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番外編

外伝 雪の降る地で⑧

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ヒュンッと斧を振るうと心の壊れた傭兵達は中々の身のこなしで避ける。

しかし心が壊されて思考をしなくなった頭では安直な動きしか出来ない。俺がやり損なった敵をネズミがクナイで戦闘不能にしていく。

「ディーガの首飛ばしただけはあるねぇ。ハンデあってそれって何かクジャクと共闘してるみたいだねぇ。」

「……無駄口はいい。目の前に集中しろ。」

「オイラのスタンスは何時でも笑って何時でも軽快なトークが出来るナイスガイ。出来る大人はそーゆー所、忘れちゃあ駄目だねぇ。」

「……。」

「せめて、無視はやめてぇ。切ない。」

馬鹿な事を言ってる間に敵は戦闘不能になっていく。その光景にライフ男爵の額には汗が浮かび、逃げるように地上に繋がる階段を駆け上がっていった。

「……アイツ、逃げるぞ。」

「ザンネーン。上には『血染めの狼王』がいるんだなぁコレが。」

「ぎゃあぁあああ!! 魔獣ッ!! 」

「ほうら、いっちょ上がり。」

最後の敵を伸し、階段を上がるとそこには栗毛の狼より一回り大きい狼系魔獣がいた。ソイツは口から泡ぶくを出して伸びているライフ男爵を口に加えて「ねぇ、褒めて。」とご主人様に尻尾を振っている。

そのご主人様は俺の割りかしボロボロな姿を見るなり「大丈夫か!? 」と駆け寄ってきたが、「大丈夫。」だと伝えるとアメシストの瞳に安堵の色が浮かんだ。

「ごめん。ありがとう、アルヴィン。無事で良かった。」

「……この下に被害者達がいる。襲ってきたから伸したが命に別状はない。」

「そう、ありがとう。……おい、聞いたなお前達。お前達は救護に迎え。他はライフ男爵邸を制圧に動け。」

シュネーの言葉に騎士達がピシッと背筋を正し、命令を受け、動き出す。

「私達は騎士だ。騎士は国を守る存在。民を守る存在。…しかし私達はそれを怠った。その上、あろう事が驕り、腐っていった。今こそ騎士の本分を取り戻せ。騎士である事をこれからの行動で示し続けろッ。それが私達に出来るせめてもの贖罪だ。」

その言葉に騎士達の手に力がこもる。
この騎士達の中には驕り、悪さをしていたものもいただろう。仲間が悪さをしていたのに見て見ぬふりをしたものもいただろう。周りからの圧力を恐れて声を上げられなかったものもいただろう。

しかし今、彼等が顔に浮かべるのは守る男の顔だ。きっとこれから彼等は新たな指導者の下で騎士として多くの命を守っていくのだろう。


アメシストの瞳が力強く彼等を見守る。

フェルゼンやエリアスに怯えていたあの時の友はもうそこにはいない。そこにいるのは騎士団長みたいに頼もしい友の姿だった。

多くの傷を心に刻んでいく友を見て、俺が俺達が守ってやらなければと思っていた。馬鹿みたいに真っ直ぐで優しいこの友がこれ以上傷付かないように守らなければと思ってた。

ふわりと友が笑みを浮かべて拳を突き出した。その拳に俺の拳を合わせると一層明るい笑顔を浮かべた。

ー お前は救われたんだな。やっと。

あの馬鹿王子の顔が浮かぶ。

『……持ってないものだらけだ。オマエがアイツの主人なら埋めてみせろ。アイツがオマエを選んだなら応えろ。』

そうあの馬鹿王子が流刑される前、俺はアイツに当たるように言い放った。

だって、ただでさえ傷付いているのにこの死にたがりの馬鹿と命運をともにするなんて滅びの道しかないじゃないか。俺の友はこんな馬鹿と滅びる為に苦しくても生きてきたんじゃない。

でも、そうか。
お前がアイツの心を埋めてくれたのか。だからこんなに幸せそうで…。

ー まあ、認めはしないが。

ライフ男爵邸は騎士達に制圧されていく。
父の斧が月の光を反射して柔く光る。
何だかそれを見ていると父が笑ってくれているようでポタリッと目から一筋の雫が溢れた。
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