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天然侍従は止まらない!

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「本当なのか…。」

そう俺に問いかけた国王陛下にティモが勝手に返事をする。

「私が王宮の侍従になったのも、全てはツェーン殿下に恩をお返しさ、する為です。」

国王陛下はその言葉に大変衝撃を受けたのか暫く、放心していたが、間の伸びた「はい、はーい。」と、自身を呼ぶ声に意識がハッと戻ってきた。

呑気に国王陛下を呼ぶのはうちの母である第十妃。
何故か挙手して、発言した。 

「私はねぇ。うちの子が幸せならぁ。相手が男性でもいいよぉ。」

「はいっ、お義母様。必ず、幸せさ、します。」

「待て!? 何故勝手に話を進めてる!!? 私は男と結婚する事も、男が好きな事も赦した覚えはないぞッ。」

「待ちなさいよッ。さっきの話だとまるでうちの子が悪者じゃない。うちの子はそんな事する子じゃないっ!! 」

南国気質でとっても呑気な母は、柔軟に受け入れて、祝福する。今にも喜びの舞いを踊りそうだ。

ティモはティモで制御不能だし、何故だか国王陛下と第二妃は律儀に挙手して、異議を申し立てる。…何だこの謎の挙手制は。

場が混沌としてる中、第一妃が挙手した。…挙手しなきゃ、発言しちゃダメなシステムなの?

「ティモくん。貴方は平民でしょう? 平民から王宮の侍従になるにも血の滲む努力が必要だったでしょう。貴方が王配になる場合、それとは比べ物にならない血を吐くような努力が必要になるわ。」

妃の中でもヒエラルキーの頂点に立ち、息子の第一王子とは違い、まともな第一妃は真っ当な意見を述べる。
試すような視線をティモに向け、品定めしている。

…あれ? 
何で本気で見定めてるんだろう?? 
まるでお眼鏡に叶えば賛成するみたいじゃないか。


計画が完全に頓挫しているような気がして、ティモを見る。するとティモは分かってると言わんばかりの笑みを浮かべる。

その笑みにやっと暴走が止まってくれたかと安堵の溜息を溢すが……。

「私はツェーン殿下の為ならこの身さ、裂かれようとも構いません。」

…全く暴走は止まっていなかった。

何時もは俺の前では落ち着きがなく、ソワソワしているティモ。今は何処か男らしく真っ直ぐ、第一妃を見据えるが、今、その男らしさはいらない。

その強い意志を感じる瞳にフッと第一妃が笑みを浮かべて、「…覚悟は出来てるのね。頑張ってみなさい。」とティモに激励の言葉を送った。お眼鏡に叶ってしまったらしい。

お前、このままだと本当に王配にされてしまうぞ。逃げられなくなるぞ。と目で訴えるが、その顔には「任せてください。頑張ります。」と書いてある。

…いや、頑張りすぎなんだって。
お前の今の行動がお前を追い詰めてるんだぞ!?


巻き込んだのは自分だが、流石にそこまで巻き込むのはまずいと慌てて、口を開くが、言葉を発する前に国王陛下が挙手して叫んだ。

「だから何故話を進めるんだッ。私は認めんぞッ!! 男と結婚なぞッ!!! 」

ダンッと思わず玉座から立ち上がり、ビシッとティモを指差した。
そして俺が欲しい言葉を国王陛下が口にしようとした時、第三妃が挙手した。…本当に何なんだ。その挙手制はッ!!

「好きなら男でもいいじゃないですか。国王陛下はゲイを差別する人種なんですか!? 腐女子を差別する人種なんですか!? ネットの掲示板に『腐女子キメェ』とか書き込んじゃうアホな人種なんですか!!? 」

突如、結婚賛成側に加入した第三妃。
最初の方は俺達の為に声を荒げるように聞こえたが、途中から訳の分からない事で怒ってる。
『腐女子』やら『ネットの掲示板』って何?? この人は一体何と戦ってるの!?

混沌に混沌を増す玉座の間。
その中で何故か主要人物である俺が蚊帳の外で話し合いは苛烈していく。気付けば、ティモは十人の妃を味方につけていた。


「そもそもぉ、うちの子をぉ、愚息呼ばわりするぅ、貴方にツェーンの恋路に口出しする権利ってあるのぉ? 」

「大体、貴方だって恋路に関しては自由奔放じゃない。やりたい放題の末、妃が十人になって、王権争いが激化してたんじゃない。」

「そうよ。うちのツヴァイがあんな男爵令嬢と浮気したのも貴方を見習ってじゃないの? 」

時折、どさくさに紛れて兄王子達の失態を何気なく、国王陛下の所為にしようとしている者も一部いるが、皆、一丸となって国王陛下を言葉で叩く。最早リンチだ。

団結した女性というものはとても強く国王陛下が反論しようとする度、誰かがそれを遮り、挙手して喋り出す。
何なんだ。これは…。


このままでは予想斜め上の方向に物事が決まってしまう。しょうがなく、暗黙の了解で出来上がってしまったルールに従い、挙手した。

「そ、その…、一旦落ち着きませんか。…こ、国王陛下の…気持ちも一理あると思うし。その…、いきなりのカミングアウトに動揺してると思うので、頭ごなしに叩くのも…ちょっと……。」

挙手した瞬間、妃全員がこっちに注目するもんだからビビって声がうわずった。
女性恐怖症悪化したかもしれない……。


「ツェーン…。」

やっと一旦、妃達が静かになると、国王陛下が、揺れる瞳で俺をみた。お前、助けてくれるのかって、顔してるけど。助けた訳じゃない。

今、お前に心が折れられると非常に困る。
とっても困る。

お前は妃達に負けず、俺を否定し続けろ。
例え、妃達にボコボコにされても。


暫く二人でお互いに一方通行の目での会話をしていると、スッと第一妃が挙手した。その頰にはキラリと光るものが伝った。

「息子の門出くらい祝福してあげなさい。邪険にされてもこれ程、慕ってくれてるのだから。」

「えっ?…いや、別に慕ってな…。」

「私は二人の門出を全面的に協力します。」


この日、俺は初めて知ったのだが、第一妃はシンデレラストーリーをこよなく愛する人で、俺達は好みにドンピシャだったらしい。

第一妃の鶴の一声で、ティモと俺の婚約が決定していた。



「何故こうなった…。」

自身の執務室に帰り、頭を抱えるしかなかった。

部屋を埋め尽くす量のお見合いの姿絵は撤去され、すっきりしたが、更にややこしい事になった。

チラッと顔を上げるとティモが褒めて欲しそうにソワソワしてこちらをみている。

「…ティモ。俺達の目的なんだっけ? 」

「私達の仲さ、認めてもらってツェーン殿下が王位継承権剥奪される事です!! ……あれ? あっ、もしかして失敗ですか!? 」

「うん…。そうだね。」

失敗した事にやっと気付き、しゅんっとするティモに俺は何も言えず、窓から見える青空を現実逃避する様に眺めた。
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