第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

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天然侍従は止まらない

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「今、なんて? 」

国王陛下が頭で理解したくない言葉を告げられたような困惑した顔をしていた。

「陛下。俺はこの侍従のティモを愛しています。だから女性と結婚する事は出来ません。」

「な、なんて?」

「いや。だから、俺は男のティモが好きで恋愛対象が男だって自覚したので女性を娶る事は無理です。」

何度説明しても理解出来ない、信じられないって表情を浮かべる国王陛下に内心、ニンマリと俺は笑っていた。

さぁ、どうだ。
これじゃあ、王族の品位もへったくれもないだろう。
存分に王位継承権剥奪でも国外追放でも処分を下してくれ。

そうどんと来いとトチ狂っていた俺はどんと構えていた。

困惑が冷めると、その表情は俺を見下すようなものへと変わる。

万事順調。
もうこれは国外追放だなと早く早くと次の言葉を待つ。


「ツェーン。お前には心底失望した。お前はただでさえ、出来損なっ…。」

「ツェーン殿下を悪く言わんでくださいッ。」

俺が待っていた国王陛下の言葉を切り、隣で立ってるだけでいいからと言っといた筈のティモが声を荒げる。

「侍従ごときが私の言葉をっ…。」

「ツェーン殿下はとても出来たお方です。民の為にその身さ、削って思いやれる方です。ツェーン殿下は出来損ないじゃありません。それに私の故郷さ、恩人です。」

自身の言葉を遮られた事のない国王陛下はティモに怒り、自身の言葉を遮るなと怒ろうとした。…が、その言葉すら遮られ、言葉を挟む余裕すら無いティモの弾丸トークの前に怒りを通り越して驚愕していた。

俺はそんな二人のやりとりを見て、頭を抱えた。
もう少しで言わせたい言葉を引き出せるような気がした。それなのに協力者である筈のティモが待ったを掛けるとは…。

「ティモ。俺の為に怒ってくれなくていいから少し落ち着っ…。」

「よくありませんッ。…私さ、知ってます。ツェーン殿下はその心の広さと優しさを利用されてる事自覚さ、してください。」

「いや、別に利用なんっ…。」

「だって、私の住む島を干ばつから救って下さった功績さ、第二王子に取られたじゃないですか!! 」

「いや、それは同意のうっ…。」

「それは何の話だ。」

もう我慢ならないと俺の話を一切聞いてくれない程、怒ってるティモがとっても余計な事を口走った。

慌てて止めようとしたが、国王陛下が俺の言葉を遮ってティモに食いかかってくる。しかしティモは臆さないし、止まらない。


「私さ島は四年に一度、干ばつが起こるトロッケ島って所で。五年前、干ばつ見舞われた時にツェーン殿下が島までさ、来て。物資の供給や次の干ばつへの対策さ、してくださったんです。」

「トロッケ島。…その島は五年前、私が元第二王子のツヴァイに救援指揮を任せた島だ。彼奴が干ばつの周期が四年に一度だと島の資料から気付き、対策をこうじたと私は報告を受けている。ツェーンには任せてなどいない。」

「その第二王子がツェーン殿下に押し付けたんです。あの第二王子は最後に成果の確認さ、来てツェーン殿下にご苦労の一言で成果持ち逃げして帰りました。」

ティモがそう溢れる悔しさを押し込めようと歯を食いしばる。
そして俺はティモの暴走に頭がクラクラして卒倒しそうになるのを耐える為に歯を食いしばる。

ー 何故今、それを言った!?

確かに俺は五年前、第二王子に干ばつに見舞われたトロッケ島の救援指揮を押し付けられた。そして、何食わぬ顔で最後に視察にやってきた第二王子に次回の干ばつに備えての対策書と報告書を強奪された。

だが、その強奪のおかげで俺は下手に功績を上げて、王位継承争いに巻き込まれるなんて事がなくなったのだ。

だからそれは功績を取られたけど、取られたんじゃない。
俺が勝手に心の中で同意しているのだから!!


恐る恐る国王陛下をみると本当なのかって言いたげな目でこっちを見ていたので、スッと目を逸らして現実逃避をした。

……あれ? ティモは俺が王位継承権剥奪されるように協力してくれるんじゃなかったっけ。何で王位に近付けようとしてるの?
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