寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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ヒロイン役はお断り

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コンコンッと扉を叩く。

本来ならば住人に許可を得てから入るべきだが、クジャクは何時も外から扉を叩いても気付かない。

もし、扉を叩いて声が聞こえた時は男を連れ込んでいる時だから入らない方が良いと、下手したら一緒に喰われると青い顔してキツネが言っていた。
それでキツネに何があったのかは……考えたくない。

声も返事もないのでホッと胸を撫で下ろしてクジャクの家に入る。入ると家の中はシンッと静かだか何故か空気が張り詰めている。

「クジャク? 」

リヒトが意を決して声を上げると「オマエらも来いよ。」とクジャクの声ではない。一番聞きたくない声がクジャクの部屋から聞こえた。

リヒトを連れて回れ右しようとしたが、「今度は金の目にお前の主人を襲われてぇか? 」という脅しに扉のドアノブに掛けた手を引っ込めた。

諦めて部屋に入るとクジャクとディーガが対峙し、睨み合っている。……関わりたくない。


だが、今睨み合ってる一人は現在の私達のボスだ。

諦めてクジャクの後ろに立つとディーガがクジャクから目を離し、獲物を見つけた野獣のようなガツガツした視線が向けられる。

「よお、生きてて嬉しいぜぇ。あいも変わらず、良い『女』だなぁ。オマエの『男』が迎えに来たんだ。ちったぁ、ニコリと笑えよ。」

「あんらぁ? わっちと話に来たんじゃなくてん? ……その子はねん。もう人妻よん。仲睦ましいあの雰囲気が見えないのん? 」

「………。」

「シュネー…。逃げ道を目で探すのは良いけど、剣から手を離して。」

リヒトに手を剣から離されてまたギュッ恋人繋ぎされる。ディーガがリヒトに殺意のこもった視線を向けたが、リヒトも負けじと全力で睨みつける。

だが、正直睨めてない。チワワの方がもっと睨めるってくらい睨めてない。眼力無いからな、この人。

そして……。
利き手を恋人繋ぎするのやめてくれないかな…。もしもの時に剣、握れないんだけども。

だが、リヒトは必死だ。
私を守りたいのだろう。
私が不安にならないように手をしっかり繋いで、私を守る為に敵から目を離さない。

私はリヒトの『従騎士』だ。
それは本来私の役目。
だが、その姿を見ているとポッと顔が赤くなり、ドッドッと不整脈が起きる。不覚にもキュンッとしてしまう………だが、色ボケはお断りだ。

「貴方方は何かを話し合っていたのでは? 私達に構ってる暇があるので? 」

しっかり恋人繋ぎをしたままリヒトを後ろに庇う。殺気を飛ばすと「滾んねぇ。」と愉しそうにディーガは私を睨んだ。

「じゃじゃ馬は嫌いじゃねぇな。その小さな尻叩いて調教ってのもいいなあ。強情なその身体もそんくらい乱暴に扱った方が感じんだろ? 」

その時はいい声で鳴いてくれよ、とさも愉快そうに嗤う。それに対してクジャクがフンッと鼻で嗤った。

「これだから乱暴な男ってダメねん。強情な身体なら感じるように自分好みに作り変えちゃえばいいのよん。…わっちなら何処が気持ちいいか教え込んで、最終的には自分から咥えるように育てあげるわん。好物でも頬張ってるかのように。」

ー ダメだコイツら。

何だか怒りも吐き気も通り越して呆れ気味に二人のやり取りを見ていると、リヒトに抱き寄せられた。

「ディーガ。」

「あん? 」

リヒトは挑発するようにディーガを呼ぶと次の瞬間、貪るように私の唇を………はぁ!?

何してんだと何度も抗議しようと肩を殴るがその度にもっと深く口付けをかわす。くらりと頭の中が熱く溶けて、立ってられなくなり、身体の体重を全てリヒト預けるとやっと終わり、名残惜しそうに耳朶に口付けを落とされた。

「ふざけ……、ふざけ………な。」

肺活量は結構ある方なのに何故こんなにも息が上がっているのか。口の中がまだゾクゾクする。護衛を再起不能にしてどうすんだ、リヒト。

「テメェ、それは宣戦布告か? 」

背中からドス黒い殺気を感じ、蕩けた頭が冷や水ぶっかけられたように無理矢理現実に連れ戻される。しかしまだ、腰が抜けてる。

「宣戦布告も何も僕達は愛し合ってる。それに…さっきの話を聞いた所じゃ、貴方に触られてもシュネーは何も感じなかったんでしょう? こんなに僕を受け入れてくれてるのに。」

「時間が足りなかっただけだ。」

「へぇ…、でもその時間を作る気は毛頭ないよ。」

視界がリヒトの肩のみだが、火花がバチバチ散っているのは分かる。

「私の為に争わないで!! 」なんてヒロインなら言ってそうだが、やだよ。争う前段階で嫌だ。ほっといてくれ。

「テメェ…。」

膨れ上がる殺気を受けて肌が粟立ち危険信号を伝える。何とか身体に力を入れて剣を手に取る。

キィーーーーンンッ!!

リヒトに振り下された大剣を受け流す。シュヴェルトよりも重い大剣を無理矢理受け流す。前よりも動くようになった傷の残る手も使い意地で流しきった。

そしてディーガの首にヒタリと剣を付けた。

「剣を下ろせ。さもなくば刎ねる。」

「かっこいいねぇ。更に惚れちまうわ。」

ディーガは殺意を閉まい、剣を納めた。

「止めだ。ちょいと傷付けるならまだしもお前とは殺し合いになりそうだ。」

愉快そうに笑うとヒラヒラと手を振って部屋を出ていく。

「いいねぇ。組み敷きがいがある。今度は連れて帰ってやるから大人しく待ってな。」

「「二度と来んな!! 」」

思いっきり怒りを込めて言葉を投げ付けたが、尚も笑い声が聞こえる。出来れば二度と会いたくない。

それにしても何しに来たのか。
クジャクに聞いたが、クジャクはニンマリ笑い、リヒトにいかがわしい服やらなんかの道具やら押し付けようとしてくる。リヒトは久々の苦笑いを浮かべながら断っていたが。

結局、ディーガと何を話していたのかは聞き出せなかった。



喧嘩しつつも仲良さそうに出ていく若い部下達。

二人とも罪を犯したとは思えない程真っ直ぐで、お互いを想い合い庇い合う。

窓から彼等が仲睦まじく帰っていくのを見えなくなるまで眺めて、一つ溜息をついた。

「本当に今回は随分とご執心だわねん、ディーガも。」

初めてだった。
ディーガが態々一人でクジャクの元に来て、交渉したのは。

「まぁ、交渉とは言えない内容だけどねん。」


ギラギラとした男の目。
それは遊びではなく、年甲斐もなく本気で欲している目だった。

『俺様にあの白いガキを差し出せ。でなければこちらは総出でこの町を潰しにかかる。』

あの言葉は脅しではなく本気だ。
一人の少年を手に入れる為だけに今までギリギリに保っていた二つの町の均衡を壊そうとしている。統率者としては正気の沙汰ではない。

ー   人を惹きつける魅力のある子とは思っていたけど、ここまでとはねん。

一人を差し出せば衝突は避けられる。町の大半の罪人に聞けば「差し出す。」と答えるだろう。しかし……。

「それじゃあ、こっちがまるで負けを認めたみたいよねん。面白くないわん。」

部屋に置いてある斧を持ち上げる。
少し刃が刃こぼれしている。
研がなければ。

ここに来る前はもっと切れ味の良い、刃こぼれしない良い斧を持っていた。業物の斧で今の斧よりしっくりくるものだったが、今はきっと折り合いが悪く殺める事になってしまった主人の息子が持っているだろう。あの主人の息子は断るごとにあの斧に触りたがっていたから。本当は生まれたばかりの自身の倅に譲りたかったが。

「やってやろうじゃないのん。ちょぉっと満足のいくもんじゃないけど『兜割のダグラス』の名は伊達じゃないわよん。」

ブワリと斧が風を巻き上げる。
一振りするだけで風圧で棚にかけていたドレス達が落ちていった。
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