王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜

第一章 王子とロバ耳と国際交流と

1、《イベント》

「明日には戻るのかな？」


周囲の雰囲気に呑まれ、すっかり安心した昨日の僕は普通に授業を受け、休み時間に図書館で動物の本を開いていた。

混乱の中でもなんだかんだで疑問だったのはこの耳が何の耳かだった。


「よく考えればコレって《イベント》だよな。なら、期間過ぎれば戻る筈」


この国に留学して早2年目。
実はこの不可解な現象の起こる理由だけは分かってる。


「何故かこの国だけ世界線がシュミレーションゲームなんだよね…」

何を隠そう僕は前世の記憶をばっちり持って生まれてきた。

だから僕には分かる。
この国だけblゲームの世界線だと言うことが。



この学園はとある男爵令息と皇子達を中心に回っている。

学園の至る所でとある男爵令息と皇子達とのラブロマンスがおっ始められ、ちょくちょく人智を超えた現象が彼等の周りでは起こる。

男爵令息をやっかむ者が犯罪まがいのイジメを起こしたり。
学園の行事の度に皇子達がトラブルに巻き込まれたり。
何故か皇子達がいきなりショタ化したり大人化したりする。


そう《イベント》だ。

多分、男爵令息が主人公で皇子達が攻略対象。
きっと男爵令息の人生自体がゲームのシナリオで、この学園はゲームの舞台。

そして彼らより二年歳下の僕は男爵令息とも皇子達とも全く関わりのないモブだ。


「《イベント》が終わればストーリーに関係ない僕も自動的に戻るんだ。きっと！！」


そうひとり納得して『動物の耳の不思議』という本を本棚から引き出すと本の隙間から皇子が男爵令息に壁ドンをしているのが見えた。

どうやら男爵令息は今日も攻略に励んでいるらしい。


ケモミミを付けた野郎どもがラブラブしているのをサラッとスルーして席に座る。
本を開けると自分の頭に付いてるケモミミと似ている耳があった。


おお、ロバか！！

犬でも猫でもうさぎでも、なんなら馬でもなくロバ。
きっとモブだからケモミミも定番の動物じゃないんだろう。


そんな暢気なことを考えていた昨日の僕を殴りたい。




「……は？？　まだ《イベント》終わってないの？？？」

鏡に映るぴょこんっと生えているロバの耳を見て、タラタラと冷や汗を流す。

携帯ゲームの期間限定イベントみたいに一ヶ月とか二ヶ月続く《イベント》？
いやいや、ショタ化のやつは一日で元に戻ってたぞ。


嫌な予感をひしひしと感じなから窓の外を恐る恐る見て驚愕した。


え？　ちょっと、待って…。
みんなケモミミ付いてないよ！？

攻略対象の皇子とあの男爵令息が学園内のカフェのテラスで朝食を取っているのが見え、身を乗り出す。

あれ？あの人達も付いていない！！？


「そんな、まさか…」

耳をスカーフで隠して同士ケモミミ仲間を探すが、みんな何事もなかったかのように普通の頭に戻ってる。

僕を残してみんな元に戻ってる。



「あら、ラニちゃん。今日はおしゃれさんなのね。頭にスカーフなんか巻いて」

教室の前まで来たものの一人だけ戻らなかった疎外感とケモミミが一人だけ残ってしまった不安で入れずにいると後ろからポンっと肩を叩かれた。


振り向くと攻略対象の一人。
皇子達のクラス担任のライモンド先生の笑顔があった。


その笑顔を見た瞬間、涙腺が壊れた。

これからロバの耳が生えたイタい存在として生きていくなんて嫌過ぎる。


「ちょ、ちょっと…。何があったのラニちゃん！？」

「うわぁぁあーーんッ。ロバがッ…。ロバが！！！」

「ロバ？　ロバがどうしたのよ！！？」

ついでにライモンド先生はオネェだ。