上 下
102 / 131

こんなに幸せでいいのだろうか

しおりを挟む
ふわりと少し薄い唇が重なる。
目を擦り起きるとそこには愛しい人がいる。

「今日はもう少し寝ていていいので、取り敢えず私を離してください。」

本当はこのお日様みたいに暖かく、いい匂いのする愛しい人を離したくないがもう朝なので仕方なく離す。するとこっちは名残惜しいのにさっさと僕から離れて動き出す。

少し不貞腐れていると濡れた冷たい手拭いが顔を覆った。

「それで目を冷やして下さい。朝食は私が代わるので。」

言われた通りに目を冷やしてまた夢の中に帰るとやがて、朝食のいい匂いが鼻を擽る。

その匂いに耐えきれなくなり、身体を起こすとネズミが席に着き、嬉しそうに出し巻き卵をつまみ食いしている。

「シュネッちは大味だけんど。うん、今日は及第点を授けようぞ!! 」

「つまみ食いが偉そうに言うな。」

シュネーが呆れつつも焼き魚をテーブルに運ぶ。起きてきた僕に気付くと満面の笑みで「おはよう。」と声を掛けた。

それがとても可愛くて綺麗で嬉しくて幸せで、何だかまた目から涙がちょちょぎれそうになる。
僕ってこんなに涙腺弱かったっけ。

ー 僕はこんなに幸せでいいのだろうか。

心の中でふわりと雪が降り積もる。
雪のように白くて誰よりも優しくて誰よりも僕を愛してくれる。ずっと求めてきたものがストンと嵌る感覚。やっと僕のもとに帰って来てくれたような不思議な。

でもそんな不思議な感覚よりも……。

「愛おしい。」その言葉が僕の中で占める。

君を優しく抱き締めると少し困った表情を浮かべた。分かってる。まだ、朝食並べてる途中だもんね。

でもまた僕が泣いてると分かると抱き締め返して背中をさすってくれる。その表情はとても優しくて瞳は揺れず、真っ直ぐ僕だけを見つめてる。

「何だぁ? 甘えたか? 」

ネズミはそう少し弄ったがそれ以上は黙ってみてた。嬉しそうにまたつまみ食いして出し巻き卵を頬張っていたが。

「ねぇ、シュネー。ご褒美の件なんだけど。」

「……まさか、まだ続いていたとは思いませんでしたよ。」

「一体何をさせる気だ。」とシュネーは少し警戒したが、離れはしなかった。少し眉間に皺を寄せてみせたがすぐ優しい表情に戻った。

「デートしない? 」

「……毎日二人で歩いてるじゃないですか。」

「シュネッち。仕事とデートを一緒にしちゃダメでい。」

どうやらデートというものを理解はしているようだが、ピンとはきていないようだ。ネズミがやれやれと呆れながらおかずの和え物をシュネーの代わりにテーブルに並べる。

「シュネッち。デートってぇのは愛し合う二人がイたす為にシチュエーションで盛り上げて、人前でチュッチュッしたり青姦したり……。」

「ネズミ…。シュネーがドン引きしてるから間違った解釈を刷り込まないで。……シュネーは真に受けて逃げようとしないで。」

「冗談…ですよね。」と縋るような瞳が僕を腕の中から見上げる。

本人が地味に気にしてる身長差。
シュネーも伸びてはいるのだが、本当にもうすぐ止まるんじゃないかって程、緩やかしか伸びない背。

僕は悪いけどこのまま止まって欲しいと思ってる。身長差で僕を見る時に上目遣いになるのが愛くるしい。

本人に言うと気にして背を伸ばす努力をし始めるので言わないが。

チュッと音を立てて口付けを落とすとシュネーの顔が真っ赤に染まる。

お風呂に一緒に入った時はこんな表情浮かべなかったのに口付けは何度やっても慣れないようでこうやってすぐ赤くなる。

「ねぇ、僕に委ねてくれない? 何時もみたいに一緒に歩くと思ってもらって大丈夫だから。」

「……はぁ、もう好きにすればいいじゃないですか。」

何だか諦めたかのように身体を預ける。それでも身体は熱く耳まで赤い。「もう貴方のなんだから。」ボソッと蚊の鳴くような声でそう呟く。

少し熱を帯びた潤んだ瞳を伏せて。

この子は何処まで僕を堕としたいのだろうか。結婚は冤罪が晴れて、ここを出れてからだと言っていた。それまで夜の営みは程々にして欲しいと言っていた。

持つだろうか?
僕の理性はそこまで持つだろうか?

やはり毎日少しずつでも触らせてもらわないとここを出た時、暴走して手酷くやり兼ねない。

程々ならいいのなら別に毎日でも。
いや、それじゃ結局、シュネーの身体が……。

「リヒッちゃん。シュネッちは戦力。程々に。」

ネズミが先に朝御飯を頂きながら、こちらに念を押してくる。その表情はおちゃらけているが目は真剣だ。

分かってる。
何時また、ディーガ達が攻めてくるとも分からない。なら、無理はさせられない。もう、シュネーをアイツに渡したくない。触らせたくない。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

屈強冒険者のおっさんが自分に執着する美形名門貴族との結婚を反対してもらうために直訴する話

信号六
BL
屈強な冒険者が一夜の遊びのつもりでひっかけた美形青年に執着され追い回されます。どうしても逃げ切りたい屈強冒険者が助けを求めたのは……? 美形名門貴族青年×屈強男性受け。 以前Twitterで呟いた話の短編小説版です。 (ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)

処理中です...