第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

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もらって嬉しいもの

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プレゼント。

それはもらって嬉しいもの。
相手を喜ばせるのが目的であり、相手を苦しめる為にやるものではない。

そう少し前にティモからもらったカブトムシの兜を磨きながら、また執務室を埋め尽くすプレゼントの山を見て思った。


「凄さ、プレゼントの量…。」

ティモが感嘆の声を漏らし、キラキラとした目でプレゼントの山を見る。
昨日の剣術の稽古で筋肉痛になってしまった足でヒョコヒョコと山に近付き、クルクルとその周りを回り、また感嘆の声を漏らす。

「これが…王族の誕生日さ、祝い方。……すみません。私、知らなくてプレゼント用意さ、してません。」

「……言っとくけど、今日は誕生日じゃない。俺の誕生日は半年後だし、俺の誕生日は母さんのお祝いの舞と母さんの祖国の人達が俺の誕生日にかこつけて酒飲んで踊って勝手に楽しむ日だから。」

「国全体がツェーンの誕生日さ、お祝い、してくれるんですか!! 」

「や、…だから、かこつけて酒飲んで騒ぎたいだけなんだって。あの人達は毎日、騒ぐ口実を欲しいだけで。」

何時だってあの島国は騒ぐ口実を探している。
あの島国の王族一人一人の誕生日が祝日だし。子供の乳歯が抜けて大人の歯が生えただけで親戚全員集合して朝から晩まで踊り騒ぐ。そんなお国柄。祝うという目的よりも騒ぐ事が最早、目的となっている。
まぁ、それは置いといて…。


「返却で。」

「え? またですか!? 」

「まだツンツン期は続くのですか…。『固く閉ざされた心。プレゼント作戦、散る!! 』」

「二人の溝は深海のように深い…。」

とても残念そうで、何処か期待したような表情でチラチラとこちらを見ながら第三妃から寄越された例の侍従達……。長いな。もう妄想トリオでいいや…。妄想トリオがプレゼントを片付ける。

果たして彼等が俺に何を期待しているのだか…。まぁ、俺は全く興味がないし、知りたくもないが。


「…まぁ、プレゼントの内容が女性が喜びそうなものでしたからね。」

ちょっと寂しそうにプレゼントの山を見送るティモの隣で第一妃が寄越した侍従レナードが冷めた目でプレゼントを見送る。

いきなり手のひらを返した国王陛下からの贈り物っていうのも返却する理由の一つであるが、レナードの言う通り、あれは女性向けに考えた内容のプレゼント構成だ。服や宝飾品のデザインも全く俺の趣味じゃないものばかり。

何を思って国王陛下が俺にプレゼントを送ってきてるかは分からない。が、あの人が十人もいた息子の誰にも誕生日プレゼントすら贈った事がないのは知ってる。

どういう風の吹き回しかは本当に分からないし、興味がない。
寧ろ、要らないプレゼントくれるくらいなら国外追放やら王族位剥奪とかそういう事してくれた方がありがたい。

「でも、家族からツェーンがプレゼントさ、もらってるの初めて見たのに…。」

ティモが俺の手をにぎにぎしながらしゅんとする。
純粋に喜んでくれたティモにちょっと悪かったかなと思い、

「大丈夫。ティモがくれたカブ一号(カブトムシの名前)で充分俺は嬉しいから。」

と微笑み掛けると、ソワソワし始め、顔を真っ赤にして俯いた。

「……こ、これからは私がいっぱいプレゼントさ、あげるから。」

「? …プレゼントならもう結構もらってるだろ。カブ一号用の腐葉土とか。」

「ふぁ!? …うぅ。カブトムシと腐葉土だけで、こんだけさ、喜んでくれるなんて。やっぱり、おいは前世でどれだけ善行さ、積んだんだろ…。」

「………一国の王子が一番もらって喜ぶものがカブトムシと腐葉土。」

また一人称がおいに戻り、手をにぎにぎする速度が上がるティモ。

四人の侍従は苦笑いを浮かべてこちらを見ているが、カブトムシと腐葉土の何がいけない?

磨いていたカブ一号をケースに戻し、立派な角とその光沢に思わず見惚れる。

かっこいいじゃないかカブトムシ。
初めてティモが野山で捕まえてくれた時は、このかっこよさに驚いたものだ。

何よりカブトムシのオスはクワガタやカマキリと違い、ご丁寧に持ってくれと言わんばかりの取っ手がある。

取手ではなく、小さな角でこの角と大きな角で挟んで相手を投げるんだと興奮気味にティモが語っていたが、それでもやっぱり俺の中ではこれは取手だ。

かっこよくて簡単に誰でも持てるなんて素晴らしい。
俺はこのカブトムシの造形が好きだ。
誰が何と言おうとカブトムシはかっこいい。

それにティモが言ってた。
男はみんなカブトムシが好きだって。
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