第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

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きっと逃げられない

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「それ、姉様から。……ホントに会うつもりなの? 」

その呆れたロランの表情にはて? と首を傾げると、眉間に皺を寄せた。

「そいつらはアンタの功績を横取りし続けて、利用し続けた相手だって人伝てで聞いたんだけどって、言ってんの。」

不機嫌そうにボフンッとベッドに座ると足を組み、何気なくまだ床に寝転がるティモを踏んだ。…いや、踏むなよ。

慌ててそこそこ重いティモを引き摺り、ゼーゼーと息を上げながらベッドに戻し、折り畳まれた紙を開くと可愛い丸文字で彼等の居場所とその情報の提供者の名が綴られている。

『オフィーリア・ジレーネより』

オフィーリアは第九王子ノインの元婚約者で、ロランの姉。俺にとっては従姉妹で、元将来の義姉だ。

彼女は婚約破棄してから、この国には居らず、隣国にいるらしい。
理由は「この海のカナリアと呼ばれた私を裏切るなんてあり得ないッ。あの男…、地獄の果てまで追い掛けてやる。」…だそうだ。

何故ジレーネなのにそこはセイレーンではなく、海のカナリアなのか?
そして婚約破棄の時も思ったが、この令嬢はなんだか怖い。

その言葉に思わず、「ノイン。捕まるなよ…。」と初めて、ノインに同情を寄せてしまった。自業自得なのに。

思い出しただけでも身体がガクブルと震える。
いや、そもそも女性恐怖症が治ってないのもあるかもしれないが…。

情報を読み終わるとロランがまた一つ溜息をついて、俺から紙を奪うとビリビリと破いた。

「姉様から言われたから渡したけど。僕は気に食わない。……頭おかしいんじゃない? アンタを虐げてた兄王子に会おうとする事も。この僕の色仕掛けに全く靡かず、そんなチンクシャに惚れてる事も。」

フンッと鼻を鳴らし、ベッドでふんぞり返る。
そんな姿に困惑しつつも、こんな中でも「ツェーンさ、いっぱい。嬉しい。」と謎の夢を見て幸せそうなティモの手を握った。それだけでなんだかホッとする。


「俺は元ある形に戻そうとしてるだけだ。……それにティモはチンクシャじゃない。」

言葉を紡ぐと、ふと懐かしい光景が浮かんで自然と笑みが溢れた。

「ティモはとってもカッコいいから。」 

俺の言葉に「はぁ? 何処が!! 」とロランは涎を垂らしながら寝るティモを苦虫を噛み潰したような表情で一瞥する。

まぁ、確かにこのだらしない顔を見たらロランの意見がもっともかもしれないが、ティモは本当にカッコいいんだ。

なんたって命の恩人だから。


「はぁ…。僕が手こずる訳だよ。趣味悪っ。」

散々悪態を吐くとロランは頭をワシワシも掻き乱し、スカートの皺を伸ばすと「付き合ってらんない。」と苛立ち混じりの表情で乱暴に扉を開いた。そのまま出ていくのかと思えば、くるんとこちらを向いた。

「アンタのお兄さん達。よくない輩とつるんでるってさ。絶対、アンタに何かやらかすつもりだよ。……これは僕がアンタを本当に好きだから忠告してあげてるんだよ? 」

「それはどうも? 」

「……意に介してない感じがムカつく。僕がこんなに誰かに尽くしてあげる事なんてないんだからねっ!! 」

捨て台詞を吐くとバタンッと勢いよくロランは扉を閉めた。
その姿に首を傾げながら見送り、切り刻まれた紙を拾おうと手を伸ばすと、グイッと引っ張られ、身体が後ろへと倒れた。

「うわっ!? ちょっ、ティモ!! 」

まだ意識が夢の中のティモが俺を引っ張り倒して、幸せが溢れんばかりの笑みでギュウギュウと抱き寄せる。

「ツェーン…。ツェーン。大好き。」

緩みに緩んだ顔でそう嬉しそうに呟くと、またすぅすぅと寝息を立てて深い眠れへと落ちていった。

「俺も大好きだよ、ティモ。」

そう耳元で囁くと、ティモは嬉しそうにムニャムニャと口を動かす。
そんなティモの頭を撫でながら頭の中で兄王子達に会う算段を付ける。

きっと元兄王子達は俺を失脚させるつもりだ。
下手に事件を起こす前に元兄王子達に会い、俺もその計画に参加した方が穏便に事は済むだろう。

だが……、その前に……。


「ティモ。流石にそろそろ起きて。今日はティモのお披露目パーティーの日なんだよ…。」

今日は婚約者としてティモを正式にお披露目する夜会パーティが開かれる事になっている。
本当はティモの負担を避けるべく、なぁなぁにするつもりだったが、国王陛下が「絶対やる。」と言って聞かなかった。

ツェーンに相応しいか見極めてやるとかなんとか父親面して人の話も聞かずに勝手にあの男はお披露目パーティを強行した。隣国にも既に招待状を送ってて、俺が止めた時は手遅れだった。

「しかも平民のダンス初心者相手に幕開けと幕引きを任せるなんて。……そもそも俺、ダンス苦手なんだけど……。」

パーティは俺にとって、兄王子達と兄王子達に群がる令嬢達とのダンスを見ながら気配を消し、美味しい料理に舌鼓する時間だった。その為、ダンスの才能のない俺は経験値すら積んでこなかった。

ついでにこの前の国王主催のパーティでも踊らず、イチジクにスモークサーモンを巻いたやつばっか食べてた。


きっと笑い者になるんだろうなと苦い笑みを溢しながら、やっと起きそうな気配がするティモの為に水をコップに注ぐ。

しかし、手がぶれ、水はコップの横を流れ落ち、床を濡らした。

「はぁ。疲れてんのかな。……ん?」

出来た水溜りの中に先程の紙が浮いている。
その紙は水を吸った瞬間、先程書かれていなかった言葉が浮かんできた。

「………嘘だろ。」

何で公爵令嬢から送られてきた手紙なのに隠し文字があるんだよ…。

オフィーリアの謎の有能さにブルリと悪寒が走る。
この令嬢からノインは逃げ切れないかもしれない。


ノインのご冥福を祈りながら紙を集めて読むと、半ば読んだ事を後悔した。いち公爵令嬢とは思えないくらい詳細に元兄王子達の今後の行動予測が書いてある。

やっぱ、ノインはオフィーリアからは逃げられないな……。あっちが上手過ぎる。


苦い笑みを溢しながら読んだ紙をゴミ箱に捨てた。
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