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九人の阿呆達
しおりを挟む…………。
………………。
「………きろ。」
「で……おきろ。」
「出来損ないッ。さっさと起きろッ!! 」
バシャンッと水を掛けられて、意識がハッと浮上した。
起きたばかりで状況がよく分かってない所に金色の瞳達が俺を睨んでいるのがフッと視界に入ってきて、一瞬叫び掛けた。
ー そうだ。捕まったんだったな。
取り敢えず、濡れた顔を拭おうとするが、手がキツく柱に括り付けられていて、動かせない。よく見ればご丁寧に両足も縛られていて、身体はほとんど動かせない。
「根汚い奴めッ。この俺に手間を掛けさせるとは出来損ないの癖にいい度胸だ。」
金色の瞳を三日月型に歪めてニタリと笑う元第二王子ツヴァイがパシンッと俺の頰を叩いた。
じんじんと赤らむ頰の痛みを感じながらこの元第二王子のせっかち具合に内心、溜息をついた。
薬品を嗅がされて、ぐっすりだったんだからしょうがないだろ。
まだ眠くて、くわっと欠伸すると、ニタニタ笑っていたツヴァイの顔が怒りで真っ赤に染まる。…だから、薬品で寝てたからしょうがないだろ。せっかち過ぎるよッ。
喧嘩っ早いツヴァイは無視して、さっさと用件を話そうと口を開き、八人の元兄王達を見た……が、………。
ん? ……あれ??
一人足りないのは気の所為か??
元兄王子達は左から番号順に横並び。
左から元第一王子、元第二王子、元第三王子。一つ飛ばして、元第五王子……あれ??
もう一度数えるが、何度数えても元第三王子と元第五王子の間の元第四王子がいない。
「元第四王子は一緒じゃないんだ? 」
そう言葉を溢すとスッとツヴァイ以外の元兄王子が目を逸らした。
そ、逸らすなよ。
何が…、元第四王子に何があったんだ!?
「お前の所為だぞ。」
ふんっと鼻を鳴らして、何がおかしいのかにったりと笑うツヴァイ。
俺を責めるように高圧的な態度を取る。
「お前が俺達を嵌め、浮気ごときで国外追放なんてするからフィーアは人攫いにあったんだよ!! 」
その言葉に衝撃を受け、一瞬固まる。
ちょっと気になったから用件の前に聞いたが……。
ダメだ。突っ込み所が多すぎる。
何で勝手に失墜してったのに俺が嵌めた事になってんの?
しかも元第四王子、国外追放されてからまだ一ヶ月経つか経たないかなのに人攫いにあったのかよ。どんだけ治安の悪い所に居たんだ、アンタ達。
「…ひ、被害届は出したの? その国の警備隊に相談は? 」
「ひがいとどけ? 何だそれは?? 」
やっと衝撃が止み、まさかと思って聞いたら、被害を届けるという概念がそもそも元兄王子達の中にはないときた。生まれてこの方、何も手続きや何かしなくても、文句一つ言えば周りが動く環境にいた弊害だろう。
「……その件については後程、俺が手続きします。」
頭が痛くなるのを我慢して言葉を何とか紡ぐ。
用件に入る前にまさかの爆弾(面倒ごと)を投下されて頭がクラクラする。
俺はここに一体何しに来たんだ……。
ツヴァイ以外の元兄王子達は、俺の言葉に任せたと言わんばかりに頷く。……いや、任せちゃうんだ……。これから失脚させようとしてる相手だぞ、俺は。
「くしゅんっ。」
おまけに水を掛けられた所為かくしゃみが止まらない。
頭の痛みとくしゃみ……これは、ストレスか? それとも風邪か?
そんな事が頭を巡り、フルフルと頭を振る。
今、考えるべきはそこじゃない。
元兄王子達にどうにか王位を押し付けと、彼等の計画の舵を自ら取る事。
ティモに危害を加えようなんて思う前に俺が俺を失脚させる為の計画を提案する。
さっさと終わらせようと口を開くが、不意に元第九王子ノインが手を挙げた。……また謎の挙手制!!
「ツェーンッ。俺は正直、王座なんてもうどうでもいいッ。頼むから…、頼むからッ、オフィーリアをっ、オフィーリアを止めてくれッ!! 」
そう叫んでガタガタと震え出すノイン。
あまりに切羽詰まったその叫びに思わずブルリッと俺も震える。……場所は特定されてたが、もう何かあったのか!?
「オフィーリアは…、オフィーリアはっ!! 行く先々で俺の前に現れて全力で追いかけてくるんだ…。どんなに逃げても気付けば後ろにいて…それで…それで……。」
比喩ではなく、本当に地獄の果てまで追い掛けるつもりのオフィーリア。
そして『それで…。』の後が、恐怖で言葉が出てこないノインの姿に更に恐怖を増す。…ホラーだ。
しかし、どんなに懇願されようとそれは俺の力ではどうにもなりそうにない。オフィーリアの行動は父親であるジレーネ公爵でも予測不能。追い掛けるのを止めさせても、きっと違う方法で追い詰めるに違いない。
その事実を告げようと口を開くが、今度は元第一王子と元第三王子が手を挙げた。ええぃっ、なんだその挙手制はッ!! 流行ってんのか!?
「ノインはさておき、俺達の要求はお前が王位継承権一位を退き、私達を元の地位に戻す事だ。」
「僕達の要求を飲めば、生かしてあげるよ。……元からお前は僕達の言う事は絶対だったんだから余裕でしょ? 」
やっと、話が元に戻ったと内心、安心して、俺の考えを口にしようとした瞬間、ツヴァイが手を挙げた。お前もかッ。
「お前達はぬるいんだよ。言う事聞かすのはこうやってやるんだよ、オラ。」
危なそうな笑みを浮かべてツヴァイが手の縄を柱から外し、乱暴に押し倒すと覆い被さり、首筋に噛み付いた。
「いっ!? は??? 」
首筋に歯形をつけると、訳が分からず目が点になってる俺のズボンと下穿きを脱がせて、内腿を撫でた。………は??
「こーゆーのは身体に分からせた方が手っ取り早いんだよ。痛みと快楽を身体に叩き込んだ方が、言う事を聞きやすい。」
ツヴァイが何を言っているかちょっと理解出来ず、固まる。
その時、ロランの『突如、性的に襲われた時にどう対処するべきか? 』の授業? が頭に浮かんだのは何故だ。いや、絶対違うって。
混乱して周囲を見るとツヴァイ以外の元兄王子達は青褪めている。彼等にとっても想定外だった様子。
「……いや、ツヴァイ。流石にそれは。」
「煩い。俺はお前達みたく甘くないんだよ。……それにお前、男が好きなんだろ? 自分付きの侍従を婚約者にするくらいにな。」
シャツの下から手を滑り込ませ、胸の突起を痛いくらい強く摘む。
自身が置かれている状況を突きつけられて、サッと血の気が低く。
「お前は俺の言う事を聞いてりゃいいんだよ。従順に俺に従い、俺だけを見てればいい。なぁ、ツェーン? 」
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