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誓いましょう
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大広場は入りきらない程の人で溢れかえっていた。
あのリヒトの処断の時よりも集まった国民。そして、大広場を見下ろすように王城のバルコニーからは王族がその光景を眺めている。
「罪は正当に裁かれねばなりません。そこに不正があってはならず、皆さま一人一人がこのこの処断の証人。責任を持たなければなりません。」
レオノールがそう人々に語り掛ける。新しく宰相となったレオノールは堂々とした立ち振る舞いで処断を取り仕切る。その姿を宰相で父であった筈の男は忌々しげに見つめるが、レオノールは一切気にしない。寧ろ、何かが吹っ切れたようにその表情は前よりも頼もしい。
シュヴェルトもレオノールの護衛として立っており、レオノールが堂々と立っていられるのはもしかしたらシュヴェルトが隣に居るからかもしれない。
そんな変化に私とリヒトは驚きつつも辺りを見渡す。舞台の上に居るのは皆、知っている人達だ。皆、冤罪を晴らす為に動いてくれた人達だ。
フェルゼンとエリアスもその中にいるのがとても気になるが……。
フェルゼンとエリアスがこちらを見て、ニコリと笑う。ぞわりと毛が逆立ち、思わずリヒトに抱き付いた。リヒトが腕を私に回して抱き寄せると二人の表情が厳しいものに変わっていた。
「大丈夫だから。」
リヒトが頼もしく笑う。
リヒトがそう笑うのだから私もしゃんと立っていなければ、トラウマなぞに負けずに。
元宰相のあげた証拠は完全に崩れていく。
国王や王太子に盛ろうとした毒の入手路。シャルロッテ元当主と結託して、リヒト王子を陥れた事。その証拠を掴んだゲルダ・ファーデンを亡き者にした罪。
全てが露見されていく。
集まった国民達はその内容にある者は眉を潜め、ある者は嫌悪感に顔を歪ませ、ある者は怒りを露わにした。
リヒトが私の手を強く握る。
その目は宰相を見ていたが、そこに怒りはなく、悲しげだった。
「貴方はそういう人ですよね。」
思わずリヒトらしくて溜息が出る。
消えない傷を残した相手に、自身の最愛を奪った相手に貴方にすらそんな瞳を向けるのか。
貴方のその優しさが私には少し悲しく感じて、それでいてじんわりと心の中を温かくしてくれる。
しかし、それでも元宰相は諦めが悪く喚いていた。
「違う。ワシは嵌められただけだ。」と何度も否定して、リヒトにまた罪を着せようとする。しかしそれでもリヒトの目はただ真っ直ぐと元宰相を見つめていた。
「エリアス!! お前なら分かる筈だ。お前はワシを愛しているだろうッ。」
そうエリアスに駆け寄るがエリアスはその手を払い除け、ゴミを見るような目を元宰相に向けた。
「俺が貴方を? 冗談でしょ。」
その氷のように冷たい寒々とした声に元宰相を後ずさった。信じていた者に裏切られたような絶望の表情を浮かべる。そしてその怒りの矛先は全てリヒトに向かう。
「お前がッ。お前さえいなければ!! 」
元宰相が腕を振り上げ、リヒトを殴ろうと走ってくる。
その諦めの悪さと身勝手さには呆れを通り越してある意味感嘆する。
何だか斬り伏せるのも馬鹿馬鹿しくなり、鞘に入った剣で思いっきり元宰相の横腹を殴った。横腹を抑えて元宰相はのたうち回った。
「主人に手を出すなら次は斬り捨てる。」
「き…キサマ!! 白騎士ィッ。」
痛みに苦しむ中、憎しみの表情を元宰相は私に向けたが、そんなもの『刑受の森』で、もっと厄介な奴等と対峙していたのでへでもない。寧ろ、リヒトにこれ以上、逆恨みされるより好都合だ。
「お前がッ。お前が全て手引きしたのか!! 」
「そう思うなら。そう取ってもらって構わない。…勝手に恨んでろ。何度恨んで向かってこようが斬り伏せてやるよ。」
殺気を込めて睨み付けると元宰相は先程までの勢いをなくし、ブルブルと震え上がり、その場でうずくまった。
元宰相は『刑受の森』に明日、流刑される事が決まり、王城の牢屋ではなく、堅牢と有名な刑務所に明日まで牢獄が決まった。ゲルダの命を奪い、リヒトを嵌めた元宰相の最後はとても呆気ないものだった。
元宰相が騎士達に連れられ舞台から降りる。すると王城のバルコニーで国王の隣に控えていたローレン王太子が前に出た。その隣にはジョゼフが護衛として立っていた。
「皆、大義であった。各々には後に褒美を取らせる。この場では元第二王子リヒトの処遇を決めたい。前に出よ、リヒトよ。」
リヒトはローレン王太子に命じられ、舞台の真ん中に立つ。
随分昔に開いた王子主催のお茶会でも隣に座ってもお互い目を合わせなかった兄弟が今、しっかりとお互いの目を見て、対峙している。ローレン王太子は思う所があるのか少し眉を下げたが、すぐにキリッとした王太子らしい表情に戻った。
「『刑受の森』に無実の罪で送られて、よくぞ生き抜いた。元宰相の罪を露見した功績は大きい。お前には王子に戻る権利もある。お前は褒美に何を望む。」
「恐れながら、ならば三つ、欲しいものが御座います。」
「よい、申してみよ。」
リヒトはふわりと笑い私に来るように手招きする。私はそれに従い、『従騎士』らしく主人に膝をつこうとしたが抱き寄せられた。
「『刑受の森』で生き残れたのは彼の献身的な支えがあったからです。一つ目に望むはまだ十五の彼との婚姻です。」
驚き、リヒトを見るとリヒトの柔らかな唇が重なる。何故、人に注目される事が苦手なのにこんな大勢の前で口付けが出来るのか。
「キャッ。」とヴィルマとカールが嬉しそうに悲鳴をあげた。何だか大広場のいたる所からヴィルマ達に続いて嬉しそうな悲鳴が聞こえた気がする。…きっと幻聴だろう。
やっと唇を離すとリヒトの腕が腰に回る。
跪かせてはくれないらしい。出来れば顔が今、真っ赤なので是非とも跪きたいのだが。
ローレンは突然の弟の突飛な行動に驚き、パクパクと声の出ない口を開けていたがやっと落ち着き、ゴホンッと咳払いをした。
「よ…よかろう。ならば二つ目は。」
「はい、二つ目は王子の地位はお断り致しますのでその代わり爵位と土地を頂きたい。これは我が伴侶シュネー・フリューゲルの願いでもあります。」
「王子に戻らないならば公爵位をお前は元より受け取る事になるので爵位の件は褒美に含めなくていい。…ならばお前は今日からフリューゲル公爵として生きよ。して、欲しい土地とは? 」
リヒトが私を見て、本当に良いのかと問う。
私はポンッと心配性な旦那の背中を力強く叩いた。リヒトは背中をさすりながらあははと笑った。
「年の半分が雪に閉ざされ、氷だけで支えられている土地。フォルメルン王国北方のある領主が治める土地を頂きたい。必ず、今の当主より発展させてみせましょう。」
「…雪、氷だけで支えている土地。ゲフリーレン領とライフ領の事か。随分と過酷な土地を選んだものだ。…良かろう。」
「そして三つ目です。」
リヒトが何を最後に望むのか。
皆が注目した。リヒトはそれでもしっかりとそこに立ち、リヒトらしい願いを告げる。
「大泥棒ネズミと呼ばれた青年に、不当に掛けられた連続婦女子殺害の罪を晴らしたい。彼の無実を証明させて欲しい。」
その言葉にローレンは訳が分からず首を傾げた。私とリヒト以外それが誰のことだか分かっている人はほんのひと握りしかいないだろう。何年か前にフォルメルン王国の北の一部で活躍していた泥棒の事など覚えていないだろう。本人曰く、フォルメルン王国一の天下の大泥棒らしいが……。
しかしリヒトにとっては初めて出来た友人で唯一無二の親友だ。罪をなかった事にしてもらうのではなく、証明させて欲しいと願う所が私はリヒトらしいと思う。
「良かろう。好きにせよ。」
ローレンから許可がおり、処断もリヒトの処遇も決まり、閉幕しようとした。私も舞台の端に戻ろうと歩き出したが、リヒトに腕を掴まれ引き止められた。
その空色の瞳には少し不安そうな色が浮かんでいる。
「シュネー。僕は心配な事がある。」
「何ですか。今出来る事は全てやったじゃないですか…。結婚は十六歳からなのに法律までねじ曲げて。」
「うん、そうだね。僕は一切君を離す気がないけど、行った先でまた変な虫が付きそうで心配してる。」
「まだ、トラウマも治ってないんですよ。…貴方以外に寄られたくも触られたくも近づかれたくもないと思ってるんですよ。私生活に支障が出るレベルですよ、全く。」
こっちが真剣にこのトラウマをどうしたものかと思っているのにあちらもかなりくだらない事でかなり真剣だ。
いや、『従騎士の誓い』もして、婚姻も果たしてこれ以上どうする気なのか。
ー 仕方ないな…。
とてもくだらない事を真剣に心配するリヒトの手を祈るように握る。
あの時とは違い、ゆっくりと一つ一つ丁寧に愛しい貴方に誓う。それは誓いと言うにはあまりにも呪いに近く。本来ならば口にするのも憚られる言葉。
「一つ、この剣は我が王の為。
一つ、この命は我が王の為。
一つ、この生は我が王の為。
これを分かつ事は死しても成らず。
我が全ては我が王に。
この身は我が王の剣なり。 」
あの時のような恐怖感と喪失感はない。
ただ満たされていて、愛しい気持ちが溢れてくる。
「 精霊の名の下に誓約を。貴方の伴侶として誓いましょう。 」
リヒトの唇に自身の唇を重ねた。
温かくて心の底から満たされる。リヒトが私を抱き締めて更に深く唇を重ねた。
ふわりと空から雪のように花びらが舞い降る。しかし、それは触れても雪のように冷たくはなく、温かくしんしんと降り積もっていく。
ー Fin ー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。至らない点はまぁ、かなりあったかと思いますが、最後まで楽しんで頂けたのなら幸いです。
あのリヒトの処断の時よりも集まった国民。そして、大広場を見下ろすように王城のバルコニーからは王族がその光景を眺めている。
「罪は正当に裁かれねばなりません。そこに不正があってはならず、皆さま一人一人がこのこの処断の証人。責任を持たなければなりません。」
レオノールがそう人々に語り掛ける。新しく宰相となったレオノールは堂々とした立ち振る舞いで処断を取り仕切る。その姿を宰相で父であった筈の男は忌々しげに見つめるが、レオノールは一切気にしない。寧ろ、何かが吹っ切れたようにその表情は前よりも頼もしい。
シュヴェルトもレオノールの護衛として立っており、レオノールが堂々と立っていられるのはもしかしたらシュヴェルトが隣に居るからかもしれない。
そんな変化に私とリヒトは驚きつつも辺りを見渡す。舞台の上に居るのは皆、知っている人達だ。皆、冤罪を晴らす為に動いてくれた人達だ。
フェルゼンとエリアスもその中にいるのがとても気になるが……。
フェルゼンとエリアスがこちらを見て、ニコリと笑う。ぞわりと毛が逆立ち、思わずリヒトに抱き付いた。リヒトが腕を私に回して抱き寄せると二人の表情が厳しいものに変わっていた。
「大丈夫だから。」
リヒトが頼もしく笑う。
リヒトがそう笑うのだから私もしゃんと立っていなければ、トラウマなぞに負けずに。
元宰相のあげた証拠は完全に崩れていく。
国王や王太子に盛ろうとした毒の入手路。シャルロッテ元当主と結託して、リヒト王子を陥れた事。その証拠を掴んだゲルダ・ファーデンを亡き者にした罪。
全てが露見されていく。
集まった国民達はその内容にある者は眉を潜め、ある者は嫌悪感に顔を歪ませ、ある者は怒りを露わにした。
リヒトが私の手を強く握る。
その目は宰相を見ていたが、そこに怒りはなく、悲しげだった。
「貴方はそういう人ですよね。」
思わずリヒトらしくて溜息が出る。
消えない傷を残した相手に、自身の最愛を奪った相手に貴方にすらそんな瞳を向けるのか。
貴方のその優しさが私には少し悲しく感じて、それでいてじんわりと心の中を温かくしてくれる。
しかし、それでも元宰相は諦めが悪く喚いていた。
「違う。ワシは嵌められただけだ。」と何度も否定して、リヒトにまた罪を着せようとする。しかしそれでもリヒトの目はただ真っ直ぐと元宰相を見つめていた。
「エリアス!! お前なら分かる筈だ。お前はワシを愛しているだろうッ。」
そうエリアスに駆け寄るがエリアスはその手を払い除け、ゴミを見るような目を元宰相に向けた。
「俺が貴方を? 冗談でしょ。」
その氷のように冷たい寒々とした声に元宰相を後ずさった。信じていた者に裏切られたような絶望の表情を浮かべる。そしてその怒りの矛先は全てリヒトに向かう。
「お前がッ。お前さえいなければ!! 」
元宰相が腕を振り上げ、リヒトを殴ろうと走ってくる。
その諦めの悪さと身勝手さには呆れを通り越してある意味感嘆する。
何だか斬り伏せるのも馬鹿馬鹿しくなり、鞘に入った剣で思いっきり元宰相の横腹を殴った。横腹を抑えて元宰相はのたうち回った。
「主人に手を出すなら次は斬り捨てる。」
「き…キサマ!! 白騎士ィッ。」
痛みに苦しむ中、憎しみの表情を元宰相は私に向けたが、そんなもの『刑受の森』で、もっと厄介な奴等と対峙していたのでへでもない。寧ろ、リヒトにこれ以上、逆恨みされるより好都合だ。
「お前がッ。お前が全て手引きしたのか!! 」
「そう思うなら。そう取ってもらって構わない。…勝手に恨んでろ。何度恨んで向かってこようが斬り伏せてやるよ。」
殺気を込めて睨み付けると元宰相は先程までの勢いをなくし、ブルブルと震え上がり、その場でうずくまった。
元宰相は『刑受の森』に明日、流刑される事が決まり、王城の牢屋ではなく、堅牢と有名な刑務所に明日まで牢獄が決まった。ゲルダの命を奪い、リヒトを嵌めた元宰相の最後はとても呆気ないものだった。
元宰相が騎士達に連れられ舞台から降りる。すると王城のバルコニーで国王の隣に控えていたローレン王太子が前に出た。その隣にはジョゼフが護衛として立っていた。
「皆、大義であった。各々には後に褒美を取らせる。この場では元第二王子リヒトの処遇を決めたい。前に出よ、リヒトよ。」
リヒトはローレン王太子に命じられ、舞台の真ん中に立つ。
随分昔に開いた王子主催のお茶会でも隣に座ってもお互い目を合わせなかった兄弟が今、しっかりとお互いの目を見て、対峙している。ローレン王太子は思う所があるのか少し眉を下げたが、すぐにキリッとした王太子らしい表情に戻った。
「『刑受の森』に無実の罪で送られて、よくぞ生き抜いた。元宰相の罪を露見した功績は大きい。お前には王子に戻る権利もある。お前は褒美に何を望む。」
「恐れながら、ならば三つ、欲しいものが御座います。」
「よい、申してみよ。」
リヒトはふわりと笑い私に来るように手招きする。私はそれに従い、『従騎士』らしく主人に膝をつこうとしたが抱き寄せられた。
「『刑受の森』で生き残れたのは彼の献身的な支えがあったからです。一つ目に望むはまだ十五の彼との婚姻です。」
驚き、リヒトを見るとリヒトの柔らかな唇が重なる。何故、人に注目される事が苦手なのにこんな大勢の前で口付けが出来るのか。
「キャッ。」とヴィルマとカールが嬉しそうに悲鳴をあげた。何だか大広場のいたる所からヴィルマ達に続いて嬉しそうな悲鳴が聞こえた気がする。…きっと幻聴だろう。
やっと唇を離すとリヒトの腕が腰に回る。
跪かせてはくれないらしい。出来れば顔が今、真っ赤なので是非とも跪きたいのだが。
ローレンは突然の弟の突飛な行動に驚き、パクパクと声の出ない口を開けていたがやっと落ち着き、ゴホンッと咳払いをした。
「よ…よかろう。ならば二つ目は。」
「はい、二つ目は王子の地位はお断り致しますのでその代わり爵位と土地を頂きたい。これは我が伴侶シュネー・フリューゲルの願いでもあります。」
「王子に戻らないならば公爵位をお前は元より受け取る事になるので爵位の件は褒美に含めなくていい。…ならばお前は今日からフリューゲル公爵として生きよ。して、欲しい土地とは? 」
リヒトが私を見て、本当に良いのかと問う。
私はポンッと心配性な旦那の背中を力強く叩いた。リヒトは背中をさすりながらあははと笑った。
「年の半分が雪に閉ざされ、氷だけで支えられている土地。フォルメルン王国北方のある領主が治める土地を頂きたい。必ず、今の当主より発展させてみせましょう。」
「…雪、氷だけで支えている土地。ゲフリーレン領とライフ領の事か。随分と過酷な土地を選んだものだ。…良かろう。」
「そして三つ目です。」
リヒトが何を最後に望むのか。
皆が注目した。リヒトはそれでもしっかりとそこに立ち、リヒトらしい願いを告げる。
「大泥棒ネズミと呼ばれた青年に、不当に掛けられた連続婦女子殺害の罪を晴らしたい。彼の無実を証明させて欲しい。」
その言葉にローレンは訳が分からず首を傾げた。私とリヒト以外それが誰のことだか分かっている人はほんのひと握りしかいないだろう。何年か前にフォルメルン王国の北の一部で活躍していた泥棒の事など覚えていないだろう。本人曰く、フォルメルン王国一の天下の大泥棒らしいが……。
しかしリヒトにとっては初めて出来た友人で唯一無二の親友だ。罪をなかった事にしてもらうのではなく、証明させて欲しいと願う所が私はリヒトらしいと思う。
「良かろう。好きにせよ。」
ローレンから許可がおり、処断もリヒトの処遇も決まり、閉幕しようとした。私も舞台の端に戻ろうと歩き出したが、リヒトに腕を掴まれ引き止められた。
その空色の瞳には少し不安そうな色が浮かんでいる。
「シュネー。僕は心配な事がある。」
「何ですか。今出来る事は全てやったじゃないですか…。結婚は十六歳からなのに法律までねじ曲げて。」
「うん、そうだね。僕は一切君を離す気がないけど、行った先でまた変な虫が付きそうで心配してる。」
「まだ、トラウマも治ってないんですよ。…貴方以外に寄られたくも触られたくも近づかれたくもないと思ってるんですよ。私生活に支障が出るレベルですよ、全く。」
こっちが真剣にこのトラウマをどうしたものかと思っているのにあちらもかなりくだらない事でかなり真剣だ。
いや、『従騎士の誓い』もして、婚姻も果たしてこれ以上どうする気なのか。
ー 仕方ないな…。
とてもくだらない事を真剣に心配するリヒトの手を祈るように握る。
あの時とは違い、ゆっくりと一つ一つ丁寧に愛しい貴方に誓う。それは誓いと言うにはあまりにも呪いに近く。本来ならば口にするのも憚られる言葉。
「一つ、この剣は我が王の為。
一つ、この命は我が王の為。
一つ、この生は我が王の為。
これを分かつ事は死しても成らず。
我が全ては我が王に。
この身は我が王の剣なり。 」
あの時のような恐怖感と喪失感はない。
ただ満たされていて、愛しい気持ちが溢れてくる。
「 精霊の名の下に誓約を。貴方の伴侶として誓いましょう。 」
リヒトの唇に自身の唇を重ねた。
温かくて心の底から満たされる。リヒトが私を抱き締めて更に深く唇を重ねた。
ふわりと空から雪のように花びらが舞い降る。しかし、それは触れても雪のように冷たくはなく、温かくしんしんと降り積もっていく。
ー Fin ー
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ここまでお付き合い頂きありがとうございました。至らない点はまぁ、かなりあったかと思いますが、最後まで楽しんで頂けたのなら幸いです。
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