい事が大好きな人だ。

モアナの気質を体現したような自由人で同じく自由人である大王じいちゃんとは違い、国から飛び出してまで遊びに行く事はない。

だけど、他国からの来客が大好きで、誰よりも先に友達になりに行くくらい社交性がずば抜けて高い。
仕事をサボるから身内から冷たい目で見られる事が多いが、その陽気で呑気な性格から恨まれたり、嫌われたりとは無縁の人。

僕の中の第一王子伯父さんはそんな人だ。


「ねぇ。僕の伯父さん、レヴァとファルハ王の間に何があったの?」

別に小難しいしがらみになんか興味はない。
ただ純粋に気になった。
みんなが嫌がるファルハ王の事も全て。

しかし、誰も答えてはくれなかった。
皇子もシルビオもよく口が滑るリュビオでさえも、その口を固く閉ざして、ただ困ったようにこちらを見ているだけ。


「ラニラニ。とにかく、今言える事はファルハの民には近づかないで。街であっても、話しかけられても決して近づいてはダメだからね」

やっと重い口を開いたと思ったら忠告。
理由も何も教えてくれないのにただファルハには近付くなだ。

ー 面白くない…

同盟国の王達が会いたいから呼ばれた筈なのにさして会話もせずにサヨナラだった。
なんだかモヤモヤする。まるで僕だけ蚊帳の外みたいで、気分が悪い。

ムスッとした顔でシルビオを見やるとシルビオは何を考えているのか分からない顔で微笑む。
なんとなく、分かる事はシルビオがこの顔をしている時は何かを企んでいる時。そしてその企みは大概、皇子の利になる事。
そこに皇子の意志が介在するかは別として。


やっぱり、納得いかないなと不貞腐れて頰を膨らませるが、ふと、一つのナイスなアイディアがピコンっとひらめき、パッと皇子を見やる。

「首脳会議って、同盟国内の王様が集まる大《イベント》だよね?」

「あ、ああ。そうだな。首脳会議の時期は街では同盟の友好を祝う祭り、会議中は交流会と称した夜会が開かれる為、平民も貴族も大忙しだな。国を上げてのイベントと言って間違いないな」

「そうだよねっ! じゃあ、僕、もう学園に帰るね」

「は? いや…、別に今日は政務で学業は公欠だぞ。今日はお前も頑張ったからな。頑張った褒美に特別に俺の部屋に呼んでやってもい…」

「うん。分かった。帰るね」

「いや、だからな? ご褒美にお菓子を用意してだな!? いや、お前のモチベーションを上げる為にしょうがなく用意しただけだが、料理長が腕を振るってだな?! お、お前の大好きなプリンもあるぞ!!」

「うん。ありがとう。帰る」

「お前は本当に人の話を聞かないな!?」

「ラニ王子って、結構、頑固ですよね…」

「ラニラニって、フィルっちの性格をきちんと理解した上で断固としてスルーするよね」

皇子は何故かショックを受けているし、なんだか外野はうるさいが思い立ったが吉日。

こんな国を上げての大イベントなんてデートのシチュエーションにもってこいじゃないかっ!
きっと主人公と攻略対象の距離が縮まる《イベント》のひとつだ。

この物語に詳しいグルグル眼鏡先輩ならファルハの王と第一王子伯父さんの間に何があったのか知ってるかもしれない。


そのまま走って学園に帰ろうとして「王族が廊下を走るなっ! 護衛も付けず一人で徒歩で帰るなっ!!」と皇子に説教をされたけど、僕はめげない。

ハブられるなら何気なく輪の中にしれっと入り込めばいい。
説教されるなら次から気をつければいいだけだからねっ!







「たのもーっ!」

バンッと軽快に新聞部の部室の扉を開け、叫ぶ。


時間は丁度お昼休み。

ちょくちょく話を歪曲して突っかかってくる大変面倒なグルグル眼鏡先輩は何時だって新聞部の部室で律儀にお茶菓子を用意して席に座ってる。
先輩もちゃんと授業出てる?って心配になるくらい新聞部に居座っている。

だから、絶対いると言う信頼を持って、ノリノリで調子に乗って叫んだのに、入った瞬間、視界に映ったのは「何だこいつ」と痛い子を見るような目でこちらを見る赤の他人の顔だった。

バンッと扉を閉め、タラタラと冷や汗を流しながらそっと数センチ扉を開ける。
だが、やはり、部屋の中にはグルグル眼鏡先輩居らず、困惑の表情でこちらを見る僕と面識のない先輩が一人居るだけ。

顔が焼けるように熱い。
友達にやる軽ノリを赤の他人にやるなんてイタ過ぎる。
ワッと顔を覆って泣きたくなるのをグッと堪えて、そろりと扉を開ける。

「こ、こんにちは…」

「こん…にちは?」

困惑に困惑を重ねて互いに取り敢えず会釈をした。
暫く、それ以上は何も言えずに呆然と見つめ合っていたが、気不味い空気に耐えられなくなったのか先輩が先に口を開いた。

「あっ、えっと…、何か御用ですか?」

「うぅ…。あのっ、眼鏡先ぱ……いや、新聞部で瓶底眼鏡の先輩にようがあって…。何時も居るから居るもんだと…」

「新聞部の瓶底…。ああ、何時も予約してるあの人か。今日は部屋の予約は入ってないからここには来ないと思いますよ。1日私が借りてますしね」

「え? 予約?? …ここは新聞部の部室じゃないの?」

「いえ、ここは予約制の談話室ですよ。新聞部はあの人1人だから部としては認められてないから部室はないですよ」

「え?ええッ!?」

まさかのここは新聞部の部室じゃないという意外過ぎる事実に驚愕する。
しかも新聞部は1人で新聞部は部活ではないとはこれ如何に?

「ど、同好会?」

「そうなりますね」

「えっと、えっと…。あれ?」

まさかの事実に動揺しつつも一応グルグル眼鏡先輩と面識のあるこの先輩にグルグル眼鏡先輩の居場所を聞こうとしてはたと大事な事に気付く。

僕、グルグル眼鏡先輩の名前すら知らないな!?
学年もクラスも知らない…。
あんなにいっぱい話したのに(ほぼ拉致られて)!!

慌てて「はいっ! 先生」と、パッと手を上げて挙手をする。
すると、困惑しつつも先輩は元々ノリがいいのか「ど、どうぞ」と僕を当てた。

「あの眼鏡の先輩は何年何組ですか?後、名前も知らないので教えて欲しいです」

「えーと、私も彼の事は知りません。ただよくこの部屋を借りるのが彼と私と言うだけでして…。部屋を借りる名簿にも『新聞部』としか記載されてないですから」

先輩は何処か申し訳なさそうに部屋を借りる名簿を僕に見せてくれた。そこには確かに『新聞部』と大きく書いてあるだけ。しかも、今日から5日の間は他の人の名前で予約が埋まっている。

ー あ…。これ、首脳会議中には会えないや…

首脳会議は明日から4日間の開催。
そして、グルグル眼鏡先輩は今日から5日間、この部屋には借りてないので来ない。
来ないって事はこの部屋以外でグルグル眼鏡先輩と会う事はあっちが接触してこない限りない為、会えない。
会った事も見かけた事もない。

丁度、首脳会議中に丸かぶり。グルグル眼鏡先輩に会えないって事は首脳会議中には僕の疑問は解消されない。

「どうしたんたろ?」


その後、学園内を探して、他の生徒達にも聞いてみたが、みんなグルグル眼鏡先輩の居場所もクラスも名前も知る人はいなかった。

あんなに強烈な性格なのに『新聞部(同好会)』で、『瓶底眼鏡』以外の情報は何も。
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