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きっと一生君には敵わない
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チュンチュンッと鳥の囀りが聞こえる。
そんな囀りを聞きながら俺は読書すら許されず、大人しく寝てろと寝室に押し込まれていた。
あの誘拐事件から三日間。
俺は高熱にうなされて、こんこんと寝込み続けた。
一日目は、「ツェーンさ、死んじゃうっ。」と泣きじゃくるティモとティモの保護者枠のレナードの怖い顔に見守られながら。
二日目は、やっぱり「ツェーンさ、死んじゃうっ。」と泣きじゃくるティモと二度と私を護衛から外すんじゃないっとブチギレながらもすりりんごを用意する一号に見守られて。
三日目は…、三日目は母と妃達から侍従、公爵達と知る限りの全員が集合して寝込んでるのに説教大会だった。
やっと熱も引き始め、周囲の怒りも収まり始め、「折角、ゆっくり出来るんだから本でも読もうか。」と本に手を伸ばしたら三号に没収されて「寝てなさい。」と言われて今に至る。
元兄王子達はあの後、全員牢屋行きになり、何故かガチギレした国王陛下に本気で打首にされそうになったらしい。…が、全員の妃から「こうなったのも息子の間違いを正す事なく、国外追放を言い渡したお前にも問題がある。」と叩かれ、いい歳こいた大人がガチ泣き。彼らの処遇については第一妃が正当な判断を下すらしい。
「これでひと安心ですね。」
そう王配教育のあるティモの代わりに看病と称して俺の見張り役を買って出ているレナードがスッキリしたような顔でニッコリと笑った。
「ご安心を。実の息子だからと手心加える方ではないので。」
「………ソレハ、安心デスネ。」
それが一番困るんだ。
結局、人攫いにあった元第四王子以外お縄になってしまったので、王位を押し付ける相手がもうこの国には居なくなってしまった。
ー 元第四王子に賭けるか?
しかし、問題はもう元第四王子がヴェレ王国の隣接する国の何処にも居ないという事。
元兄王子達の中でも色々とやらかして、更に重い罪を背負う事になったツヴァイの証言によると、闇社会の人間を雇う為に奴隷商人に売っ払ったとの事。
そしてその売っ払った奴隷商人はもう既にヴェレのある大陸からこの大陸で得た奴隷を連れて海を渡ってしまったらしい。
何処の大陸でどの国に売られてしまったのか経路はまだ掴めず、元第四王子を見つけるにはかなりの時間を有する。それこそ俺が卒業して、ティモと結婚する二年後までには見つかるかどうか。
ー 間に合わないだろうな。下手したら俺の即位にも…。
全てが本当に振り出しに戻ってしまった。
いや、振り出しよりももっと酷い。
止まらない溜息を聞きながらレナードは何だか楽しそうに微笑む。…何故。
「王様になれば良いじゃないですか。……案外、兄王子達にこき使われてた時よりも楽な仕事かもしれませんよ? 」
「何時から俺が国王になりたくないと分かってた…。」
「異動になった初日に殿下とティモ様の話は粗方聞かせて頂きましたし、これまでの行動を見てれば分かりますよ。」
あの三人も勿論知ってます、そうサラッと涼しい顔で言いのけるレナード。
レナードはチラリと寝室の少し空いた扉の隙間から何かを見やるとフッと笑みを溢した。
「ツェーン殿下。私はこの国の中で誰よりも殿下が王に向いていると思います。勿論、無理強いは致しません。……しかし、私は一度おなりになって、それでも嫌だと思ってからでも王位から逃げるのは遅くないのではないかと愚考します。」
「…なったら逃げられると思う? 」
「嫌なら逃して差し上げますよ。殿下もティモ様も二人とも一緒に。」
ツテはありますからと頼もしくレナードは言い切る。未だにレナードは侍従と何を兼任してるか教えてくれないし、侍従になる前の職業は教えてくれない。
そんな疑問に一切答えず、口元に立てた人差し指を付けてニッコリと笑うと、レナードは扉をゆっくり開け、扉の前で待っていた人物と入れ替わりで出て行った。
「ツェーン。」
扉を潜るか潜らないかの所で、ぐすんっと鼻を啜り、元気がないワンコが一匹。
そのワンコは三日の看病後、自室での就寝を言い渡されて寂しくて元気がない。
俺は絶対に今のティモと目を合わせない。
何故なら目を合わせたら最後、俺が折れるしかなくなってしまうから。
「どうして。一緒さ、寝ちゃ駄目なの? 」
「………風邪が…、うつるから。」
「風邪さ、他人にうつした方が治りさ、早いって三号さ、言ってた。いっぱいチュウさ、したら治るって……。」
「それが…問題なんだよ、ティモ。」
ティモが俺の事をラブの意味で好いていて、この婚約をフリではないと自覚してから、ただでさえ、不整脈が止まらず、ティモの顔がまともに見れない。
それなのに『キスで子供が出来る』と思っていた純粋なティモに三号と二号が余計な事を大量に吹き込んでくれたのだ。
『伴侶たるもの最低でも朝昼晩合わせて三回は口にキスは当たり前ですよ、ティモ様。』
『病気の時、一番効くのは愛情です!! 二人で病気も分かち合えば早く治るってものですッ。薬師の私が言うんだから間違いありません!! 』
あの妄想トリオ二号と三号は、お引き取りではなく、強制送還した方がいいかもしれない。いや、しよう。
そんな余計な事を考えているとグスグスと泣くティモの声が耳に入り、条件反射で振り返ってしまった。
涙で潤む焦げ茶の瞳と目を合わせてしまえば、もう良心の呵責に耐えきれず、グッと唇を噛んだ。
「俺とチュウするさ、嫌? 」
「そ、れは……。」
なんて事聞くんだこの天然は。
その言葉に頭を抱える。
嫌だったらな。もっと話は簡単だったんだよ、ティモ。
涙に濡れるティモの唇を見て、自身の唇に触れる。
それだけでティモの案外柔らかかった唇の感触を思い出して、ゾクッと身体に甘く痺れるような感覚が走る。
ティモとのキスはとっても気持ちがいい。
拙く少し唇をくっつける程度のキスなのに胸が高鳴って、頭がふわふわする。
流石に俺はお子様ではないので自身が今、ティモにどんな感情を抱いているのか分かってる。お子様じゃないからよく分かってる。
だからこそ今の状態が良くない事も分かってるんだ。
俺はティモに婚約者のフリを頼んだつもりだった。しかし、ティモはあの随分と身勝手な告白を間に受けて、真摯に向き合ってくれていた。例え、騙す気なんて一切なかったとしても今の状態はティモを騙してるのと同じ。
「ティモ…俺はっ、……んっ。」
謝罪の言葉を紡ごうとした口が塞がる。
涙に濡れたティモの唇がふにっと重なり、腰と後頭部に腕が回る。
時が止まってしまったんじゃないかと思う程、長いキスをするとぎゅうぎゅうとティモは抱きつき、俺の方に顎を乗せて密着した。
「俺は大好き。ツェーンさ、チュウするのも。ぎゅうってするのも。撫でるのも。撫でられるのも。一杯さ、したい。」
耳元でそう囁かれると、囁かれた耳が熱を持ち、その熱は身体全体に広がる。身体から力が抜けてベッドに倒れると、また唇が重なる。
言いたかった言葉も溶けてしまいそうな程、キスの雨が降り続け、思考までトロリと溶けていく。
見下ろす焦げ茶の瞳は熱を孕み、その手は愛おしげにキスで濡れた俺の唇を撫で、またキスを落とそうと俺の頬に添えられる。
「……俺、馬鹿だから難しい事さ、分からない。でも、ツェーンさ、隣、いる為ならいっぱい勉強さ、する。だから…、ずっと一緒さ、良い。もう一人さ、帰させないで。」
「んっ…、ティモ。俺っ……んんっ。んっ。」
この天然は謝罪すらさせてくれないらしい。
それはとっても必死で真っ直ぐで、待ってる答えは謝罪ではなく、ただ一言。
しかし、拙いキスの癖にその一言すら返す余裕もなく、唇を重ねてくるので、ガッとティモの後頭部を掴み、深く唇を重ねた。
「ふぁ!? ツ、ツェーンの舌さ、く、口の中に!!? 」
ボッと顔を真っ赤にしてぴょんっと後退するティモ。
そんな姿に自分してはとんでもなく大胆な事をしたな、と羞恥に駆られるのを我慢して、ティモの肩を掴んだ。
「俺も…ティモとずっと一緒がいい。」
言いたい事はいっぱいあった。
誤解させた事を謝りたかったし、もっと上手く自身の気持ちを伝えたかった。
「……離れたくない。」
それはティモにとっては幸せではないかもしれない。
第一妃曰く、血を吐く様な努力をこれからも続けなければいけないし、政務だって、こなさなければいけなくなる。
今まで以上に忙しくなるし、純粋なティモを利用しようとする輩も出てくるかもしれない。
それでも……。
「やったぁ。ツェーンさ、大好き!! 」
欲しかった言葉をもらえて、ブンブンと幻影の尻尾を振り、抱きつき、スリスリと頬擦りして、溢れんばかりの喜びを表現する。
そんな不安や罪悪感や心配すらどうでもよくなってしまう程、単純で純粋で真っ直ぐ。
「敵わないな、ティモには。」
身を預ければ、ふわりと香るティモの匂いが肺を満たす。
ティモと一緒に居た時間は五年前を合わせても一年にも満たない。それなのにその匂いがそばに居るのは当たり前で今や、潮風の匂いよりも安心する。
「ティモ。俺と結婚してくれる? 」
前にも口にした言葉なのに、こもる意味合いが違えば、湧く感情も変わってくる。
少し不安になってティモの顔をチラリと見ると何処までも素直で天然なティモは百パーセントの好意を乗せて、満面の笑みで応えた。
Fin
そんな囀りを聞きながら俺は読書すら許されず、大人しく寝てろと寝室に押し込まれていた。
あの誘拐事件から三日間。
俺は高熱にうなされて、こんこんと寝込み続けた。
一日目は、「ツェーンさ、死んじゃうっ。」と泣きじゃくるティモとティモの保護者枠のレナードの怖い顔に見守られながら。
二日目は、やっぱり「ツェーンさ、死んじゃうっ。」と泣きじゃくるティモと二度と私を護衛から外すんじゃないっとブチギレながらもすりりんごを用意する一号に見守られて。
三日目は…、三日目は母と妃達から侍従、公爵達と知る限りの全員が集合して寝込んでるのに説教大会だった。
やっと熱も引き始め、周囲の怒りも収まり始め、「折角、ゆっくり出来るんだから本でも読もうか。」と本に手を伸ばしたら三号に没収されて「寝てなさい。」と言われて今に至る。
元兄王子達はあの後、全員牢屋行きになり、何故かガチギレした国王陛下に本気で打首にされそうになったらしい。…が、全員の妃から「こうなったのも息子の間違いを正す事なく、国外追放を言い渡したお前にも問題がある。」と叩かれ、いい歳こいた大人がガチ泣き。彼らの処遇については第一妃が正当な判断を下すらしい。
「これでひと安心ですね。」
そう王配教育のあるティモの代わりに看病と称して俺の見張り役を買って出ているレナードがスッキリしたような顔でニッコリと笑った。
「ご安心を。実の息子だからと手心加える方ではないので。」
「………ソレハ、安心デスネ。」
それが一番困るんだ。
結局、人攫いにあった元第四王子以外お縄になってしまったので、王位を押し付ける相手がもうこの国には居なくなってしまった。
ー 元第四王子に賭けるか?
しかし、問題はもう元第四王子がヴェレ王国の隣接する国の何処にも居ないという事。
元兄王子達の中でも色々とやらかして、更に重い罪を背負う事になったツヴァイの証言によると、闇社会の人間を雇う為に奴隷商人に売っ払ったとの事。
そしてその売っ払った奴隷商人はもう既にヴェレのある大陸からこの大陸で得た奴隷を連れて海を渡ってしまったらしい。
何処の大陸でどの国に売られてしまったのか経路はまだ掴めず、元第四王子を見つけるにはかなりの時間を有する。それこそ俺が卒業して、ティモと結婚する二年後までには見つかるかどうか。
ー 間に合わないだろうな。下手したら俺の即位にも…。
全てが本当に振り出しに戻ってしまった。
いや、振り出しよりももっと酷い。
止まらない溜息を聞きながらレナードは何だか楽しそうに微笑む。…何故。
「王様になれば良いじゃないですか。……案外、兄王子達にこき使われてた時よりも楽な仕事かもしれませんよ? 」
「何時から俺が国王になりたくないと分かってた…。」
「異動になった初日に殿下とティモ様の話は粗方聞かせて頂きましたし、これまでの行動を見てれば分かりますよ。」
あの三人も勿論知ってます、そうサラッと涼しい顔で言いのけるレナード。
レナードはチラリと寝室の少し空いた扉の隙間から何かを見やるとフッと笑みを溢した。
「ツェーン殿下。私はこの国の中で誰よりも殿下が王に向いていると思います。勿論、無理強いは致しません。……しかし、私は一度おなりになって、それでも嫌だと思ってからでも王位から逃げるのは遅くないのではないかと愚考します。」
「…なったら逃げられると思う? 」
「嫌なら逃して差し上げますよ。殿下もティモ様も二人とも一緒に。」
ツテはありますからと頼もしくレナードは言い切る。未だにレナードは侍従と何を兼任してるか教えてくれないし、侍従になる前の職業は教えてくれない。
そんな疑問に一切答えず、口元に立てた人差し指を付けてニッコリと笑うと、レナードは扉をゆっくり開け、扉の前で待っていた人物と入れ替わりで出て行った。
「ツェーン。」
扉を潜るか潜らないかの所で、ぐすんっと鼻を啜り、元気がないワンコが一匹。
そのワンコは三日の看病後、自室での就寝を言い渡されて寂しくて元気がない。
俺は絶対に今のティモと目を合わせない。
何故なら目を合わせたら最後、俺が折れるしかなくなってしまうから。
「どうして。一緒さ、寝ちゃ駄目なの? 」
「………風邪が…、うつるから。」
「風邪さ、他人にうつした方が治りさ、早いって三号さ、言ってた。いっぱいチュウさ、したら治るって……。」
「それが…問題なんだよ、ティモ。」
ティモが俺の事をラブの意味で好いていて、この婚約をフリではないと自覚してから、ただでさえ、不整脈が止まらず、ティモの顔がまともに見れない。
それなのに『キスで子供が出来る』と思っていた純粋なティモに三号と二号が余計な事を大量に吹き込んでくれたのだ。
『伴侶たるもの最低でも朝昼晩合わせて三回は口にキスは当たり前ですよ、ティモ様。』
『病気の時、一番効くのは愛情です!! 二人で病気も分かち合えば早く治るってものですッ。薬師の私が言うんだから間違いありません!! 』
あの妄想トリオ二号と三号は、お引き取りではなく、強制送還した方がいいかもしれない。いや、しよう。
そんな余計な事を考えているとグスグスと泣くティモの声が耳に入り、条件反射で振り返ってしまった。
涙で潤む焦げ茶の瞳と目を合わせてしまえば、もう良心の呵責に耐えきれず、グッと唇を噛んだ。
「俺とチュウするさ、嫌? 」
「そ、れは……。」
なんて事聞くんだこの天然は。
その言葉に頭を抱える。
嫌だったらな。もっと話は簡単だったんだよ、ティモ。
涙に濡れるティモの唇を見て、自身の唇に触れる。
それだけでティモの案外柔らかかった唇の感触を思い出して、ゾクッと身体に甘く痺れるような感覚が走る。
ティモとのキスはとっても気持ちがいい。
拙く少し唇をくっつける程度のキスなのに胸が高鳴って、頭がふわふわする。
流石に俺はお子様ではないので自身が今、ティモにどんな感情を抱いているのか分かってる。お子様じゃないからよく分かってる。
だからこそ今の状態が良くない事も分かってるんだ。
俺はティモに婚約者のフリを頼んだつもりだった。しかし、ティモはあの随分と身勝手な告白を間に受けて、真摯に向き合ってくれていた。例え、騙す気なんて一切なかったとしても今の状態はティモを騙してるのと同じ。
「ティモ…俺はっ、……んっ。」
謝罪の言葉を紡ごうとした口が塞がる。
涙に濡れたティモの唇がふにっと重なり、腰と後頭部に腕が回る。
時が止まってしまったんじゃないかと思う程、長いキスをするとぎゅうぎゅうとティモは抱きつき、俺の方に顎を乗せて密着した。
「俺は大好き。ツェーンさ、チュウするのも。ぎゅうってするのも。撫でるのも。撫でられるのも。一杯さ、したい。」
耳元でそう囁かれると、囁かれた耳が熱を持ち、その熱は身体全体に広がる。身体から力が抜けてベッドに倒れると、また唇が重なる。
言いたかった言葉も溶けてしまいそうな程、キスの雨が降り続け、思考までトロリと溶けていく。
見下ろす焦げ茶の瞳は熱を孕み、その手は愛おしげにキスで濡れた俺の唇を撫で、またキスを落とそうと俺の頬に添えられる。
「……俺、馬鹿だから難しい事さ、分からない。でも、ツェーンさ、隣、いる為ならいっぱい勉強さ、する。だから…、ずっと一緒さ、良い。もう一人さ、帰させないで。」
「んっ…、ティモ。俺っ……んんっ。んっ。」
この天然は謝罪すらさせてくれないらしい。
それはとっても必死で真っ直ぐで、待ってる答えは謝罪ではなく、ただ一言。
しかし、拙いキスの癖にその一言すら返す余裕もなく、唇を重ねてくるので、ガッとティモの後頭部を掴み、深く唇を重ねた。
「ふぁ!? ツ、ツェーンの舌さ、く、口の中に!!? 」
ボッと顔を真っ赤にしてぴょんっと後退するティモ。
そんな姿に自分してはとんでもなく大胆な事をしたな、と羞恥に駆られるのを我慢して、ティモの肩を掴んだ。
「俺も…ティモとずっと一緒がいい。」
言いたい事はいっぱいあった。
誤解させた事を謝りたかったし、もっと上手く自身の気持ちを伝えたかった。
「……離れたくない。」
それはティモにとっては幸せではないかもしれない。
第一妃曰く、血を吐く様な努力をこれからも続けなければいけないし、政務だって、こなさなければいけなくなる。
今まで以上に忙しくなるし、純粋なティモを利用しようとする輩も出てくるかもしれない。
それでも……。
「やったぁ。ツェーンさ、大好き!! 」
欲しかった言葉をもらえて、ブンブンと幻影の尻尾を振り、抱きつき、スリスリと頬擦りして、溢れんばかりの喜びを表現する。
そんな不安や罪悪感や心配すらどうでもよくなってしまう程、単純で純粋で真っ直ぐ。
「敵わないな、ティモには。」
身を預ければ、ふわりと香るティモの匂いが肺を満たす。
ティモと一緒に居た時間は五年前を合わせても一年にも満たない。それなのにその匂いがそばに居るのは当たり前で今や、潮風の匂いよりも安心する。
「ティモ。俺と結婚してくれる? 」
前にも口にした言葉なのに、こもる意味合いが違えば、湧く感情も変わってくる。
少し不安になってティモの顔をチラリと見ると何処までも素直で天然なティモは百パーセントの好意を乗せて、満面の笑みで応えた。
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