第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

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子猫の皮を被った虎

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「本当に我がアインホルン家は殿下に忠誠を誓ってます。私も、父も、アインホルン公爵家一同の総意ですので、ご心配なさらず。」

未だギャン泣きするブレンの介抱を妄想トリオ一号に任せて、今回の目的、『王弟に王座を押し付ける。』を実行する為、俺はアインホルン公爵家の子息と対話していた。

王弟に会うアポを取り付けようと学園にいる二つ上のアインホルン公爵家の子息に先ずはアポを取りたい事を伝えておこうとした結果が冒頭のセリフだ。


「いや…。別に疑ってるんじゃなくてね。アインホルン公爵の方が俺より国王向いてるんじゃないかなって、話で。」

「いえいえ、ご謙遜を。殿下に比べれば父など…。」

「いやいや、謙遜じゃなくて事実を言ってるまでで、俺は本当にアインホルン公爵の方が領地経営の経験も、政務への経験も豊富にあって俺なんか足元にも及ばないと。」

「いえいえいえいえ、何を仰いますやら。殿下がとても有能なお方である事は皆、よぉーく知っておりますよ。是非とも今後のこの国を王となり引っ張って頂きたく…。」

「いやいやいや…。」

「いえいえいえいえ…。」

…周囲から見ればこのやり取りは互いに謙遜しあっているように見えるかもしれない。

しかし、上の会話を要約すると「貴方のお父さん、国王やってくれない? 」、「勘弁してください。私達は、王様は貴方でいいんで、お構いなく。」…だ。

ー そういや、血判入りの誓約書を寄越そうとしたのもアインホルンだったな…。

どうしても王座に就きたくない二人の会話は何処まで行っても平行線。

もしや、王位継承権に関しても国王陛下から圧が? なんて思ったけど、心底嫌そうな表情が見え隠れする子息の顔から察するに本当に王座に座るのが嫌なようだ。…くそぅっ、気が合うな!! 俺も座りたかないよッ。

ある意味、アインホルンとは仲良くなれそうだが、俺が今欲しいのは友達じゃない。王座を押し付けられる相手だ。


結局、アインホルンの鋼の意志に負けて、最後の頼みの綱である三つ下のジレーネ公爵子息に賭けるが、二度ある事は三度ある。何だか王弟も全滅な気がしてきたなと思っていたら……。


「父様にご相談? 良いですよ。」

今までNOという言葉しか聞いてこなかったので、一瞬、幻聴かと思った。

聞き返すと、ジレーネ公爵子息が天使の笑みを浮かべて、天使の羽のようにふわっとした髪を揺らして、愛らしく頷いた。

「僕も父様も殿下といっぱいお話ししてみたかったですから、大歓迎ですよ。殿下のご予定があれば、今週の週末にでも王都にある我が邸にいらっしゃいませんか? 」

……この子は本当に天使なのだろうか?

ジレーネ公爵子息の後ろに光が見えた気がした。
思わず手を合わせたくなったのをグッと堪えて、「では週末に伺わせてもらうよ。」と答えるとジレーネ公爵子息は花が咲いたようにパァッと可憐に笑い、ギュッと腕に抱き付いてきた。

ビクッと驚き、後退ると、うるうると大きな瞳が潤み、申し訳なさそうに目を伏せた。

「ごめんなさい。僕。ずっと殿下と仲良くなりたいなと思ってて、お家に来てくれるのが嬉しくて、つい。」

「…いや、ごめん。急だったから身構えてしまっただけだよ。ジレーネくんは悪くないよ。」

「本当? …良かった。嫌われちゃったらどうしようかと思ったぁ。」

一瞬、しゅんっとしている姿がティモみたいで、子犬みたいな子だなと思ったが、了承を取るとあざとく、身体を擦り寄せて甘えてくる姿に子犬ではないなと思い直す。どちらかと言うと子猫か?

「苗字じゃなくて殿ロランって、呼んで欲しいです。」

「え? わ、分かったよ、ロラン。……ああ、じゃあ、俺の事も殿下呼びしなくて良いよ。」

「ホントですかッ。ツェーン様。」

ズイズイと身体の距離も、心の距離も詰めてくるロランに内心、とっても戸惑いながら必死に笑顔を作る。……笑顔が引き攣ってるかもしれない。

何だか子猫の皮を被った虎のような気がするのは気の所為だろうか?
…気の所為だな。気の所為って事にしておこう。


何はともあれ、ジレーネ公爵にアポは取れたんだ。よしとしておこう。
例え、その後、瞳の底にギラギラとしたものを隠しているロランに授業以外の時間、引っ付かれようとも……。
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