王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

きっせつ

文字の大きさ
上 下
21 / 119
第一章 王子とロバ耳と国際交流と

23、それは幼い我が子を見てるようで…(第三者視点)

しおりを挟む
『モアナの王族ならこのカオスな茶会をぶっ壊してくれる筈』

そんな期待を一身に受けながらラニはラピュセル女公爵と対峙した。

ゴクリと周囲が内心固唾を飲む中、フィルバート皇子がラニを女公爵の前にポンッと押し出す。

「叔母上。こちら、モアナ王国第六十四王子ラニです」

「あら」

「こ、この度は、ご招待ありがとうございますっ。モアナ王国第六十四王子ラニでひゅっ…」

『『『か、噛んだ……』』』

まさかの初っ端からの挨拶で躓くモアナの王子。

その姿に何故だか同盟国の王子達は妙な気持ちになっていた。

まるで初めてのお使いを頼んだ我が子を遠くから見守っているような。
お使いを頼んだものの盛大にすっ転ぶ我が子を助けないように我慢するようなそんな気分。

ごほんっと咳払いをしたラニはフィルバート皇子の服の裾を本人的にはバレないように掴みながら再度口を開く。

「この度はご招待ありがとうございます。アン・ラピュセル公爵。僕はモアナ王国第六十四王子ラニと申します」

「ご丁寧な挨拶痛み入ります。ラニ王子。私、フィルバートの叔母のアン・ラピュセルと申します。どうぞ、今日の茶会を楽しんで行ってください」

今度は噛まずに言えたラニ。
完全に母親の表情になっているラピュセル公爵に見守られながら期待に満ちた笑みをフィルバート皇子に向けている。
どう見ても噛んだのに完全に褒められるの待ちだ。

フィルバート皇子は何時もの調子でツンケンした顔で…。

「噛ん……いや、うん。お前にしては頑張った」

明らかに噛んだ事を指摘しようとしたが、自信に満ちたその深海色の瞳を見て、諦めた。

その言葉にラニはパァッと大輪の花が咲いたかのように頬を綻ばせ、「第一関門突破っ!」と、鼻歌混じりで喜ぶ。

「後はテーブルマナー?」

「私のオススメはリスちゃんのキャラメルケーキよ」

「ふむ、ケーキか…。ケーキの食べ方は?」

「手前の左から食べるんでしょ?ケーキが倒れそうになったら先に倒してから食べるっ!」

「食べてよし」

「やった。美味しそう。…凄いファンシーだけど」

凄く嬉しそうに思春期真っ盛りの男子が嫌がりそうな滅茶苦茶愛らしいケーキを手に取る14歳。
その幼い様相と天真爛漫な性格が相まって、その愛らしいケーキを手に持っていても違和感が一切ない。

ラニはケーキを一口食べる度にラニの深海色の瞳はキラキラと輝かせ、紅潮した頬っぺたが落ちないように手を添えた。
頬っぺたが落ちないか心配する程、美味しかったのか、とても幸せそうな表情でケーキを咀嚼する。

その姿を見ていると、その可愛い見た目を気にして食べるのに難色を示していたこっちが馬鹿らしく思え、あの可愛いケーキが美味しそうに見えた。

「よく考えてみれば、見た目はアレだが、料理自体は美味いよな」

「そうですね。見た目はアレですが、料理の味は一級品ですよね」

この茶会をぶっ壊してくれと思っていた筈なのに、アレ?案外悪くないかもしれないと思い始めた同盟国の王子達。
つい、リスちゃんのキャラメルケーキが気になり、次々とその手に取っていく。

「確かに美味しい」と口々にケーキの感想を漏らしつつも、視線はラニの動向を追っている。


フィルバート皇子とシルビオがラピュセル公爵との世間話で、ラニから視線を外した中。
ラニの視線はケーキからラピュセル公爵から解放され、うさぎちゃんのケーキを持て余す《鉄血》辺境伯へと向けられていた。

その目には好奇心が宿り、その曇りなき眼差しに見つめられた《鉄血》辺境伯は強面で無表情であった顔に若干の戸惑いが見える。

「初めまして。僕は第六十四王子ラニです」

「……レーヴ帝国西、国境の守護とダヴィド領を預かるローグ・ダヴィド辺境伯と申します」 

「ケーキ美味しいですよね。ウサギのケーキも美味しいですか?」

「え、えぇ。ま、まぁ…、そうですな…」

《鉄血》辺境伯は表情はあまり変えないものの声色はとても気まずそうだった。
流石にそこは突っ込んでやるなよ、と見ていた同盟国の王子達は思った。だが、美味しいケーキで気分が最高潮のラニは止まらない。

「このリスのケーキも美味しいですよ。中に香ばしいナッツと爽やかなラズベリーソースが入ってて、飽きずにパクパク食べれます」

「は、はあ。それは美味しそうですな…」

「はいっ!あっ…、ダヴィド辺境伯の分も取ってきますね」

「えっ、いや、私は……」

どうしても美味しさを共有したかったのか、ラニは困惑する《鉄血》辺境伯の分のケーキを取りに走る。しかし、リスちゃんのキャラメルケーキはもうテーブルには無く、売り切れていた。


同盟国の王子達は自身の皿に乗るリスちゃんのキャラメルケーキを見、そして他の参加者の皿にちょこんと乗るリスちゃんのキャラメルケーキを見た。

考える事はみんな一緒だった。


「ない…」

「ラニ王子。私はそのお気持ちだけで結構ですので…」

ついに無表情が解け、目に見えてホッとする《鉄血》辺境伯。
そして美味しさを共有する事をまだ諦めていないラニ。

チラリとフィルバート皇子とシルビオがまだラピュセル公爵と話している事を確認すると自身のリスのキャラメルケーキにフォークを入れる。
一口に切り分けるとフォークに刺し、《鉄血》辺境伯の前に差し出した。《鉄血》辺境伯は目に見えて動揺を示し、その光景を見ていた同盟国の王子達もどよめく。

まさかの手ずから。
そこまでして、《鉄血》辺境伯にその可愛いケーキを食べさせたいのか!?

《鉄血》辺境伯は困惑の表情でフィルバート皇子達の方を見るが、フィルバート皇子達は話が盛り上がってるようでその視線に気付かない。

「ラ、ラニ王子。その…、流石にそれは…」

「美味しいものはみんなで食べるべきって、じいちゃ…いえ、大王も何時も言ってます。…ダメ…ですか?」

フィルバート皇子達の助けを諦めて、なんとかお断りをしようとしたが、とても残念そうに眉を下げ、首をこてんと傾けるラニの姿に罪悪感を覚えたのか…。

「い、いただきます」

「どうぞっ!」

への字に結んでいた硬い口を開いた。


「お、折れた…」

「あの長年に渡って敵国から国境を守ってきた《鉄血》が折れた!?」

同盟国外でも《鉄血》の異名が轟く、西最強の守護者。
その強面と長年に渡り国を守ってきたその功績から一目置かれる《鉄血》辺境伯がモアナの14歳の王子の猛攻に折れた。

「美味しいですか?」

「え、えぇ」

「良かったぁ」

少し恥ずかしそうに周りを気にして可愛いケーキを咀嚼する《鉄血》辺境伯。だが、ちらりとラニの顔を見て、その表情は一変する。


深海色の瞳を細めて、浮かぶのはふわりと花の蕾が綻ぶような笑み。
こんなちょっとした事で幸せそうに愛らしく笑うその姿にゴクリと《鉄血》辺境伯は喉を鳴らした。


「モアナやべぇ」

やはり、モアナを社交場に呼ぶべきじゃないと、その光景を見て、同盟国の王子達は切に思った。



一方、目的が達成出来て満足そうなラニは…。

「何やってるんだ!?」

「げっ、皇子!! ちょ、ちょっと交流を!?」

「阿呆ッ。目を話した隙に…。油断も隙もないな、お前は!!」

「あいたっ!?」

その後すぐにフィルバート皇子に見つかり、頭を叩かれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※現在、加筆修正中です。投稿当日と比較して内容に改変がありますが、ご了承ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました! おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...