寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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番外編

温泉①

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来る日も来る日も書類作業。
騎士の仕事って何だっけ?
何で私は山のような書類を一人で相手してるのだろう。

「北方騎士団を解体して新たに構築し直して、最後の膿のライフ男爵も処したのに。何故私の仕事は山のようなのだろう。」

何だか泣きそうになりつつも必死に最近ペンしか握ってない手を動かす。ああ、剣が握りたい。いや、もうペン以外なら何でも良い。しゃもじでもホウキでも何でも。

「専業主婦になろうかな。そしたらリヒトと一緒に居られるしな……。」

そんなアホな事も考えたが私を慕ってくれている部下がいるので見捨てる訳にもいかない。諦めてペンを動かし続けるとバタンッ!! とけたたましい音と共に扉が開いた。

「シュネー!! 温泉が…。フリューゲル領で温泉が出た!! 」

ゼェゼェと息を切らしながらリヒトが嬉しそうにそう叫んだ。

そんなリヒトを見て、「ああ、ついにこの人も書類の山地獄で頭がおかしくなったのか。」と本気でリヒトの頭を心配した。

「フリューゲル領は山に囲まれてますがあれは一応、休火山です。ずっと昔に火山活動が終わって休火山というより最早死んでます。あの山達は材木もなければ鉱石もない。死んでるんですよ。湧水も出ないですよあの山。」

「ロイが…、ロイが掘ってたら湧いて……。」

「ああ、あの博打大好き『穴掘りロイ』ですか。アイツの言う事は大半嘘ですよ。この前も勝手に所有地を掘って、『ここは金銀財宝が埋まってんだ。』とのたまってました。水すら出ないし、勝手に大切にしてた花壇を大きな穴にしたもんだからブチギレた家主を止めるのが大変でしたよ。あわや刃傷沙汰でした。」

そう溜息をつくとリヒトが外を指を差す。
すると窓の外にごうごうと地面から吹き出す水が見えた。しかも湯気が上がってる。

「えっ!? 嘘でしょ。そんなありきたりな展開。」

「うん、すごいよね。」

「あれ? ちょっと待って!? あの方角のあの位置って……私達の家がある所じゃないですか……。」

「うん、…そう。僕達の家……今、水浸しなんだ………。」

「取り敢えずロイを寄越してください。器物破損と不法侵入でしょっ引きます。」

「……程々にしてあげてね。」



「そんな奇跡的な経緯がありましたのね。」

キラキラと目を輝かせてヴィルマが温泉宿になってしまった我が家を見る。

公爵の家にしては庶民の家並みくらいの大きさしかなかった我が家。それでもそこには数年間過ごした二人の思い出があった。二人で家事を分担して、小さなベッドで身を寄せ合って寝て……。

大事なものが詰まってた我が家。
その面影はもうそこにはない。
立派な宿になってしまっている。

「いや、公爵なのにあんな小さな家じゃあ、示し付かないんでい。」

人の気持ちを読み取ったようにカラカラとネズミが笑いながら答えてくる。確かにそうだけど二人っきりの素朴な生活にも憧れてたんだよ……。

大きい屋敷だと使用人雇わなければいけないじゃないか。そしたら仕事以外家でやる事がなくなる。

何だか悲しくなってきてリヒトを見やるとリヒトも同じ思いのようで切な気に温泉宿になってしまった元我が家を見てる。

「この温泉宿で稼げたらまた二人だけで住める家を探そう。」

「そうですね。今間借りしてる元ゲフリーレン伯爵邸は無駄に広い上に事故物件ですからね…。あの暖かな小さな我が家が恋しい。」 

「公爵にそんな庶民的な生活されたら示しがつかん。お前達の邸は勝手にこちらで建てさせてもらうからな、愚弟夫婦。」

そうこの土地に合わない豪華な馬車から降りてきたローレン王太子が釘を刺す。大きなお節介だと言いたいが何分、観光業でローレン王太子を散々利用したので文句が言えない。

「でも小さい家も良いよな。」

ローレン王太子に続き、出てきたジョゼフがフォローするとローレン王太子はジョゼフの手を包み込んで、熱視線を向ける。

「そうだな。是非、王都の外れに俺達だけの家を建てたいな。」

「えっ!? いや、王宮の中に居てくれた方が仕事し易いんだが……。」

「昔、二人だけの基地が欲しいって話してただろう。、二人の証が欲しい。」

「ああ、そう言えばそんな事もあったな。懐かしい。…それなら仕方ないか。」

……目の前で友人が丸め込まれてる。
確実に外堀を埋められている。チラリとリヒトを見ると苦笑い。アルヴィンに関しては我関せず。寧ろ、ネズミに隣でずっと話し掛けられて面倒臭そうな顔してる。

「凄いな相棒の住んでる町は。温泉楽しみだな、レオ。」

「………私、温泉入らなければ駄目ですかね。嫌なんですが。」

何だかとっても楽しそうなシュヴェルトとそれと対照的に全く乗り気じゃないレオノール。何故かレオノールはシュヴェルトに姫抱きされていて、調子が悪そう。

「調子悪いなら部屋で休んでた方が。」

「はぁ…。是非、そうします。」

「でも温泉って病気や疲れてる時程いいんだろう? 」

「「えっ? 」」

折角、レオノールに休む事を勧めたのにシュヴェルトがレオノールを姫抱きしたまま温泉の方に直行する。リヒトやジョゼフが止めようとしたが、シュヴェルトは止まらなかった。

「嫌だ!? 、俺は絶対入らないッ!! 」

「レオは宰相の仕事で最近疲れてんだろ? ちゃんと疲れを取らなきゃ駄目だ。」

「ふざけんなッ!! 俺が疲れてるのは主にお前の所為だ!! お前が自重もせずにばかすかばかすか馬鹿みたいに……。」

「アルヴィン…。オイラ何だかあの眼鏡の兄ちゃんが可哀想に見えるんでい。気の所為かねぇ。」

「……俺に振るな。」

何だか一気に場が煩くなってきた。
これでフェルゼンとエリアスが居たら最悪だなと苦笑いを浮かべた。まぁ、謝罪文も薔薇もどうせ今日も届くんだろうが…。

「さぁ、いざ温泉に参りましょうか!! 」

テンション高めに堂々と男湯に入ろうとするヴィルマをカールが止める。

「ヴィルマは隣の女湯。覗きも駄目だよ。君はもうアーバイン夫人なんだから自重して。」

「えっ、何でこんな美味しい展開でわたくしぼっちで露天風呂?? 」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

なんちゃってキャラ紹介

シュネー・フリューゲル
『白百合の騎士』と呼ばれるリヒトの『従騎士』。北方騎士団本部長であり、フリューゲル公爵夫人でもあるので多忙。それでも家事はやりたい。

リヒト・フリューゲル
元第二王子でシュネーの主人で伴侶。フリューゲル公爵としてフリューゲル領を治めている。その親しみやすい優しい性格から領民から支持は高い。フリューゲル公爵として多忙だがそれでも伴侶同様家事はやりたい。

ヴィルマ・アーバイン
旧姓イーリス。婚約者カールとはこの春、結婚。欲望に忠実なのでそういう所はカールからの信頼は底辺。

カール・アーバイン
アーバイン家を継いでアーバイン伯爵になった。ヴィルマとの結婚式は二人してウェディングドレスを着た。シュネー達参列者は「まぁ、カールだから。」と受け入れていたが、カールの女装癖を知らなかったローレン王太子は大いに腰を抜かして驚いた。

ローレン王太子
リヒトの腹違いの兄で時期国王。やはり、ジョゼフへの想いは健在。外堀を確実に埋めようとしている。

ジョゼフ・デーゲン
騎士団長の息子だが、ローレン王太子があまりにも騎士団屯所に政務放り出して来るのでローレン王太子専属騎士という本人もよく分からない職に義弟レオノールに放り込まれた。

シュヴェルト・デーゲン
騎士団長トコの次男。やはりアホな所は何歳になろうが変わらない。未だにレオノールを振り回している。

レオノール・デーゲン
宰相になろうがツンデレ苦労人。寧ろ、色ボケなローレン王太子の所為で仕事が増え、義兄を生贄に捧げた。

アルヴィン・クリフト
平民出身の騎士。友の為に北方まで来たが、事務作業は一切手伝わない。本部長補佐もサラッと断った。最近ネズミがチョロチョロ何時も近くにいるので周囲からコンビ扱いされて面倒臭いと思ってる。酒には強いが酔い方が酷い。

ネズミ
主に元ゲフリーレン領で活躍していた元義賊の泥棒。騎士団には入っていないがアルヴィンとともに行動し、騎士団の仕事を手伝ってる。酒には滅法弱い。だが、毎回アルヴィンの酒盛りに付き合う。

エリアス・クランクハイト
『クランクハイトの黒薔薇』。未だにシュネーを諦めていない。

フェルゼン・ハースト
王家の影であるシャルロッテ侯爵家を裏で操っているシュネーの元兄。その思考は斜め上の狂人。

穴掘りロイ
フリューゲル領のお騒がせ男。博打が大好きで妻子が居るのに職に就く気がない。金銀財宝を掘り当てるのが夢で、度々、人の所有地に不法侵入して穴を掘る。勝手にシュネー達の家で温泉を掘り当てた際には温泉を知らなかった為、何かを壊したと思い込み、意外に小心者の彼は腰を抜かした。家で書類作業をしていたリヒトに「領主様ッ。もう、もうしねぇから壊したの許してくんろ。」と泣き付いた。

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