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お子様ではない

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ふわふわと意識が浮き沈みする。
するりと誰かの手が頰を撫で、その手を握った。

最初、その手がティモのものだと思った。

何時もティモは朝、まだ夢現な俺を少し遠慮気味に撫でる。
その俺の撫でる時の表情がとても幸せそうなので、俺はティモの好きにさせている。

だって、そうされてると胸の辺りがポカポカするから。
心地良くて、なんでそんなに俺なんかを嬉しそうに撫でるのかが不思議で…。

つい、二度寝してしまう。
ずっと、このまま撫でてて、欲しいと思ってしまう。



だけど、その手はティモの手と違い、すべすべでティモより一回り小さい。


ー 誰?

重い瞼を薄く開くと、誰かが俺の上に乗っている。

金の柔らかな髪がギシギシとベッドを揺らし動くたび揺れ、熱を孕んだ金色の瞳がこちらを見下ろしていた。

「ロ……ラン? 」

「あっ、ツェーン様、起きちゃった? まだ準備終わってないんだけどなぁ…。どうしよう? 」

まだ声変わりしていない高い声に困ったような声色を乗せているが、その顔は全く困った表情をしていなく、寧ろ、挑戦的な顔。

何で、そんなに臨戦体制なんだろう?
重いんだけど。

フワッと欠伸をして、目を擦ろうとすると両手を一纏めに縛られて、首を傾げた。

「ふふっ。何されてるか分からないって顔だね。……あんなに僕がアピールしてたのにころっと落ちなかったのはお子様だったからって訳だ。」

ロランは天使の顔で色めかしい表情を浮かべて、嗤う。

子供も何も君の方が子供だろう?
君は俺より三歳下の十三歳だろ。

時計を見ると時刻は深夜。
お子様が起きていて、いい時間ではないだろうと顔を顰めると、「怒らないでよ。気持ちよくしてあげるから。」と訳の分からない答えが返ってくる。

いや、俺の所なんて来てないで寝ろよ。
成長期に睡眠蔑ろにすると大きくなれないぞ。

そんなに俺が王太子になったからって、必死に擦り寄らなくても。その内俺は王位も王族位からも退く予定だから意味がないのにと溜息をつき、ロランを見る。

ロランは羽織っているカーディガン以外はその身に纏っておらず、裸だ。…夜中に裸って、寒くないのか?

そんな事を考えていると、静かになった部屋にくちゅくちゅと何かを水音が耳に入り、よく見ればロランは自身の後ろを指でいじっている。……何やってんだ?

俺が見ている事に気づくとロランは俺に見せつけるようにいじり、荒い息をあげ始める。

果たしてロランは俺の上で一体何をやっているのか?

そう自身の知識の中から検索し、パッと頭に浮かんだ答えに成程と頷く。


ー 成程。これは暗殺か。

昔、人伝てに何処かの王が寝所で暗殺された話を聞いた事がある。

なんでもその王を暗殺したのはその王のお気に入りの女性で、その女性は王を暗殺する為に近づいた暗殺者だったらしい。

何時も周囲には護衛が付いている王。
その王を暗殺する為には護衛に気付かれずに武器を持ち込まなければいけない。そこでその女性の暗殺者が武器を隠したのが自身の膣の中。

その女性は王を誑し込み、護衛の薄くなる寝所に連れ込むと膣の中に隠した毒針で王をチクリ。誰にも気付かれずにその女性の暗殺者は逃げおおせたらしい。


おそらく、ロランは女性の暗殺者のそれをお尻でやったのだろう。

そして今、指を根元まで突っ込んで荒い息をあげているのは、もしかしたら毒針が思った以上に奥に入ってしまって取り出せないのかもしれない。

見せつけてくるのは、もしかしたら取れなくて助けを求めてきてるのかもしれない。
そう考えると頰を染めているのも。額から汗をながしているのも。相当、入り込んで焦っているからだと推測される。


ロランが不意に手を止めて、俺の下穿きに手を掛ける。

「大丈夫。僕が今から大人にしてあげ…。」

「医者…呼ぼうか? 」

何かを言い掛けたロランの表情が強張り、口元がヒクヒクと痙攣する。
…どうやら、相当まずい状態みたいだな。

「僕の頭がおかしいって言いたいの? 」

「? いや、頭じゃなくて身体の方を診てもらった方が…。」

「この僕の身体がおかしいって? ホンット、ツェーン様は子供なんだね。この僕の身体に溺れなかった男なんていないんだよ。」

「?? …いや、だから毒が。」

「はぁ?? 毒? 僕が性病持ちだとでも言いたいの? 」

「「??? 」」

お互いにお互いで首を傾げる。

なんか会話が噛み合ってない気がする。


ロランが眉間に皺を寄せ、暫く考え込むと何故だか呆れた顔で俺をみた。

「あのさぁ、あれだけ僕のボディタッチや絶妙な甘えテクに堕ちないだけじゃなく。まさかこの状態で何されてるか分かってないとは言わないよね? 」

「襲おうとしていた? 」

「なんで過去形なの。今も現在進行形で襲おうとしてんの!! 」

「いや、毒針を取り出せない今、暗殺計画も頓挫してるだろ。」

「「???? 」」

やっぱり、会話が噛み合っていない。

ロランは何かを悟り、ワシワシと頭を掻いて苛立たしげに声を荒げた。

「今、僕がアンタにやってるのは、婚約者と夜にベッドでやってる事だよッ。」

「一緒に寝る事? でも、尻はいじらないだろ。」

「は? 男同士は尻使わないと出来ないでしょッ。何言ってんの!? 」

「ん?? 出来ないって何が??? 」

「はぁ!!!??? アンタ達、恋仲でしょ!? まさか、どっちも清らかなままとかアホな事言わないでしょ? 」

「き、清らかって…。ん?? は??? 」

一体、何の話をロランはしているのか。
『ベッドでする事』、『恋仲』、『清らか』の単語で、頭の中の自身の知識から検索する。

いや…、でもな…。
『アレ』な訳がないしな…。

チラリと裸のロランを見て、もう一度思考するが答えが一つしかでない。

「いやいやいや…。男同士で子供の出来る行為は出来ないよな…。身体の構造上、無理だろ。」

「アンタ…。本当に男が好きな訳…。」

ついつい声に出てしまった言葉にロランが反論する。
その顔はかなり冷え冷えとしている。

いや…。だって、男の身体に受け入れる器官はないでしょ。
ま、まさか……。

「それで……尻? 」

「なんでちょっと引いてんの…。本当にアンタ、男好きな訳? 」

怪訝な表情を浮かべるロランすら目に入らないくらい動揺する。

尻? ……尻??!
えっ?? お尻で受け入れるって事!?
痛いって、絶対ッ。

突きつけられた衝撃的な事実。

同性同士ならそういう行為はないと思ってた。
手を繋いだり、キス程度だと…。

まさか、俺とティモが同じベッドで寝てるのって、周りからすればそういう目で見られてるって事!?

そう自覚すると、顔がボッと熱くなる。
顔を隠そうとするが、手は上で縛られているので隠せない。ちくしょう。

「はぁ…。やっと分かった? ……まぁ、安心しなよ。アンタはただ寝てればいい。」

「いやいやいやッ。でも、お尻は…お尻は痛いでしょ!? 」

「うるさいな!? アンタはただ寝てればいいって言ってるでしょ!! 僕が受け入れる側だからアンタは黙って感じてればいいのっ。僕のテクで堕としてやるんだからッ。」

「でも…。痛いって!! 」

「ご心配どうもっ。僕は慣れてんの。確かに最初はどうしても痛いし。上手く慣せなかったり、受け入れるものが大きいと裂けちゃう時もあるけど。どんな巨根でも僕の経験で…。」

「痛い? 裂ける!? 拷問じゃないかっ。」

「愛の営みだよッ。物騒な言い方するなッ!! 」

何かロランが叫んでいるが気になる単語以外はほとんど頭に入ってこない。

もしこのまま俺が王位から逃げられず、ティモを逃がせなかった場合。
結婚したらやはり初夜はあるのだろうか?

異性同士ならある種の儀式として結婚式後に必ず入るが、同性同士でも?
その場合どうする…。

もう一度チラリとロランを見る。

もしするとして、どちらが受け入れるのか。
やはり最初は痛いし、最悪、尻が裂けるときた。

そんなリスクがあるというのに。
もう既に危ない橋を渡らせているというのに。

俺はティモに尻を差し出せと言えるのか。

「そんなの出来ないっ。そ、んな無体働くくらいならお、俺が……。」

答えはNOだ。
あんな純粋なティモにそんな事頼める訳がない。

思いもよらず、とんでもない事を頼んでしまっていた罪悪感に今更、苛まれながら、はたと現状を思い出す。

あれ? もしや今、俺はハニートラップにあってるのでは……。

恐る恐る顔を上げると、ロランが顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。

「……そ、そんなに僕の身体を心配してくれるの? 」

「へ? 」

小声で何かを呟き、今まで恥ずかしいものなんてないと言わんばかりにさらけ出していた肌を途端にカーディガンで隠し始める。…な、何?? 次はなんだ!?

「ロ、ロラン? 」

「……萎えた。ホンット、お子様だね、ツェーン様は。」

今日の所は勘弁してあげる、そう頰を赤らめて縛った手を解くと、そそくさとロランが帰っていく。

俺はただただ訳が分からず、ポカンッとしているとクローゼットから笑いを押し殺す声が聞こえた。

「………。」

カタンっとクローゼットを開けると、ヒーヒーと笑い死にそうな一号が収まっていた。

「で、殿下……ブッ。お、俺、一生付いて行きますよッ。」

「ついて行く前に何か言う事があるだろ…。」

「ご馳走様ですッ。いやぁー。まさか、あんな撃退方法があったとは…ブッ……アハハハッ。」

「なーにが、ご馳走様だ!! お・ひ・き・取りくださいッ。やっぱ、第三妃の元に返してやるッ!!! 」

もう何時帰って来たのかとか。
なんでクローゼットにいたのかとか。
何故、護衛なのに助けなかったのかとか、どうでもいいッ。

ただこの侍従兼護衛を解雇したい。

もう耐えられないと大笑いする一号を無視してクローゼットを閉め、布団を被った。




次の日。

やっぱりハナから王位なんて欲しくなかったジレーネ公爵にロランが色仕掛けで、俺の寵愛をもぎ取り、ティモにとって代わって王配になる作戦の為に話し合いを了承したと自白を受けた。

また振り出しに戻った王座を押し付ける計画。
そして……。


「言っておくけど、俺はお子様じゃない。」

結局、ジレーネ公爵に押し付けられなかったのはかなり痛手だが、一番ジレーネ公爵邸に来て、言いたい事はそこだ。

俺は少なくとも三歳下のロランよりはお子様ではない。
そこは声を大にして言いたい。

「そこですか。」と笑う一号を無視して、顔を真っ赤にして視線を合わせないロランを連れて、やっと会えたと尻尾を振って喜ぶティモの前に出た。

「ティモっ!! 」

「はい。何さ、ツェーン。」

「子供を作るにはどうすればいいか分かる? 」

なんて事人前で聞くのですか、と目で抗議するレナードを無視して問うと、ティモは頰を染めて少し照れながら…。

「チュウさ、すれば子供が出来ます。」

と、答えた。
その答えに俺は満足して、自信満々にロランを見た。

「…ちょっと待って。まさか、コレと比べて自分は分かってるって言いたいの? この底辺と比べて? 」

俺はきちんと四歳上のティモより子供の作り方を知っている。
だからお子様ではない。

そう言いたかったのにロランの顔は引き攣り、侍従達を睨んだ。

「誰だ!? この王太子の教育係は!! 王太子で、底辺と性知識がどんぐりの背比べとかありえないッ。」

「どんぐりの背比べってなんだ!? 俺はきちんと知ってるって。お子様じゃないわッ。」

そう叫んで同意を一号達に求めるが、一号達はスッと目を逸らした。…何故、逸らした!? そこは「そうですね。」の一択だろうがッ。
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