21 / 27
きっと逃げられない
しおりを挟む
「それ、姉様から。……ホントに会うつもりなの? 」
その呆れたロランの表情にはて? と首を傾げると、眉間に皺を寄せた。
「そいつらはアンタの功績を横取りし続けて、利用し続けた相手だって人伝てで聞いたんだけどって、言ってんの。」
不機嫌そうにボフンッとベッドに座ると足を組み、何気なくまだ床に寝転がるティモを踏んだ。…いや、踏むなよ。
慌ててそこそこ重いティモを引き摺り、ゼーゼーと息を上げながらベッドに戻し、折り畳まれた紙を開くと可愛い丸文字で彼等の居場所とその情報の提供者の名が綴られている。
『オフィーリア・ジレーネより』
オフィーリアは第九王子ノインの元婚約者で、ロランの姉。俺にとっては従姉妹で、元将来の義姉だ。
彼女は婚約破棄してから、この国には居らず、隣国にいるらしい。
理由は「この海のカナリアと呼ばれた私を裏切るなんてあり得ないッ。あの男…、地獄の果てまで追い掛けてやる。」…だそうだ。
何故ジレーネなのにそこはセイレーンではなく、海のカナリアなのか?
そして婚約破棄の時も思ったが、この令嬢はなんだか怖い。
その言葉に思わず、「ノイン。捕まるなよ…。」と初めて、ノインに同情を寄せてしまった。自業自得なのに。
思い出しただけでも身体がガクブルと震える。
いや、そもそも女性恐怖症が治ってないのもあるかもしれないが…。
情報を読み終わるとロランがまた一つ溜息をついて、俺から紙を奪うとビリビリと破いた。
「姉様から言われたから渡したけど。僕は気に食わない。……頭おかしいんじゃない? アンタを虐げてた兄王子に会おうとする事も。この僕の色仕掛けに全く靡かず、そんなチンクシャに惚れてる事も。」
フンッと鼻を鳴らし、ベッドでふんぞり返る。
そんな姿に困惑しつつも、こんな中でも「ツェーンさ、いっぱい。嬉しい。」と謎の夢を見て幸せそうなティモの手を握った。それだけでなんだかホッとする。
「俺は元ある形に戻そうとしてるだけだ。……それにティモはチンクシャじゃない。」
言葉を紡ぐと、ふと懐かしい光景が浮かんで自然と笑みが溢れた。
「ティモはとってもカッコいいから。」
俺の言葉に「はぁ? 何処が!! 」とロランは涎を垂らしながら寝るティモを苦虫を噛み潰したような表情で一瞥する。
まぁ、確かにこのだらしない顔を見たらロランの意見がもっともかもしれないが、ティモは本当にカッコいいんだ。
なんたって命の恩人だから。
「はぁ…。僕が手こずる訳だよ。趣味悪っ。」
散々悪態を吐くとロランは頭をワシワシも掻き乱し、スカートの皺を伸ばすと「付き合ってらんない。」と苛立ち混じりの表情で乱暴に扉を開いた。そのまま出ていくのかと思えば、くるんとこちらを向いた。
「アンタのお兄さん達。よくない輩とつるんでるってさ。絶対、アンタに何かやらかすつもりだよ。……これは僕がアンタを本当に好きだから忠告してあげてるんだよ? 」
「それはどうも? 」
「……意に介してない感じがムカつく。僕がこんなに誰かに尽くしてあげる事なんてないんだからねっ!! 」
捨て台詞を吐くとバタンッと勢いよくロランは扉を閉めた。
その姿に首を傾げながら見送り、切り刻まれた紙を拾おうと手を伸ばすと、グイッと引っ張られ、身体が後ろへと倒れた。
「うわっ!? ちょっ、ティモ!! 」
まだ意識が夢の中のティモが俺を引っ張り倒して、幸せが溢れんばかりの笑みでギュウギュウと抱き寄せる。
「ツェーン…。ツェーン。大好き。」
緩みに緩んだ顔でそう嬉しそうに呟くと、またすぅすぅと寝息を立てて深い眠れへと落ちていった。
「俺も大好きだよ、ティモ。」
そう耳元で囁くと、ティモは嬉しそうにムニャムニャと口を動かす。
そんなティモの頭を撫でながら頭の中で兄王子達に会う算段を付ける。
きっと元兄王子達は俺を失脚させるつもりだ。
下手に事件を起こす前に元兄王子達に会い、俺もその計画に参加した方が穏便に事は済むだろう。
だが……、その前に……。
「ティモ。流石にそろそろ起きて。今日はティモのお披露目パーティーの日なんだよ…。」
今日は婚約者としてティモを正式にお披露目する夜会が開かれる事になっている。
本当はティモの負担を避けるべく、なぁなぁにするつもりだったが、国王陛下が「絶対やる。」と言って聞かなかった。
ツェーンに相応しいか見極めてやるとかなんとか父親面して人の話も聞かずに勝手にあの男はお披露目パーティを強行した。隣国にも既に招待状を送ってて、俺が止めた時は手遅れだった。
「しかも平民のダンス初心者相手に幕開けと幕引きを任せるなんて。……そもそも俺、ダンス苦手なんだけど……。」
パーティは俺にとって、兄王子達と兄王子達に群がる令嬢達とのダンスを見ながら気配を消し、美味しい料理に舌鼓する時間だった。その為、ダンスの才能のない俺は経験値すら積んでこなかった。
ついでにこの前の国王主催のパーティでも踊らず、イチジクにスモークサーモンを巻いたやつばっか食べてた。
きっと笑い者になるんだろうなと苦い笑みを溢しながら、やっと起きそうな気配がするティモの為に水をコップに注ぐ。
しかし、手がぶれ、水はコップの横を流れ落ち、床を濡らした。
「はぁ。疲れてんのかな。……ん?」
出来た水溜りの中に先程の紙が浮いている。
その紙は水を吸った瞬間、先程書かれていなかった言葉が浮かんできた。
「………嘘だろ。」
何で公爵令嬢から送られてきた手紙なのに隠し文字があるんだよ…。
オフィーリアの謎の有能さにブルリと悪寒が走る。
この令嬢からノインは逃げ切れないかもしれない。
ノインのご冥福を祈りながら紙を集めて読むと、半ば読んだ事を後悔した。いち公爵令嬢とは思えないくらい詳細に元兄王子達の今後の行動予測が書いてある。
やっぱ、ノインはオフィーリアからは逃げられないな……。あっちが上手過ぎる。
苦い笑みを溢しながら読んだ紙をゴミ箱に捨てた。
その呆れたロランの表情にはて? と首を傾げると、眉間に皺を寄せた。
「そいつらはアンタの功績を横取りし続けて、利用し続けた相手だって人伝てで聞いたんだけどって、言ってんの。」
不機嫌そうにボフンッとベッドに座ると足を組み、何気なくまだ床に寝転がるティモを踏んだ。…いや、踏むなよ。
慌ててそこそこ重いティモを引き摺り、ゼーゼーと息を上げながらベッドに戻し、折り畳まれた紙を開くと可愛い丸文字で彼等の居場所とその情報の提供者の名が綴られている。
『オフィーリア・ジレーネより』
オフィーリアは第九王子ノインの元婚約者で、ロランの姉。俺にとっては従姉妹で、元将来の義姉だ。
彼女は婚約破棄してから、この国には居らず、隣国にいるらしい。
理由は「この海のカナリアと呼ばれた私を裏切るなんてあり得ないッ。あの男…、地獄の果てまで追い掛けてやる。」…だそうだ。
何故ジレーネなのにそこはセイレーンではなく、海のカナリアなのか?
そして婚約破棄の時も思ったが、この令嬢はなんだか怖い。
その言葉に思わず、「ノイン。捕まるなよ…。」と初めて、ノインに同情を寄せてしまった。自業自得なのに。
思い出しただけでも身体がガクブルと震える。
いや、そもそも女性恐怖症が治ってないのもあるかもしれないが…。
情報を読み終わるとロランがまた一つ溜息をついて、俺から紙を奪うとビリビリと破いた。
「姉様から言われたから渡したけど。僕は気に食わない。……頭おかしいんじゃない? アンタを虐げてた兄王子に会おうとする事も。この僕の色仕掛けに全く靡かず、そんなチンクシャに惚れてる事も。」
フンッと鼻を鳴らし、ベッドでふんぞり返る。
そんな姿に困惑しつつも、こんな中でも「ツェーンさ、いっぱい。嬉しい。」と謎の夢を見て幸せそうなティモの手を握った。それだけでなんだかホッとする。
「俺は元ある形に戻そうとしてるだけだ。……それにティモはチンクシャじゃない。」
言葉を紡ぐと、ふと懐かしい光景が浮かんで自然と笑みが溢れた。
「ティモはとってもカッコいいから。」
俺の言葉に「はぁ? 何処が!! 」とロランは涎を垂らしながら寝るティモを苦虫を噛み潰したような表情で一瞥する。
まぁ、確かにこのだらしない顔を見たらロランの意見がもっともかもしれないが、ティモは本当にカッコいいんだ。
なんたって命の恩人だから。
「はぁ…。僕が手こずる訳だよ。趣味悪っ。」
散々悪態を吐くとロランは頭をワシワシも掻き乱し、スカートの皺を伸ばすと「付き合ってらんない。」と苛立ち混じりの表情で乱暴に扉を開いた。そのまま出ていくのかと思えば、くるんとこちらを向いた。
「アンタのお兄さん達。よくない輩とつるんでるってさ。絶対、アンタに何かやらかすつもりだよ。……これは僕がアンタを本当に好きだから忠告してあげてるんだよ? 」
「それはどうも? 」
「……意に介してない感じがムカつく。僕がこんなに誰かに尽くしてあげる事なんてないんだからねっ!! 」
捨て台詞を吐くとバタンッと勢いよくロランは扉を閉めた。
その姿に首を傾げながら見送り、切り刻まれた紙を拾おうと手を伸ばすと、グイッと引っ張られ、身体が後ろへと倒れた。
「うわっ!? ちょっ、ティモ!! 」
まだ意識が夢の中のティモが俺を引っ張り倒して、幸せが溢れんばかりの笑みでギュウギュウと抱き寄せる。
「ツェーン…。ツェーン。大好き。」
緩みに緩んだ顔でそう嬉しそうに呟くと、またすぅすぅと寝息を立てて深い眠れへと落ちていった。
「俺も大好きだよ、ティモ。」
そう耳元で囁くと、ティモは嬉しそうにムニャムニャと口を動かす。
そんなティモの頭を撫でながら頭の中で兄王子達に会う算段を付ける。
きっと元兄王子達は俺を失脚させるつもりだ。
下手に事件を起こす前に元兄王子達に会い、俺もその計画に参加した方が穏便に事は済むだろう。
だが……、その前に……。
「ティモ。流石にそろそろ起きて。今日はティモのお披露目パーティーの日なんだよ…。」
今日は婚約者としてティモを正式にお披露目する夜会が開かれる事になっている。
本当はティモの負担を避けるべく、なぁなぁにするつもりだったが、国王陛下が「絶対やる。」と言って聞かなかった。
ツェーンに相応しいか見極めてやるとかなんとか父親面して人の話も聞かずに勝手にあの男はお披露目パーティを強行した。隣国にも既に招待状を送ってて、俺が止めた時は手遅れだった。
「しかも平民のダンス初心者相手に幕開けと幕引きを任せるなんて。……そもそも俺、ダンス苦手なんだけど……。」
パーティは俺にとって、兄王子達と兄王子達に群がる令嬢達とのダンスを見ながら気配を消し、美味しい料理に舌鼓する時間だった。その為、ダンスの才能のない俺は経験値すら積んでこなかった。
ついでにこの前の国王主催のパーティでも踊らず、イチジクにスモークサーモンを巻いたやつばっか食べてた。
きっと笑い者になるんだろうなと苦い笑みを溢しながら、やっと起きそうな気配がするティモの為に水をコップに注ぐ。
しかし、手がぶれ、水はコップの横を流れ落ち、床を濡らした。
「はぁ。疲れてんのかな。……ん?」
出来た水溜りの中に先程の紙が浮いている。
その紙は水を吸った瞬間、先程書かれていなかった言葉が浮かんできた。
「………嘘だろ。」
何で公爵令嬢から送られてきた手紙なのに隠し文字があるんだよ…。
オフィーリアの謎の有能さにブルリと悪寒が走る。
この令嬢からノインは逃げ切れないかもしれない。
ノインのご冥福を祈りながら紙を集めて読むと、半ば読んだ事を後悔した。いち公爵令嬢とは思えないくらい詳細に元兄王子達の今後の行動予測が書いてある。
やっぱ、ノインはオフィーリアからは逃げられないな……。あっちが上手過ぎる。
苦い笑みを溢しながら読んだ紙をゴミ箱に捨てた。
2
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる