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番外編
王都にて①
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紅茶色の髪をさらりと一本に纏め、宰相は王太子と今後の政務の話をする為に王宮の廊下を歩く。
すれ違う文官や騎士達はまだ若い宰相が気になり、振り返る。まだ自身より若くそれでも有能なレオノール・デーゲン。
眼鏡の奥の銀色のきつめの瞳が近寄り難い雰囲気を醸し出すが、時たまに滲み出る色香に最近密かにファンがいるとかいないとか。
◇
「っで、ローレン王太子殿下の脱走癖はジョゼフを囲い込む事で封じる事を成功しましたが……。」
ヒクヒクとレオノールの表情筋が痙攣する。
レオノールの眼下では謁見に来たシャルロッテ侯爵を完全視界からシャットアウトしてジョゼフに熱を帯びた視線をローレン王太子が送っている。
「いい加減にしてください。貴方の為にわざわざジョゼフを囲ったんですよ。わざわざ時期騎士団長の座から降りてもらったんですよ。仕事してください。」
「三週間、ベッドから旦那に出してもらえなかった貴様には言われたくない。」
「…それは俺の愚弟の所為だよ、ローレン。」
それでもジョゼフに熱視線を送るローレン王太子。流石の女侯爵、クリスタ・シャルロッテも肩をプルプルと震わせている。
「すみません。…シャルロッテ侯爵。」
「いえ、放置はワタクシにとってご褒美です。気にしないで。」
「何で私達の周りは頭のおかしい女性しかいないのですか…。」
放置されて喜んでんのかよとシャルロッテ侯爵からやんわりと気付かれないようにレオノールは距離を取った。
色ボケ未来の国王に、ドMの王家の影。果たしてこのフォルメルン王国に未来はあるのか。
ー いや、それは俺が何とかしなければいけない事で……。
「すみません。僕も謁見をお願いしているのですか。」
謁見時間が押して次の謁見者が入ってきた。ついでに謁見時間はもう一時間過ぎてる。
まだ下がらないシャルロッテ侯爵の隣に次の謁見者が膝をつく。
「リヒト・フリューゲル、ただいま参上致しました。この度お招きありがとうございます。」
随分とハキハキとして、公爵らしい堂々とした姿のリヒトがそこにはいた。昔はレオノール達の中でただ主張もせず頷いてた筈のリヒトはもう、そこにはいない。
ー 人って変わっていくもんなんだな。
ゲルダ・ファーデンと出会ってから変わっていったリヒト。だが、やはり『刑受の森』に行ってから変化が目まぐるしい。
ー いや、リヒトだけじゃないな。
リヒトの隣で前よりも柔らかに笑うようになったシュネー・フリューゲル。憑物が落ちたかのように幸せそうに自身の居場所を見つけたように。
おそらく変わっていったのはあの二人だけではない。きっとレオノールも自身が気付いていないだけで変わっていっているのかもしれない。
少なくとも昔より幸せだ。
疲労は昔より酷いが…。
「フリューゲル領はどうだ? 」
「はい。伴侶の協力もあり、少しずつですが、民達とともにフリューゲル領を発展に満身しております。そこで一つ兄上と宰相殿にお願いがありまして。」
リヒトがにっこりと生き生きとした笑顔を浮かべてる。だがこの男、この笑顔を浮かべる時は大体何か人にさせようとしてる時だ。どんだけ強かになったんだよ、お前。
「……申してみよ。」
ほら、ローレン王太子が流石に警戒してる。
そしてシャルロッテ侯爵は何時まであの場で放置なのか。あ…、また肩震わせて喜んでる。
リヒトがにっこりと笑い、誰かを呼ぶ。
するとシュネー・フリューゲルが小さな子供達を数人連れてきた。どの子供も少しボロけた服を来た庶民の子で、何人かは緊張しているようでシュネー・フリューゲルの服を掴んで固まってる。
「フリューゲル領は観光業に着手しようと思っています。これから着手するイベントとレジャーの提案者を連れてきました。聞いてもし、利益が国にもあると判断して頂けたら国内外にフリューゲル領の事を広めて欲しいのです。」
「その子らが提案者か? 子供ばかりではないか。」
「我が領の未来の担い手です。」
子供達はその言葉に少し誇らしげに顔を上げた。ローレン王太子はその姿に目を丸くして身を乗り出した。まさかこんな子供達がプレゼンテーションする気なのだろうか。とても学のある子供には服装からして見えない。
「俺達はよく作ったソリで雪の山から滑って遊ぶんだ。それを大会みたいにして誰が先に滑ってゴールまで行けるか自分で作ったソリで競ったら面白いと思うんだ。」
「私はね。いっぱい雪があるんだからね。その雪でお城を作って泊まれるようにすればいっぱい人が来てくれると思うの。雪のお城の中を可愛いキャンドルを置いて灯りにしたらきっとキレイで女の子は喜ぶと思うの。」
「僕は食べるのが大好きなんだ。何時も寒いからあったかいものがとっても美味しくていっぱい食べちゃうの。だからあったかい美味しい料理をもっと増やして売ったらみんな食べに来てくれると思うの。美味しいものだったら僕も遠くても食べに行きたいと思うから。」
「私は……。」
「俺ね……。」
子供達は生き生きと自身の意見を発言していく。それはプレゼンテーションと呼ぶには拙いものだが、キラキラとまるで自身の夢を語るように話すので何だか自然と耳に入ってくる。気付けばレオノールも耳を傾けていた。
そして最後の子供がおずおずと前に出る。
その子はどちらかと言うと普段自分の意見を口にしないような子に見えた。
大人しそうな子で自身の少し煤けたスカートを握り、口をグッと結んでいた。その顔は緊張で真っ赤。喋り出してもパクパクと口は動くが口から出る前に霧散するような小さな声でこちらには何も聞こえてこない。
ー 何故この子を最後にしたのだろう。
その子供を少し哀れに思ったが、リヒトがその子の前にしゃがみ、柔らかい笑みを浮かべて肩をポンッと優しく叩いた。
「大丈夫だよ、ゲルダ。僕は君の考えを素敵だと思ってる。失敗を考えなくていい。周りを気にしなくていい。君がやりたいようにやっていいんだ。僕は君達を信じているから。」
その言葉に少女の瞳が揺れた。
ギュッとスカートを掴んでた手に力が入り、その目はしっかりとローレン王太子を見た。
「わ、私は…、私のお父さんは彫刻師でした。仕事で誤って腕を刃で切っちゃって、それで治ったけど重いもの持てなくなって仕事無くなっちゃって。…でもね。お父さん、私が雪固めてお願いすると、雪を削ってウサギさんとかシカさん彫ってくれるの。とっても似ててね。皆んな、よく『本当に生きているみたい』って言ってくれるの。だからね、いっぱい雪とか氷を彫って飾ったらきっと皆んな綺麗だって驚くと思うんだ。その周りでお菓子とかいっぱい売って歌もいっぱい歌って。そしたら皆んな楽しいと思うの。」
その子は、ゲルダは先程までと違い、楽しそうにしっかりとした大きな声で堂々と話した。その内容にローレン王太子が「雪と氷の彫刻か…。見てみたいな。」と楽しそうに呟きを溢し、ジョゼフは「祭か。雪の土地の祭りなんて面白そうだな。」と言葉を漏らした。
確かに氷の彫刻には興味が湧いた。
氷の彫刻師という職業を作り、祭りや式典のイベントの一つとして組み込んでもウケそうだ。その祭りで腕を競い合って祭に訪れた人に投票してもらうっていうのも中々いい。これは使えるかもしれない。
それに貴族の間で氷の彫刻が流行れば冬でも氷の彫刻を作る為に氷が売れるようになる。
ゲルダはプレゼンテーションが終わると少し照れながらリヒトに抱き付き顔を埋めた。「凄かったよ。ありがとう、ゲルダ。」とリヒトが頭を撫でて褒めるとゲルダは頰を染めているように見えた。
「前向きに検討しよう。沙汰は追って出す。」
ローレン王太子も使えると思ったらしく、検討すると言いつつもその表情は楽しそうだ。
ペコリと頭を下げると彼等は謁見の間から出ようとしたが……。
「私、リヒト様と結婚する!! 」
ゲルダがそうリヒトと手を繋いだ時に頰を染めて言った。ソイツ、嫁いるぞ。と少し微笑ましくみているとリヒトが少し困ったような笑みを浮かべた。
「ありがとう、ゲルダ。でもね、僕には僕の事を誰よりも信じて付いて来てくれる可愛くてかけがえのない大事なお嫁さんが居るんだ。」
「そうなの。」
「ごめんね。好きになってくれてありがとう。」
「ううん。リヒト様はお嫁さんが大好きなんだね。私もお父さんのお嫁さんにもなりたいから分かるよ。」
「そっか。ゲルダのお父さんはこんな可愛いお嫁さんもらえて幸せ者だね。」
微笑ましく笑い合う二人。
その隣では可愛くてかけがえのない大事なお嫁さんが子供の手を握る指の先まで真っ赤になって悪ガキどもに「あっ、りんごみたいに真っ赤。」、「照れてる。」と弄られている。
「その言葉。丸ごと受け取ってお返しします。」
「うん。ありがとう。帰ったら家でまったりと外でデートどっちがいい。」
「………どっちもで。」
パタリッと謁見の間の扉は閉まったか、扉の外から子供達が囃し立てる声がした。二人が何をしたかは謁見の間にいるレオノール達にも丸分かりだ。
ー 他所でやってくれ……。
レオノールとローレン王太子はそう、切に思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
レオノール・デーゲン
ツンデレ苦労人の宰相。最近の悩みの種は自重を知らない旦那と色ボケ王太子。宰相の仕事は何とかこなしているが家から出られなくなる頻度が矢鱈高い。そこら辺は直属の部下達には同情されており、非難の声は一切出ない。本人はそれでも複雑。
ローレン王太子
ジョゼフと友人関係に戻れて長年溜まってたものが爆発している。ジョゼフに会う事が許されてからは一日二回はレオノール達の監視を潜り抜け政務から逃げ、会いに行っていた。
ジョゼフ・デーゲン
そろそろ騎士団長にもなるし、嫁でももらって身を固めようかなっと思ってた所で義弟からローレン王太子専属騎士の話が出た。騎士団長は「俺からまともな後継者を奪わないでくれ。」と泣き付かれたが、あまりにもローレン王太子が逃げ出してくるので国の為に折れるしかなかった。
クリスタ・シャルロッテ
王家の影であるシャルロッテ侯爵家の女侯爵。フェルゼンと幼い頃に出会ってしまった事で性癖目覚めたドM。
リヒト・フリューゲル
フリューゲル領を治める公爵。ローレン王太子の腹違いの弟で、レオノールとは元『友人』関係。年々強かになっている。その優しい性格から子供に好かれる。
シュネー・フリューゲル
リヒトの伴侶にして『従騎士』。幼い子供だろうが対等に扱うので悪ガキからはよく舐められる。
ゲルダと領民の子達
親がいる子もいればいない子もいる。リヒトが健立した学校の生徒達。授業の一環で『フリューゲル領を活かす観光業』という課題を出した所、良い案が多数出て来たので課外授業として大胆にも王太子の前に連れてきた。
すれ違う文官や騎士達はまだ若い宰相が気になり、振り返る。まだ自身より若くそれでも有能なレオノール・デーゲン。
眼鏡の奥の銀色のきつめの瞳が近寄り難い雰囲気を醸し出すが、時たまに滲み出る色香に最近密かにファンがいるとかいないとか。
◇
「っで、ローレン王太子殿下の脱走癖はジョゼフを囲い込む事で封じる事を成功しましたが……。」
ヒクヒクとレオノールの表情筋が痙攣する。
レオノールの眼下では謁見に来たシャルロッテ侯爵を完全視界からシャットアウトしてジョゼフに熱を帯びた視線をローレン王太子が送っている。
「いい加減にしてください。貴方の為にわざわざジョゼフを囲ったんですよ。わざわざ時期騎士団長の座から降りてもらったんですよ。仕事してください。」
「三週間、ベッドから旦那に出してもらえなかった貴様には言われたくない。」
「…それは俺の愚弟の所為だよ、ローレン。」
それでもジョゼフに熱視線を送るローレン王太子。流石の女侯爵、クリスタ・シャルロッテも肩をプルプルと震わせている。
「すみません。…シャルロッテ侯爵。」
「いえ、放置はワタクシにとってご褒美です。気にしないで。」
「何で私達の周りは頭のおかしい女性しかいないのですか…。」
放置されて喜んでんのかよとシャルロッテ侯爵からやんわりと気付かれないようにレオノールは距離を取った。
色ボケ未来の国王に、ドMの王家の影。果たしてこのフォルメルン王国に未来はあるのか。
ー いや、それは俺が何とかしなければいけない事で……。
「すみません。僕も謁見をお願いしているのですか。」
謁見時間が押して次の謁見者が入ってきた。ついでに謁見時間はもう一時間過ぎてる。
まだ下がらないシャルロッテ侯爵の隣に次の謁見者が膝をつく。
「リヒト・フリューゲル、ただいま参上致しました。この度お招きありがとうございます。」
随分とハキハキとして、公爵らしい堂々とした姿のリヒトがそこにはいた。昔はレオノール達の中でただ主張もせず頷いてた筈のリヒトはもう、そこにはいない。
ー 人って変わっていくもんなんだな。
ゲルダ・ファーデンと出会ってから変わっていったリヒト。だが、やはり『刑受の森』に行ってから変化が目まぐるしい。
ー いや、リヒトだけじゃないな。
リヒトの隣で前よりも柔らかに笑うようになったシュネー・フリューゲル。憑物が落ちたかのように幸せそうに自身の居場所を見つけたように。
おそらく変わっていったのはあの二人だけではない。きっとレオノールも自身が気付いていないだけで変わっていっているのかもしれない。
少なくとも昔より幸せだ。
疲労は昔より酷いが…。
「フリューゲル領はどうだ? 」
「はい。伴侶の協力もあり、少しずつですが、民達とともにフリューゲル領を発展に満身しております。そこで一つ兄上と宰相殿にお願いがありまして。」
リヒトがにっこりと生き生きとした笑顔を浮かべてる。だがこの男、この笑顔を浮かべる時は大体何か人にさせようとしてる時だ。どんだけ強かになったんだよ、お前。
「……申してみよ。」
ほら、ローレン王太子が流石に警戒してる。
そしてシャルロッテ侯爵は何時まであの場で放置なのか。あ…、また肩震わせて喜んでる。
リヒトがにっこりと笑い、誰かを呼ぶ。
するとシュネー・フリューゲルが小さな子供達を数人連れてきた。どの子供も少しボロけた服を来た庶民の子で、何人かは緊張しているようでシュネー・フリューゲルの服を掴んで固まってる。
「フリューゲル領は観光業に着手しようと思っています。これから着手するイベントとレジャーの提案者を連れてきました。聞いてもし、利益が国にもあると判断して頂けたら国内外にフリューゲル領の事を広めて欲しいのです。」
「その子らが提案者か? 子供ばかりではないか。」
「我が領の未来の担い手です。」
子供達はその言葉に少し誇らしげに顔を上げた。ローレン王太子はその姿に目を丸くして身を乗り出した。まさかこんな子供達がプレゼンテーションする気なのだろうか。とても学のある子供には服装からして見えない。
「俺達はよく作ったソリで雪の山から滑って遊ぶんだ。それを大会みたいにして誰が先に滑ってゴールまで行けるか自分で作ったソリで競ったら面白いと思うんだ。」
「私はね。いっぱい雪があるんだからね。その雪でお城を作って泊まれるようにすればいっぱい人が来てくれると思うの。雪のお城の中を可愛いキャンドルを置いて灯りにしたらきっとキレイで女の子は喜ぶと思うの。」
「僕は食べるのが大好きなんだ。何時も寒いからあったかいものがとっても美味しくていっぱい食べちゃうの。だからあったかい美味しい料理をもっと増やして売ったらみんな食べに来てくれると思うの。美味しいものだったら僕も遠くても食べに行きたいと思うから。」
「私は……。」
「俺ね……。」
子供達は生き生きと自身の意見を発言していく。それはプレゼンテーションと呼ぶには拙いものだが、キラキラとまるで自身の夢を語るように話すので何だか自然と耳に入ってくる。気付けばレオノールも耳を傾けていた。
そして最後の子供がおずおずと前に出る。
その子はどちらかと言うと普段自分の意見を口にしないような子に見えた。
大人しそうな子で自身の少し煤けたスカートを握り、口をグッと結んでいた。その顔は緊張で真っ赤。喋り出してもパクパクと口は動くが口から出る前に霧散するような小さな声でこちらには何も聞こえてこない。
ー 何故この子を最後にしたのだろう。
その子供を少し哀れに思ったが、リヒトがその子の前にしゃがみ、柔らかい笑みを浮かべて肩をポンッと優しく叩いた。
「大丈夫だよ、ゲルダ。僕は君の考えを素敵だと思ってる。失敗を考えなくていい。周りを気にしなくていい。君がやりたいようにやっていいんだ。僕は君達を信じているから。」
その言葉に少女の瞳が揺れた。
ギュッとスカートを掴んでた手に力が入り、その目はしっかりとローレン王太子を見た。
「わ、私は…、私のお父さんは彫刻師でした。仕事で誤って腕を刃で切っちゃって、それで治ったけど重いもの持てなくなって仕事無くなっちゃって。…でもね。お父さん、私が雪固めてお願いすると、雪を削ってウサギさんとかシカさん彫ってくれるの。とっても似ててね。皆んな、よく『本当に生きているみたい』って言ってくれるの。だからね、いっぱい雪とか氷を彫って飾ったらきっと皆んな綺麗だって驚くと思うんだ。その周りでお菓子とかいっぱい売って歌もいっぱい歌って。そしたら皆んな楽しいと思うの。」
その子は、ゲルダは先程までと違い、楽しそうにしっかりとした大きな声で堂々と話した。その内容にローレン王太子が「雪と氷の彫刻か…。見てみたいな。」と楽しそうに呟きを溢し、ジョゼフは「祭か。雪の土地の祭りなんて面白そうだな。」と言葉を漏らした。
確かに氷の彫刻には興味が湧いた。
氷の彫刻師という職業を作り、祭りや式典のイベントの一つとして組み込んでもウケそうだ。その祭りで腕を競い合って祭に訪れた人に投票してもらうっていうのも中々いい。これは使えるかもしれない。
それに貴族の間で氷の彫刻が流行れば冬でも氷の彫刻を作る為に氷が売れるようになる。
ゲルダはプレゼンテーションが終わると少し照れながらリヒトに抱き付き顔を埋めた。「凄かったよ。ありがとう、ゲルダ。」とリヒトが頭を撫でて褒めるとゲルダは頰を染めているように見えた。
「前向きに検討しよう。沙汰は追って出す。」
ローレン王太子も使えると思ったらしく、検討すると言いつつもその表情は楽しそうだ。
ペコリと頭を下げると彼等は謁見の間から出ようとしたが……。
「私、リヒト様と結婚する!! 」
ゲルダがそうリヒトと手を繋いだ時に頰を染めて言った。ソイツ、嫁いるぞ。と少し微笑ましくみているとリヒトが少し困ったような笑みを浮かべた。
「ありがとう、ゲルダ。でもね、僕には僕の事を誰よりも信じて付いて来てくれる可愛くてかけがえのない大事なお嫁さんが居るんだ。」
「そうなの。」
「ごめんね。好きになってくれてありがとう。」
「ううん。リヒト様はお嫁さんが大好きなんだね。私もお父さんのお嫁さんにもなりたいから分かるよ。」
「そっか。ゲルダのお父さんはこんな可愛いお嫁さんもらえて幸せ者だね。」
微笑ましく笑い合う二人。
その隣では可愛くてかけがえのない大事なお嫁さんが子供の手を握る指の先まで真っ赤になって悪ガキどもに「あっ、りんごみたいに真っ赤。」、「照れてる。」と弄られている。
「その言葉。丸ごと受け取ってお返しします。」
「うん。ありがとう。帰ったら家でまったりと外でデートどっちがいい。」
「………どっちもで。」
パタリッと謁見の間の扉は閉まったか、扉の外から子供達が囃し立てる声がした。二人が何をしたかは謁見の間にいるレオノール達にも丸分かりだ。
ー 他所でやってくれ……。
レオノールとローレン王太子はそう、切に思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんちゃってキャラ紹介
レオノール・デーゲン
ツンデレ苦労人の宰相。最近の悩みの種は自重を知らない旦那と色ボケ王太子。宰相の仕事は何とかこなしているが家から出られなくなる頻度が矢鱈高い。そこら辺は直属の部下達には同情されており、非難の声は一切出ない。本人はそれでも複雑。
ローレン王太子
ジョゼフと友人関係に戻れて長年溜まってたものが爆発している。ジョゼフに会う事が許されてからは一日二回はレオノール達の監視を潜り抜け政務から逃げ、会いに行っていた。
ジョゼフ・デーゲン
そろそろ騎士団長にもなるし、嫁でももらって身を固めようかなっと思ってた所で義弟からローレン王太子専属騎士の話が出た。騎士団長は「俺からまともな後継者を奪わないでくれ。」と泣き付かれたが、あまりにもローレン王太子が逃げ出してくるので国の為に折れるしかなかった。
クリスタ・シャルロッテ
王家の影であるシャルロッテ侯爵家の女侯爵。フェルゼンと幼い頃に出会ってしまった事で性癖目覚めたドM。
リヒト・フリューゲル
フリューゲル領を治める公爵。ローレン王太子の腹違いの弟で、レオノールとは元『友人』関係。年々強かになっている。その優しい性格から子供に好かれる。
シュネー・フリューゲル
リヒトの伴侶にして『従騎士』。幼い子供だろうが対等に扱うので悪ガキからはよく舐められる。
ゲルダと領民の子達
親がいる子もいればいない子もいる。リヒトが健立した学校の生徒達。授業の一環で『フリューゲル領を活かす観光業』という課題を出した所、良い案が多数出て来たので課外授業として大胆にも王太子の前に連れてきた。
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