王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

第一章 王子とロバ耳と国際交流と

10、それでもプリンは美味しいんだ

僕、ラニはごく平凡な留学生。
友達のそこそこ居る平凡な学生生活を送ってきた。

僕が留学してきた学園はBLゲームの世界観だったけど。僕はモブとしてモブらしく生活してきた……筈なんだけどな。

「いいか、ラニ。王子は国の顔だ。常に王子として国民に恥じぬような振る舞いをせねばならない」

「…………」

「だから…、だからなッ」

平凡なモブである筈な僕を皇子が困惑と少し嫉妬の混じった顔で睨む。そんな皇子に僕も困惑の顔で助けを求めるように見やった。

「膝抱っこは…、膝抱っこはダメだッ。きちんと…きちんと席に座れっ」

「それを僕に言うの？じゃあ、止めてよ。この主人公を止めて！？」

嫉妬から悲哀へ感情が変わり、今にもちょっと泣きそうな皇子が悲痛の叫びをあげた。
主人公に壁ドンかましていた癖に打たれ弱い皇子に「負けないで。僕を助けて！？」と主人公エレンの膝の上で叫ぶ。


平凡なモブだった筈なのにロバ耳が生え、その所為で攻略対象の皇子達とガッツリ関わる羽目になった。
その上、謎展開でこの前、いきなり主人公エレンと友達（強制）になったんだけど。
主人公からのボディタッチが激しい。


「ラニちゃん。ごめんね。後、後、15分だけ…。15分だけ延長で」

「長いよっ。友達は膝で抱っこしないんだよ！？」

「お願い。後、15分だけだからこの幸せを噛み締めさせて」

「何が何だか！？」

膝の上で僕をお人形さんのようにギュッと抱っこしているエレンはとろける笑みを浮かべてご満悦。昼休みが始まってからこんな感じで周囲の視線も痛い。

だって、14歳の思春期真っ只中の男の子がお膝で抱っこされてるんだもんね！
そりゃ、視線も痛いよっ！！

だから今日も今日とて、王子教育に熱を入れようとしていたお節介な皇子にこうやって助けを求めている。

だが、エレンに触ろうとする手が空を彷徨い、何故か文句という形でこっちに助けを求めてくる。

いつもの強気はどうしたの！？


「エ、エレン。その…」

「……フィルバート皇子。俺は貴方が皇子だからといって、この前の事は許しませんっ。恫喝は犯罪ですっ」

「ど、恫喝？」

「違っ！？あれは、あの図書館での件は…、その………、他の男に近付いて欲しくなくて」

皇子に話しかけられた瞬間、不機嫌になり、怖くない睨みをきかせるエレン。
エレンの言葉に目に見えて、しゅんっとする皇子。

どうやらあの図書館での壁ドンは恫喝ととられてしまっているらしい。

凄い空回りの仕方だ。
アプローチが無茶苦茶悪い方向に転がってて、聞いてるこっちが切なくなるっ…。
なんだろう。目から汗がっ…。


これ以上はやめてあげてっ！と心の中で叫ぶが、エレンは相当お怒りのようでムッとした顔で僕を庇うように先程よりギュッと抱きしめる。

「シルビオ以外で初めてできた友達なんですっ。邪魔しないでください」　

「いや、その…俺は」

「僕が友達を作ろうとするたびに相手を睨むのやめてくださいっ。みんな皇子が怖くてシルビオ以外友達になってくれないんです」

「う…」

「……ツンデレと嫉妬が悪い方向に発揮されてる」

「う、うるさい」

「ラニちゃんをいじめないで出さないでくださいっ」

「ご、誤解だっ。これは俺の弟ぶ…」

「大体ズルイですよ。自分はラニちゃんと休み時間ずぅーっと一緒だったんだから俺にも抱っこしていい子いい子する権利がある筈ですっ！」

「抱っこしていい子いい子する権利って何？」


物語の主人公であるエレンに友達が少ないという悲しい事実が発覚したとともに僕を巻き込んで修羅場が繰り広げられている。

後、エレンの僕への扱いが愛玩動物や小さい子を可愛がるソレ。
僕は14歳で思春期真っ只中の男の子なんだけど！？

「エレン…」

「何っ？ラニちゃんっ！」

「僕、14歳だよ？14歳は抱っこしていい子いい子しないんだよ？」

「不満な時に頬をプクッとさせるのカワイイ……。ごめん。後、20分延長で！！」

「増えた！？」

「後、20分、カワイイ成分を吸収させて」

「…カワイイ成分って何？」

こうしてエレンは僕をお昼休み終了ギリギリまで膝抱っこし続けた。

周囲の視線は痛いし。
アプローチがド下手なのか。エレンが鈍感過ぎるのか。攻略対象である皇子は攻略対象であるにも関わらず、主人公に拒否られてガチで落ち込んでる。

空気が最悪な中、エレンの膝の上で食べたプリンはそれでも美味しかった。
食事をするには空気は最悪だったけど、それでも美味しかった。



そして、ロバ耳が生えて三ヶ月過ぎる頃には…。