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それは血のように赤く
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空に舞う血飛沫。
むわんと薫る血の匂い。
気付けば僕は地面に横たわっていた。服にはおびただしい血が付着している。
それなのに身体に痛みは全くない。
はたと見上げるとポタリポタリッと血の雨が降る。
そこにはディーガの大剣を身体に受けるキツネの姿がそこにはあった。
「キツ…ネ? 」
大剣を引き抜かれ、キツネはバタリッとその場に倒れた。肩から肺のあたりまで斬り裂かれたそこから絶え間なく血が流れ、ヒュッー。ヒュッー。と嫌な息遣いをする。
「どうして……。」
「お…まえ…死んだ…ら、シュ…ネーちゃ…も死ぬ……んだ…ろ。」
ゴボッゴホッと口から血を吐き、キツネが睨む。その目は逃げろと言っている。
「馬鹿だな。庇うなんざ、罪人のやるこっちゃあねぇな。」
ディーガがキツネを鼻で笑い、大剣に付いた血を払う。そしてその大剣を今度こそ僕に向ける。しかし瀕死のキツネが力の入らない手でディーガの足を掴む。
「そいつッ…殺したら……シュネーちゃ……は手に……入らない…ぞッ。」
「しぶてぇ、奴だなぁ。…何にか? 想い人を殺されたら俺様の『女』は後追いでもすんのか? 安心しろよ。そんな事出来ねぇように毎日抱き潰してやるよ。」
そう言ってキツネの手を乱暴に足で振り払うが、キツネは再度ディーガの足を掴む。
「従……騎士の…誓い…だ。」
キツネの手を再度振り払おうとしたディーガの目に驚愕の色が浮かぶ。
「『従騎士の誓い』だとぉ!? くそッ、確かに殺せねぇなあ。コイツが俺様の『女』の主人かよッ。」
八つ当たりにキツネの手を思いっきり踏み付けて、ギロリッと僕を睨んだ。
「嬲るくらいなりゃ大丈夫だろ。それぐらいしねぇと気が済まねぇ。」
胸ぐらを掴まれて身体が宙に浮く。
「死ぬんじゃねぇぞ。俺様の気が済むまで。」
何とか剣を抜こうとするが頭を強く殴られて意識が飛びそうになる。口の中が鉄の味がする。
それでも剣に手を伸ばす。
「…アイツの心を埋めろとは言ったが、最前線に出ろとは言ってない。」
不意に呆れたような誰かの声が聞こえた。首を締め付けていたものから解放され、地面に倒れ込む。
「ゴボッ…ゴボッゴホッ。」
血のように赤いものがチラリと視界の中で揺れる。金属がぶつかり合う音が響き、火花が散る。
血の色のように赤い髪をした一人の騎士がディーガ相手にやり合っていた。
「……立て、馬鹿王子。俺の友を殺す気か。」
「君は…シュネーの友達の…。」
アルヴィンに促されて立つ。
僕も戦おうかとも考えたが、どう考えても僕の剣の腕じゃ足手纏いだ。ディーガはアルヴィンに任せて、キツネの元へ駆け寄る。
キツネはまだ生きているがどんなに抑えても血が止まらない。
「あ…ほ。逃…ろ。」
「ダメだよ。ダメだ。死なせないよ。」
抑え方が悪いのかと色々試してみても止まらない。火で傷口を焼き切れば止まるだろうか?
「……助からない。その怪我じゃ。お前はさっさと逃げろ。」
アルヴィンがディーガの大剣をさばきながら置いて逃げろと催促する。でもキツネは僕を庇って……。
「余裕じゃねぇか、小僧。」
「……フェルメルン王国騎士団所属、アルヴィン・クリフトだ。アンタのやっている事は職務妨害にあたる。大人しく引け。」
「うるせぇな。ここでは俺様がルールだ。」
アルヴィンはディーガ相手に一歩も劣らず、応戦する。しかし、ディーガも負けてはいない。剣だけでなく、足や砂を蹴り上げ、アルヴィンを翻弄する。
「……小賢しい。」
「勝ちゃあいいんだよ。」
「なら相手が増えても文句言うなよ。」
白が目の前を駆け抜ける。
その姿を見たディーガはニィィと気持ち悪く嗤った。
「俺様が恋しくて帰ってきたのかぁ? 嬉しいねぇ。」
「私が恋しかったのはリヒトだ。勘違いするな。」
シュネーの炎のように光を受けて複雑に揺らめく剣がディーガの腕を裂く。ディーガは堪らず距離を取り、再度大剣を握り直すが、アルヴィンの猛追に圧される。
「急ぐな。戦闘狂。」
「……勢いも必要。」
シュネーが溜息をつき、アルヴィンに圧されるディーガに更に攻撃を加えていく。ディーガは避けきれず、身体に傷を作っていく。
「……シュネー、怒ってる? 剣筋がブレてる。」
「地味に…。帰って来たら主人の顔が傷だらけで頭にきてるよ。」
シュネーが息をフゥッと吐いて、大剣を絡め取るように受け流す。大きく開いた隙、アルヴィンはギラギラと目を光らせ、少し笑った。アルヴィンの剣がけたたましい音をあげ、空とともにディーガを斬る。ディーガの首が血とともに空を舞った。
ディーガのデカイ体躯が地面に転がる。そんなディーガだったものに一瞥もくれず、アルヴィンとシュネーが剣の血を払い、鞘にしまった。
アルヴィンがシュネーに拳を突き出した。シュネーもその拳に自身の拳を合わせようと突き出すが……。
「うっ、……ごめん。トラウマ酷くなったかも……。」
合わさる前にシュネーが顔を真っ青にして拳を下げた。
ー 締まらない。
そんな勝利を喜んでいいか分からない光景に戸惑っているとアルヴィンがこちらを睨んでいる。
「友に何をした…。」と言いたげな、今にも射殺しそうなな眼力で。
◇
久々に再開した友に何だか心がホッとする。
ディーガも討ち、金の目も討ち、おそらくヤマネコもネズミが確実に討ってくれているだろう。
そしてここにアルヴィンがいるという事は冤罪が晴れた事を意味している。
ー 終わったのか。やっと……。
何だか長い一年と数ヶ月だった。
それがやっと…。
「キツネ!! しっかりして、キツネッ。」
リヒトの声に我に帰る。
手を血の色に染めるリヒトに抱かれて血だまりの中にキツネがいた。
ヒュッー。ヒュッー。と何処からか吸った息が漏れているかのような嫌な音。近付くと肩から肺のあたりまで長く深い傷がキツネに刻まれていた。
「シュネー。シュネーッ。キツネは…キツネは僕を庇って…。」
「何…で。」
ー 何で罪人のオマエがリヒトを庇うんだよ。
血だまりの中に膝をつけるとまだ意識があるのか私を視界の中に見つけて、少し嬉しそうな表情を浮かべた。
ー この傷じゃ助からない。
ポタリッポタリッと目頭から熱いものが流れる。キツネの目が驚きの色に染まり、傷が痛い筈なのに穏やかな笑みが浮かぶ。
「泣い…て……くれ…んだ。」
「何故…。何でッ…。」
血に濡れ、痛みに震える手が私の涙を掬うように頰を撫でる。キツネの瞳からホロホロと涙が溢れる。
「あり…がとう。………………れ…て。」
涙を拭う手が私の頰から離れる。
最期の笑みを残したままキツネの瞳から光が消えた。
むわんと薫る血の匂い。
気付けば僕は地面に横たわっていた。服にはおびただしい血が付着している。
それなのに身体に痛みは全くない。
はたと見上げるとポタリポタリッと血の雨が降る。
そこにはディーガの大剣を身体に受けるキツネの姿がそこにはあった。
「キツ…ネ? 」
大剣を引き抜かれ、キツネはバタリッとその場に倒れた。肩から肺のあたりまで斬り裂かれたそこから絶え間なく血が流れ、ヒュッー。ヒュッー。と嫌な息遣いをする。
「どうして……。」
「お…まえ…死んだ…ら、シュ…ネーちゃ…も死ぬ……んだ…ろ。」
ゴボッゴホッと口から血を吐き、キツネが睨む。その目は逃げろと言っている。
「馬鹿だな。庇うなんざ、罪人のやるこっちゃあねぇな。」
ディーガがキツネを鼻で笑い、大剣に付いた血を払う。そしてその大剣を今度こそ僕に向ける。しかし瀕死のキツネが力の入らない手でディーガの足を掴む。
「そいつッ…殺したら……シュネーちゃ……は手に……入らない…ぞッ。」
「しぶてぇ、奴だなぁ。…何にか? 想い人を殺されたら俺様の『女』は後追いでもすんのか? 安心しろよ。そんな事出来ねぇように毎日抱き潰してやるよ。」
そう言ってキツネの手を乱暴に足で振り払うが、キツネは再度ディーガの足を掴む。
「従……騎士の…誓い…だ。」
キツネの手を再度振り払おうとしたディーガの目に驚愕の色が浮かぶ。
「『従騎士の誓い』だとぉ!? くそッ、確かに殺せねぇなあ。コイツが俺様の『女』の主人かよッ。」
八つ当たりにキツネの手を思いっきり踏み付けて、ギロリッと僕を睨んだ。
「嬲るくらいなりゃ大丈夫だろ。それぐらいしねぇと気が済まねぇ。」
胸ぐらを掴まれて身体が宙に浮く。
「死ぬんじゃねぇぞ。俺様の気が済むまで。」
何とか剣を抜こうとするが頭を強く殴られて意識が飛びそうになる。口の中が鉄の味がする。
それでも剣に手を伸ばす。
「…アイツの心を埋めろとは言ったが、最前線に出ろとは言ってない。」
不意に呆れたような誰かの声が聞こえた。首を締め付けていたものから解放され、地面に倒れ込む。
「ゴボッ…ゴボッゴホッ。」
血のように赤いものがチラリと視界の中で揺れる。金属がぶつかり合う音が響き、火花が散る。
血の色のように赤い髪をした一人の騎士がディーガ相手にやり合っていた。
「……立て、馬鹿王子。俺の友を殺す気か。」
「君は…シュネーの友達の…。」
アルヴィンに促されて立つ。
僕も戦おうかとも考えたが、どう考えても僕の剣の腕じゃ足手纏いだ。ディーガはアルヴィンに任せて、キツネの元へ駆け寄る。
キツネはまだ生きているがどんなに抑えても血が止まらない。
「あ…ほ。逃…ろ。」
「ダメだよ。ダメだ。死なせないよ。」
抑え方が悪いのかと色々試してみても止まらない。火で傷口を焼き切れば止まるだろうか?
「……助からない。その怪我じゃ。お前はさっさと逃げろ。」
アルヴィンがディーガの大剣をさばきながら置いて逃げろと催促する。でもキツネは僕を庇って……。
「余裕じゃねぇか、小僧。」
「……フェルメルン王国騎士団所属、アルヴィン・クリフトだ。アンタのやっている事は職務妨害にあたる。大人しく引け。」
「うるせぇな。ここでは俺様がルールだ。」
アルヴィンはディーガ相手に一歩も劣らず、応戦する。しかし、ディーガも負けてはいない。剣だけでなく、足や砂を蹴り上げ、アルヴィンを翻弄する。
「……小賢しい。」
「勝ちゃあいいんだよ。」
「なら相手が増えても文句言うなよ。」
白が目の前を駆け抜ける。
その姿を見たディーガはニィィと気持ち悪く嗤った。
「俺様が恋しくて帰ってきたのかぁ? 嬉しいねぇ。」
「私が恋しかったのはリヒトだ。勘違いするな。」
シュネーの炎のように光を受けて複雑に揺らめく剣がディーガの腕を裂く。ディーガは堪らず距離を取り、再度大剣を握り直すが、アルヴィンの猛追に圧される。
「急ぐな。戦闘狂。」
「……勢いも必要。」
シュネーが溜息をつき、アルヴィンに圧されるディーガに更に攻撃を加えていく。ディーガは避けきれず、身体に傷を作っていく。
「……シュネー、怒ってる? 剣筋がブレてる。」
「地味に…。帰って来たら主人の顔が傷だらけで頭にきてるよ。」
シュネーが息をフゥッと吐いて、大剣を絡め取るように受け流す。大きく開いた隙、アルヴィンはギラギラと目を光らせ、少し笑った。アルヴィンの剣がけたたましい音をあげ、空とともにディーガを斬る。ディーガの首が血とともに空を舞った。
ディーガのデカイ体躯が地面に転がる。そんなディーガだったものに一瞥もくれず、アルヴィンとシュネーが剣の血を払い、鞘にしまった。
アルヴィンがシュネーに拳を突き出した。シュネーもその拳に自身の拳を合わせようと突き出すが……。
「うっ、……ごめん。トラウマ酷くなったかも……。」
合わさる前にシュネーが顔を真っ青にして拳を下げた。
ー 締まらない。
そんな勝利を喜んでいいか分からない光景に戸惑っているとアルヴィンがこちらを睨んでいる。
「友に何をした…。」と言いたげな、今にも射殺しそうなな眼力で。
◇
久々に再開した友に何だか心がホッとする。
ディーガも討ち、金の目も討ち、おそらくヤマネコもネズミが確実に討ってくれているだろう。
そしてここにアルヴィンがいるという事は冤罪が晴れた事を意味している。
ー 終わったのか。やっと……。
何だか長い一年と数ヶ月だった。
それがやっと…。
「キツネ!! しっかりして、キツネッ。」
リヒトの声に我に帰る。
手を血の色に染めるリヒトに抱かれて血だまりの中にキツネがいた。
ヒュッー。ヒュッー。と何処からか吸った息が漏れているかのような嫌な音。近付くと肩から肺のあたりまで長く深い傷がキツネに刻まれていた。
「シュネー。シュネーッ。キツネは…キツネは僕を庇って…。」
「何…で。」
ー 何で罪人のオマエがリヒトを庇うんだよ。
血だまりの中に膝をつけるとまだ意識があるのか私を視界の中に見つけて、少し嬉しそうな表情を浮かべた。
ー この傷じゃ助からない。
ポタリッポタリッと目頭から熱いものが流れる。キツネの目が驚きの色に染まり、傷が痛い筈なのに穏やかな笑みが浮かぶ。
「泣い…て……くれ…んだ。」
「何故…。何でッ…。」
血に濡れ、痛みに震える手が私の涙を掬うように頰を撫でる。キツネの瞳からホロホロと涙が溢れる。
「あり…がとう。………………れ…て。」
涙を拭う手が私の頰から離れる。
最期の笑みを残したままキツネの瞳から光が消えた。
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